盲目の聖女。
目の前でイヴァンが倒れていた。殿下は私に気がついて。
「陛下。本当に申し訳ない。イヴァン博士は立ったまま操作を手伝ってくれていたのだが、スピンした弾みで後方に飛ばされてしまって。」
「…………」
本当に無茶ばかりする人だ。私がヒールをかけようとすると、みんなの頭に声が響いて来た。
「ようこそ、ファルメリア宮殿へ。わたくしはファルメリア宮殿を管理している者。この度は我らの要請に応じてくださり誠にありがとうございます。その上、宮殿に被害が及ばぬ様にご配慮くださり感謝に堪えません。本来なら、直接出迎える所ですが、もうすぐ此処にもハリケーンが襲来致します。怪我人もいらっしゃる様なので先に皆様方を回収しようと思います。ただ、このまま空飛ぶ船を置いておけば飛ばされてしまう危険がございます。御心苦しいのですが、どなたかお一人残って頂き、回収した後に直接来ていただけないでしょうか?」
「委細承知した。機長である僕が責任を持って回収しよう。」
「分かりました。それでは、皆様をご案内させて頂きましょう。」
どうやら転送魔法を使ってくれた様だ。景色が飛行機のパイロットルームから荘厳な雰囲気の宮殿に転送されて来た様だ。玉座には目隠しをした美しい女性が座っている。後ろに天使の輪の宝冠を掲げている。美しいプラチナゴールドの髪は床まであってまるで光の川が流れたいる様だ。白い翼は広げられ、白銀の甲冑が神々しい印象に花を添えていた。杖は豪奢で、その姿は威風堂々としているが、顔を見ると20代って感じの大人の女性だった。ずぶ濡れになった殿下が走りこんできて全員が揃うと、女性は話を始めた。
「皆様を改めて歓迎致します。わたくしはこのファルメリア宮殿の管理者。アメリア・リー・フェルナンディ。地球で生まれた初の神様候補生となります。この度は私事でこの地に招いた事をお許しください。先ずは先に治療をさせて下さい。」
そう言うと、私の所まで来た。私はイヴァンを抱きしめていた。目は見えてないのに何ですたすた歩いて来たのかが不思議だ。
「はじめまして。エルフの女王陛下。回復魔法を先程お使いになってた様ですが、リザレクションの順番が逆でしたよ。こうすれば、成功率が高まりますから覚えておくと良いでしょう。神聖回復魔法エリアヒール2!神聖蘇生魔法リザレクション2!」
「…………」
アメリアさんの魔法は二人を瞬く間に全回復した。先ず、起き上がったルーベルトさんは
「あれ…あんなに痛かったのに…………」
そして、イヴァンが目を覚ました。
「…ミサト、此処は?」
「ファルメリア宮殿。このお方がイヴァンとルーベルトさんを助けて下さったの」
イヴァン達は改めて盲目の聖女に目を向けた。
「アメリア・リー・フェルナンディさん。この度は、我が夫と親友を助けて下さり本当にありがとうございました。」
私はただひたすら頭を下げた。
「いえ、良いのです。さぞかしご心配だったのでしょう。あなたの気持ちは痛い程良く伝わりました。私は盲目故に人の心が視えるのです。顔を覚える時間を取りたかったのですが、それをしてしまうと風邪をひいてしまわれます。イギリスの王子様が。ですので、先にお部屋にご案内させて頂きますね。」
「宜しくお願いします。」
アメリアさんの先導で私達はそれぞれ部屋の提供を受けた。先に殿下とルーベルトさんに真っ先に部屋が充てがわれた。その次がナスターシャさん。リンちゃんと続き、アークさんとバイソンさん。そして、私達だ。
「それでは、嵐が過ぎ去るまでごゆっくりお寛ぎ下さいませ。」
そう言って、一礼して辞去して行った。
二人きりになると、イヴァンにいきなり抱きしめられた。後ろからぎゅうっと抱きしめられた。
「心配かけてすまなかった。俺、もう大丈夫だから。」
私は振り返って抱きついた。私は涙が止まらない。
「心配してた。無茶しかしないから心配してたよ。イヴァン。」
夕飯前までそうやってお互いの無事を喜び合った。イヴァンが暴走し出したら、もう止まれそうも無かったが、流石に隣人に冷やかされるのを恐れてか。
「この続きはみんなが寝静まってからな?隣にアークいるのに冷やかされたらたまらん。」
そう言って、私達はアメリアさんに今夜の夕食を作らせて下さいとお願いしに行って、許可を得て作る事にした。いつもならお世話する方が毎日通われていたのだが、ハリケーン襲来の為に今日は来られず、聞けば今朝から何も食べてないとの事で。イヴァンが手料理を振る舞うとの事でギャラリーが続々と集まってた。食材は充分あって、野菜のみじん切りとかをした。作る料理がボルシチとピロシキって事もあり、ロシア人の母を持つルーベルトさんも早速乱入してお手伝いを開始した。二人ともすごく手際が良いので。
「女性としてなんかもう負けた気がする…………」
そう言うと、覗きに来ていた殿下が。
「そなたがすんなりあの者達を超えてしまったら忽ち立つ瀬が無いであろうな。」
そう言って笑った。アークさんは魔剣の事を聞きたいバイソンさんに取り調べられていたのでこの場にはいらっしゃらない。ナスターシャさんは魔王が聖域にいるのは余り居心地が 宜しく無いらしい。絶賛引きこもり中で、リンちゃんは部屋でお仕事中だ。
「それまで我らはアメリア姫の所にお邪魔していよう。」
「それもそうですね。」
そう言って、私は人数分のお茶菓子を用意してアメリアさんのお部屋までお届けする事にした。ノックをすると。
「どうぞ。」
「失礼する。」
「失礼致します。お茶をお持ちしました。今、イヴァンとルーベルトさんがご飯を作ってますので、お待ちくださいませ。」
「お客様にこの様な事をさせてしまい、本当に申し訳ありません。」
「とんでもないです。」
「イギリスから持ってきた紅茶とクッキーになる。アメリア姫のお気に召されると良いが。」
アメリアさんはソファに座っていらした。私たちもソファに腰を落ち着けた。紅茶を淹れれば香りがふんわり漂った。
「お茶を飲む前に目が見えてないのでお顔を触らせて頂いて宜しいでしょうか?誰か分からないとどうも落ち着かなくて。」
「分かりました。私からどうぞ。アメリアさん。」
「では、失礼致しますね。」
アメリアさんは一つ一つのパーツを覚える様に丁寧に触っていた。目元、耳元、口の作り、輪郭を丁寧に記憶していく。
「陛下の事は覚えました。エルフにしては幼い印象がありますが、凄く愛らしいお方だと分かりました。」
「愛らしいなんてそんな。私の事はミサトとお呼びください。」
「まぁ、ミサト。美しい故郷って意味を込めてつけられたそうですね。あなたの暮らしている日本と言う国の事、以前から興味がありました。また後程色々聞かせてくださいね。」
「はい。」
「殿方には失礼かと存じますが、お顔を触らせて頂いても構わないでしょうか??」
「良いだろう。遠慮は要らぬ。」
「失礼致します。」
殿下は近い位置に座り直した。気配を感じ、恐る恐る顔を確かめていた。顔のパーツを確かめる様に触り終わると。
「殿下の事は覚えました。侍女から聞いた話では妻子をお持ちとお伺いしましたが。」
「やはりご存知でしたか。僕の事はエドと呼んで頂きたい。ミサトも本国では殿下と呼ばれても仕方は無いであろうと諦めていたが、もう、旅の仲間故、遠慮は要らぬ。僕には年下の妻と、娘が2人います。まぁ、第3王子なんで身分としては気楽な方ですね。」
「そうなんですね。先日、ロンドンはサイバーテロが起こったとか。心よりお見舞い申し上げます。」
「お気遣い痛み入る。イヴァン博士の気持ちを鑑みてミサを挙行したのだが、逆にイヴァン博士の位置を自分から発信した様なもので実に軽率であったと反省したよ。ロンドンは京都に次ぐ古都だ。機会があれば是非訪ねて頂きたい。案内は僕がしよう。」
「それはどうもありがとうございます。」
アメリアさんは殿下。いやエドと笑い合った。夕食の前に、アメリアさんは集まって来た一人一人の顔を覚えていく作業をした。1番最後に触ったルーベルトさんの顔立ちの良さに思わず赤らめていたけど。目が見えないって本当に大変だ。食事すらままならないとは。スープを食べようにも口の位置がわからない。ちぎって食べるピロシキだったから食べられた様なものだった。見るに見かねた私は半分くらい食べてから手伝うと言ったが。つかさずルーベルトさんが。
「陛下もまだお食事がお済みではないでしょう?僕は終わってるんで、僕がやりますから。」
そう言って甲斐甲斐しくお世話を始めた。アメリアさんの顔が赤かった。
「大変美味しかったです。ご馳走になりました。ルーベルトさん、お世話をお掛けしました。」
「いえ、僕は別に…………」
これがきっかけで、アメリアさんに春が来たのかもしれない。ルーベルトさんはアルビノだけど顔の良さは流石にエルフだし、しかも、無駄に優しいとなるとヴァルキリーでも射止めてしまうのかと思った。
翌朝、嵐が過ぎ去って。天気は穏やかに快晴なれど。アメリアさんにこんなお願いをされた。
「皆様にお願いがございます。嵐が過ぎ去ったので救援活動をしたいのですが、わたくし達ヴァルキリーは人間から稀に産まれる女性のみの種族です。なので、この様な災害が起きた場合地球政府に要請はするのですが瓦礫等があるとわたくし達には限界があるのです。旅の途中でお急ぎなのは充分承知しておりますが、一人でも多くの命を救う為にどうかお力をお貸しください。」
もちろん、イヴァンはこれを快諾し、数分の内に金属探知機の様な形の『人命探査センサー』なるものを開発してみんな総出で救助に向かう事になった。




