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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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追悼の夜。2

イヴァンの演説は中継で世界全土に放送された。本人はこの場だけだと思ってるのが想像に難しくないけれど。拍手が鳴り止まなかった。ある種、鬼気迫る位堂々と。生きる選択をしてくれて嬉しかった。


「ミサトちゃん、いい事言うわね!」


と、小声でリンちゃんがそう耳打ちして来た。


「それ程でもないよ?」

「いやいや。イヴァンの考えを根底から変えた功績は大きいわい!」


そう付け加えたのはバイソンさんだ。


「ただ、危険な事になると妙に張り切るのがちょっと困りものじゃが。」

「剣持たせても、竹刀よりも設えた刀持ってる方が強いんですよね。」

「そこよね。一度真剣でやらせたら威力が半端無いのよね。驚いたわ。でも、ミサトちゃんは真面目だけどイヴァン博士は色々やらかす人だから。稽古は些かサボる傾向でね。腕が鈍って無いと良いけど。」

「…まぁ、初心者ですしね。」


そう言って壇上から降りて国王陛下と握手して歓談するイヴァンにちらりと目を向けた。ご来賓も多数来られており、日本からも留学中の皇族の方が参列なさっていた様だ。暫く解放はされないだろうな。アークさん達は少し落ち着きを取り戻した様だ。


「ミサトちゃんも転生の儀行うのよね?」

「はい。この後。ただ、やるのは教会の外にはなるんですよね。お祈りする神自体がそもそも違うので。」

「でも、人数が桁違いなんじゃ。大丈夫なのか?」

「この規模は初めてなんですが、多分、大丈夫だと思います。」


正直言って不安しかない。そんな中。


「陛下、祭壇の準備が整いましたのでお召し替えをお願いします。しかし、あの大勢の前で王の象徴たる羽を披露するなんて前代未聞なんですが。」

「まぁ、あの人数だから羽を披露云々よりも私はイヴァンの妬き持ちを心配してるんだけどね。」

「ああ、それは言えてますね。幾ら舞を披露しないといけないとは言えあの様な服着て踊られる訳ですし。」


ルーベルトの言葉にキョトンとするお二人を前に。


「んじゃ、イヴァンに見つかる前にちゃっちゃと終わらせて来ますね。」


そう言って、みんなと別れて私は着替えた。お世話になった方々を王自ら見送るのはエルフ族のしきたりだ。今回はイヴァンの為に感謝を込めて舞うのだ。両腕と両足には鈴のついたブレスレットとアンクレットを付けた。服を見たら水着で踊る様なものだ。白色のビキニって感じだ。その上に薄布を纏うだけの実に簡単な代物だ。正直言って恥ずかしいので代われるものなら代わって欲しい位だが。まぁ、それでイヴァンが友達と最期の別れが出来るのならばそれだけで私は満足だ。自己満足かもしれないが、それでも良かった。私は祭壇があるステージへと上がった。観衆から息を飲む声が聞こえて来た。朧月夜を装備していた。祭壇の前に立ち、私は羽化をして。転生の儀の開催を宣言した。


「我、エルフの王たるミサト・アカツキ・セレネティア。我が夫イヴァンのお世話になった方々への感謝の意を示す為、エルフ族の古来の仕来りに則り、転生の儀を執り行なう!」


私は丁寧に一礼して呪詛を詠唱し始めた。祭壇には1万以上の御遺体が納められたマジックバックが祀られており、死亡者名簿のコピーもそこに納められていた。私の求めに応じて精霊王を始めとした精霊達が顕現し始めた。死亡者名簿から文字が浮かび上がって空に文字が消えて行った。刀を抜き、マジックバックの封を朧月夜で切っ先を引っ掛けて開けてから私は祈りを込めて舞を舞い始めた。一人ずつ、一人ずつ。英霊達は飛び出して来ていた。私はそれが最後の一人になるまで舞を止める事はない。何か騒がしい気はしたが、そんな事は気にすらしていなかった。



「ミサトちゃん、綺麗…………」

「…………」


リンちゃんのつぶやきだ。観衆は誰もがこの世に顕現した等身大の美しい妖精に魅了されていた。まるで、ファンタジーかと言う光景が我が母国イギリスで見られるとは誰が想像したであろうか。それは隣にいるこの男も同様だった様で、


「ミサト!?」


そう言ってステージに駆け寄ろうとしたけど流石に辞めて戴いたよ。僕は、イヴァン博士をとっ捕まえて。一言。


「無粋だよ。」

「殿下!?ですけど…………」

「イヴァン博士。気持ちはすごく良く分かるけどね。あれは、イヴァン博士がお世話なった方々へのエルフ族としての最大の敬意を表する「エルフ族古来からの仕来り」なんだ。陛下のお気持ちを無碍にするのかな?」

「いや、ええと。そういう訳では無いんですが…………」


まぁ、気持ちは分かるよ。自分の奥さんが裸に近い状態で剣舞を披露していたらね。剣舞は力強さよりも凄く優雅で艶やかだ。本当に綺麗だ。沢山の民衆が見惚れているからだ。でも我慢がならないのか。抵抗するイヴァン博士を抑えつけた。が、突如、抵抗を辞めた。後ろから歩いてたアーク達がぶつかって来た。


「どうしたんですか?殿下、急に止まって。あれ、あれは…………」


ふわっとした。まるでウィル・オ・ウィプスの様な光の玉の様なものがイヴァン博士とアーク達にお別れを言いに来たのだ。僕には分からなかったが、イヴァン博士達にはそれが誰かが分かる様だ。それ以外の英霊達は普通に空へと登っていく。エルフの女王陛下は尚も祈りを辞めない。呪詛を口にしながら。文字を空へと浮かばせながら。白紙になった紙は即座に燃やされた。民衆もイヴァン博士達の所に寄り道する英霊達に気がついた様で、道を開けてくれた。イヴァン博士はロシア語でぶつぶつ一人一人に語ってた。顔を見て驚いた。その顔は凄く晴れやかだったからだ。俺はもう迷わないから安心して見守ってくれって言ってる気がした。女王陛下の舞は人数が人数だったから2時間以上かかってたが、誰一人として家に帰らず。最後の一人になるまで続けられた。舞が終わると刀を納めてから。


「以上を持って転生の儀を終了する。数多の英霊達にしあわせな未来が訪れますように…………」


そう言ってすぅって眠りにつく様に羽は消えて、女王陛下はお倒れになられた。イヴァン博士は真っ先に駆け寄ってそれを抱きとめて。上着を脱いで陛下を包んでから。大事な宝物を包み込む様に抱きしめて。


「俺たちの為に友達たちとお別れする機会をくれてありがとな。ミサト。」


そう呟いた。イヴァン博士の顔は慈しみに溢れていたから後はそっとしておく事にした。



先程まで美しい舞を踊っていた腕の中の美しい人を抱えて俺は街中を走った。知らない場所なんで通りすがりの方にホテルの場所を聞いて、事情を話して宿泊の手続きを取った。一応、偽名書いて出したら。


「世界的に有名過ぎるので、今度からちゃんと本名でお願いしますね。」


って、言われてしまったよ。何でだ。

まぁ、既に顔でバレてるとあって案内された部屋もスイートルームだったのは言うまでもなかった。もうね、誰の目にも触れさせたくない一心だよ。俺が原稿でウンウン言ってた別の場所であんな素敵な事準備してくれていたなんて。ただ、格好だけはどうにかならんかったんかと。全く。いい歳したおっさんがこんなに動揺して。狼狽して。感情がぐちゃぐちゃだ。沢山慈しみたい気持ちと同時にこいつ一体どうしてくれよう。と野望がむくむく顔を出した。ブレーキなんてもう、壊れたよ。只ならぬ気配で流石にミサトも目を覚ましたが。


「ごめん、ミサト。お礼を言うのが先なのは重々承知してるんだが。お前のせいで抑えられないんだよ!責任とれ!」

「えええっ!?」


まぁ、結局の所、欲望の方が勝ると言うね。ミサトが着てた服。俺の一存で二度と着れない様に加工させていただく事にした。


翌朝になって困った事態になった。ミサトが自分のアイテムバックをルーベルトに預けていたから服がないって事になった。俺自体は別段困る事はない。ホテルでもう一晩位束縛しても罰は当たらないと思ったし。でも、ミサトが。


「お礼って言うなら私と1日ロンドンでデートして過ごしたいなぁ。こうやって、散々抱かれて来たけど街中で過ごした事は無かったと思うから。」

「そう言われればそうだな。んじゃ、俺から服プレゼントするから、今日はそれ着て出かけるか。」

「うん!」


そう、請け負って。部屋に付いてたカタログで俺はミサトと今日着る服を選んで。フロントに電話して速攻で手配してもらって。それまではミサト弄りが捗った。ミサトが嬌声をあげるのを聞いてると、俺、こんなに幸せで良いんだろうかと若干思いはしたけれど、こんな些細な時間でさえも愛おしく感じる俺自身にびっくりして。生きることってこういう事なんかな?って思いつつ何気ない夫婦の時間は過ぎていった。

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