新たなる精霊王達 4
いよいよ本題だ。祖父が先に話を振ったのは生ける魔剣を持ちし剣聖、アークさんだった。
「さて、無事魔剣とも合流を果たせて何よりであった。剣聖アークよ。ただ、払った犠牲が余りにも多かった事は生涯忘れる事は無いであろう。」
「……………はい。みんな良い奴でした。俺は、そいつらのお陰で生かされて今があると思ってるんだ。」
「うむ。ストリートチルドレンにその身を落としていると幸太郎から聞いてはいたが、探し当てるに至らなかった事は誠に申し訳無かった。先ずは、これを返しておこう。」
祖父から二つの袋を渡された。中身を見て驚いていた。
「これって…………」
「左様。これは元々、そなたとリュウに渡された筈の養育費じゃ。かの者達から回収しておいたのじゃ。終戦後、そなたはこれを持って贖罪の旅を始めるであろう。旧魔族領にじゃ。じゃが、そなたが思ってる以上に遺族は少ない。みんな戦争が良心ある者達を奪い尽くすからだ。」
「…………」
「じゃが、安心するが良い。誰一人としてそなたを責める者はいないであろう。それどころか、貴殿に感銘を受け文明から離れる道を選び、この地に住まうであろう。勿論、此処には世界に散らばった我々同胞も文明を捨てる道を選び故郷の地であるこの地に続々と戻るのじゃ。この地は妖精達に守られて長きに渡って繁栄するだろう。それ故に、人々が移り住んでもこの地は妖精達の楽園と称して一切の人を近づけてはならぬ。邪な野望からこの地を守るのはそなたの剣だ。そなたの人生が終わって神となった後もこの地だけはそなたの手により守られなければならないであろう。眷属となったそなたは人の身でありながらハイエルフと同じ生を生きる事を定められた。その間にそなたは多くの兵士達を育て上げ、暴走したAI達との戦いに備えなけれなならない。その頃にはそなたも妖精魔法を使いこなせる様になるであろう。AIは確かに我々に恩恵を齎した。じゃが、過ぎたる文明は人々を堕落させ人々はAIへの依存を極める余り、いつのまにか自分達が燃料になっている事すら気が付かぬ。」
「燃料。人族が燃料になってしまうと仰せなのですか?それでは、幸太郎さんが神になる意味が分からないのですが。」
「それなんじゃが、幸太郎を信仰するようになる日本の見識深い民達がAIに反旗を振るのじゃ。ただ、民達は抑圧されていて民自身は声を上げる事が出来ないのじゃ。その頃には世界政府も堕落し切って機能しておらぬ。それ故、民達をAIの支配から救出するのは我々の役目と心得よ。幸太郎がそなた達に助けを求めた時が合図じゃ。AIは人を見て学習をする。良識がある内は良いが、邪な野望を持ちし者が現れれば忽ち黒く染まって邪念を持った者を滅ぼした後、世界を滅ぼしてしまうであろう。そして、今度はAI同士が潰し合いを始めるのだ。人族を虫けらの様に武力として消費しながら。AIが滅ぶまでは我々が手を出さなくても勝手に自滅してくれるが最後に残ったAIは我々が討たねばならぬ。その時の旗印は長い時を生きたそなただ。そなたはその時命を落とすが、脅威が去った後である。そなたはその後武神となって生き残った人々の記憶に残り、多くの人の信仰を得て神となった幸太郎と再会を果たすであろう。」
「…こんな事を言って不謹慎だとは思うが、俺、ミサトちゃんみたいな伴侶欲しいんだが。」
「そうじゃのう。非常に残念だが、罪の意識が邪魔をして妻を得る事は叶わないであろうな。じゃが、出会いは多い故にその者達とは子を成すであろうな。」
「えらい無責任だな。お前。」
「やってない内からそんな事を言われても!」
「まぁまぁ。そなたは老けぬまま長い時を過ごすが相手は皆人族だからそなたよりも先に旅立つであろう。それは生まれた子供でも同様な為にそなたを慮って誰一人として子供の存在を明かさぬ。という事じゃ。そなたに見出された想い人達は揃いも揃って皆口が固くて聡明じゃ。そなたとの思い出を糧にして皆天寿を全うするのじゃ。」
「でも、それだと相手生活費とか困らないか?」
「それならば安心せよ。そなたと想いを遂げるのはみんなそなたが助けた者達で尚且つ自力で生活できる程に裕福である。故に、そなたを頼る者は一人も現れぬ。ただ、身辺には気をつけておくが良い。そう言った者は必ずハイエナが餌を求めてうろつくからのぉ。」
「…なんかどうすりゃ良いのか分からんが、イヴァン羨むのだけは辞めておく。」
「おう、どんどん自慢してやるよ!良いだろうっ!」
「この野郎っ!」
「おいおい、お前らいい加減にしないか!45にもなってるのに、中身は子供の頃と全然変わらん!」
「「すいません…………」」
幸太郎さんの注意で二人して押し黙った。私たちの番かと思いきや。
「アメリア殿。我らの葬儀は不要。ローグフェルグが気になっておろう。一足先に戻るが良い。」
「お気遣い痛み入ります。民達が気になります故、戻らせて頂きます。長い時の後にまたお会いしとうございます。」
そう言って、一足先にアメリアさんをローグフェルグに帰してた。って事は、彼女には聞かれたくない話なのかもしれない。
「さて、婿殿。ミサト。二人共我が前に来るが良い。」
私達は祖父の求めに応じて御前に参って二人並んで膝をついた。
「先ずは、ミサトの懸案を取り去っておきたい。婿殿、そなた。まだ致死量に近い青酸カリを持ち歩いておるだろう?きっと、処分に困っての事だと推察するが。」
「…仰る通りです。俺は、ミサトを知って以降やっと生きたいと思えるようになりました。心ならずも爺さんやミサトを心配かける事になり申し訳ありませんでした。」
「良い良い。ならば、その毒物は遠慮なく此方で処分する故、我に差し出すが良い。」
イヴァンは胸ポケットから青酸カリの入った瓶を恐る恐る差し出した。手の届く範囲に未だに忍ばせていた事に衝撃を覚えた。イヴァンから差し出された毒物は祖父の手元に来たのだが、どうやらまだ小分けにして持っていた様で祖父が指を鳴らすと服のポケットから小分けにしたであろう毒物と口の中まで仕込んでいた様で、慌てたイヴァンは口を押さえたが祖父の魔法が一足早く、恐らく噛めば仕込まれた劇薬が命を奪っていたであろう。そんな装置も取り外された。イヴァンは泣きそうな顔をして祖父を見やったが。
「こんな事も気が付かぬ程我は耄碌しておらぬ!小賢しい真似をするな!婿殿!」
幸太郎さんがつかつかと歩み寄ってイヴァンの胸倉を掴んで思いっきり右ストレートを叩き込んだ。ああ、アメリアさんに見られたくなかったのはこの事だったんだと直感的に感じた。祖父もずっと心配してたんだと言うのは見ても明らかで。周りの人間はただただ事の成り行きを見守るだけだ。幸太郎さんがイヴァンを抱きしめてこう言い始めた。
「お前な?ミサトさんと一緒に生きるって決めたんだろう?もう、これ以上過去に振り回されるな。もう、お前自由なんだからさぁ。良い加減自分を許してやれよ。みんなお前の事大好きでさ。お前の事を大事に思ってるのに、肝心のお前がお前自身を大事にしなくてどうするんだよ?ああ?」
「幸…太郎?…………」
殴られて呆然としているイヴァンに次々と仲間たちは声をかけた。アークさんにくせっ毛の銀髪をグシャグシャにされながらも
「イヴァン、もうさ。俺たちだけなんだぜ?生き残ってるのは。今更、一人ぼっちにしようとするなよな?お前が居なくなってしまったら、お前の為に命を張った奴らが浮かばれねぇじゃねぇか。しっかりしろよ、イヴァン。側にはもったいない位可愛い奥さんだっているんだ。いつまでも泣かせるんじゃねぇよ。」
「アーク。」
「そうじゃな。ワシも今のままのイヴァンだったら気がかりでならんわい。いつまで経っても心配をかけおる。」
「バイソンさん。」
「そうね、らしくないわね。早く悪戯っ子に戻りなさい。イヴァン博士。あなたがいつまでもそんなんじゃ、ミサトちゃんの気苦労が絶えないわ。取られたく無いんでしょう?ね?」
「リンちゃん。」
「…本当に世話の焼ける婿殿じゃ。じゃが、そんな傲慢な婿殿も繊細な婿殿もみんなひっくるめて気に入っておるのよ。さて本題はここからじゃ。婿殿はこの戦いが終わって月の民を地球に帰還するまでの間、良心の呵責に苛まれ続けるであろう。我はこの機会に命を奪う物の没収に辛うじて成功したが、それでも死への渇望とミサトへの想いとの間で揺らぎ続けるであろう。だが、犠牲者が増えれば増えるほど婿殿には死の影が濃くなっていき自らミサトの手を振りほどいた時。死の道へと真っ直ぐに突き進んでしまうであろう。皆に言い渡しておく。月に着いたら決して一人にしてはならぬ。一人にしたら最後。どんな手段を用いてでもそなた達が手の届かない場所まで追いやってでも自殺を試みてしまうであろう。其れ位、婿殿の罪の意識が強すぎるのだ。我も精霊王の一人として出来うる限りの時間を稼ぐ事は約束する。何せ、この者は我が入る揺かごに他ならないからだ。我は婿殿の中で眠りながらある時には知恵を授け、ある時には歴史を語る者となったのだから。我の新たな名は雪月風花の四精霊王の1柱。冬の精霊王ウインディア。先見の明を持って未来を観る。もしも我の助けが必要ならば遠慮なく我を呼ぶのだ。そして、死の渇望から救い出すのだ。婿殿を。それが出来るのはそこにいるミサトと剣聖殿じゃ。剣聖殿は死へ繋ぐ鎌をその神業で砕いて欲しい。ミサトはその手を再び取り、婿殿を正気に戻すのじゃ。旅のお供に婿殿以上の才を持つ者を必ず一人加える様に。新たに加わる仲間次第で婿殿の命運が決まってしまうであろう。」




