訃報と共に流れて来たのは 4
とりあえず、引き続き困った事態に陥っていた。セレネティアに飛んでみたが、此処は電化製品の類が一切使えない事が発覚したのだ。今まで、文明とは無縁の土地だったそうで、使うならまず発電施設をって事で一番に相談したのはローグフェルグで絶賛捜索活動中のイヴァン博士だった。とりあえず、早朝に僕の事情を伏せたままテレビ電話でルーと一緒に相談してみたが。
「悪いな。もう、殆ど遺体収容って状態なんだが、イギリスの救援部隊が緊急事態とか抜かして帰国させられたみたいでな。まぁ、もうちょっとでこちらも終わるから終わったら改めてそっち向かう。それまでキャンプ生活大変だろうけど、頑張ってくれ。それとアーニャさんにくれぐれも宜しく伝えておいてくれないか?俺もオーストラリアでは散々お世話になったからな!」
そう言って電話が切れた。幸いなのはオーストラリアでアーニャさんが色々買い込んでいたので食料には困ってないって点だろうか。僕たちは、昼間は軍隊で培った経験を元に飯盒を使ってご飯を炊いて食べたりして。出来る事をしていた。普通の生活を思いっきり満喫していたよ。義務に縛られないで生きられるって最高だなぁ。ただ、電化製品が使えないと言う事はネット環境が使えないって事でもあったので、僕はソーラーパネル形式の災害用高出力発電機をうっかりアイテムバックに入れてたのを思い出してアーニャさんが住む家の前で起動させてwi-fi内臓のパソコン繋げて情報収集を始めたんだが。僕関連のニュースは今やお祭り状態と化していて収拾つかない事態になっていた。ゴシップと嘘の情報が溢れかえって。最悪なのは、父上が僕に好きな人が出来た件について言及してた点だ。眠気が勝って僕たちは眠ってしまったが、実は昨晩の最後の方で言及があったそうだ。ズバリ、僕の好きな人はあくまで予想だがと限定した上で、
「私が不甲斐ないばかりにあの子に女性不信に繋がる事を強いてしまったのは紛れも無い事実である。謝っても謝りきれないが、あの子の好みは下手に邪念を持って策謀を企てる者よりも役割の重要性を理解して寄り添って行動する賢い人を選ぶ傾向にある。しかも清廉な美しさを兼ね備えてるとなるとただ一人しか思い浮かばないのだ。今、一緒に旅をしているエルフは二人。一人はエルフの女王陛下。だが、既に彼女はイヴァン博士と言う伴侶に恵まれているからまず手は出さないであろう。となると、もう一人の方と言う訳だ。オーストラリア空軍に史上初めてエルフでありながら類稀なる才能で飛行時間がわずか数時間であるにもかかわらずスペースシャトルのパイロットに抜擢された戦士がいる。僕はそのお方こそエドワードの意中の人だと思うのだ、あくまで親としての勘だが。彼は別の顔を持っておる。妖精魔法、真語魔法を始めとした特殊魔法を極めておってな。だから先程謁見した際に軍籍ではなく、イヴァン博士の特使と言う事で『導師』と名乗っておられた。導師がどう言う者か日本に問い合わせたが、導師が再誕したのは天変地異以降初の快挙らしく、エルフ族で一番魔法に秀でている者にしか与えられないそうだ。現に皇太子が断罪された映像。皆も目にしているだろう。本人は魔法の初歩中の初歩と言っておったが、実際に調べたらとんでもなかった。レベル12真語魔法であったよ。しかも、効果が広範囲になればなるほど消費量が大きくなるそうだ。そんな魔法を顔色変えずにやってのける青年とあれば話は別だ。僕はエドワードを説得しようと思っている。確かに前例はない。彼はエルフだから人族に年齢を換算するとなると大体20台って所らしい。400年以上生きる事が確定している者を娶った前例は無い。だが、彼の場合はそれ以上の恩恵があるものと考えている。最悪、エドワードの側近にしても構わないとさえ思っているのだ。但し、あの者の過去等の詮索を不用意にした場合はエドワードがますます交渉に応じない可能性があるので報道各位にはくれぐれも自制して頂く様にお願いしたい。」
まぁ、及第点であろう。僕はそう思った。ルーの存在を見抜かれたのは正直言って痛い。流石に父上だと思ったが、交渉ぐらいでどうにかなるなら出奔なんて大それた事はしない。跡継ぎを求める王族にあってそもそも女性だったとしても子供の産めない人は結婚させてすら貰えないものだ。なので、メリットを強調していた様だが、要は僕を雁字搦めにするのにルーに価値があるってのを見抜かれたんだろうって思った。
こうなると、僕はどうするべきか。会見を開くべきなのか。声明文を出して事態の収拾を図るべきか。どうすればルーを守り通せるのか。プランの無いまま会見をするのは危険だ。今までにない事で、どうしようかと思案に暮れた。
事態が動いたのは、明日以降だと思っていたイヴァン博士の所にどうやら情報が届いた様で、心配したんだろう。日本から来た救援部隊を送り届けてからアルベルトさんを伴ってセレネティアまで来てくれた事だ。来てくれたのはアメリア姫を除いた全員だ。アメリア姫は何でも遺言に従ってファルメリア宮殿で大量の書籍を精査する作業をなさっておいでだとの事だ。まず、僕とルーはみんなとは別の家に呼ばれた。一番大きな家の玄関先で。但し、聞かれたくないだろうと言う配慮を取ってくれたみたいでルーと一緒に呪詛を唱えて音が外に漏れない様にしてくれた。
「実はな、ローグフェルグに特使が来てな。何としてでも交渉のテーブルについてくれないか。エドワード王子を説得してくれないかって依頼が此方に来てな。俺たち夜通し作業していたからネットでお祭り状態になってるなんて知らなかったんだ。さっき言おうと思えば言えたんじゃないか?」
「確かにそうなんだが、知っているであろう?此処には発電施設が無いから電化製品が使えないって事は。僕がお祭り状態に気がついたのはアイテムバックを探って災害用高出力発電機をイギリスの部隊からうっかり拝借してるのに気がついてからだ。だから、イヴァン博士に連絡を取った時点ではお祭りになってるなんて知らなかったんだ。」
「…なるほどなぁ。で実際はどうなんだ?」
「僕はルーとはと…………」
と言いかけた所でルーが被せる様に。
「エド、今のイヴァン博士は冬の精霊王ウインディアの力で預言者としての力を持ってるんだ。そうでなくても陛下に言わせたら元々1を知って10を悟る人だから、下手に誤魔化そうなんて思ったらだめだ。」
「それは誠なのか?」
イヴァン博士が静かに首を縦に振った。って事は、預言者の力でルーの身体に関する秘密を知っていると言う事に他ならぬ。僕は方針を変えた。
「僕がルーに惹かれているんだ。空軍基地で見初めてからずっとだ。ルーの秘密も僕は知ってる。僕は誰にも言わずにルーの秘密は墓場まで持って行くつもりなんだ。僕はこれからルーだけを見て生きていたい。権謀術数蔓延る王宮になど、ルーを一時ですら置いておきたく無い。そなたもルーが非常に騙されやすいのは知っておろう?」
「……………確かになぁ。騙しておいて何だけど、確かに人を疑う事を知らないなぁ。ルーベルトは。ひょっとしてエドもやらかしてるのか?」
「嘘をついても無駄だから正直に告白しよう。パイロットに抜擢された時にサインだけして貰って書類偽造して移民申請出してるよ。」
「お前なぁ、そりゃ完全に犯罪じゃないか。ただ、日本のAIも馬鹿じゃないから貰ってきてるぞ。お前たちが提出した移民申請って奴。今回ばかりは事情が事情だから大目に見るが、元々日本は犯罪歴有ると移民申請すら通らないそうでな。書き直せってお達し来てるぞ。二人ともな。」
「…………」
「で、書くんだろう?移民申請。実はアークも月出身だから戸籍自体が無い。で、幸太郎の勧めで日本国籍を取得する事になったが、あいつ、ストリートチルドレンだったから学校すら行ってなくてな。みんなが総出でアークに付きっ切りで書類作成手伝ってくれているんでお陰様で俺は此方にかかりっきりでも問題ない。アークが良く書き損じるから書類は多めに貰ってきてるぞ。二人とも書くか?」
「勿論だ。ルー、そなた筆記用具あるか?」
「何でそう言う事聞くかなぁ。持ってるに決まってるでしょ?」
「で、書き直したら申請は通るのだろうか?」
「おいおい。らしくないぞ。エド。日本政府に言わせれば、エドは凄い名君なんだってな。イギリスだけでなく世界的にも注目されてる人だけに是非に。って事らしいぞ。何を悩んでるか知らんが、お前はお前が思った通りの生き方をすれば良いんじゃないか?無責任って言われればそれまでなんだが。」
「……………まぁ、確かに。今日一日ルーとアーニャさんと一緒に過ごしてて。僕は初めて生きてるって気がしたよ。お茶一つでも、毒が入ってるなんて疑ってかからなくて良い環境がある。改めて素晴らしいなと思ったよ。」
「僕思ったんだけど、王宮ってそこまで酷いものなのか?」
僕は手を動かしながら、こう答えた。
「ああ。お前の笑顔が消えるのに3日とかからない程度に酷いし、そもそもプライベートなんて物体自体が無いんだ。休みも無いし、安らぎも無い。そんな劣悪な環境にルーを巻き込むなんて絶対にしたくないから王位継承権を返上した位だ。」
「…………」
「とりあえず、書類さえ出してくれれば前もって出してた事も考慮に入れて最速で通すそうだ。交渉のテーブルに着くのはそれからでも遅くないと思う。ただ、このお祭りはエドが一度は出てこないと終息しそうに無いから明日にでも会見開いた方が良いと思うんだ。勿論、俺も同席させて貰おうと思ってるんだ。」
「そう言ってくれるのは非常に有難いが、僕、ノープランで会見なんてした事無いんだ。」
「大丈夫だよ、エド。僕も同席するから。」
「ちょっと待ってくれ。ルー。そなたをあんなハイエナ共が群がってる様な場所になど連れて行ける訳ないであろう!そなたが居なくても大丈夫だ。異論は認めない。」
こんな感じで僕たちは、書類を書き終わってから良く話し合う様に言い渡されて二人きりにされてしまった。




