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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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さよなら、友よ。 3

 シルフィードの悪魔の宣言はみるみるドナルドさんの顔を青くさせていった。


「そんな馬鹿な…お前、軍に提出してたじゃないか!どうして持ってるんだその剣!!」

「悪いな。説明は割愛するが、要はこういう事なんだよ!」


 そう言って、アークさんは預言の書かれた紙を提示した。


「つまりは、俺には最初からお前が裏切り者だって分かってたって事なんだ。俺は、一人だけで捕まる積もりだったのにさ。リュウが情に絆されて仲間達の潜伏先まで教えてしまうなんて思いもよらなかったんだ。イヴァン、タバコくれるか?」


 イヴァンは何も言わずにライターごと封の空いたタバコの箱を投げて寄越した。息がぴったりなせいだろうか。難なく受け取ると、タバコに火をつけて。


「これ吸い切るまでには終わる。さぁ、御託の時間は終わりだ。命のやり取り。始めようぜ?」


 まるで、凧の糸が切れたかの様な勢いでドナルドさんは襲いかかるが、それを上回る速さであの馬鹿でかい剣を振って攻撃を加えていた。戦闘スタイルはイヴァンに瓜二つの正に喧嘩殺法だが、イヴァンのそれとは段違いに速く、恐ろしいまでに正確に隙を突いていた。あのリンちゃんでさえ。


「何なの、あの化け物じみた強さ。ワタシ、初めて見たわ。あんなの。」


 って言ってた位だ。動きに無駄がなく、まるで暴風が剣を振るって暴れている様な感覚さえ覚えた。イヴァンがぼそりと。


「俺、今のアークに絶対勝てる気がしねぇ。」


 そんな事まで呟いた。みんな怒れる剣聖の戦いを見惚れていた。そして、吸い切るまでと宣言した通りにシルフィードはドナルドさんの身体を刺し貫いたのだ。口から血を吐き、持っていた剣を落としてあっけなく勝敗はついた。ただ、私から見ても明らかに致命傷ではなかった。アークさんはドナルドさんを抱き起こした。ドナルドさんは自分の刺された部分を触ってから手を眺めてた。もう、言葉を発する事は叶わないのだろう。ドナルドさんはまるでしがみつこうと手を伸ばしていた。が、アークさんは手を取らなかった。手を伸ばしきった所で何かを悟ったイヴァンは三角巾から拳銃を取り出して構えた。私はそれに手を添えた。


「ミサト?」


 私は静かに頷いた。イヴァン一人に罪を背負わせない。私の意思は汲み取ってもらえた様だ。そしてイヴァンは躊躇する事なく引鉄を引いた。パーン!と言う音と共にドナルドさんの頭に命中し、息絶えた。あまりの事にみんな声が出ない。伸ばされたその手には小さなナイフが握られていたが、息絶えた時点で力なく振り落とされ、ナイフが手を離れ、カランカランと転がっていった。


「イヴァン、ミサトちゃん……………結局、俺の認識の甘さが彼奴らを死地に送った原因だったんだな。」

「…………」


 誰も言葉を発する事が出来なかった。その言葉が余りにも重たかったから。そして、イヴァンはシルフィードが魂を喰らってミイラにしていく様を眺めながら


「さよなら、友よ。(Do svidaniya druz’ya )」


 とそう呟いた。ロシア語で呟いたから意味が分かったのは私とルーベルトしか分からなかったけれど。



 シルフィードがお腹いっぱいになった所で私はアイスコフィンを唱えようとしたが、ルーベルトが。


「陛下の敵に陛下の崇高な棺は必要ありません。棺ならば、僕が用意します。」


 そう言って、ルーベルトがアイスコフィンを唱えて遺体を収容した。後片付けが終わり、みんなナスターシャの作った世界から応接間に戻ると、魔法は解除され、ナスターシャは目を開けた。殿下が配下を呼び出し色々事情を説明している所にナスターシャは殿下を呼び止めた。


「あなた達が色々話してる間にあの男の記憶を全てコピーする事に成功してるの。色々役に立つんではなくて?」

「…ありがとう。ナスターシャ。あの様子だったから、証言は諦めていたけどお陰様でどうにかなりそうだよ。」


 そう言って、水晶を受け取っていた。異世界にいた人間なら「記憶結晶」って言えば分かるのだが、天変地異以降に生まれた私には非常に馴染みの無いものだ。専門の攻撃魔法職にしか作れない代物だからだ。私は間に挟まれて隣にイヴァンとアークさんが座っていたが、彼らは無言で。表情を窺い知ることが出来なかった。



 夕方、僕は殿下から2通の封筒を受け取った。宛名は裏切り者の一人、リュウさんからだ。本当ならもっと早くに殿下は渡すつもりだったらしいが、リンちゃんも後始末の書類に追われて手が離せず。殿下も同様。そうなると、お鉢が僕に回ってきたって訳なんだ。バイソンさんも誘ったが、もうすぐ出発だから乗って来た飛行機使えるかどうかメンテナンスしてみるとの事で。ご夫妻の部屋に行って、ノックした後部屋に入るとさ、陛下を挟んで仲良く3人座っててさ。流石に陛下の事を配慮したのかタバコは遠慮していたみたいだけど、何もせずただただ黄昏ていたよ。3人共ね。本当なら殺したくなかった筈だよね。聞けば、幼少の頃に戦地を生き延びた仲間だったらしい。戦争って地獄だ。絆さえも利用して精神的ダメージを負わすことが出来るとは思っても見なかった。だけど、僕はちゃんと用事をこなさなければならない。恐る恐る。


「あのぉ、魂此処に無い状態のお三方。そろそろ戻って僕の話を聞いて欲しいんですけど!」

「あ、ああ。悪いな。ルーベルト。来てたのか。」

「はい。ノックしたんですけど、誰も反応が無かったんでお邪魔させて頂きましたが大丈夫ですか?」

「心配かけて悪いな。まぁ、多少愚痴っぽくなってるのは許してくれや。」


 みんな一応に笑顔は見せてくれているんだけど、その表情は凄く痛々しい。


「実はですね、リュウさんからお手紙をお預かりしてまして。殿下に届ける様、言われて来たのですが。」


 そう言って、僕は2通の封筒をそれぞれに渡そうとしたが、それを陛下は止めた。イヴァン博士は口を開いた。


「悪いな、ルーベルト。せっかく届けてくれたのに、それ俺たち受け取る事出来ねぇ。今の俺たちがリュウに対してしてやれる唯一の事は彼奴を一生涯、許さないでいる事なんだ。」


 僕はそう言うイヴァン博士の気持ちが凄く理解出来た。多分、アークさんもそれは同じだったんだろう。許さないでいる事って難しい事だ。僕はそう思う。


「そんな訳でな、俺たちの目の前でそれを燃やしてくれないか?ルーベルト。お前もミサトちゃんと同じ妖精魔法使えるんなら出来るんだろ?」

「はい。勿論。ですが、陛下程万能じゃありませんけどね。」


 そう言って僕は炎の精霊を呼び出して妖精さんに手紙を渡せば瞬く間に封筒は燃えていった。屋敷に放火する訳にいかないので、燃え尽きるまで簡単な結界を陛下が施して下さった。陛下は。


「リュウさんが今後どうなるか。聞いていますか?ルーベルトさん。」

「はい、僕が聞いた範囲内での情報なんですが、リュウさん。司法取引に応じてくれる様で現在、尋問中です。証言が取れ次第戦争裁判で裁かれる事になります。司法取引に応じてる場合、普通なら減刑されるものですが、今回、犠牲者が余りにも多過ぎるので恐らく即日死刑か、情状酌量の余地があると見なされれば無期懲役って所でしょうか。昔の日本の刑法は、無期懲役でも生活態度が良ければ出る事も出来たそうですが、天変地異以前に刑法が改正されたので今では死ぬまで独房で過ごす事になります。噂なんですが、死ぬより辛いらしいですよ。窓もない明かりもない中で必要最低限の食事しか与えられず、面会も許されず、自殺に繋がる紐も無く書籍すら与えられないそうです。誰とも会話出来ない中で耐えられる人はまずいなくて発狂しながら着ている着衣で自殺を試みる人が後を絶たないそうで。」

「そこまでか…………」

「…………」

「なら、減刑嘆願書出すか。死ぬよりそっちが辛いなら俺の気持ち的には苦しみながら逝って欲しいしな。イヴァンもルーベルトも書け。但し、ミサトちゃんは除外だ。あいつのトドメを手伝ってくれただけでも十分過ぎるしな。本当にありがとう。いつもイヴァンに寄り添ってくれていて。嗚〜呼、本当に羨まし過ぎるぞ!俺もこんな嫁さん欲しいなぁ。」


 英語で書類を書きながらアークさんがそうぼやくと、何時もながらのやり取りが復活しだした。


「誰が、お前になんかやるか!ルーベルト、お前も取るなよ!」

「取る取らない以前にアークさん、此処の綴り間違ってますって!言い出しっぺが文法すらままならないってどう言う事!?」

「仕方ないだろう?こいつ、俺たちの中では一番の脳筋だったしな!」

「何だよ!イヴァン、失礼だなぁ。全く。母国語ぐらいどうにかなるし!日本語も少しは勉強したんだからな!」

「文書全然読めないのにか?w」

「お前みたいなちょろっと勉強しただけで何でもこなせる神童と一緒にするな!」

「いや、それにしても酷すぎですって。アークさん。」

「…たく、しょうがねぇなぁ。俺が文章考えて清書したの渡すから、お前、それまで自分の名前のサイン、練習しとけよ?どうせお前の事だ。自分の名前の綴りすら怪しいからな!」

「仕方ねぇだろ!俺は学校行かなかったんだからさぁ!」


 こんなやり取りがあるものだからとうとう陛下は肩を震わせて笑い出し。何時もの調子を取り戻した。やいのやいのの言い合い合戦は夜遅くまで続いて僕も一緒に楽しいひと時を味わった。もうすぐ、イギリスを発つ。行き先は情報漏れの恐れを考慮に入れて僕たちが出発後に決める事が申し合わされていた。だけど、僕たちに待っていたのは最悪の事態だった。

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