寒い夜だから明日を待ちわびて。
明かりを灯しながら、見つけたのは滝の裏にある洞窟ぽい場所だった。滝が凍っていたからこそ分かった場所だ。内部は外気が入らない分、少し暖かく感じた。暖が取れるかどうか。素人判断ではわからない。冬山登山なんて経験すらない。月にクレーターはあっても雪は流石に無いからな。ただ、今の状態で確実に言えるのは今のままだとミサトがこの世からいなくなるって事だろう。このまま逝ってしまおうか。そう考えて首をブンブン横に振って気合を入れ直した。
兎に角、持たされたアイテムを確認した。初心者でも大丈夫な様にしてくれた様だ。まず、ドームシェルターというのが入っていて自立式だったんで、それを広げてから上にカバーらしきものをかけた。少し水がちょろちょろ流れているから上から滴る水はいけるが問題は下だ。何か無いかと探すが、下に敷く代物は…ああ、これだなぁと思ってガシャガシャうるさい毛布サイズのアルミホイルみたいなのを取り出して下に敷き、改めてシェルターを置きなおした。染み込んだら困るので内部にもガシャガシャうるさいのを敷いた。んで、エアマットを膨らませて中に入れて敷いてから大きめのブランケットを出した。ミサトを中に入れて寝かせてから上に大きめのブランケットを敷いた。テントの中に俺も入ってファスナーを閉めた。俺はミサトの荷物から自分のアイテムバックを取り出した。例のウォッカを取り出すためだ。ミサトを揺するが返事はない。禁酒を言われていたが、今は非常事態だ。弱々しいが脈はある様だ。多分、低体温に陥っているんだろうな。俺はウォッカを口に含んでミサトに飲ませた。俺も一口だけ口にした。
俺は一生懸命口を動かした。どうか、俺の元からミサトを取り上げないでくださいと。そう願いをこめた。
すると、トロンとした顔をして俺を見つめた。
「…イヴァン?」
「ミサト!しっかりしてくれミサト!」
「イヴァン、声…出てるよ?」
「……………ぇ?」
どうも、俺は必死過ぎて声が出てる様だった。思わず抱きしめ、キスをした。随分と久し振りな気がした。
俺は少しでも良いからミサトを温めたくて抱きしめたが、人間ってここまで冷たくなるのかと言う位体温が感じられない。まるで氷と寝ている様だ。
「お前、トイレ以外、絶対ここ動くなよ?お前が居なくなったと知った途端、生きた心地がしなかった。これ、付けてなかったら多分、お前失くすところだった。」
そう言って俺は自分の左手をミサトに見せた。
「誓約の腕輪。」
「そう。」
「じゃあ、何故前回使わなかったの?今回使えたと言う事は例の女からも逃げられたって事だよね?」
「それな?脅されてたんだ。逃げたら呪いを使ってお前を殺させるって。勿論、他の連中も。俺は随分とお前を傷つけていたんだな。すまなかった。」
「ううん。こっちこそごめんなさい。色んなものを人質に取られて従うしか無かったのにそんなあなたを責めてしまったわ。だから、もう。この話は終わりね。」
「……………そうだな。」
ミサトは弱々しく微笑んだ。
「寒くないか?」
「……………少し寒い。」
「ちょっと待ってて。合流する時に渡されたバッグの中にスープ類無いか見てみるから。」
俺はミサトを置いて一旦外に出た。リュックサックの中身を探した。中に携帯用のガスコンロがあったので、適当に組み立てたらどうにか使えるみたいだ。ケトルもなかなか面白い。折り畳まれていたから使う時広げるだけでいける様だ。お湯を足して混ぜるだけのお手軽スープも入っていた。水筒を見れば水が入っていたので、それを使えば良いらしい。山の上だから沸点低いみたいでしばらくするとグラグラとお湯が沸いた。お手軽スープの中にお湯を入れて混ぜてからミサトの元に持って行った。ファスナーを開けて中に入ってからファスナーを再び閉めた。
「出来たぞ。起きれるか?」
「はい……………痛っ!」
「それ、完全にやらかしただろ?大丈夫か?」
「うん、大丈夫。」
二人して熱い内にスープを飲んで一息ついた。俺は空になった容器をミサトから受け取り、キッチンペーパーで拭き取った。中にはエタノールスプレーも入ってて、それで拭けば水で洗わなくても大丈夫な様だ。久々にライターでタバコに火をつけて軽く一服した。ポイ捨てはダメなので携帯灰皿も持参してきた。時計を見ると、夜の10時で外は吹雪いている様だ。最初に出会った頃を思い出して思わず赤面した。ああ、そう言えばあんな事もあったなぁ。こんな事もあったなぁと思い出すのが楽しい。今はネガティブな発想は辞めないとな。考えを切り替えてタバコを消して再び中に入り直した。
テントの中は中の空気が篭ってるお陰で少し暖かく感じた。但し、服を脱ぐのだけは自重だ。流石に空気は読もうと思ってたが、良く考えるとそう言えばミサトにも酒飲ませてたからいつもより色っぽかったんだよなぁと。そう言えばあれ以来ご無沙汰だったよなぁとか思ったが、首をぶんぶん横に振って今日の俺は紳士!と、できそうにない事を自分自身に課す。今日、欲望抑えれるんかね。まぁ、ミサトも怪我しているからそれどころではないんだが。そう言えばと気になった。
「そう言えば、骨2本とも折ってるみたいだが、ヒールしなくても良いのか?」
「これね。1本だとヒールでもいけるんだけど、2本ともなると、一度手術して固定してからじゃないと綺麗にくっつかないのよ。」
「へえ。悪いな。こういう時俺も魔法使えたら良かったんだが…………」
「いや、気にしないで。そもそも私も迷っちゃったし。」
「そう言えば、方向音痴なの失念してたんだ。俺。どんな感じなんだ?」
「うーんとね、右と左は分かるんだけど、東西南北って言われたら分からないって感じかな?」
「そう言う感じなんだなぁ。救援来るまで寝られないし。どうしたものかな。」
「私は寝るよ?」
「ええええっミサトは流石にまずいんじゃ。まだ身体冷たいし。」
「イヴァンが暖かいから大丈夫。」
そう言って、ミサトは目を閉じた。このクソ寒い中、ミサトを抱きしめて少しでも暖める為に苦心した。顔色は決して良くはない。早く明日にならないかなぁと心から待ちわびながら眠りについた。
翌朝、無事晴れた様だ。幸いにも青空が広がって晴れ渡っている。しかしながら山の天気は変わりやすいので安心は出来なかった。お陰様で、ミサトも少し持ち直した様だ。
とりあえず、リンちゃんの指示通りGPS は付けたが、圏外になっていた。頭を抱えた。これはどうしよう。幸いなのはこっそり自分のアイテムバックを回収したから、携帯食と水の類いや余分に作ってそのまま突っ込んでおいたピロシキの在庫があった点だ。俺、料理作れて良かったと正直思った。今朝はピロシキとスープを作るとして。ミサト骨折れてるからトイレどうしようとか色々考えてたら。
「イヴァン、助けて〜」
と、ちょっと情けない感満載のミサトの声がして本当にトイレを探す羽目になった。流石に滞在中のキャンプ内は。まっ、察してくれって感じだ。ミサトをおぶさって戻ってると何か人気がある事に気がついた。幸いなのは、単独とわかった点だ。俺は一旦、アイテムバックから拳銃を取り出した。戦えないミサトは魔法で援護をお願いした。二人して頷いた。俺は気配を殺しつつ、様子を探る。そして、
「動くな!!!」
と言って拳銃を突きつけた。軍服着たエルフなんて初めて見た。白い髪で、従来のエルフにしては抜ける様に白いエルフだ。ひょっとしてあれか。アルビノさんかと俺は思った。男は意外な事を口にした。
「へえ。僕にケンカを売るとは良い度胸じゃないかな?流石に軍服着て来たから警戒しないかと思いましたが。逆効果でしたか。」
「…何者だ?貴様。」
「…申し遅れました。僕はオーストラリア空軍所属のルーベルト・ハインリッヒ少尉です。今回、世界政府からの要請を受け、妖精の加護を頼りに参上した次第です。」
「…お前、変わり種って言われないか?」
「それ、良く言われます。エルフで軍属なの後にも先にも僕だけですしね。」
「…とりあえず、敵じゃないのは分かった。ミサト連れてくるから待っててくれ。」
色素の無い水色の瞳が承諾の意を伝えた。ミサトをおぶさって中に入り、朝ご飯に招待する事にした。
3人でピロシキとスープを美味しく頂いた。その前に、護衛いるから流石にGPS は切らせて頂いた。
「へえ、イヴァン博士凄く料理美味しいですね。これ、ロシア料理ですよね?」
「ああ。俺の両親の母国なんだ。」
「そうなんですね。イヴァン博士のご家族はさぞかし優秀だったんですね。」
「まぁ、それ程でもねぇけどな。」
「今回は僕が陛下との旅に希望したんですよ。実は、先日スペースシャトルのパイロットの募集がありまして、僕がパイロットに選ばれたんですよ!だから、現在、療養の為に滞在中で、しかも遭難されたと聞きましたので強制参加と言いますか。」
「ですけど、今現在、飛行機は禁止されてたんじゃ無いですか?」
「それがですね、聞いてくださいよ!先日陛下が魔族を一斉に殲滅しちゃったじゃないですか!あれのお陰でエンジンにモンスターが突っ込む事案が急激に減った事を受けて先日、オーストラリア空軍が復活したんですよ!」
「へえ。」
俺的にはあれ、忘れたい一件なんだけどなぁ。あの魔王をおもちゃみたくわざわざ殺さない様に切り刻み続けたあの光景。みんなも恐怖のあまり誰も止められなかったそうだが、俺、あれ見て絶対にミサトを怒らせたら殺されるって自覚したからなぁ。今でもトラウマ級だ。あれがまさか…ねぇ。空軍復活に寄与しちゃったって誰が思う?俺だって想像つかなかったさ。
夢を語る青年が凄く微笑ましいなぁと思った。




