ハリケーン襲来
翌朝、僕たちはイギリスを発った。敵を騙すにはまず味方から。兵法の常套手段をまずは取ろうと言う事になった。ニュースに載るのは3日後の予定だ。イヴァン博士の着陸が余程上手かったのかソーラーパネルも全てのシステムにも問題ないとバイソンさんがが請け負ってくれた。なので出発する事にした。メインパイロットは大佐。僕はサブパイロットだ。後ろにはバイソンさんが付いてくれていた。次に行く場所は揉めに揉めたが、結局、イヴァン博士の開発力が無いと旅が続けられないとの理由で神聖魔法の専門職を当たるべくヴァルキリーの聖地・ローグフェルグを目指す事にした。だけど、僕たちはまだ知らない。この出発を早めた決断が最大のピンチを招く事になろうとは。
事故が起こる1時間ほど前から機体は激しく振動を続けていた。私達は後ろの方で3人でポーカーをして遊んでいた。最初は仕事をしていたリンちゃんも混ざりたくなった様だ。ナスターシャさんは眠っていた。かく言う私はと言うと、イヴァンの何時もの定位置に座る様に言い渡されてイヴァンの手の代わりになってたが、やってみたら面白かったので途中から私がプレイヤーでイヴァンがアドバイスをしてくれる事になった。骨折中の右肩はまだ固定が取れない。骨折だけならまだどうにかなるが、元を正せば銃弾が元でのヒビからアークさんの馬鹿力で骨折に至った事もあり見るからに痛々しい。まぁ、薬飲むのを拒否しているからってのもある。流石にサプリメント飲む感覚で薬は飲みたくないそうだ。ただ、イヴァンとアークさんとでは契約の内容が違う。 アークさんのそれは完全に本契約なんだがイヴァンとはなし崩し的に夫婦になってるものだから、まだ仮契約って状態だった。幸いなことに泣きの1回が残っているので効果の書き換えが起こるかもしれないが、今は黙っておこう。まだ、青酸カリ捨ててないしね。トランプを睨んでどれを捨てようかと考えてたその刹那。大きく揺れたと思ったら、何かが当たって割れる音がしてイヴァンごと吹き飛ばされた!
イヴァンは私を咄嗟に庇ったから私は何とも無かったが、あろう事か負傷している右肩を強打した様でその場で右肩を押さえて蹲った。私はつかさずヒールをイヴァンにかけた。
「ぐあっ!」
「ヒール!」
「いつもすまないな。ミサト。」
「それは良いの。でも…」
「ミサト、先に結界魔法をかけてくれないか?恐らく、殿下達に何かあったと思うんだ。」
「分かったわ!」
私は呪詛を唱えて飛行機を包み込む様に結界を形成した。さっきまでのガタガタ震える状況はピタリと止んだ。そして、イヴァンが指示を出した。
「みんな、非常事態だ。リンちゃんはナスターシャを起こして!ナスターシャ起こしたら、この辺片付けて。ミサトは回復魔法の準備して。アークは俺の代わりにパイロットルームに入って3人を此処に連れて来るんだ!」
「おう!」
「「分かったわ!」」
慌ただしくなった。私が魔力操作をしてる間にリンちゃんはナスターシャを起こした。事態を聞いたナスターシャはつかさず
「重力操作魔法、グラビティコントロール!」
と唱えた。とりあえず、墜落だけは回避しなければならない。今の地球の海は異世界から来た魔物だらけなのだから。ナスターシャが機体自体を魔法で軽く設定してくれたお陰でとりあえず、浮いていられる様だ。アークさんが馬鹿力でドアを開けるとバイソンさんがイヴァンの所に慌てた様子で報告に来た!
「大変じゃ!飛行機がハリケーンに巻き込まれて瓦礫がパイロットルームを直撃したんじゃ!殿下は無事じゃ。じゃが、ルーベルトの奴が殿下を庇って盾になったんじゃ!あやつ、妖精の羽持ちじゃから瓦礫が殿下を直撃すると分かったみたいなんじゃ!」
妖精魔法使いのあるある事案が発生してしまった様だ。鉄の塊に囲まれいてもルーベルトさんには自然の状態が分かる。恐らく、正しく情報を伝えたが、規模が大き過ぎて回避が出来なかった事が容易に想像出来た。顔面蒼白の状態で殿下がふらふらと出てきて、近くの席に蹲った。道を譲った様だ。その後を大慌てでアークさんがルーベルトさんを抱き抱えて私の下まで走って来た。
「ミサトちゃん、ルーベルトの奴が息してねぇ!」
「!?」
私はつかさず魔法を唱えた。
「神聖蘇生魔法リザレクション!精霊王よ、我に力を!ヒールウォーター!!」
私は、感情の昂りのままに立て続けに魔法を唱えた。私はアークが抱き抱えてるルーベルトさんの手を握った。イヴァンも側に駆け寄り、殿下もそれに続いた。顔色はアルビノだから普通に白いのに状態が状態だからだろうか。ルーベルトさんの顔から血の気が引いていて青ざめていた。
「しっかりして!ルーベルトさん!お願いだから、目を覚まして!」
すると、数回、瞬きをした後目が薄っすらと開かれた。まず、側にいる殿下の無事を確認した様で。
「大佐、ご無事で何よりです…………」
「少尉のお陰でこの通り無事である。だが、さっきの行為は感心しない。頼むから、命を粗末にだけはしないでくれ。これは命令だ!」
「…はい。一応、承っておきます。で、陛下?何で泣いているのですか?」
いつの間にか私は気がつかない内に泣いてしまっていた様だ。きっと安心したのかもしれない。
「嬉しいなぁ。僕が敬愛してやまない女王陛下が僕の為に泣いてくださるなんて。僕、親友になって良かったよ。陛下がとても素敵なお方だって知る事が出来たから。ただ、ごめん。全身痛くて…………」
「ルーベルト、ゆっくり休んでくれ。エロ、被害状況は確認したか?」
「はい、瓦礫直撃を受けて大破した箇所からの雨の侵入を確認。全てのシステムがダウンしています。計器類も使用できなくなってますが、手動でならサブパイロット操縦桿からの操作が可能です。」
「応急処置的にガラスに準ずるものを張らないと操縦自体が難しいか。しかも止まってたらどうにかなるが、動いているとなると難しい。魔法で何か手段はないか…………」
「シールドぐらいなら張れるけど、あなたが思ってる程魔法は万能って訳ではなくてよ?」
「それでも構わない。宜しく頼む。ナスターシャ。」
ナスターシャは無詠唱でシールドを張ってくれた様だ。イヴァンはパソコンを開いて操作しながら。
「すいません、殿下に御負担をおかけするのは非常に心苦しいのですが。」
「案ずるな。イギリス空軍は天変地異以後も存続していた部隊だ。飛行経験ならルーベルト以上の経験を積んできている。勘だけで操作は流石にした事ないが、最善を尽くそう。」
「宜しくお願いします。ちなみに、今、何処に向かってたんですか?」
「ローグフェルグだ。ヴァルキリーの聖地の。」
「リンちゃん、ローグフェルグ周辺の天気図と現在位置を確認出来るか?俺、自動操縦のプログラムを応急処置でちゃっちゃと組むから。」
「分かったわ。」
殿下は分厚いコートを着込み直してルーベルトが座ってた席に着いて操縦桿を握った。イヴァンは鬼気迫る勢いでプログラムを組んでいる横でリンちゃんが声を上げた。
「大変よ!今、地球政府から入電が入ったわ!ローグフェルグがハリケーンの直撃を受けて多数の死傷者を出しているらしいわ!まだ情報が錯綜していて詳細はわからないけれど、今、私達がローグフェルグ上空を飛んでいる事は間違いないらしいわ。それで調査依頼が入ってるの!」
「自分達の安全が確保出来てない状況でこれか!でも、ここで墜落した日にはもっと死傷者が出てしまうんだ。バイソンさん。ローグフェルグ周辺でハリケーンを凌げそうな場所は何処かにないか?」
「おう、それならここならどうじゃ。」
そう言って、バイソンさんが地図を指差しながら説明を始めた。
「ここならハリケーンのルートから外れている様じゃ。今は無人の宮殿じゃ。ファルメリア宮殿と言ってな。ヴァルキリーの中から神格が現れた者が住まう神様候補生の住まいじゃ。天変地異前には何名かいたのだが、天変地異以後は神格を有する人間が現れたと聞いた事がない。」
「……………そんな所に突っ込んだら文句を言われそうだが、やむを得ないだろう。そこに緊急着陸する!但し建物への被害が出そうだから建物全体を指定して防御魔法を展開して防ぐ事は出来るか?二人とも。」
「結界は私がするわ。イヴァン。」
「それ以外ならあたしに任せて頂戴!」
「バイソンさんは殿下に航路説明と強行着陸を指示してきて下さい。俺も殿下のサポートに回る!エロは壊れちゃ困るから一旦鞄の中な?」
「了解です!」
殿下の操縦で飛行機は徐々に高度を下げた。一旦、ファルメリア宮殿上空を通過する。そのタイミングに合わせて私は結界魔法を。ナスターシャさんはシールドとリフレクトを同時にかけた。窓から建物全体に結界が張り巡らされたのが確認できた。
「魔法がかかったわ!」
その声にバイソンさんが走りながら叫んだ!
「みんな、シートベルトを付けて衝撃に備えるんじゃ!」
みんなは飛びそうな物を一斉に仕舞った。私はイヴァンが仕舞い忘れてるパソコンを回収してからシートベルトをかけた。リンちゃんも自分のパソコンを仕舞って同様の作業を。痛みに苦しむルーベルトさんのベルトはバイソンさんがしてくれた。バイソンさんはルーベルトさんの隣に座ってシートベルトを締めた瞬間、下から衝撃がズドン!と来て、ブレーキをかける音がけたたましく鳴り響いた。多少スリップしかかったものの、建物には被害が無いみたいだ。どうにか止まったのを確認後、殿下の叫びが聞こえて来た!
「イヴァン博士!イヴァン博士っしっかりして下さい!イヴァン博士っ!」
必死過ぎる呼びかけに異変を感じ、私達はパイロットルームに駆けつけたが、そこには頭から血を流して青ざめて意識なく座り込んでいるイヴァンを揺する殿下の姿があったのだった。




