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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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イヴァンの過去 1

 イヴァンはただ静かに前を向いていた。タバコに火をつけて。ふうっと紫煙を吐いた。

 目は不敵に笑っていた。


「どうしたんだよ?標的なら此処だぞ?さっさと撃ったらどうなんだ?」


 そう言ってずっとその場から動こうとはしない。私はイヴァンの背中を揺するが、イヴァンは一切動かない。私は思わず


「嫌っ!イヴァン!死ぬなんてダメ!だから、そこを退いて!」

「…俺の為に泣いてくれるのか?」

「何馬鹿な事を言ってるの!当たり前な事言わせないでよ!」

「……………あのさぁ、好きになった女一人守れないで何が男だよ!心配すんな!せっかくお前って奥さんいるのに死んでたまるかって。足搔けるだけ足掻いてみるからさ。大人しくしてろよ?」


 イヴァンはアイテムバックから刀を二本取り出し、装備した。タバコを咥えたまま、にやりと笑った。恐らく、そこにいるのは近接系のロボットか遠距離系かを判断する為だった様だ。遠距離系なら既に蜂の巣になってた筈で、そうなったらウォールシールドを張る判断になったんだと思った。


「楽しませてくれよ?」


 って言った途端に両者ともぶつかりあった。警棒を持ったロボットを一刀の元に斬り捨てた。足で蹴り飛ばして浮いたロボットも上段から斬り捨てた。薙ぎ払っては斬り伏せ、突きを繰り出し2体同時に撃破した。まだまだ続く。袈裟斬りで真っ二つにし、足を引っ掛けて倒れた所をとどめ刺して無効化した。獅子奮迅と言った所だ。いつの間にか数を減らしていた。私は目の前の人が余りにも目が離せないから。


「イヴァン、頑張って!!」

「おう!任せとけって!」


 ただひたすら応援していて気づかなかった。虎視眈々と隙を窺われている事に。建物からイヴァンは狙撃を受けた。寸前で気がついたものの避けきれず、右肩に被弾し、刀を落としたのだった。



 見つけた!騒ぎの近くにイヴァン博士達はいると思ってたからロボット達の後を追っただけの簡単な仕事だったわ。だけど、イヴァン博士への狙撃は阻止するに至らなかったけどね。ワタシはイヴァン博士を狙撃したロボットを鎖で巻きつけてから引っ張り出して地面に叩き落として無力化した。

 近くまで来たら、刀で応戦している音が聞こえた。ミサトちゃんが朧月夜を手に奮戦してたわ。目に涙をいっぱい溜めて。私も当然、助太刀に入った。


「忍法!影法師!お待たせ。ミサトちゃん!動き止めたからちゃっちゃとやっちゃいなさい!」

「ありがとう!リンちゃん!はあああああああっ!!!」


 ミサトちゃんは目にも留まらぬ速さで残りのロボットをスクラップにしてたわ。そして、私の護衛対象はその奥にいた。右肩を抑えて蹲った状態で。


「リンちゃん、ヘマやらかした。」


 痛々しいのに顔はミサトちゃんを心配かけまいと苦笑いを浮かべていた。ミサトちゃんはヒールをかけようとしたのだけど、それはイヴァン博士が


「いや、ヒールは待って。右肩に違和感あるんだ。何かしら残ってると思うんだ。リンちゃん、どっか落ち着ける場所に心当たり無いか?」


 そう言われるので、ワタシはスマホを懐から出した。画面を見たが圏外だったわ。これはまだサイバーテロが終わっていない事の証左だ。ワタシはイヴァン博士にこう告げるしかなかったわ。


「本当なら病院に連れて行きたい所だけど、まだサイバーテロは終わってないわ。だから、誰も住んでない郊外の空き家に避難しましょう?機械類さえ無ければ見つかる事もないもの。」

「んじゃ、案内頼むな。ミサト、俺、大丈夫だったろ?」

「全然大丈夫じゃないじゃない…………」


 そう言って、何か紐状の物が無いか。と探そうとして自分はアイテムバッグを持ってないのに気がついた様だ。ワタシは自分のアイテムバックからハサミを取って上質であったろうスーツの右袖を遠慮なく切り落として簡単に巻き付けた。キツく縛って止血するのも忘れない。


「んじゃ、此処に長居は無用ね。行きましょう。」


 そう言ってワタシは先導して案内する事にしたわ。本当に幸運だったのは負傷した位置が利き腕じゃ無い右肩だった事だ。もし、負傷した場所が足だったらこんなにすんなり移動出来なかったでしょう。



 そしてワタシが案内したのはロンドン郊外の空き家だったわ。優に10年近く人が住んだ形跡はないの。一軒家でね。外も草ぼうぼうで蔦が家の中まで蹂躙してる有様だったけど、どう見ても機械類は無さそうだったので有り難く使わせて頂く事にしたわ。鍵がかかっていたのでちょちょいと解除してお二人を中に招き入れたわ。調度品も残ってたのは有り難かったわ。ただ、電気の類いは使えそうも無い。時間はそろそろ夕暮れ。イヴァン博士は遭難時に持たされたであろう道具を大事に持ち歩いていた様で、イヴァン博士はソファに座った。それからリュックサックからランタンを取り出してから。


「リンちゃん、弾取り出すからこれ取って。」


 そう言って右肩のやつを指示したわ。まさかとは思うんだけど。


「イヴァン博士、一体何するつもり?」

「ああ、自力で取るんだよ。こんなん。朝飯前だし。」

「えええっ!」


 慌ててミサトちゃんを見たけども、こうなると分かっていた様で首を縦に振った。仕方ないので縛って止血してた右肩部分をチョキチョキとハサミで切り、ついでにスーツとシャツもチョキチョキ背中の縫い目に合わせて切り落として脱がしてみた。


「お、流石リンちゃん。気がきくね。」

「…………」


 イヴァン博士の上半身見てビックリしたわ。ロシア人だから普通にしていても体格は細マッチョでね。普通に良いのだけれど、所々にナイフで切った様な跡だったり銃弾を受けたであろう傷もあって。銃槍の上からナイフで切ったであろう跡が凄いのなんのって。


「リンちゃん、驚いたろ?身体についてる大部分の傷跡は子供の頃に出来たやつなんだ。ミサトには聞いてもらったから知ってるんだけど、俺の両親、物心つく前に亡くしてるんだ。内戦で。」


 そう、茶化す様に話し出した。本当に何でもない事の様に。慣れた手つきでウオッカの入ったパウチをアイテムバッグから取り出し、続いてナイフとピンセットを取り出してウオッカを口に含んでから道具に、患部に吹きかけた。


「ミサトは呼気で普通に酔うから少し離れて。リンちゃん、見えやすい様に灯を患部を照らしてくれるか?」

「それなら私が。」


 そう言って、ミサトちゃんは魔法を唱えた。光の玉が患部の近くに現れて光をもたらした。そして、イヴァン博士はあろう事か。ナイフで患部を切り開いたわ。ナイフ突き刺しただけでも痛みに悶え、全身から滝の様に汗が流れた。麻酔無いんだから普通なら失神する様な痛みの筈でそれをスルスルと。躊躇する事なく切り開いていく。新たに血が流れてイヴァン博士の腕を赤く染めた。耐え難い痛みと戦いつつも目的物を見つけたみたいで。はぁはぁと荒く息を吐きながら。


「あ…あった……………悪いけど、リンちゃん…ここっ、あるから…開く様な感じで持って…………」


 指示された通りに持つ。ワタシは次に必要かと思ってピンセットをイヴァン博士に持たせた。滴り落ちる汗が美しい銀髪を濡らして。震える手でピンセットを挿し込んで苦心しながら。痛みに耐えつつそーっと。イヴァン博士を苦しめた銃弾は先端がひしゃげた状態で取り出されたわ。


「リンちゃん、もう抜いて良い。ごくろうさん。ミサト、回復宜しくな。」


 ミサトちゃんは蒼ざめていたけど、イヴァン博士の声で我に返って回復魔法をかけていたわ。だけど、散々抉り続けたその場所は完全に綺麗な状態で閉じず、新たな傷跡となって残ってしまったわ。念の為に患部にガーゼを当ててパットで固定した。いつ裂けてもおかしくは無い。まぁ何なんだろうと思ってしまったわ。イヴァン博士はそのまま頭をだらんと逸らして疲れ切った表情をして目を閉じた。その色っぽさは反則級で。これじゃあ、あの武勇伝の数々が真実として実しやかに話されるのも無理はないかとワタシは思ったわ。



 ちょっとだけ意識が飛んでいたみたいだ。あんな事してたから子供の頃の懐かしい夢を見た。物心ついた頃には既に孤児院だった。大人たちは食料巡って血を血で洗う内戦の真っ只中だった。その戦いに巻き込まれて両親は亡くなっている事を聞いたのも物心ついて事実を受け入れられる歳になってからだったか。俺が住んでた孤児院にはロシア系とアメリカ系がほぼ2分する状態で子供達がひしめき合っていたから当時はコミュニケーションもままならず、子供同士でも憎しみあっていたっけ。食料も微々たる量を2日に1食だけ食べられるだけマシだった。輸送路が絶たれれば、1週間以上食べられないなんてザラで、そんな時には決まって餓死者が出た。真っ先に死んだのは俺たちの仲間だった。それを回避する為だったら盗みだって厭わなかった。俺はロシア側でリーダーしてて、アメリカ側のリーダーはアークだったなぁ。お互い同い年で。言葉の壁は確かにあったけど、俺はアークの言わんとする事が分かっていたので、お互いの利益の為に結託して食べ物を盗んじゃお互いの陣営で折半して小さい子供達に口止めしてから分け与えていた。そんな時、ふと思ったんだ。


 これ、俺英語話せるようになった方が良くないか?


 これ思ったの確か5歳位の話だ。その頃にはアークの英語は単語なら辛うじて分かるようになっていたからアークにこう言って持ちかけた。


「アーク、英語、教えて」

「俺に喧嘩で勝ったら教えてやっても良いぜ!」


 そんな感じでリーダー同士が喧嘩を始めたものだから、子供達はやいのやいのと大騒ぎで互いの陣営で応援合戦を始め二人とも顔が原型とどめてない位殴り合って慌てて大人達に止められたんだっけか。


 懐かしいなぁって思ってると、急に痛みに襲われて意識がはっきりした。夢の世界はあっけなく終わった。

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