親子の対話 2
「へぇ。つまり、爺さま婆さま面倒見たくないって理由で、二人して国際結婚してたって訳か。先方から問い合わせあったから知ってはいたがな。」
ワタシは、自分の分のお酒をパパッと作って、父さんのグラスが空いてたのでお酒を継ぎ足した。流石エドだわ。本当に美味しいの。ただ、値段は恐ろしい位高いかもしれない。1本200万する高級酒をしれっと出してみせた事あるから。ただ、その後にお飲みになったお酒は非常に安物だったから、要は味にうるさいってだけかもって思ったわ。
「出席したんでしょう?姉さん達から聞いたわ。」
「ああ、写真に起こして持ち歩いてるよ。お前、持ってないだろう?焼き増ししてきてるんだ。確か、二人して爺さまの勝手に勧めた縁談を蹴ったからお前、結婚式にすら参加を許されなかったらしいなぁ。余りに頭に来たからお前達に連絡取って銀行口座を開設して貰って爺さま達が勝手に下ろせない様に手配したんだ。お前達まで大人の身勝手に付き合わせるのは良くないと判断したからな。」
「あれは本当に有り難かったわ。お陰様で、もっと長く女性を封印して生きないといけないかと思ってたけれども男性演じるの、高校卒業直後までで良くなったからね。住むんだったら事務所使えよって言ってくれたのも本当に助かったわ。ただ、滅多に帰って来ないからちょっと寂しかったけどね。」
目の前にはちゃんとアルバムに設えた3枚の結婚写真が並べられていた。みんな綺麗で幸せそうって思ったわ。ワタシ、この人の子供で良かったわって思ったわ。理解を示してくれる存在って本当に救いにも助けにもなるから。
「そういや、お前。何でイヴァン達の旅に付き合う事になったんだ?」
「ワタシ、近い内にエージェントの仕事退職するつもりだったの。慎ましく生活さえしていれば食べていけるだけの貯蓄はあるし、グレタ姉さん。何しても綺麗だったからお洒落に前々から興味があって、独学で勉強してたんだけど、本格的に学んでみないか?ってお誘いを受けたの。ただね、一度相談しようと思っていざ連絡取ろうとしたら全然父さんに繋がらないの。」
それではたっと思い出したんだろう。ジャンバーの胸ポケットから壊れたスマホを取り出して罰が悪そうな顔をした。ワタシは血の気が引いた。
「済まなかった。実は、イヴァン達が月から脱出する少し前に月に潜入取材してたんだ。その時に運悪く正規軍のロボット集団と反乱軍との間に大規模な戦闘があってな。誤って敵と認識されたみたいでロボットに銃撃されたんだ。俺は死ぬかと思ったんだが、ジャーナリストが狙撃されたって一報を受けたアークに助けられたんだ。だけど、アジトに連れて行く訳にはいかないからって言うんで俺は即帰国の途についてな。気がついたのは病院だったんだ。」
「見た事あるからおかしいなぁって思ったが、銃撃受けたの。幸太郎だったのか…………」
二人で飲んでた筈なのに、ドアから声がした。立ち聞きしてたアークが扉を開けて呆然と突っ立ってたの。
「幸太郎、済まない。俺たちが不甲斐ないばかりに…………」
「いや、あれで良かったんだよ。アーク。あのままアジトにいたら俺は誰にも知らされないまま海の藻屑になってたかもしれないし、イヴァンの交渉材料になってたかもしれないんだ。先日は助けてくれてありがとな。お陰様でこの通り元気だ。」
そう言って父さんは笑い飛ばしてたけどね。そんな危険な状態を生き延びてワタシ達を養ってくれていたんだと思うと、冷静になんてなれそうもないわ。
「ちょっと父さん!何でそんな大事な事を教えてくれないのよ!」
「いや、電話はしたんだが…………」
「…………」
ワタシは慌ててプライベート用のスマホを取り出して留守電を聞いた。何回かガチャ切りした後に「しばらくグレタの所にいるから。」たったそれだけ。
「…これじゃ、遊びに行ってるものだと勘違いするじゃない!もう!お願いだから、もう、これ以上危険な仕事しないで!ワタシ達、父さんに何かあったらと思うと心配で…………」
「…気持ちはありがたいが、俺は辞めないぞ?リンちゃんがアークと結婚するんだったら別だがな!」
「「…………」」
ワタシはじと〜ってアークを眺めたが、思いっきり首を横に振りやがった!側で見てた父さんは予測が付いていたんだろう。ワッハッハ!と大笑いだ。
「まぁまぁ。今回、旅に加わろうと思ったのはな。イヴァンだけじゃない。みんなが生きて幸せになる姿を見たいと俺は思ったんだ。そして、記録に残したいとな。しばらく見ない間にイヴァンの奴。すっかり顔が優しくなった。きっとな。ミサトさんがあいつに生きる事の素晴らしさを教えてやってるんじゃないかと思うんだ。まだ若いのに随分としっかりした娘さんだなって。まぁ。お前達が俺の事を心配してくれているのは分かってるからあくまで俺は保護者で。前線には立たないから。なっ!」
「…………」
「…本当に前線に立たないって約束してくれるならワタシも父さんが来るのは良いわ。心強いしね。ただね、一つだけ我儘言っても良いかしら?」
「…何だろうか?」
「今まで家族旅行なんて行った事無いでしょう?ワタシは修行を強要されてたし。一度で構わないから姉さん達も誘って行きたいの。良いでしょう?」
「……………そう言えば、一度も家族で出かけた事は無かったな。この旅が終わったら一度子供達も交えて相談でもするかな?どこが良いだろうなぁ。ああ、もちろんお前もイヴァンも強制参加な?」
「えっ、ちょっと待って!幸太郎。流石に俺たちは血も繋がってないし、お邪魔じゃ…………」
「お前らが混ざった所でごちゃごちゃ言うような子供はいないから安心しろ。それに、グレタが喜ぶ。」
「グレタって?」
「イヴァンから預かって育てた赤ちゃんの名前さ。」
「ああ。」
「確かにそうね。グレタ姉さんいるんだからイヴァン博士夫妻とアークがいた方が良いわね!今から楽しみが増えたわぁ!ありがと!父さん!」
「いいや、リンちゃんが喜んでくれるなら親としても嬉しいよ。ところで、イヴァン達はどうしてるんだ?」
「ああ、それならな。ミサトちゃんが魔法の練習している側で何やら船弄ってたぞ?人数増えたから外装が壊れた船を大きくするか、飛行機にエンジンを載せ替えるかで絶賛悩み中って感じでな。俺が声かけても反応無かったから考えがまとまってないんじゃないかな。」
「んじゃあ、ちょっと様子を見に行くとするか。」
「いや、今ワタシ達が行ったらまずいわ!ミサトちゃんが異常なまでにお酒に弱いから。」
「…流石にジークの孫だなぁ。そんな要らん所まで似たかぁ。」
「ええ。ワタシも見たけど、呼気だけで眠る人は初めて見たわ。酒宴の席では側に置かない徹底ぶりだもの。何でも脱衣癖があるからイヴァン博士もかなり気をつけてるみたいなの。」
「へえ。脱衣癖ねぇ。それ、ジークもだぞ?何でも各国首脳が集まるようなパーティーで何度もやらかした事があるらしく、ジークも流石にまずいと思ったんだろうな。自分じゃ記憶が無くて分からないって言うから側近もいるだろうに何故か俺を連れて歩く様になってなぁ。」
「それな、幸太郎。実は種族的に酒に弱いみたいなんだよ。うちのパーティにはミサトちゃんの他にルーベルトって凄え絶世の美男子エルフがいるんだが、そいつもエドが出した高級ブランデー1杯で完全に酔い潰れてた位なんだ。それだからじゃない?幸太郎を連れて回った理由って。」
「ああ、そう言う事かぁ。沢山部下いるのになんで俺?って前々から思ってたんだけど、今になって謎が解けるかぁ。」
「んじゃ、各国に伝手がある理由は…………」
「そう。俺がジークの酒宴の席でのお守りをしてたからなんだ。事情が分かってるから各国首脳もジークに一滴も酒を出さないんだが、時間が経つとどう頑張っても酔っ払うからジークが潰れたら別室で休ませてもらえるように交渉する人が必要だったって訳でな。ついでに、何で俺みたいなジャーナリスト風情が大人数を食べさせられたのか気にならないか?」
「気にはなるけど、まさか、犯罪者紛いの事してないよな?幸太郎。」
「ああ、勿論してないぜ?ただ、俺はジークが酔っ払った状態で脱衣ショーを始めて、周りの連中が大慌てしてる所をカメラで録画して教えてやっただけさ。あなた、大事な席でこんな事やらかしてませんか?ってな。ジークの方は周りの人の態度が変だったから以前から気になってたらしくて、謎が解けたと感謝されてな。酒宴の席限定で職員になるって条件でお前達のご飯確保出来たし、リンちゃんにも定期的な収入を送る事が出来たんだよ。じゃ無かったら、フリージャーナリストなんだからネタ無いと収入ないのが当たり前のこの俺が大人数養えないって。」
「へえ。じゃあ、ワタシ達はジーク様にも感謝しないとね。」
ワタシ達はその後も3人で酒を飲んで大いに盛り上がったわ。こんな優しい時間。もっと早くに持てば良かったと後悔したわね。翌朝からも救援活動あるから程々の所でお開きにしたけれど、今度はイヴァン博士もお誘い出来ると良いなぁって思ったわ。




