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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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訃報と共に流れて来たのは 2

 さて、行きたくもないがいつまでも逃げる訳にもいかず。僕はルーを従えて謁見の間に向かった。ルーはフードを目深に被り、ジーク殿の持っていた杖をついて歩いていた。背が高いのでまるで死神が後方に控えているかの様に見えた。手袋から金属が当たる音がしてシャランシャランと音がした。


 扉が開けばいよいよ父上とご対面だ。父上は聡明だが、その他はどうしてそうなったのか。いずれも問題ばかり起こす方々で。お陰様で、末っ子の僕は何もしなくても「父上似の聡明な王子」って事になっている。僕は結婚前5年間、結婚後3年間の王族全員の追跡調査を情報部に命じていた。油断がならないので人物精査には特に気をつけ、徹底的に情報を隠し通す事に成功した。ルーを手中に収めたのははっきり言って想定外だったが、僕が手を出さなくてもルーは騙されやすく、人が良いから泥沼の王宮に馴染めずとも手を貸してくれた事だろう。


 僕たちは御前に近づいて一礼をした。さぁ、戦闘開始だ。


「面をあげて欲しい。エド。崇高な旅の途中で呼び出した事。心からおわびしたい。」


 お詫びする位なら最初からあんな女との結婚にゴーサインなんかだすな!とは口が裂けても言えぬ。僕たちは正面を向き直して、


「いえ、この度の不始末。このエドワード。心からお詫び申し上げる。」

「うむ。」


 周りを見渡せば、王妃や兄上達。あの女は縛られて座らされていたが。義父上は自分の娘のしでかした事にうなだれていた。側にはつい先日まで愛しいと思い込んでいた子供達もいた。上の子は3歳。下の子は生後半年って所だろうか。上の子に至っては仕込まれた後に結婚していた事が分かったから愛情が冷めるのに時間はかからなかった。すっかり怯える様になった我が子だったはずの物体に今更、何の愛着が湧くというのか。この人達の神経を一度掻っ捌いて見てみたい衝動すら覚えた。玉座の近くにいる上の兄がフードを被ったルーにつかつか歩み寄って難癖をつけ始めた。


「おい、そこの男、無礼であろう!そのフードを取れ!」


 僕は前を塞いでルーを守ろうとしたが、それよりも早くルーの持つ杖が皇太子である兄上の頭を捉えた。そして、一言。


「無礼?無礼はどっち?賓客をまともに接待すらしなかったあなた方に非難される謂れはない!!」


 ルーがローブに付いていたフードを脱いだ。アルビノの白髪と美しすぎる美貌が現れた途端にみんなこの者が誰かを思い出した様だった。ルーは頭に意匠を施した宝玉が付いた冠を被り、両耳には魔力を最大限増幅する効果の付いたイヤーカフを両耳に付けていた。色素の無い目が氷の様だ。本物の冷笑ってこう言うのを言うって典型的な見本だ。凍りついた場でそのままルーは名乗りを上げた。


「名乗る前に先にご報告したい事がある。本日未明、我らがエルフの最高指導者であり、預言者でもあったジークフリード・セレネティア様が老衰の為に身罷られた事を謹んでご報告申し上げる。僕は、ジーク様の御遺命に従い全ての魔法を統べる立場と相成った。以降は『導師』ルーベルトと呼んで頂こう。」

「…ジーク様の訃報。誠に遺憾。先日の件でのお怒りは誠にもってごもっとも。心より伏してお詫び申し上げる。」


 父は玉座から降りルーの前まで来て頭を下げると、僕を始めとしたみんな頭を下げた。手を出しておいてなんだが、今のルーは完全に魔法で男に化けてる状態だ。恐らく、今までもそうやってきたのは何となく想像できた。ただ、無防備に寝てたから魔法が解けててその寝込みを僕が襲ってたまたま発覚したに過ぎない。ルーは手を上げてそれ以上は必要ないと合図を出した。国王以下僕を含めた全員元に戻った。但し、皇太子の額を固定しているので何もさせて貰えない方も一人いらっしゃるが。


「さて、本日こちらにお邪魔したのは1つは僕の親友であるエドワード王子からのご依頼でそちらに送らせて頂いたのと、もう一つは、イギリスでの一件。悉く我が女王陛下の夫君であらせられるイヴァン様が命を狙われた件について真相を探れとの命を受けて参った次第。どうやら、事の真相は君が握っているみたいだね。皇太子殿下。」

「な、何を言いだすんだ…………」


 狼狽る皇太子を前に尚もルーは語った。ちなみに、僕が打ち合わせたのは将来の事で、この件に関しては打ち合わせなんて一切していなかった。ただ、僕はルーの人徳に魅了されていただけの。そんな小さな人間に過ぎない。因みに、ルーの推理は正解だ。僕の持ってる報告書の束でも同じ結論だ。この男が僕の人生を狂わせた元凶。つまりは、僕の奥さんはこの男の情婦で妊娠させちゃって、産むとか抜かしやがったんで無理矢理僕に見合いをさせてくっつけた張本人って訳だ。僕が恋愛に興味が無いのを良い事に利用されていたと知った時、僕は必ず復讐すると誓った。そして今、成就しようとしていた。


「僕の杖を通して君の薄汚い記憶が流れ込んで来るよ。君の言葉は詭弁だが、記憶は雄弁に語るだろう。折角だから、皆さんにも見て頂こうか。」

「止めろ!やめてくれ!」

「僕の大事な親友を貶めたその大罪。死ぬより辛い報いを持って受け取るが良い!集うが良い!8精霊よ。そして顕現せよ!地球から生まれし新たなる精霊王!雪月風花を司る四精霊王が一柱。秋の精霊王、ショーン!かの者の声を奪いて真実を照らし出せ!『リピート!』」


 ルーが左手でパチン!と鳴らすと夜の帳が降りる窓に皇太子である兄の記憶を映し出した。みんなの目が釘付けになった。ルーは声が出せなくなった兄の代わりに説明を始めた。


「皇太子殿下。本当に胸糞悪い情報提供ありがとう。事の発端は今から8年前。泥酔した当時20歳で大学生だった彼女をあろう事か仲間内でレイプしてますね。そして、写真を撮って脅した。言う事を聞かないと写真をばら撒くって。親にも相談したけど、相手が相手だったから従うしかなかった。それで間違いありませんね。」


 奥さんは首を縦に振った。僕は頭を抱えるしか無い。皇太子妃はまだ幼い王子を抱きしめて泣き出した。母上は皇太子妃の元に歩み寄り抱きしめた。義父上も悔しそうに肩を震わせた。何が悲しくて大事に育てた娘を玩具にされなければならなかったのか。心情が物凄く良く分かった。地獄に落ちてしまえば良い。遠慮は要らぬ。もっとやれと言う意思を持って見遣った。僕のアイコンタクトは正確に伝わった様だ。僕にしか向けない目でアイコンタクトを返してくれた。


「転機が訪れたのは上のお子様が妊娠なさった時ですね。今から3年前の話です。彼女は赤ん坊を使って逆に皇太子殿下を脅していますね。今までの悪事をバラされたく無ければ、私を王族に仕立て上げろと。きっと、独身だったエドワード王子の妃となれば非常に評判良い王子だけに大事にして貰えると考えたのでしょう。そして、皇太子殿下はそこにメリットを見いだし国王陛下を唆して無理矢理エドワード王子とくっつける事に成功します。当たり前でしょう?エドワード王子の部屋を訪ねるだけで好き放題出来る訳ですし。当然、エドワード王子も事の真相に気がついて調査を始めていらっしゃる。あなた方は楽しんだでしょうね。さぞかし。だけど、その事実が国王陛下にバレてしまいます。1年半位前の話です。そして、処分が下ります。皇太子殿下は全ての資産を差押えられて皇太子妃に差し渡す様にお命じになられた。彼女は此処の地下牢に子供共々幽閉を命じられた。だけど、そんな事で引き下がる皇太子殿下ではなかった。ある日、皇太子殿下は月から来たスパイに資金提供する見返りに最も重要な情報を持ってそうな人間を紹介しろと。そして、お金欲しさにあなたが紹介したのは彼女だ。まだ軟禁中だったからエドワード王子はあなたと子供さん達を心配して公務が終わったら顔を出してあげていた。にもかかわらず、あなたはスパイに身体を許して立派な即席スパイと成り下がった。エドワード王子のお怒りは誠にもってごもっともでね。エドワード王子があなたを抱く事は一切無くなっていたのにあなたは下のお子様を妊娠なされた。流石にまずいと考えた様ですね。僕たち一行がこちらに来る日が決まったのを受けてあなた方は色々準備をなされた。情報提供なら何も知らないエドワード王子が勝手に運んでくれたからわざわざ反乱軍だった方々を大量に放出して僕たちの気を反らせた。この思惑は成功します。実際、この事態に心を痛めたイヴァン様が一時錯乱なされた程です。そして、月から送った実行犯二人に次々と襲わせます。だけど、あなた達はやりすぎたんですよ。酒と薬物で殺そうとしたが、我らが女王陛下と結ばれて恩恵を賜っていたイヴァン様が致死量以上の酒と薬物を飲まれましたが失敗に終わり、サイバーテロでも殺そうとしましたが、優秀な世界政府のエージェントに阻止されます。そして、剣聖殿が内通者の存在に気が付きイヴァン様を病院に足止めする事に成功します。翌朝、パルスレーザー砲の復旧を受けて召喚された魔王ナスターシャ殿の魔法で主要施設が破壊されたのを受けたイヴァン様が反撃に打って出て成功します。あなた方は慌てた。だって、肝心の情報の出所だった筈のエドワード王子ですらご存知では無かったからね。そして、僕たちは内通者の捕縛に成功します。まぁ、残念ながらお一方はお亡くなりになられましたが残り一人が司法取引に応じたから月のスパイは捕まって、あなた方があぶり出される結果となったんです。ああ、ちなみに僕ですが、なんで常時エドワード王子のお側にいたかご存知ですか?僕はあなた方が放った暗殺者達の存在に気がついていたからです。まぁ、エドワード王子に気取られない様に気をつけながらこっそり魔法で暗殺しておきましたから。」

「…………」


 流石にそれは知らなかった。僕はルーに守られていたのだ。僕はルーを見たが、照れ臭そうに笑っていた。再生が終わってみんなは余りの事実に固まっていた。ルーはトドメと言わんばかりに言葉をこう付け加えた。


「最後に一つ。良い事を教えて差し上げましょう。実は、相手の記憶を映像として見るリピートなんて初歩中の初歩魔法。僕、殆ど魔力使わなくても出来るんですよね。こっそり2倍を付けても微々たるものだ。だけど、何でわざわざ8精霊と精霊王を召喚したか分かりますか?それは先程の映像と解説。リアルタイムで全世界に配布して差し上げました。今頃、このバッキンガム宮殿には映像を見た報道陣で溢れかえっているでしょうね。」


 もう、こうなると僕は笑いが止まらなかった。僕は国王陛下にトドメを刺すことにした。最早、勝負は決したのだ。


「陛下。先程のルーベルト殿の言われた事は誠に残念ながら事実です。詳細はこちらの報告書に詳しく記載しておりますので、ご確認ください。」


 僕は報告書を見て青ざめる国王陛下を見て勝ち誇った顔をした。僕の小さな復讐がとんでもない大ごとになって終わった瞬間だった。

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