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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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良心の呵責

 翌朝、私達はオーストラリア政府が派遣した救助隊によって無事、保護された。

 イヴァンに言わせると、魔法も規格外だったが、方向音痴も規格外なんだそうだ。失礼な。

 余りにも悔しいが、事実だけに反論できない。

 私もイヴァンも念の為に入院と相成った。ただ、イヴァンの事を気にしてか。私にこんな事を聞いて来た。


「イヴァン博士が様子がおかしかった事って過去にもありませんでしたか?」


 まぁ、同族だし話しても大丈夫そうなので


「そうだなぁ、心当たりがあるのならパルスレーザー砲破壊した件かなぁ。色々作業をしている時はそうでもなかったんですけど、反射鏡が無事はじき返した事を見届けた直後、様子がおかしかった事があります。イヴァンには分かってたんですね。自分のやった事で多くの人が亡くなると。」

「ふむ、となると、キーワードは『良心の呵責』って事になりますね。きっとね、僕は精神科医でも何でもないからあくまで推測に過ぎませんが、きっといつも笑顔見せてるけどあくまで作ってるだけでしょうね。何らかの事情で本心を隠さないと生きられなかったんじゃないかな?他の方の報告書でも普段は大きくなったガキ大将って印象しか持たれてない様ですし。」

「…………」


 私は考え込んだ。今後、もしイヴァンが自殺を試みる様な状態になるとしたらそれは多分、月だ。ルーベルトも私の変化を機微に察知したんだろうか。


「ひょっとして、自殺を試みようとするタイミングが分かったんですか?」

「ええ。月だったらやりかねないかと。パルスレーザー砲破壊のニュースで多数犠牲者が出たのを知ってますから。」

「……………そうなんですね。僕、決めました。」


 何だろうと思った。


「僕、あなたの騎士に立候補します。ただ、勘違いしないで欲しいのは陛下に恋心を抱いた訳じゃなくて。何かあった時にすぐ側で相談できる人が陛下には必要だと思ったもので…………」

「それなら普通に親友で良いんじゃないかな?」

「ああ、だったらそっちにします。」


 あっさり騎士は取り下げてもらえた。下手すれば誤解されるよ。これは。そうでなくてもイヴァンの独占欲は半端ないから。そう思ってると、ノックがした。


「どうぞ〜」


 スライドドアが開いて、イヴァンとアーニャさんが入って来た。病院に到着した時に連絡してないのに何でアーニャさんがいるのかな?って思った。だって、アーニャさんお婆ちゃんだったからね。それでピンと来た。さっき確かめたらアーニャさんの息子さんがルーベルトさんって事らしい。ちゃっかり私物のスマホから連絡入れていたそうだ。はたと思い出した。そう言えば、私が協力をお願いしたんだけど2人の人が挙手してたんだけど、そうか。そう言う事かと納得しちゃったよ。ハイエルフとロシア人のハーフさんだとは。年齢聞いてもこちらはすんなり出来たから48歳なんだって。お父さんと祖父が友達らしくてお父さんは祖父の側近してるからたまにしかお戻りにならないそうな。


「随分と楽しそうだな。」


 と、気持ちちょっとだけ不機嫌そう。軽いヤキモチ妬いてる様で少しクスッと笑ってしまった。


「そうだね、友達100人出来るかどうか挑戦中だからね!」

「そうか。友達って良いもんだぞ?沢山出来ると良いなぁ。」


 そう言って、二人して笑う。お邪魔だと悟ったアーニャさんがルーベルトさん連れて帰っていった。私達は二人で見送った。


「俺は明日には一応、帰れるが。ミサトはどうなんだ?」

「私は3日後かな?今日早速治療して繋がったから怪我の方は大丈夫だけど、熱が引かないと帰れないみたい。低体温症も発症してるからって。」

「そうか。んじゃその間、俺がミサトの看病するかな?」

「看病とか言って別の事したかったりして?」

「おい。馬鹿。流石に自重するだろう!」

「いや、分かんないよ?イヴァン。ご自分の欲望に悉く忠実に出来てるし。」

「ちょ!お前も最近はノリノリだろうが!」


 一瞬の沈黙の内、二人して吹き出した。だけど、イヴァンのこの笑顔の中に実は自殺願望が入ってる事が分かったのはつい昨日の話だ。そう言えば、シャトルの中に青酸カリなんて詰んでいたから自分の口を封じる為なのかな?なんて漠然と思っていたけども、ひょっとして、パルスレーザー砲開発開始直後からしょっ中自殺を試みていたんじゃないかと言う気がしてならない。イヴァンが


「またなっ!」


 って元気良く帰って行ったのを見送った後に、私はリンちゃんに相談するべくスマホを手にして連絡を取り始めた。



 俺は夜中に屋上に上がってタバコを吸ってる。勿論シドニーは今は真冬なんで長いロングコートが手放せない程度には寒い。空から雪が降り積もってる。メンソール入りのタバコを噛みながら吸う。噛むと味が濃くなるから好きだな。月では電子タバコ以外禁止だったから、噛んでもあんまり変わらない。


 上から月を眺めてる。月の周りがたまにキラキラ光ってる。現在絶賛戦争中なのに、一体、俺は何してるんだ。思わず自嘲の笑みが零れた。多分、大量にスペースデブリを撒き散らしながら機械同士の戦争は続いているんだろうな。


「立ち止まっている場合じゃあねぇのに、この体たらくは何なんだろう。」


 そう言って自分で自分をなじる。まぁ、ネガティブな発想自体は今からではない。大量殺戮兵器を作れと言われて監禁された頃からか。死なれたくなかったからか。随分と邪魔されたさ。辛うじて死守した青酸カリも取られる寸前で


「じゃあ、俺が反政府組織に囚われて秘密を言えって言われた時に自らの口を封じる手段無くなっても良いのか?」


 って言ったから許可が下りた様なものだった。それ以外は悉く取られたな。自殺に繫がる様なものは全部。

 実際に何回かやってみたけどどれも死ぬより大変な思いして生還させられたよなぁ。首を吊ったら紐類は禁止になり、ウォッカで大量の薬を服用すりゃ、胃洗浄って地獄が待っててさ。逃走すりゃ監視員が増え、開発なんてするかぁって啖呵切ったら親友とその家族が人質になった。結局開発なんてしちまって。今や俺は晴れて殺人者だ。無辜の民を無尽蔵に奪った罪は到底購えるものではない。

 そして、またタバコに火をつける。タバコの煙と共に出てくるのは溜息だ。


「俺は一体、後幾つの罪を重ね続ければ良いんだろうなぁ…………」


 口をついて出てくるのはロシア語だ。罪はそう簡単に消しゴムで消せる訳ではない。罪は何があっても一生消えないのだ。いつか、贖罪出来る日は来るのか。それとも来ないのか。


「俺が勝手に死ねば、ミサトが怒りそうなんだよなぁ。でも、俺の手は既に血塗れなんだ。ミサトを幸せにしてやれてるんだろうか…………」


 タバコを吸いながら両手を広げた。ちゃんと手は洗ってあるから普通に綺麗なんだが、俺には洗っても洗っても手が血で赤黒く染まっている様にしか見えない。あーあ。なんで俺生き続けているんだろうな。グジグジと。どうしようもない事なのに。責められるだけ責め続ける。


「俺こんなに意気地なしになった覚えねぇんだけどなぁ。」


 タバコ最後まで吸い切って、新しいタバコに改めて火を点けてただ一人でぼやく。


「月は今、どうなってるんだろうな。みんな、無事なんだろうか。」


 月には学友や友達が多い。軍属の者もいるが、俺の境遇を知って反政府組織に加担している友達も実は多い。あいつら、元気なんだろうか。俺の出奔は知ってると思うが、殺されてなんかいないだろうな。


「ああ、本当にもどかしい!立ち止まっている場合じゃあ無いのに何で失語症とかになっちゃってるのさ!ああ、自分で自分に腹が立ってくる!」


 そう言って、頭をガシガシ掻き毟る。くせっ毛の銀髪が少し抜けた気がしたが、そんなのは瑣末な事だ。

 そんな中。ちょっと気配を感じた。誰だろう?音を立てない様にドア付近に張り付いてみた。ドアからは死角だ。ひょいって上に上がって様子を見た。そして、ドアが開かれた。


「おい!さっき、この辺でイヴァンの声が聞こえたんじゃが…………」

「ふふん、大丈夫よ。バイソンさん。いい加減降りてらっしゃい!イヴァン博士!」


 そう言って投げられたのは苦無だ。全く、リンちゃんも人が悪い。わざわざ大きな音が鳴る様にタンクに当てて俺には当たらない様に配慮してるんだからさ。俺、思わず伏せたけど、当たった方が良くないか?入院期間伸びるし。って一瞬考えたがロクでもない考えしか浮かびそうになくて辞めた。


「イヴァン博士、バイソンさんは騙せてもワタシは騙せないわよ!そんな危ない場所に立ってないでサッサと降りてらっしゃい!」

「チッ、ばれたか。」

「おいおい、ばれたかじゃないだろう!みんな心配して病院中探し回ってるのに一体何をしてるんじゃ、イヴァン!」

「? タバコ吸ってましたが何か?ほら、病院って禁煙だしさ。」

「それで2時間も外にいる馬鹿がどこにいるの!」

「? 間違いなくここにいるぞ?」

「…………」


 なんか、やけに怖い気がするが。気のせいじゃないな。多分……………


「アンタさ!ご自分の立場がどんだけ重要なのか分かってないんじゃない?このリンちゃんが親切丁寧に分かりやすく一から説明してあげるから!ご自分が如何に軽率な事をしてるか分かるまで解放しませんからね!」

「いや、それはさぁ。これでどうかご内密に…………」


 そう言ってリンちゃんにさっき投げられた苦無を差し出してみたが。


「そんなんで懐柔しようったってそうはいかないわよ!ってかそもそもそれワタシのだし。全く!」

「イヴァンよ。ワシも心配したんじゃ。なんじゃ。凄い冷え切ってるじゃないか。やっと本調子が出てきたんかもしれんが、無理はいかん。ワシも庇いようが無いからなぁ。大人しくリンちゃんに絞られろ!」

「そんなぁ!」


 結局、体が冷え切ってたから暖かい手術室横の応接室に連れて行かれて朝まで説教を受けたさ。何でこうなるんだよ!って思ったけど、リンちゃんの状況説明が殊の外深刻だったから俺はリンちゃんとバイソンさんに謝罪して許しを得た上で情報を整理する事にした。

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