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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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生きて欲しいと願う事。

 翌朝、私が入院している病院にバイソンさんとリンちゃんにが訪ねて来た。何でも、昨日イヴァンが大荒れだったそうな。何でも、


「月の軍事政権に反発した反政府組織が壊滅して地球との戦いの最前線に投入されたの。」


 って報告をリンちゃんから聞いたイヴァンは顔面蒼白になって壁に何度も頭突き繰り返して額を割って何針か縫ったそうな。


「何でもね、イヴァン博士の学友やら友達が多数参加してたんだって。イヴァン博士が強制的に武器作らされている事に反発したのが理由らしいわ。イヴァン博士。基本やんちゃなガキ大将だったから交友関係広くてね。みんなに慕われているんだって月からも報告が上がってるぐらいでね。はっきり言ってまずかったわ。自殺願望がある人に聞かせる話じゃなかったわ。」

「……………で、イヴァンは今何をしてるんですか?」

「流石に落ち着いて貰わないと困るから麻酔打って眠って頂いてる。余程、ショックだったんでしょうね。地球政府もこれには激怒してて、生命反応ある場合は回収する様指示を出したわ。でも、最前線に命令が到達するには時間がかかるから、それまでに亡くなる方は少なからず出てしまうでしょうね。」

「…………」


 あんまりだと私も思った。昨日、イヴァンは


「友達って良いもんだぞ?」


 なんて言ってた矢先にこれか。余りにイヴァンが可哀想すぎた。今、どんな気持ちでいるんだろうか。


「イヴァンに付いていて良いですか?」

「勿論よ。急がないといけないから私たちもこれからここを出発する用意をしないといけないの。バイソンさんも空飛ぶ帆船発見したけど、大破しちゃっててね。使えないからオーストラリア空軍から飛行機借りないといけなくてね。」

「ワシも整備の手伝いじゃな。人命がかかってるとなると急がないとな。」

「そんな訳で、必然的にイヴァン博士はミサトちゃんにお願いしたいの。」

「分かりました。イヴァンの事は任せて下さい。ちなみに、今度は何処に行くんですか?」

「今度はイギリスよ。本当ならイギリスで拾ってから此処に来るはずだったんだけど、イヴァン博士の療養を優先せざるを得ないから、オーストラリアが先になったの。」

「イギリス?遠回りですよね?一体、誰を拾うのですか?」

「イヴァン博士が再現したスペースシャトルの2人目のパイロットよ。びっくりするわよ。何でも王族らしいから。」

「な、何、だと…………」


 イヴァンの旅に続々と人が集まって来ていた。刻一刻とイヴァンが月に帰る日が近づいているのだとそう思った。



 死んだ様に眠ってたイヴァンが目を覚ましたのは丁度、昼を回った頃だろうか。昨日の顛末を聞いたルーベルトも一緒だ。思いっきりガバッと起きたのだが、直後に激しい頭痛で頭を抱えた。


「!?痛っ!」

「大丈夫?イヴァン?」

「……………ああ、大丈夫だ。済まない。どうにもならない事で短慮を起こした。」

「ううん、辛いよね。イヴァン。」

「……………そうだな。やっぱ辛い。みんな良い奴ばかりだからなぁ。」


 凄く泣きそうな声で話した。だけど。


「流石に寝てる場合じゃ無いな。ルーベルト、出発の準備どうなってるんだ?」

「イヴァン博士。今、オーストラリアじゃガソリンという燃料が枯渇してるんです。なので、基本空を飛べる飛行機自体がありません。リンちゃんも交渉してはくれていますが、日本に行くための燃料はあっても流石にロンドンは…………」

「流石に出せないか。なら、俺の出番だな!」

「えっ、どうするんですか?」

「勿論、燃料なしでも飛べる様に改造するに決まってるだろ?まぁ、燃料担当が目の前にいるから出せるプランだけど。」


 そう言って私を指差しやがった!


「ええっ!また私?」

「要はロンドンまで片道行ければ良いんだろう?ジャンク品見ないと何ともならないけど多分、少しは楽になると思うんだ。」


 そう言ってイヴァンはルーベルトさんを見つめた。嫌な予感がしたのだろう。急に慌て出すルーベルトさん。


「質問なんですが、前回移動した空飛ぶ帆船はどんな感じで動かしたんですか?」

「ええと、即興で作った蒸気エンジンでね、タンクに水と氷を入れて、火で温めた蒸気で動かしてたの。ボイラーに木で容量を多くした薪をくべながら魔族領まで行きましたけど?」

「……………ええと、イヴァン博士?ちょっと聞いてほしい事があるんですけど、良いですか?」

「?なんだ?」

「ええとですね、妖精魔法で天変地異起こす人と一般の妖精魔法使いと一緒にしないで頂きたいんですけど。陛下は魔法の契約は必要としないのですが、僕たちは状況に応じて妖精と再契約する必要があるので、事前にどの魔法を使うか知らないと非常に困るんですが…………」

「……………つまりはこうか?空飛ぶ帆船が飛べたのはミサトだったから飛べたと…………」

「そういう事です!」

「となると、ガラクタ見て考えないといけないな。俺、退院するから。今は時間が惜しい。」


 そう言って、さっさと退院した。ルーベルトさんの運転でジャンク屋に行き見つけたのは何と、大量の電気自動車の廃車とソーラーパネルの数々。何か閃いた様で。


「これとこれ全部頂戴!」


 と、決して安くはないお金をポン!と支払い、部品を空軍基地に運んでもらう様に手配した。空軍基地に着けば既にガラクタは届いていて、またかって顔をしたリンちゃんと、新しい物を作ると分かったバイソンさんは自分の工房をアイテムバックから取り出して部品を溶かす気満々だ。


「いつ見ても思うけど、心から機械いじりが好きなんでしょうね。凄く生き生きしてるわね。」

「そうですね。」


 私はそう答えたが、イヴァンが今、一体どんな気持ちでいるのか。極力無心でいる様にはしてるみたいだが本当は一刻も早く助けに行きたいんだろうなと思った。



 とりあえず、材料は確保した。俺は今は使われる事がなくなった飛行機を探してた。魔物がエンジンに突っ込む事案が多発したのと、ガソリンという燃料が天変地異後取れなくなった事から姿を消した飛行機。だが、格納庫には色んな飛行機が眠っていた。人数もあるんで一人乗りとか二人乗りの系列は無理。輸送機も電池を積む関係でダメとなると、使えるのは小型ジャンボ旅客機って事になる。物色は続く。焦りは禁物だが、時間が惜しい。ふと、何個か格納庫を回った後に目的の物はあった。


「これだ!」


 そう、俺が見つけたのはジャンボジェット機エアバス。機体名称はAIRBUS A 350-900 天変地異前に飛んでたと言われていた当時の機種だ。これなら、何とかなるかもしれない!



 リンちゃんの交渉の結果、イヴァンが気に入ったエアバスは無償で提供を受ける事になった。設計図も手に入れてくれたのが良かったのかイヴァンはホクホク顔だ。オーストラリア空軍は復活したばかりだが、1台でも飛行機を再生しないといけないからエンジニアの方は結構多かった。まず、イヴァンは廃車となった電気自動車のエンジンを躊躇なく分解した。それで、そこからとり出だしたる「バッテリー」を出して見せて、


「すいませんが、このバッテリーを全部取り出して頂けないでしょうか?中古とか廃車についているので全然構わないので。」


 そう言ってお願いしてた。イヴァンが確保したジャンク品でも足りないんだそうだ。各部品を1個1個形状を測ってジェットエンジンの大きさに拡大する設計図に書き起こした。丁寧に取り外した部品は全部溶かされ、型を取る前に作った石膏に流されて新しい部品へと次々生まれ変わっていった。エンジンを組み立ててから飛行機のエンジンを取り外したり荷物を置くスペースはみんなバッテリーのスペースになった。ただ、既にあるものを使ったので意外にも早めに出来たそうだ。やはりここでも寝食を忘れて働く事4日。エンジンの試運転を終わらせ、何とか動くのを確認したが。


「ソーラーパネルがなぁ。多分、着陸時に振動で壊れる事確定なんで片道限定って言うのがなぁ。」


 との事だったのでその辺は衝撃緩和的な効果の魔法をかけた。バッテリーを充電しないといけないので出発は翌日になった。

 その晩はアーニャさんの家でささやかなお別れ会が開かれて私達は名残を惜しんだ。本当に色々お世話になりっぱなしだった。エルフ族の方々にも大変お世話になった。すごい宴会になりはしたが。イヴァンも表面上は楽しそうに笑っていた。でも、目が全然笑ってない事に気がついて胸が痛んだ。今もこの空の上でイヴァンの友達の命が次々と失われているのだ。最早、悠長に構えている場合では無くなったのだ。


 アーニャさんの家から引き揚げた私達は、借りていたアパートに戻って来た。此処で過ごすのも今日が最後だ。私が入った後にイヴァンが入って鍵を閉めた。その途端、後ろから抱きしめられた。暗がりの中。


「俺のせいで、今、多くの友人の血が流れてるんだ。俺はどうやってそいつらに謝れば良い?」


 正直、ホッとした。ちゃんと約束を守ってくれている事に。今までのイヴァンなら私に黙って苦しんでいただろうから。とは言え、私も生まれて僅か15年の人間だ。正直、ちゃんとした答えが返せるのか分からなかったけれど。


「それはね、イヴァン。罪を背負ったとしても二人で生きて愛しあって幸せになる事で犠牲になった方々に報いれば良いんじゃないかなぁって思うよ?」


 暗がりの中でも私はイヴァンの目を見て話したかったから、イヴァンの方を向き直してそう話した。


「だって、イヴァンの友達はイヴァンの事を助けたくて命を賭けたんだよね?だったら、もし、私が同じ立場なら生きて欲しいと願うもの。私だって、イヴァンと生きたい。」


 イヴァンは私を宝物を見つけた様な目で見つめている。こういう時エルフは役得だ。夜目ではっきり顔が分かるから。少し泣きそうだった。ポツリと。


「生きる…………」

「そう、生きるの。精一杯生きるの。決して良い事ばかりがある訳ではないけど、それでも私はあなたと二人で色んなものを背負って生きたいとエルフの神に願うわ。だからお願いです。抱いて下さい。」

「!?」


 そこからは本当にあっという間だった。ベットに連れて行かれたらまるで感情をぶつけるかの様に抱かれた。私はロシア語を習って良かったなって思った。文法はさっぱりで単語しか覚えられていないけれど、イヴァンが呟くロシア語が愛に溢れていた事がこの時点でで分かったから。今までだって抱かれる時に呟かれるのは多分ロシア語だったんじゃないかと思った。だけど、意味が分かるのと分からないのとでは随分差があるなと思った。ただただ愛おしさが増すばかりで、朝まで解放される事は無かった。



 翌朝、関係者の方々に挨拶をした後、シドニーから無事ロンドンへと発った。

 僕はメインパイロットで操縦していて、サブパイロットの席にはイヴァン博士が座っているが。離陸直後から


「済まんが、もう限界。」


 そう言った後、眠ってしまったのだ。凄い寝付きの良さに僕は驚いたが。


「まぁ、仕方がないんじゃないか?これを改造するのに4日寝ていない上に昨晩はミサトちゃんを離さなかったって言うからなぁ。」


 そう話すのはバイソンさんだ。フライト時間は飛行機だけあって24時間の予定だ。これを僕たちは3交代で回す予定。イヴァン博士は流石に居眠り運転がとても怖いので3番目にさせてもらった。僕だって命は惜しいからね。まぁ、相当必死だったのは分かる。空の上でイヴァン博士の友達の命が次々奪われている現実を突きつけられたとあっては。


「陛下から何か様子を伺ってますか?」

「ああ、それじゃったらのう。…………」


 僕は話をただひたすらに聞いた。ただ、思ったのは。イヴァン博士が自分から陛下を手放した時が一番危ないだろうなぁと感じた。月への旅はイヴァン博士にとっては民の為に自ら十字架を背負って処刑場まで歩くイエス・キリストの様なものだ。イヴァン博士はこれからも血の涙を流しながら歩みを止めないのかと思うと、楽しい空の旅も随分と気が重かった。

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