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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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さよなら、友よ。1

 翌朝になってもイヴァン達は帰って来る事は無かった。私は朝からナスターシャの指導を受けていた。羽を展開し、魔力を練る練習だ。普通、ハイエルフは幼少の頃から羽が生えているので、小さい頃から魔力操作を練習して出来るようになってから成人するのだが、私は成人してから羽が生えたせいでその辺が全然出来ていなかった。昨日は3時間が限界だった。今日はもっと浮遊しながら魔力操作出来るようになるんだと息巻いていた。だけど、私達が努力していた陰でイヴァン達が心に深い傷を負う事態になっていたなんて。この時の私達は想像すらしていなかったのだ。



 此処は某ホテルのスイートルーム内だ。二日酔いに頭を抱える人間も約1名いたが、俺たちはスイートルームに篭ってリンちゃんの緊急調査報告を待っていた。調査の内容はドナルドの義両親の安否だ。もし、生存していればまだ交渉の余地があるんだろうが、問題は亡くなっていた場合だ。そうなると自棄を起こして何をするかは分からない。月からの緊急メールが来た様で、リンちゃんはパソコンを開いた。


「報告を聞くわ。アンジー少佐。」


 当然だと思うが、地球政府もスパイを軍部に派遣していた。なので、月軍事政権下で偽名で多くの人員を潜伏させていた様だ。お互い、戦争しているんだし。


「はい、ドナルド・クーパー氏の義両親、マイク・クーパー氏。ミハイル・クーパー氏お二人とも残念ですが既に亡くなられています。ドナルド氏を逃した後に軍部に連行され強制労働に従事していたそうですが、最初のパルスレーザー砲反射命中時に巻き込まれて亡くなったそうです。報告は以上です。」

「ご苦労様。引き続き、調査をお願いするわね。」

「了解しました!」


 そう言って、通信は切れた。もちろん、さっきの映像は既に録画済みで後から軟禁中の二人に公開される予定だ。俺はタバコに火をつけて深い溜息を吐いた。ドナルドのご両親を俺の手で殺してるとあっては交渉の余地すら無くなってしまった。俺は両手を広げて。


「なんて事をしてしまったんだ。俺のこの手でドナルドの幸せな家庭をぶち壊していたなんて…………」


 俺は震えが止まらなかった。重苦しい空気が部屋を包んだが、それを否定したのは他でもないルーベルトだった。


「それは違う!博士が壊したんじゃない!博士は狙われていたから正当防衛をしただけなんだ!そこにドナルドさんのご両親を配置した事で後々博士を苦しめる様に仕組んだ巧妙な罠なんだ!」

「そうじゃ、ルーベルトの言う通りじゃ。もし、あんな兵器を潰してなければ地球政府側に大量の死傷者を出していた筈なんじゃ。お主は間違ってない!何一つ間違ってない!だから、自分を責めてはならん!イヴァンよ!」

「…………」

「イヴァン、泣いて良いんだぜ?こういう時は我慢するなって幸太郎が言ってただろ?」


 俺はアークの優しさに甘えて泣く事にした。因みに、軟禁中の二人には殿下が見張りを自ら買って出てくれていた。俺の過去を知ってる人間が側にいた方が何かあった時に落ち着くだろうって言う殿下のご配慮だったのは言うまでもなかった。いい歳したおっさん2人抱き合ってって言うと誤解を凄く招きそうだが、アークのそれは嘗て幸太郎がしてくれた様な包容力で包み込まれる様な感じで何だか安心出来た。


「あいつら、イヴァン泣かしたからな。俺、落とし前つけて来る。」

「一体、何をするつもりじゃ?アーク。」

「もちろん、仇討ちさ。あの二人は確かに友人だったが、それと同時に反乱軍のリーダーだった俺には同胞の仇になるんだ。もう、あいつらは友人なんかじゃねぇ。話をして、地球政府に投降しないなら俺が自らの手で罰を与える。それだけだ。」

「や、辞めるんだ。アーク!?幼馴染同士で殺し合いをしてどうなるって言うんだ!!」


 その時、右肩に激痛が走って俺は余りの痛さに意識が飛びそうになった。アークの野郎。まさか。最初から自分の手でドナルド達を殺すのを邪魔させない為に馬鹿力で右肩砕いたんかぁ!俺、流石に涙引っ込んださ!右肩見れば、しっかりアークの手が食い込んでた!


「痛いっ!ちょ!アーク!お前、最初から俺に手出しさせない為にワザと砕きやがったな!」

「……………そうだよ。悪いが、これ以上イヴァンが苦しむの。見たくないんだよ!お前が誰よりも優しいの知ってるし、誰よりも自分を責めるの知ってるんだからな!リンちゃん。悪いが俺に着いて来て。バイソンさんとルーベルトは何が何でもそいつから目を離すなよ!」

「分かったわ。」

「任せて、アーク。ちゃんと見てるよ。ってか、イヴァン博士まずくない?滅茶苦茶熱高いんだけど!」


 その言葉に慌ててバイソンが俺の額に手を当てた。バイソンさんの手は鍛治の神様のお陰で少しあったかいがそれでも。


「ワシの手を介しても熱い。」

「あの馬鹿!また馬鹿力で新たに砕いたんかい!」

「ヒールウォーター!嘘、弾かれるってどう言う事?永続魔法検索…妖精避け?何でこんな魔法かけてるのさ!イヴァン博士!」

「ミサトを守る為さ。爺さん曰く、俺、霊に取り憑かれやすくてな。俺の知らない間に妖精王に利用されるのだけは我慢ならなくて爺さんに掛けてもらったんだ。」

「こんなの、陛下の神聖魔法でしか直せないけど、以前と違って天変地異以降軒並み魔法は下方修正かかってるから…………」

「そうじゃ、だから以前の世界の様に完全に直す事は不可能なんじゃ。その上、上位魔法を習得するとなると専門職にならないと難しい。神聖魔法の専門職じゃないとこの怪我は直せないかもしれん。」

「…………」


 アークを追いかけなきゃいけないのに。倒れてる場合じゃないのに。そうだ。脂汗が流れるけど、俺はあいつ達を見届ける義務を放棄する訳にはいかないとフラフラと立ち上がって、ドアまで近づいた。

 ドアを介して激しく言い争ってるのが分かった。当然だ。話の内容がさっぱり入って来なかったが、ただ分かるのは交渉は決裂したと言う事だ。リュウは地球政府に投降する事にしたようだが、ドナルドは頑として拒否したと言う事だった。それを受けて殿下は二人を空軍基地に身柄を移す事にした様だ。俺はその後の記憶がない。どうも高熱のお陰でまともに立って居られなくなったみたいで。気がついたのは夕方で。いつの間にか俺は宮殿に移送されていて。ミサトが心配そうに魔法をかけながら俺の看病してくれていた。


「気がついた?イヴァン。話は殿下からお伺いしたわ。」


 俺はミサトを利き腕の左手で思いっきり引っ張って俺の手元に引き寄せた。見れば完全に右肩は腫れ上がってて袖すら通らない有様だった事だろう。幸運だったのは季節が夏だったから上半身裸でも大丈夫だった事位だろうか。


「イヴァン、無理しては…………」

「いや、今はただこうしていたいんだ。ミサト。」


 俺はただただ縋りたかった。軽く唇が触れればお互い、貪欲に貪った。ただただそうしているだけなのに、気持ちが救われる気がするのが不思議だ。右肩の所為で動かそうとすると痛みが激しい。ただミサトの頭を撫でたいだけなのに。美しい黒髪に触れたいだけなのにこれ以上出来ないのがもどかしかった。


「で、ミサト?殿下から明日の予定とか聞いてないか?」

「聞いているわ。余り時間をかける訳にはいかないから明日、此処でアークさんとドナルドさんが戦う事になってしまったわ。ただね、此処観光名所だから流石に決闘は困ると言うのでナスターシャさんの魔法で異空間を作ってそこで戦う事になったの。殿下からは傷の具合が余りにも悪いから無理をせずに休む様に言われてるけど…………」

「いや、怪我を理由に立ち会わないなんてあり得ないな。俺のせいでこんな事になってしまったんだ。俺が逃げてちゃダメだろう。悪いが、出席の旨伝えておいてくれるか?」

「分かったわ。それじゃ今度は私も一緒に行きますから。」

「おいおい、ミサト。お前練習あるだろう?」

「ううん。明日はナスターシャさんの都合が付かないから休みなの。それまでは、あなたの看病するつもりよ?」

「何だか済まねぇ。最近、寝込んでばかりだ。」

「良いのよ。私はあなたの奥さんだもの。それにね。私はもう、あなたしかいらないから。」

「そりゃあ、奇遇だな。俺もだ。俺もミサトさえ居てくれてさえいれば何もいらねぇ。いつか。しばらく二人だけでのんびりしたいものだ。誰の邪魔も入らない場所なら俺は何処でも良いな。月でも良いし、地球でも良いな。しばらくは難しいだろうけど、このゴタゴタが終わったら。此処にいる天女をしばらく独り占めしたいなぁ。」

「それ、あなた。ほぼ毎日やってるじゃない!」

「ん?確かにそうかもしれないけどなぁ。でもなぁ。俺、こう言う感情って初めてなんだ。何時も一緒に居ても空気の様でぽかぽか暖かくてさ。安らげるって感じでさ。ミサトが教えてくれた感情なんだ。だからもっと沢山知りたいんだ。」

「うん。」

「教えて、ミサト。俺、お前と一緒にいるだけで生きたいって思えるから。俺、もっともっと沢山お前の事、知りたい。愛してる。ミサト。」

「イヴァン…………」


 俺、今さっき言った事は本心なんだ。でも、明日の事を考えるとさ。俺、正気で居られるか不安しか無くてな。右肩痛いのにさ。お前にただ縋りたくて甘えたくて。お前の側が余りにも居心地良いからさ。止まらなくなるって自分でも分かっているのに手を伸ばして。そのまま離せなくなってしまうんだ。俺のわがままに付き合わなかったらきっと、残酷な現実を突きつける必要も無かったのに。きっとお前は俺と共に生きたいと願うその心のままに動いてくれているんだなって思った。俺はミサトが齎してくれる救いにただただ感謝した。

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