魔王再降臨
翌朝、あれって言う感じで目を覚ました。そう言えばと思い出そうとするが、記憶がない。朝、いつもの習慣でイヴァンに口づけしてからさっぱりと言った感じだ。だけど、身体が気怠いから多分、イヴァンの前でやらかしたのは確かだ。隣にはいつもいるお方の姿はない。
それどころか私を見てくれている人に非常に心当たりがあった。
「あなた…ナスターシャ…………」
「ウフフ。おはよう。ミサトさん。しばらく見ない間に随分とお美しくなられたわ。」
「あなた、良く私の前に顔を出せたわね。どう言うつもり?」
「あら。あたしはこう見えて約束は守る女よ?今回の旅に同行するのと、とある情報がもたらされたから合流するのが早くなったの。詳しくは食事を兼ねてお話しがあるそうだから着替えていらっしゃい。後、あなたに一つだけ忠告するわ。確かに魔力は超一流よ。だけど、今のままだと凄く無駄が多いの。何故だか分かる?」
「…分かりません。」
「それは魔力操作が疎かで、才能のゴリ押しで魔法を使ってるからよ。それはこの間の儀式後に倒れた事でも分かる事なの。」
「…………」
非常に腹立たしいが、彼女もまた祖父の次に実力がある魔導師だ。攻撃魔法だけなら祖父以上だろう。たまたま勝てたのは精霊王の加護があったからって言うのは前々から感じていた事だ。
「だから、あなたには課題が出されたわ。あなたの良く知る方から。魔力操作を会得し、あの羽を最低でも5時間持たせる様にって。そうじゃないと転移魔法は夢のまた夢。そう伝えてくれって事だから。確かに伝えたわよ!」
「…………」
多分、祖父から契約系の魔法を施されていたのだろう。魔法陣が現れ、パリンと割れた。
「勿論、旅の間は鬱陶しい事にあなたの大事な人を奪おうとすると私、命が奪われちゃうのよ。私だって命は惜しいわ。だからあなたからは大事なものは奪わないわ。」
「…分かったわ。信じましょう。但し、イヴァンにまた手を出したら祖父の契約魔法の前にあなたを殺すから!」
「おお、怖い怖い。」
「…………」
そんな訳で、朝食時は魔王ナスターシャの紹介となったんだけど。丁度、その時間に戻って来たイヴァンは目の前の女を見て固まったのは言うまでもなかった。当時、現場にいたバイソンさんとリンちゃんはまたイヴァンに手を出すんじゃないかと武器を片手に前に出てイヴァンを守ってくれたり。殿下とルーベルトは興味すら示さず。アークさん達は上玉の女とか抜かして鼻の下を伸ばしていたのは言うまでもない。
そして、朝食をいざ食べましょうと言う頃になって。
「悪いんだけど、時間が来たの。少し、付き合って下さらない?」
そう言うので、一斉にみんな外に出た。
「実は月の諜報員。不死族の私の部下なんだけど連絡があってね。パルスレーザー砲。復旧したらしいの。目標はここロンドン。どうもね、あなたにすごく固執しているみたいなのよね?イヴァン博士。」
「…………」
イヴァンは分かっていたんだろう。苦虫を噛み潰したような顔をした。
「執念と言うものさえ感じるわ。あなた確か武器開発関連の書類完全に破棄してからこちらに来ている。それは間違い無いかしら?」
「ああ、間違いない。だが、壊した筈のデーターを復旧させて修理してる間にアーク達を時間潰しに出した。それが出来る奴に俺は心当たりがある!」
「そう。ジークの言う通りやはりあなたは賢い人ね。そして、ミサトさん見ていなさい。先日は虚を突かれてしまったけど、これが魔王ナスターシャの真の実力よ!」
ナスターシャは無駄なく最速で魔力を充填していた。同時に5つの魔法を詠唱する彼女。対象はイギリス全土だ。
「シールド!レベルマックスリフレクト2!」
シールドは初歩の魔法だが、魔法を反射するリフレクトにはレベルが5段階あり、その上に2まで来ると、どんな魔法でも弾き返せるのだ。あれをもし使われてたら私の方が死んでいた。私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「追尾指定魔法、目標パルスレーザー。」
その声でリフレクトで弾き返されたパルスレーザーに魔法陣が新たに書き込まれた。だが、ここからは流石に魔王。容赦と言う言葉が無かった。
「動作封印魔法ストップ!最大攻撃魔法メテオストーム2!」
「!?」
ナスターシャの魔法ストップは恐らくイヴァンにも使われていた魔法だ。普段は相手を指定して使うのだが、今回相手を指定していないとなると、着地点にいた全員と言う広範囲に渡ってかけた事になる。そして、メテオストームだけでも強力な攻撃魔法なのに更に威力を倍増させたのだ。言わずと知れた隕石を落としまくるあれだ。パルスレーザーと合わせて隕石がまとわりつく様に飛んで行ったのに術者のナスターシャはケロリとした顔で。
「さぁ、私の最初の仕事は無事終わったわ。冷めない内に美味しく頂きましょう!」
「……………あ、ああ。」
誰かの声でみんな我に返って朝食を食べに戻ったが、助力を求めに来た為本気の魔法は敢えて使わなかったナスターシャの実力は本物で。私は自分自身の未熟さを痛感させられるはめになった。
朝食が再開されるとなれば和気藹々とは言いがたい雰囲気の中、殿下からイヴァンに質問が飛んだ。
「イヴァン博士。先程、心当たりがあると言ったな?我がイギリスに災厄をもたらそうとした者の事を教えてくれないか?」
イヴァンは言おうかどうか迷ってるって言った感じだ。だが、イヴァンは覚悟を決めた様で。
「軍の最高顧問、ゲイルって男です。奴は俺以上に機械に詳しくてデーター復元のプロです。最高顧問だけあってそいつが軍部を掌握している事は間違いありません。アーク達を戦場に立たせる事が出来るのもそいつ位なものです。亡くなったアーロンからも聞いた事があります。」
「じゃあ、そいつがアーロン達を殺した…………」
「そうだ。死ぬ気で俺が倒さないといけない男だ…………」
「…………」
その後、色々な話をイヴァンの口から聞いた殿下は怒りのあまり
「我がイギリスに刃を向けた事。必ずや後悔させてみせようぞ!」
そう息巻いていた事を忘れてはいけない。朝食の後、それぞれ作業に取り掛かった。ただ一人。負傷中のイヴァンだけその場でパソコンを開いてエロを接続してメンテナンスを開始している様だったけれど。
俺はこれは絶好の好機だと思った。パソコンを2台立ち上げて1台はライブで中継を流していた。ここにサイバーテロをやり返してやるのだ。たった今、着弾した様で中継はもれなく大混乱だ。
「エロ、お世話になってるイギリスに迷惑はかけられん。アクセスは日本を経由して月のシステムをジャックする!回路を開け!」
「了解です!日本へのアクセス完了。月のシステムに侵入開始。…成功を確認しました!」
「おっ、流石最新鋭AI だねぇ。んじゃ、本職には流石に負けるが、この俺を怒らせたらどうなるか。倍返しと洒落込もうぜ!と、その前に邪魔なこいつはとっとと取ってだ。」
俺は、ギッチギチに巻かれた包帯を取って右手が自由に動くか確認を取った。肩さえ動かさなければ問題ない様だ。
「んじゃ、派手に宣戦布告と行こうじゃないか!エロ。月と地球の電波を3分だけジャックしろ!」
「了解しました!」
本当なら手当し直したら直ぐに帰れた筈だったのに病院に無理をお願いして手術室横の応接間をお借りしてネタは既に準備済みだ。実は、俺の耳にはパルスレーザー砲復旧の一報と到達時刻は既に地球政府から情報提供されていて、予め、日本のシステムを中継させて貰う許可を頂いていた。その為、俺はただ、パルスレーザーの着弾を確認するだけと言う簡単なお仕事をすれば良かったんだ。日本はAI が支配している国だけあって過去にもサイバーテロを数多く潰した実績を誇っていた。防御はこちらで受け持つから派手にやりなさい。って事なんで俺は遠慮なく報復を開始する事にしたのだ。パソコンの画面は既に月のシステムの全てを網羅し図式に変えた画面が表示されていた。月の奴の吠え面とくと堪能しようじゃないか。エロが難なく中継をぶった切って用意した画面を電波に乗せた。画面には俺の似顔絵と共にこんな事が書かれてある。
「月の奴へ この間は素敵なアトラクションをありがとな。お陰様で楽しませて貰ったぜ。御礼の品を用意したから精々地獄を見るんだな!」
画面が切り替わる。
「地球の志高いエンジニア諸君に告ぐ。我こそはと思う奴は俺に続け!」
電波ジャックが終わるとたちまちライブは大騒動だ。ライブを写したパソコンには世界地図が表示されており、スタートする前から続々と参戦するエンジニア達が表示されていた。
「んじゃ、楽しませてくれよ?」
俺は嬉々として作業を開始した。右肩持って行った御礼。とくと味わえってんだ!
ああ、この人って本当に色々やらかす問題児だなぁと常日頃から僕は思っていたけれど、あれ見たらみんな参戦するに決まってるじゃないか。本当に煽るの上手いな。イヴァン博士。
すぐ隣で操作手順の勉強をしていた殿下も
「サイバー部隊を出動させよ!我々もイヴァン博士の援護に回る!」
そう言ってからスマホで日本と連絡を取り始めた殿下だったが既にイヴァン博士が手を回していた事に驚きを隠せていない。既に、日本の方でもサイバー部隊が一斉に侵攻してるのだと言う。殿下はスマホを切ると。
「イヴァン博士はつくづく規格外なお方だな。既に世界政府経由で全世界に通達済みで、一斉に攻撃開始して、防御は日本のAI 軍団が担当しているんだそうだよ。あの短時間でこれだけの事をやらかすとあっては月の軍部が軟禁したと言うのも頷ける。しかも、報告書を見れば幼少の頃から大人顔負けの交渉術で孤児院全員の命を救うって事までやらかしてて月の民からの人望が物凄く厚い。武器開発させられてたのは事実だけど、同時にイヴァンを旗印に掲げて月の民が立ち上がれば軍事政権もあっという間に立ち行かなくなるであろうな。それ故に軟禁されていたんだよ。彼。雁字搦めに非人道的な事を強要するって足枷をつけた上でね。さて、そうなるとイヴァン博士が唯一手を出さない箇所が分かってくるんだ。何処だか分かるかい?少尉。」
「…うーん。生命維持に関する装置でしょうか?大佐。」
「流石だね。少尉。んじゃ、僕たちはイヴァン博士の名声を死守しに行こうじゃないか。今日は勉強よりも面白くなりそうだからね。」
「了解です。大佐!」
僕たちは、イヴァン博士のいる食堂まで行った。食堂に行けばギャラリーが既に大勢いたが、イヴァン博士の目論見はまんまと成功している様で、ライブを覗けば病院とか生命維持に必要なシステム以外は軒並みダウンしていて消火したくても水が出ない。瓦礫を取ろうにも人力でするしかないって状態でああ、この人味方で本当に良かったと。本当の魔王は実はこの人なんじゃないかと僕は思った。




