訃報と共に流れて来たのは 1
昨日の内に私達はローグフェルグに戻って来た。先にアルベルトさんを日本へ送り届けた。次に、みんなで帰ろうとしたんだが、
「…僕だ。……………で国王陛下が緊急帰国する様にって?…分かったよ。まさか僕の奥さんがねえ。陛下には召喚に応じると伝えてくれ。」
と、何やらとても不穏な電話がかかって来たのだ。エドがみんなに話し出す。
「ミサト、みんな。非常に言いにくい話なんだが、僕の奥さん。どうも月のスパイと肉体関係になっちゃってたらしくってね。しかも、下の娘の父親そいつらしいんだ。前々から怪しいと思ってたから精神的なダメージは無いんだけど、国王陛下のお呼び出しがかかってね。ただ、此処だと帰る便が無いから悪いけど、ルーベルト借りるよ。」
「ルーベルトさん?」
「お主、転移魔法使えるのか?」
「今までだったら魔力が足りなかったから呪文覚えてても使えなかったんだけど、精霊王を拝領して魔力が大幅に増えたから大丈夫。エドからは家庭の事情はある程度は聞いてて相談された事もあったんだ。イギリスではイヴァン博士が散々狙われていたからね。僕としても不安の種は取り除くに限る。真相を知りたいからご一緒させて頂くよ。」
「悪いな、ルー。」
「まぁ、気にしないでよ。リンちゃんがいてくれればイヴァン博士の事や陛下の事も安心してお任せ出来るんだ。ただ、もう、生存率低くなるけど捜索は続いているからね。最後の一人になる前に戻ってこれるのか。それとも、捜索終了後に戻るのか。分からないってのが。どれ位で謁見終わりそうですか?」
「謁見と記者会見だけなら1日もあれば十分だけどね。子供の事とかもあるから少し時間を取られるであろうな。イヴァン博士には迷惑かけてばかりで何とお詫びをすれば良いのやら。本当に申し訳ない。」
そう言って、エドはイヴァンに頭を下げていた。イヴァンは王族のエドが頭を下げて来たので酷く恐縮していたが。
「まぁイギリスで何故行く先々で狙われたのか俺としても気になるが、幾らエドでも立ち入った事は余り聞かれたく無いだろうから、くれぐれも無理するなよ。ルーベルト、情報収集よろしく頼むな!」
「これでも軍属だから任せておいてよ。」
「お気遣い感謝する。では、行って参る。」
こうして、二人を送り出して私達はローグフェルグに戻った訳だ。私が戻らなかったら日本から派遣された救援部隊が帰れなくなるという事態に陥るからで。私達は引き続き、捜索活動を続けた。そして、衝撃的な会見が行われたのは翌々日の夜の事で。王族って本当に大変で。同じ王族でも比較的緩めで良かったなって思わざるを得なかった。
ルーの転移魔法で急遽、バッキンガム宮殿に僕は戻って来た。門の所で既に報道員がカメラ片手に待ち構えていたから。
「この度は私事で世間をお騒がせする事になってしまい、誠に申し訳なく思っている。現在、情報収集中で詳細はまだ分かっていないのでしばし時間の猶予をいただきたく思っている。会見の日時は追って知らせよう。観光客達の迷惑にもなっているので心苦しいが、取材を少しだけ自重して頂けないであろうか?どうか宜しく頼む。」
そう、一方的に話をしてから僕はルーを伴って宮殿内に足を踏み入れた。
中に入れば、国王陛下の側近が近寄って来て家族会議がある事、 僕が来ればいつでも開催出来る事が伝えられた。僕は、捜索活動中で汚れた服で拝謁する訳にもいかないので準備が出来次第イヴァン博士の特使と共に参ると伝えた。時間はジーク様を埋葬して僅か数時間後って感じだ。外は暗く。夕食時だ。いい加減、お腹は空いてくるがちょっとだけお腹に入れてから出向きたいものだ。応接間にルーを招き入れた後。
「軽く摘める物を用意してくれると助かる。後、人払いもしてくれないか?」
そう言えば、執事達がお茶菓子を準備してくれた。執事達がいなくなれば完全に鍵をかけて僕はルーにこう持ちかけた。
「王宮は油断がならない場所だ。此処までしてても何処かで僕の弱みは無いか常に探られてる。ルーの魔法だけが頼りだ。二人きりで相談出来る場所を確保してくれないか?」
「…ん…どうしようかな。近い方が良い?それとも遠い方が良い?」
「此処に戻って来るなら何処でも構わぬ。」
そう言うと、魔法で茶菓子を浮かせた後、景色が一変した。浮かせていた茶菓子はそっとテーブルの上に置かれた。綺麗に整えられた部屋だ。どうも最上階らしく、シドニーの街が一望できた。
「僕のプライベートルームへようこそ。エド。まぁ、旅に出て以降掃除なんてやりよう無いから埃っぽくて悪いけどね。両親には趣味のプラモデルが飾りきれないって適当に理由つけて街の中心部にあるアパルトメントを大奮発して買ったんだ。どうせ僕は性別不詳状態だったから、結婚なんて縁遠い。軍隊に入隊した頃は寄宿舎生活でも耐えられる様な男性の身体つきだったんだ。でも、大人になるに連れて体は鍛えてるにも関わらず女性にどんどん近づいていってね。リンちゃんが聞いたら羨む様な話だけど、僕にとっては悪夢に過ぎない。」
そうだろうな。と僕は思った。
「じゃあ、今の状態は僕以外誰も知らないって事なんだろうか。」
ルーの頭が静かに縦に振られた。僕は思わず抱き寄せた。ルーは少し目を潤していた。一番触れられたくない部分に僕は土足で踏み入った事を自覚するには充分だった。僕はこう宣言した。
「正直言って、打ち合わせするだけのつもりであったが。こんなルーを見てしまったら僕は生涯手放せそうに無い。生涯かけてそなたの秘密は僕が守り通そう。だから、ルーは僕に全てを託してくれないだろうか?僕はルーの事がたくさん知りたい。ルーだけを見て生きることにするよ。」
多分、少し支度に時間がかかると踏んだんだろう。ルーはこっそり時間を止めた。僕はルーの美しい姿を白日の元に晒した。羽が出れば、体全体が淡く光った。僕よりも白いアルビノの体は快楽に支配されていくうちに身体全体を赤く染めた。僕の中でのルーは最愛の人で、庇護すべき人で。嬉しそうに色素の無い目が細められればああ、これが僕の宝物になったんだと自覚して僕はますます止まらなかった。暗闇の中で僕は抱き寄せた。腕の中で名残が尽きなかったが。
「帰りの分の魔力は確保してるから、少し話そう?僕、もしエドに出会わなかったら一生快楽を知る事は無かったよ。ありがとう、エド。僕を僕のままで受け入れてくれて。」
「こちらこそお礼を言いたい位だ。痛くなかったか?」
「大丈夫だよ。エド。」
「さて、肝心の打ち合わせがまだであったな。そなたの身体の事がバレればそなたが一番傷つくであろう。だから、僕は死ぬまでルーを側に置いて離さぬ。そなたを娶りたいと考えている。イギリスでは同性婚が認められているが、色々と問題はある。1つは確実に400年以上生きるであろう異世界人を娶った例が無い事。もう1つは同性婚をした王族がそもそも存在しないと言う事なんだ。恋愛の末に王を退位した人さえいたからね。だから、僕も先例に習い王位継承権を返上するつもりなんだ。まぁ、僕順位低いからね。兄である皇太子には既に王子がいらっしゃるから。ただ、そうなると僕は家族に二度と会えなくなるだろう。」
「…エド、それで良いのか?」
「ああ、僕としても問題ないよ。正直、あそこまで人を見る目が無かったのかと辟易していたからな。だが、僕が勘当されるのが一番傷つかないと思うんだ。僕もなるべくルーが意中の人だと言うのは伏せて話す様にはするが、一向がイギリスに寄る前に情報部が徹底的に調べ上げている筈なんだ。当然、ルー。そなたも例外ではない。」
「…………」
「良いかい?王宮に戻ったら絶対に情に絆されないと誓ってくれないか?一番あり得るのが、ルーの戸籍を女性に変更してそのまま再婚させるって事なんだ。そうなれば、ハイエナ達は君の粗探しをして最悪な形で傷つけるだろう。後、このまま僕は君たちとの旅を強制終了させられるってのも十分にあり得る。そうなれば失敗だ。僕はルーとは離れたくない。祖国を捨ててでも僕は君と共にありたい。僕をそのまま連れて逃げてくれないか?いざという時の為に移民申請出してあるんだ。日本に。」
「ええと、凄く用意周到だね。話を聞いたのは確か数時間前だと思ったんだけど。」
「そうだな。正直に話そう。僕はルーがパイロット研修に来た時から既に目をつけてたんだ。僕は将校達と会話中だったんだけどね。男にあるまじき美しさは遠目で見ても分かるぐらいでね。いつか一緒に空飛べる様になれたらなぁって思ってたんだ。だけど、想定外の事が起きた。ルーがパイロット試験受かっただろう?僅か数時間しか飛んでない筈なのにドッグファイトで何度も後方取られて危なかったよ。本当に。」
「ああ、あったね。そんな事が。でも、撃墜判定を僕は受けて決した筈だよ。」
「まぁ、そこは経験の差だ。勝ちに行かせて貰ったよ。でさ。ルーは覚えていないか?僕が渡した意味不明な用紙に名前だけ書いてってお願いしてすんなり書いてくれたよな。」
「ええ、確かに書きましたけど……………まさか。」
「ああ、そのまさかだよ。スキャンで取り込んで、コピペして、適当に理由書いて日本に送っておいた。事後承諾になったのは悪いと思ってるが、疑う事をもう少し覚えた方が良いと思うぞ。」
「…………」
ああ、ルーが不貞腐れてる。あの美貌で頬を膨らませて。ああ言う表情もするのか。実に可愛い。でも不意に表情を曇らせ。
「でも娶るって簡単に言ってるけど。余りにも畏れ多いよ。」
「…実にそなたは賢いよ。事の重大さを良く理解している証拠であろう。僕のわがままに巻き込んでしまったが、どんな形になっても良いから二人で居られる道を探そう。」
「はい。」
ルーは時間を止めた魔法を解除した。僕たちは軽くご飯を食べてから汗を流して。それぞれ支度をした。使った茶器はルーが洗ってから拭き取ってテーブルに置き直した。性格出てるなって思った。僕は普通に軍で着用する服だが、ルーの服は箱から出された真新しいローブで、杖はジークさんが最期に持っていた杖だった。恐らく、事前に贈られたんだと伺えた。僕たちはルーの魔法で宮殿に戻ったが、今日という日はまだまだ終わりそうに無かった。




