密室での悪巧み?
今回はイヴァンさん視点の話です。
スペースシャトルは10時間のフライトを終え、極小浮遊大陸ステラ島に到着した。
位置的には北極海の上にぽつんとあるので爺さんの言った通り、天候は上空は晴れ、雲の中は吹雪いていた。しかも他の島より遥かに上空にあるので、雲がその姿を隠す。地上からは見えず。まさに、隠れて作業するにはうってつけの場所だった。
急いで作業しないとパルスレーザ砲が今度は此処を狙って準備をしている筈だ。だけど、只今絶賛睡魔が降臨中だ。さっきは2時間しか眠れなかった。他ならぬ自分の不注意だ。俺と死んだ親友達は揃いも揃って大の酒好きだ。何時もウォッカを何杯も飲んではしゃいだ。週末に親友と朝まで飲み明かした。幼馴染で、学校も一緒。専攻した学問まで一緒だった。ただ、違う点を挙げるとするなら、俺は宇宙を自由に冒険したかったからで彼奴らは地球に帰る為だった点だな。なのにあいつらとの晩酌用に積んでおいたウォッカをミサトに見つけられたのは非常にまずかった。けたたましくアラームが鳴り響いたから手元のパソコンを操作してモニターを開いたらあれだよ……………
ああ、どうしようもなく眠いが到着したのを良い事にミサトが口にしてしまったウォッカを煽って一人ゴチる。最後の晩餐の時を思い起こせば、爺さんも酒は一切口になさってなかったなぁと。俺の分の酒があったのはきっと爺さんが気を使ったんだろう。年代物のワインを出してくれていたが。ウォッカを水の様に飲む俺にとっては良いワインもジュースみたいなものだ。たが、味わい深く非常に美味しかった。なので、もしかしてとは思ったが、もし、エルフという種族が酒に対する耐性が無いとするならばこの先ミサトから徹底的に酒の類いは遠ざけるべきだろう。
AI を操作して月の奴に信号を出している部品をサーチさせた。迂闊だったなぁと思う。きっと、コソコソ建造してたのは軍部にはバレバレだったんだなぁ。泳がされたのに。らしくも無い後悔だ。まぁ全てを調べ上げ部品を特定するには時間がかかる。暗くなってきたので電気を消した。今晩中には解析作業が終わるから実際の作業は明日一気に終わらせるか。
室内なのに分厚いコートを羽織った。室内に熱があると、上空からサーチされると特定の危険性があり必要最低限。使える電気に限りがあった。エンジンを使って電力を賄うシステムにしたのが仇になった。エンジンを切って今現在、電力はしっかり電池に充電されていて潤沢にはあるんだが、どこまで持つかは未知数だった。やる事はまだある。情報収集だ。インターネットが使えるかどうかは分からなかったが、居住区に出しっ放しのノートパソコンを開いてシステムを見ると、wi-fi が内蔵されているタイプだった。すぐ側でミサトが可愛い寝顔を見せていた。ちゃんと言いつけを守ってコートを着込んで寝てくれている。起こしちゃ悪いと思い、音を立てない様に検索エンジンを出してニュースを開いた。トップを見たらデカデカと
『月政府、地球世界政府に無条件降伏を通牒。地球世界政府は対応を協議中。期限は72時間後。』
頭が真っ白になりそうだ。もし世界政府が無条件降伏を受け入れた場合、俺の引き渡しも条件に入っているらしく、記事にデカデカと俺の経歴が載せられていた。随分、詳細に書かれていたのは爺さんが情報を提供した上で世界政府が徹底的に調べ上げたんだろう。あのパルスレーザ砲の開発者であると言う事までばれている様だ。記事では、セレネティア島消滅後、行方不明であるという形で記事が締めくくられていた。人道的にも無条件降伏には反対の意見が多く寄せられていた。島自体は無くなってしまったが、人的被害が皆無なのも好意的に受け取られている様だ。
そうなると、俺としてはあのパルスレーザ砲をどうにかして破壊したいなぁって思う。その場にあるもので。パルスレーザを反射させて付近に当てるだけで良い。熱を持った砲身に当ててしまえば修理出来る人間は俺しかいない。上空から威圧的に蹂躙するなんて事態にはならない筈だ。しかも日本に行く時間まで稼げる。何だ。メリットばかりじゃ無いか。但し、問題もある。圧倒的な資材不足だ。爺さんは確かに色々材料を入れてくれていた。だが、レーザーに必須な鏡という物体は流石に入っていなかった。鏡に匹敵するものは無いかと考えを巡らせる。最初、パルスレーザを利用しようと思いついたのは地球と月の間に定期貨物船が就航される事になったのがきっかけだった。月の資源不足は年を追うごとに人口が増えた事で悪化の一途を辿ったのだ。それを解消する試みが定期貨物船って訳だ。但し、事故が多かった。地球側で着陸に失敗しても運が良ければ助かる人がいるが、月でそれをやらかすと全員死亡が当たり前だった。着陸誘導の為にパルスレーザを使う研究は上手くいき、乗組員をロボットにした事で定期的に物資が届く様になった筈だ。だが、威力を上げれば殺傷能力の高い兵器になると分かってしまった為に単なる大学教授だったのに軍部に再び徴兵され、強制的に研究をさせられた。給料も身分待遇も破格の扱いだったが、自由というものは無いに等しく、唯一の楽しみで息抜きとして作ったのが今、乗ってるスペースシャトルのレプリカという訳だ。給料は酒代と部品代で消えた。資源の乏しい月で資材を調達するのにコネも大いに役立った。どんな奴でも、お偉方には媚びを売りたいのだ。それを逆手に取ったから
「お前って悪知恵だけは凄く良く働くんだよなぁ。」
「まぁ、イヴァンにかかればどんな奴でも騙されるしな!」
「…人聞きの悪い事を言うなよ。」
そう言って3人でよく笑い合ったものだ。
頼りになる二人は俺を残して逝ってしまった。俺を地球に逃す為に。二人とも結婚して家族もいたのに、わざわざ離婚してまで俺に付き合ってくれた。二人共散々憧れていた地球を目の前に
「綺麗だなぁ。」
「ああ。俺たち帰ってきたんだな。」
俺はてっきり意識を失っただけなのかと思った。だけど実際には力尽きてしまっていた。俺を守る為に戦ってくれた親友達はもういない。致命傷を受けていたのに二人共隠していたのだ。アイスコフィンを見た時、宇宙服が取り払われていた。見ると全身、血で赤黒く染まっていた。そんな事とは知らず、大気圏突入を前に制御しなければならず、感傷に浸る間もなくメインコントロールを操作して操縦桿を手元に出して地球に入った。地球に入っても気が抜けなかった。バードストライクが起こり、メインエンジンがやられたのだ。辺りは暗く、目印がない。不意に、蛍と見間違う様な光が2つ浮かんでそれを頼りに着陸を試みた。助け出され、慌てて二人のヘルメットを取り払ったが、間に合わなかったのだ。
「ショーン、ネイサン。嘘だ…嘘だと言ってくれ……………うおおおおおおっ!」
二人の敵討ちはしたい。だが、どうする?鏡らしき物が調達出来ないとと考えを巡らせた。不意に声がかかる。
「随分難しい顔をして。大丈夫ですか?」
まだ二日酔いが抜け切ってないが、俺の事を心配して起き出したみたいだ。後ろから声をかけられたが、その目は記事に釘付けだった。
「ああ、少し考え事してたんだ。レーザー光線を跳ね返すのに鏡が有効なんだが、資材が足らなくてな。どうしたものかと思ったところだったんだ。」
「鏡らしき物があれば良いんですよね?心辺りはありますよ?」
「話しを聞こう。どんなプランなんだ?」
「はい。まず、この大陸全体に角度をつけて永久凍土を作るんです。後は普通にある太陽の光で表面を溶かせば鏡らしき物が出来上がりませんか?」
「それだ!」
流石、爺さんの孫娘と言った所か。お得意の妖精魔法を駆使すれば何とかなるかもしれない。
取り敢えず、明日は二人共作業をやる事にした。俺は不要な部品の撤去作業。ミサトは反射鏡作りだ。
そうなるとまず大事なのは、地球と月の位置関係という事だ。天体シュミレーターをインストールしてから起動して、面倒な手続きの後にチャリンとお金を課金した。アカウント作るのにミサトの名前を使わせて貰った。チュートリアルをすっ飛ばし、タイムリミットの前後10分を誤差範囲と仮定して先ずは発射位置と着弾地点を線で結んで反射角度を割り出していく。気の遠くなる計算をした。間違えれば地球にも被害が及ぶので何回も計算をやり直して反射した後の着弾地点の場所を特定した。膨大な電力を消費するのでパルスレーザ砲の隣には発電所というのが必ずある。その発電所を巻き込む形で砲台自体を破壊してしまえば、パルスレーザ砲の無力化に成功する筈だ。
その日の夕飯は二人共酒を飲んでいたからスポーツドリンクの味がするゼリーを摂取して、完全に冷え切った部屋の中で二人で身を寄せ合って眠りについた。
翌朝、軽く朝食を食べてから二人共作業に取り掛かった。昨日、酒を摂取してしまってので薬箱から風邪薬を出して飲んだら大分身体が楽になった。AI が調べ上げた解析結果をタブレットにダウンロードし、資料片手にしらみつぶしに発信機を取り外していった。35箇所にも上り、中には手が届きにくい場所もあり難航したが分解したのを戻さず箱に次々しまっていって時間短縮を測ればどうにかなりそうで、一時的に飛べなくなるが、日本で再び必要なパーツが確保出来れば再びコイツは蘇るだろう。やる事はまだある。爺さん制作のカバンは非常に大容量でスペースシャトルごとアイテムバックに入れられるのだが、スペースシャトルの中にある物は取り出せないらしく、使いそうな物とそうでないと物の仕訳という作業が残っていた。ミサトの作る代物が非常に大掛かりな物なのでお手伝いは望めない。俺は粛々と作業を続ける事にした。