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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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月の民と消えた故郷 3

ミサトさん、やらかしました回となります。

気分を害する方はブラウザバックでお願いします。

 イヴァンさん。いや、もう呼び捨てで構わない。俺もお前の事は姫様じゃなく名前で呼ぶからと言われたんだった。イヴァンはスペースシャトルを動かす為にせっせと作業していた。体調は未だ優れない状態だ。イヴァンの額には脂汗が流れていた。随分無理をしているのだが、手伝おうにもここの機械は私には複雑すぎた。何がどうなっているのかさっぱり分からないのだ。イヴァンのアイテムバックに最新型のノートパソコンをお祖父様が入れてくださっていたみたいで、応急処置として、コクピットのコンピューターに接続してAI に起動作業を手伝わせていた。だけど、3人でする作業を1人でしていたからか既に作業開始して4時間が経過していた。凄く身体が怠そうなのに何も出来る事が無い。AI がシステムにもエンジンにも問題がありませんと告げた!


「よっしゃ!何とか飛べるぞ!AI は優秀なだなぁ。いやぁ、ミサトの爺さん良い仕事するなぁ。状態は月で初めて起動した時と全く同じコンディションだ。エンジン点火するぞ!ミサトは何もしなくて良いからサブコクピットに移動してくれるか?」

「はいっ!」


 私はイヴァンの指示に従って隣の席に着いた。イヴァンは手際良くシートベルトを締めてくれ、私は手にノートパソコンを持たされた。要するに、イヴァンの手が届く様に気をつけながら持っていれば問題ない様だ。エンジンが動き出し、振動が身体に伝わった。イヴァンもメインコクピットに座ってシートベルトを締め、操縦桿にネームタグらしき物をカランとかけた。


「お前らのポジションはここな?頼むから、俺とミサトを守ってくれよ?」


 それはそれは大事に名前が彫られているネームタグの部分を撫でた。昨日、回復魔法をかけたが、助からなかった方達だ。スペースシャトルのメインコンピューターの画像に地図が映った。イヴァンは手際良くノートパソコンから情報を入力して地図を現在の状態に変えて行った。その上で到着地点の座標を入力してしていた。イヴァンは真剣な顔をして。


「んじゃ避難場所まで移動な?」


 って言うとにへらと笑みを浮かべた。イヴァンはどうも時間を逆算して作業していた様だが、余り時間に猶予は無いみたいだ。操縦桿握って機体を反転させていた。簡易ではあるが、離陸出来るように整地はしてくれたみたいだ。そこから飛び立てと言うのだろう。バーナーの轟音が響き、いよいよ離陸という時に、


「月から熱源を感知しました。パルスレーザ砲と断定。目標はエルフの隠れ里!目標到達予定時間2分!即時離陸を推奨します!繰り返します!…」

「くそったれが!失敗出来ないじゃねえか!このっ……………!」

「先程の部分翻訳致しましょうか?」

「必要ない!空気読めっ!」


 先程の部分はどうやら私に聞かれてはまずい系の悪態とみた。イヴァンはロシア系だからついつい自国の言語で口汚く罵ってしまったのだろう。AI に空気を読めとはこれいかに。無茶振りも甚しかったが、何だかこの人危険な状態を楽しんでいるんじゃないかとそう思わずにはいられない。


「カウントダウン開始します!5…4…3…2…1…発進して下さい!」

「テイク・オフ!」


 イヴァンが操縦桿を倒すとあっという間にスピードが上がって離陸した。AI が離陸後のカウントダウンを始めていたが、何やら記録を取る様にパソコンに指示を出して外の動画を撮影し始めた。


「何をするんですか?」

「ああ、これな?パルスレーザ砲の到達時刻を記録する為に動画で撮っているんだよ。俺が知っている範囲なんだが、パルスレーザ砲を斉射した後、再び発射出来るようになるまでに72時間必要になるんだ。冷却した後、電気をチャージするのにそれ位時間がかかるんだ。」

「…何故、そんな事を知っているのですか?」


 モニターが白く光り、レーザー光線が家を、街を、森を呑み込んでいった。大地が砕かれ、消えて行った。

 新暦50年 7月29日 午前5時38分 セレネティア島 月からのパルスレーザ砲による攻撃により大破 消失しましたとAI が淡々と告げた。


「軽蔑されるのを承知で正直に話そう。あれを開発したエンジニアなんだ。俺はミサトの爺さんがいなかったら、無差別大量殺人犯になっていた所だったんだ!」

「…………」


 何か事情があって来た事ぐらいは分かっていたつもりだった。だけど、言い様の無い感情が私を支配した。戦争を止めに来たところから見ても兵器の開発なんて無理矢理やらされていたと想像はつく。良い思い出なんて全くと言って良い程無くても生まれ故郷には変わりがなかった。

涙が溢れて止まりそうも無い。イヴァンは色々操作して自動制御に切り替えていた様だが、持たされていたノートパソコンを取り上げられ、シートベルトを外して席から立たされるとあっという間に腕の中にすっぽり収まった。


「本当にすまなかった。俺がそこに不時着してなければこんなことにはならなかったんだ。自分のした事は言い訳のしようもない事ぐらいは承知している。俺はどこまで出来るか分からんが、ミサト必ずを守るから。」


 イヴァンは後悔に打ち震えていた。私は子供の様に泣きじゃくった。




 次の目的地まで10時間かかると言う事で、イヴァンは1つしかないベットで横になっていた。最初、寝る事を固く固辞してたイヴァンだったが、熱を測ると39度近かったしこの宇宙船はイヴァンにしか動かせないからと言うと


「んじゃ、4時間経ったら起こしてくれ。」


 とそう言って横になった途端、死んだ様に眠ってしまった。イヴァンに言わせると、スペースシャトルを作るのに睡眠時間を削りに削りまくった挙句、地球の気温の寒暖差に慣れてない所為で風邪を拗らせたんじゃないかと言ってた。過労状態に追い討ちかけたのかと推測した。毛布をかけてその上に羽毛布団を掛けてるが、寒気を訴えている。肺炎になってなければ良いがと気になって仕方がない。船内はデリケートだから魔法は禁止と言い渡されてしまったから症状を軽減する系統の魔法も怖くて使えない。船内を探索して見つけ出したのは自殺用の青酸カリだった。こんな物を持ち出した理由は想像ついた。恐らく、自分自身の口を封じるつもりだったんだろう。これじゃないなと思い再びガサゴソと探すと食品らしきものが置かれていた。大量のレトルトパウチだった。英語だったらまだ何か分かりそうな物なのに、書かれているのはどうもロシア語みたいだ。言語の壁は非常に厚い。仕方がないので、AI 君に働いて貰う事にした。

 コクピットに置かれているノートパソコンだけなら動かせはする。学校で必須だったからだ。ただ、イヴァンが使った後のノートパソコンは即席で作ったアプリがざっと見ただけでも10個同時に起動してて障害物や近寄ってくる魔物を巧みにかわしながら目的地に向かっている様だった。なので検索エンジン立ち上げるだけの簡単な作業なのに、やはりやめておこうと思った。余計な物は触らない。君子危うきに近寄らずだ。


 そうなると、このレトルトパウチの中身を確認するには自分の舌で確認するしか方法がない。

 蓋を開け、一気に口に含んだ。喉が焼ける様な感覚の後、激しく咽せた。全身がとても熱い。

 一体、何を口にしたのかさっぱりで、そこから何をしたのか覚えていない。





「おはようさん。お目覚めかぃ?」


 身体が重く、頭が痛い。


「ほれ、水でも飲んでろ。二日酔いにはこれさ。それとも、昼間みたくおねだりしてみるか?」


 先程のレトルトパウチと一緒の型の代物を差し出されたので戦々恐々だったが、レトルトパウチのラベルを確認したらちゃんと水と書かれていた。私は全裸になっててシーツを胸元までたくし上げてキッとイヴァンを睨みつけた。が、昼間の様子が余程楽しかった様で、笑いが止まらないといった状態だ。まさかとは思うが…


「ああ、誤解の無い様に言っておくが、俺が脱がせたんじゃなくてお前が酔っ払って勝手に脱いでたんだからな!何か異変があったら起こす様に予めAI に設定してたけどまさかお前が俺の秘蔵の酒を一口飲んで熱いと訴えながら脱いでいるとは思ってもみなくてな。ククッ」


 穴があったら今すぐ入りたい。


「んで、お前が飲んでしまったのは宇宙で持ち歩ける様にレトルトパウチ加工を施したウォッカな?アルコール度数90度以上で所謂火がつく酒なんだが、俺はそれが好物でな。地球に着いたら飲むつもりで積んできて色々ありすぎて正直存在忘れてたのさ。どうやら目に付く所にあったのが拙かったな。迷惑かけて悪かった。お前の目の届く範囲に置くと俺の理性がもたないから責任持って自分のアイテムバックに入れ直したから大丈夫だ。但し、これだけは仲間として忠告しとくぞ。お前の酒癖は常軌を逸しているから仲間内だったとしても酒を飲むのは禁止な!」

「はい、すみませんでした。」

「んで、これ、ミサトのアイテムバックな?脱いでた服入れておいたから、適当に見繕ってくれ。外は極寒だから防寒グッズも忘れるなよ?今から着陸態勢に入るが、流石に8時間程じゃ酔いは醒めて無いだろうからゆっくり休んで。」


 イヴァンは軽く手を振って部屋から出て行った。私はお言葉に甘えてレトルトパウチに入った水を飲んでから横になった。8時間と聞いてしまって、イヴァンの体調悪かったのに無理をさせたと頭を抱えるしかなかった。高い熱出して寝込んでいたのに。私に父はいないが、もし、父親がいたらあんな感じだったのかなぁと思ったのと、羞恥心でどうにかなりそうなのに何だか態度が余裕綽々なのを見て大人の余裕なるものを感じてしまった。

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