親子の対話 1
「何ですって!私が出した報告書の所為であの父さん出張っちゃた訳?」
そうです。俺、流石に危ない旅なんで。親同然の方なんで心配しかないんですって。そう、リンちゃんに告げさせてもらったよ。幸太郎には悪いけどさ!もちろん、隣にはアークがもれなく同席中だ。俺たちと一緒の頃はまだ24歳だった幸太郎ももう61歳。まだまだ現役の戦場カメラマンなのは知ってるけど。流石に大恩人はまずいからなんとしても連れて行かなくて良い方法あるかどうか聞いたんだ。ただ、幸太郎の人脈も馬鹿にはならないらしく。メリットも大きいとはリンちゃんの弁。
「恐らくね、あなたが必要って言った人数。父さんに準備させるとあっという間に終わるわよ。だって、世界各国にコネクション持ってるから。ワタシ達を養うのに必死だったからね。イヴァン博士の本、売れてたから1%だけでも印税を自分の懐に入れてたら普通に遊んで暮らせるのにそれを断固としてやらなかった事からもそれは分かるわよね?」
「それは良く分かってるよ。幸太郎のお陰で俺の死んだ親友達は大学まで行けたし、今でも基金作って奨学金出してる位だからなぁ。まぁ、パパラッチに粘着されたのは正直言って勘弁して欲しかったけどね!」
「イヴァン博士は無駄に顔も良かったからね。イケメン目当てで追いかけられてたってのは聞いたことあるわ。まぁ、それも肖像権振りかざして基金に入れ込んだらしいからね。」
「…幸太郎ならやるな。」
「ただ、こればかりは本人の意思聞かないとね。まぁ、いい加減な理由じゃないのは間違いないと思うけど、一先ずこの件。ワタシが預かって構わないかしら?」
「……………それは構わないが、どうするつもりなんだ?」
「まぁ、ワタシも色々積もる話あるから後で聞いてみるわ。」
そんな訳で、実の子供が話をして見るって言うから、様子見てみるけど二人して心配が尽きなかった。
夜になって。本当なら仕事中なので飲むつもりは無かったの。でも、そう言われてみれば親子で飲む機会なんて無かった事に気がついて。せっかくなんで誘ってみたわ。飲みに。ワタシと呑めるって言うので父さんは喜んでくれたの。だけど、ヴァルキリーの住まうローグフェルグには酒場って物体はない。どうしようと思案してたら救いの神は意外な人だった。なんと、エドがルーベルトを揶揄う為に何本かアイテムバックにお酒を忍ばせていたので事情を話したらどうぞ。と快く譲って頂いた。但し、
「リンちゃんがあの望月幸太郎さんのお子さんとは知らなかったなぁ。これにサインして貰えるんなら幾らでも呑んで良いぞ。」
との事で。何でも、イヴァン博士の幼少期の話と写真を載せた本が愛読書らしい。戦争の悲惨さの教訓に父上から拝領して以来、擦り切れるまで読んでいるんだそう。実際にチラッと写真を見たが、髪は今より長くボサボサで、痩せ細り、骨と皮しか無いのに目だけがすわってて憎しみを讃えた少年。今の面影自体は多少は残っていたものの、そこにいるのは子供ではなく餓狼なんじゃないかと。後ろに赤子を抱えて、食事を盗んで一時の生を得る。そんな子供に心を痛める善良な大人が多かったって事だろう。
「父さん、お待たせ。お酒と氷。頂いて来たわぁ。」
「気がきくなぁ。リンちゃん。」
「だけど、この本の持ち主。エドワード王子なんだけどね。お酒と引き換えに父さんのサインを頼まれたの。お酒を飲む前にサインして頂けると助かるわぁ!」
「なんだ。そんな事なら幾らでもするぞ?」
父さんはマジックを手に取り、サラサラとサインをした。もちろん、持ち主への宛名も忘れない。
「それにしても、随分と擦り切れてるなぁ。王子様、沢山読んでくれたんだな。」
「ええ、何でも今回の参加のきっかけを作った本だって言われていたわ。お酒は何にするの?」
「まぁ、王子様が持ち込む酒だ。どれも美味しいんだろうなぁ。ウイスキーあったらロックで頼む。」
ワタシはカラカラっとグラスに氷を入れてウイスキーを注いだ。父さんにも同じ物を作る。そしてはいって渡して
「「乾杯!」」
と言ってお互い口をつけた。小さい頃から仕事ばかりしてて殆ど家に居なかった父さん。ちゃんと向き合って話をしないとね。
「見たか?本の中のイヴァン。どんな印象だった?」
「子供ってより憎しみに満ち溢れた餓狼そのものだと思ったわ。」
「ああ、そうだろうな。今でも思い出すよ。世界政府の支援活動の一環でな。俺は戦場カメラマンに成り立てでな。場所が内戦中の月で従軍条件が自衛手段がちゃんとある事が条件だったんだ。何でもな、そこにはとんでもないガキがいてな。自衛手段が無いとまず身ぐるみ剥がされるって事だったんだ。相手は7歳の子供二人だって言うじゃないか。興味が湧いたから行ってみたんだ。真相を確かめにね。」
「怖いもの知らずね。」
「まぁ、今なら考えられんが、当時は血気盛んでさ。そんな悪ガキなら説教してやれば良いやって程度の認識だったよ。だけど、現地に行ってみりゃ情況は逆だったよ。大人達の身勝手に必死で抗っていただけの。ただ、生きるのに必死な子供達だった。実際の手口も見た。イヴァン、凄い美形だろう?妖艶な微笑みで大人を誘ってさ。二人っきりで良い事しましょうかってタイミングで馬鹿力のアークに殴らせて気絶させて身ぐるみ剥ぐんだ。凄い手際の良さに見惚れてたらあの二人に見つかってな。とりあえず、一旦逃げてから事情を聞くとな。真っ先にあんた、日本人だろう?こんな地獄に何首突っ込んでるんだ!ってイヴァンが日本語で怒鳴って来てな。驚いたよ。たった7歳で既に3ヶ国語話せるものだから。何でこんな天才児があんな悪辣な事をしないと生きられないのか。興味を持った。俺はつかさず、君を取材したいんだって声かけたんだ。イヴァンの答えはこうだった。俺とアークはたった2人で82人養ってる。赤ちゃん増えたから83人になってたな。そいつらにちゃんと毎日3食食べさせてくれるんだったらヌードでも何でもお好きにどうぞ。ってな。嘘だろうって思ったから確認させて貰ったよ。大人は全員殺された。これで俺が嘘言ってないって分かっただろう?って隠れ家に連れて行かれた時にこれは流石にまずいと思ったんだ。劣悪な環境。毎日、誰かが死んでいくのが当たり前。ご飯も大人数だから小さい子供達優先で自分達は殆ど食べない状態が当たり前。中には大人達に身体売った挙句病にかかってる子もいた。銃弾が降り注ぐ中でも食糧を漁って食い繋がないといけないからみんながみんな怪我してた。銃弾が中に入ったままだと死ぬから自分達で取り除くんだって聞いた時、自分が如何に恵まれた環境だったかを思い知らされたものだ。」
「じゃあ、片方が怪我してた場合はどうだったの?」
「イヴァンが怪我してる場合はアークは他の子供を使って同様の手口ですれば問題なかった。問題はアークが怪我してる場合だ。イヴァンはアークの代わりが務まる子供が誰一人としていない事をちゃんと知ってたんだ。だからスリしたり、それでもみんなの食べる食糧が賄えないと分かると弾丸行き交う場所で死体漁ったりそれでもダメなら何でもやった。まぁ、察してくれ。幾らイヴァンでも口に出して言いたくない事あるからな。ただ、俺と相談したジークの一致した見解はな。「ああ、この子絶対に壊れる」って。一刻でも早く助けないと取り返しつかなくなるって。それだけは避けたかったからな。ジークにお願いして、無理を承知で食料を融通して貰ったんだ。食料が滞りなく与えられる事が分かって初めて、イヴァンは心を開いたんだ。其れ位用心深く、大人は信用できないって思われてたんだ。」
「そうなのね。そう言えば、イヴァン博士も当時の頃を思い出して話をされた事があってね。ロンドンでサイバーテロがあって銃撃を受けて右肩被弾してご自分で銃弾取った時に思い出した様に話されたわ。本当に涙が止まらなかったわ。」
「へえ。珍しい事もあるんだな。あいつはなかなか自分の弱み見せねぇのにな。」
「何でも奥さんにはちゃんとご自分の過去を知って欲しかったみたいよ。」
「そうなんだな。所でさ、何でイヴァンの話になったんだ?お前の話は無いのか?」
「あらやだ。エドの本からそうなったんでしょう?ワタシの話聞いても面白くも何とも無いと思うんだけどね。」
「まぁ、そう言うな。俺はいつも家空けてて親らしい事なんて何一つして来なかったからなぁ。イヴァン達の事にしても、お前の事にしてもな。」
そう言うと、まるで自分を恥じ入る様にくいっと酒を煽った。ひょっとして、この人、ワタシをひっくるめた自分が関わった子供達全ての行く末を案じているのかもと思ったが、推測で判断するにはダメね。ワタシはお酒を氷継ぎ足してから入れて父さんに渡した。
「おう、ありがとな。俺な、お前とこうやって呑むの。いつかやってみたかったんだ。お前も仕事で忙しい筈なのに。時間取ってくれてありがとな。そういや、お前には一つ謝らんといかん。お前な、一度だけ手紙で相談してくれた事あったよな?心は女性なのに身体は男性だから気持ち悪い。助けてって。」
「そんな事あったわね。でも、あれ以降屋敷にすら入れなくなったじゃない?あれは何でだったの?」
「俺は相談を受けたから仕事やりくりして爺さまと婆さまと家内にリンちゃんの事を相談したんだ。何とかしてやりたくてな。結果だけ言うな?無理矢理離婚させられちまったよ。今後一切子供にも嫁にも会うな。葬式も出てくるな。ただし、養育費だけは払えって状態だったのさ。」
「なにそれ!自分達父さんのお金で贅沢三昧しておいて。本当に呆れるわ。でもね、父さん達の話は実はワタシも上の姉さん達もみんな知ってたの。だから、一計を案じてね。上の姉さん以外の結婚は早々に挙げて。しかも二人とも日本からなかなか来れない場所にいるの。父さんが海外に色々伝手があったでしょ?あれを利用させて頂いたのよ。」




