訃報と共に流れて来たのは 3
父上は僕に尋ねた。
「この裁決はエドワードがするべきだ。そなた、この愚か者共にどうなって欲しいか遠慮なく申してみよ。」
僕の答えは決まっていたよ。
「この二人は我が祖国イギリスの権威と誇りを著しく傷つけし大罪人。この者達がのうのうと玉座の側に侍らせ続けるとあれば、世界政府を始め、我がイギリス国民も納得しないでしょう。僕は、国家反逆罪の適用をして逮捕の後、それぞれ廃嫡、廃妃にして頂きたく存じます。」
「うむ、あい分かった。エドワードの言い分を認めよう。衛兵をこれへ。この者達を大至急監獄に連行せよ!」
「はっ!!!」
僕はルーと共に憐れな罪人達を見送った。最早、言葉をかける気すら起こらない。ただ、結果的に僕は子供達から母親を奪ってしまった事実に変わりはない。僕は子供達の前に座って話をした。
「結果的に僕は君達のお母さんを守ってあげる事は出来なかったよ。その上、今度は姉妹すら引き離そうとしている。君は兄上の子供だけど、下の赤ちゃんは僕たちとは何の繋がりも無いから置いておく事が出来ないんだ。罪を犯してると知っていたのに諌める事すらしなかった。恨まれても文句は言えない。本当にごめん。そして、短い期間だったが僕は幸せだったよ。もう、会う事も無いけどありがとう。幸せになるんだよ。」
そう言って、僕は子供達から離れた。もう、僕は此処にいられない。居てはならないと思ったから僕は、こう切り出した。
「陛下にお願いがございます。離婚の手続きとDNA検査を添えて二人の娘達の親子関係不成立届けを今すぐ受理して頂きたい。」
「あい分かった。ちなみに、子供達の行き先について希望はあるか?」
「はい、出来れば二人共同じ修道院に入れて頂きたく存じます。此処で育てるとなれば皇太子妃殿下のご不興を買いましょう。それに、二人共母親は同じ人です。出来ればで構いません。よろしくお願いします。」
ここまでは予定調和だ。さぁ、問題はこれからだ。僕の家族に関しての清算は終わった。今度は隣の愛しい人を守る為に僕は爆弾を投下する事にした。僕の表情を見て、何やら言いたそうなのが分かったみたいだ。
「エドワード、まだ何かあるのか?」
「はい。僕にはこの旅を通じて心から大事に思う方が出来ました。ですが、今回の一件で僕は色々思い知らされました。僕は此処にいる限り利用される以外の価値しかなく、此処にいる限り僕は大事なお方を守る事は叶わない。そう思いました。僕は今までイギリス国民の為に心を尽くして参りましたが僕は王位継承権を陛下に返上し、国を離れる所存です。父上や母上にはここまで育てて頂いたご恩がありますが、どうやら僕はここまでの様です。父上、母上、兄上におかれましては今後ともご健勝であられます様に。イギリスが今後とも発展する事を遠い旅の空から祈願しております。」
「ならぬ!それだけはならぬ!そなたはこのイギリスの至宝だ!旅に出ては良いとは言ったが、国を捨てるのだけはやってはならん!」
「ルー。プランBだ。よろしく頼む。」
父上や母上、兄上は僕の手を取ろうとしたが、それは時間稼ぎの為に無詠唱で張ったルーのシールドに阻まれた。衛兵達も追随しようとした。ルーも声をかけた。
「それでは、僕も失礼させていただきます。調査にご協力頂きありがとうございました。エド。場所はランダムで構いませんか?」
「任せる。」
「承知致しました。では、御機嫌よう。」
そう言って僕たちはルーの魔法でイギリスを離れた。僕たちが来たのはまたしてもオーストラリア。いきなり室内に飛んだ様だ。目の前には老齢のご婦人が一人いらっしゃった。ご婦人がルーに声をかけた。
「あら。お帰りなさい。ルーベルト。あなた、陛下はどうなさったの?」
「紹介するよ。母さん。僕の隣は名前聞かなくてもわかる有名人だから省略するとして、エド。こちらは僕の母さんなんだ。アーニャって言って、イヴァン博士と同じロシア人なんだ。」
「はじめまして。ルーベルトの親友のエドワードと申します。この度はご子息を我が家のゴタゴタに巻き込んでしまいまして誠に申し訳ございません。」
時間は夜の10時。来客するには実に傍迷惑な時間に来たにもかかわらず。今日は頭を下げるの一体何回めかなぁと苦笑しつつ。ご婦人はこう答えてくれた。
「あら、気にしないで頂戴。今、丁度ニュースを見ていたの。エドワード王子。本当に大変だったわね。実は、主人に呼ばれてね。急遽日本に向かう事になったの。ジーク様がお亡くなりになったけどあそこには管理する人がいない。頼むから来てくれって言われてね。荷造りしてた所だったの。」
そう言えば、ルーの親にしては珍しく片付いてないなぁと思った。何だ。そういう事か。ルーは。
「せっかくだから手伝うよ。どれ片付けたら良いかな?」
「実はね、一人で片付けしようにも荷物多いから諦めて明日作業しようと思ってたんだけど、ルーベルトが居てくれたら一瞬で終わるわ。二人とも散らかってて申し訳無いけど適当に座って頂戴。お茶入れるわね。」
「いえ、僕たちの事はお気遣いなく…………」
僕は恐縮するばかりだ。何気にニュースを見てさっきの出来事がマルチタイムでニュースにされているのを見て頭を抱えた。これだからプライバシーがまるっきり皆無な環境は嫌だったんだ!ジークさんの訃報の次とは言え、さっきのことがもう、ニュースになってるなんてな。父上が緊急記者会見を開いててこれまでの経緯。国内外に多大なご迷惑をかけた事を心からお詫びしてた。さっきまで会ってた人が画面越しなのか、凄く小さく感じたよ。アーニャさんがお茶を入れてくれた。毒が入ってないと心から信頼できるお茶を飲んだのも随分と久しぶりだ。画面では引き続き僕関連のニュースで父上の記者会見が続いていた。父上の発言と共にテロップが変わった。
『エドワード王子、怒りの王位継承権返上』
ってね。アーニャさんが。
「あらあら。それでうちの子と逃げて来られたと。」
「…………」
もうね、便利すぎだよ!僕が言わなくてもテレビが勝手に事情説明してくれるというこの親切設計!でも。アーニャさんは町の緊急インタビュー同様、同情してくれた。
「さっきの電波ジャック。あれ、あなたの仕業でしょう?ルーベルト。貴方ならあれ位は平気でやりそうですものね。あれをみんな見ているからエドワード王子にみんな同情しているわ。もし、他の場所に逃げたとしてもきっと匿ってくれるかもね。」
「ええ、確かにそうかもしれませんが、僕たちはイヴァン博士と大事な旅の最中で。今、ローグフェルグにみんなはいるんですが、先日のハリケーンで救難活動にイギリスからも部隊が派遣されておりまして。とてもじゃないけど合流なんて…………」
僕は正直言って思案に暮れた。するとどうだろう。アーニャさんが僕には神の様なお方に見えるから不思議だ。
「あら。それだったらうちの子と一緒に引っ越しを手伝って下さらないかしら?大きい荷物もあるから男手があると凄く助かるの。お願いしても良いかしら?」
「…僕で良ければ喜んでお手伝いさせてください!」
そんな訳で、僕たちはルーが軍隊に入る前に使ってたらしい部屋で二人揃って寝ることにした。服の関しては流石に謁見に使った軍服で寝るのが躊躇われたので見るに見かねたルーが寝間着を貸してくれて事なきを得た。
翌朝、こちらは南半球なんで雪の季節だ。引っ越しに使うには少々値が張りすぎているコートを着込んで引っ越しの作業を手伝った。ただし、僕達はうっかり外に出たら何があるか分からないので、作業を教えて貰って食器等を片付けていたのだが、そこにアーニャさんが慌てた様子で中に飛び込んで来た!
「大変よ。あなたたち。オーストラリア空軍にイギリス政府から問い合わせがあって、ルーベルトの実家の此処と今住んでいるアパートをうっかりリークしたおバカさんがいるの。それを報道陣が聞きつけて駆けつけて来てるみたいなの。急がないと!」
「…………」
「分かったよ。母さん。速攻で終わらせる。」
そうすると、ルーが右手にマジックバックを取り、左手で指を鳴らすと風で何もかもが浮いてあっという間に収納して終わった。ルーは各部屋を回ってそれぞれ回収して来たみたいだ。普通引っ越しって時間が物凄くかかるものだが、5分とかかってなかった。ルーの魔法は凄いなと感心したが、出る直前でアーニャさんに電話がかかって来た。見ると、見知らぬ番号との事。
「すぐに移動しよう。場所はどうしようか?」
「主人にSNSで連絡取ったわ。知らない電話には出るなって言うのと、直接セレネティアに向かえば安全だろうと言ってたわ。ルーベルト。魔法使ってばかりでしんどいと思うけど、直ぐ飛んで頂戴。」
「分かったよ、母さん。僕に捕まって。二人とも。」
僕たちはアーニャさんの指示に従ってセレネティアまで飛んだ。真新しい世界樹とお墓がお出迎えしてくれた。これ作ったの確か昨日だったんだよなぁ。24時間経たぬ内に戻る羽目になるとは考えもつかなかったよ。遺言に安らぎの地は必要って言ってたからああ、この事が既に想定内だったかと思わざるを得なかった。




