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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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イヴァンの為に出来る事

 イヴァンの憔悴しきった様子は見ていて胸が痛かった。

 到着したのは浮遊大陸オーストラリア大陸。そこの首都シドニーにある街の一角だ。昔はチャイナタウンと呼ばれていたらしいのだが色々確執があったようで中華系と呼ばれる方々が追放された後にエルフ族が住み着き現在ではエルフタウンと呼ばれていた。

 そこのアパートメントの一室を一時的に借り受け、私達はそこで生活する事になった。調度品の類は祖父の指示があったんだろう。必要なものは全て揃っていた。イヴァンは私達に謝罪して以降、言葉を発しなくなった。心配になり、病院に連れていった。今までとは違い、エルフ族が総出で護衛をしてくれた。今までの環境ではまずあり得なかった事だ。そのお陰もあってか、パパラッチが群がっても彼らが立ちはだかって守ってくれた。彼らは、


「必ずや、御身とイヴァン様をお守り致します。」


 そう言ってくれた。本当にありがたかった。


 病院の精神科で診てもらったところ、精神的ダメージが殊の外酷くて失語症にかかっていますって言われた。とにかく、自責の念で完全に押しつぶされてるのだそうだ。そうなると、たちまち私には言語の壁が立ちはだかった。話せる順番で並べると私が話せるのは日本語・エルフ語・学校で習った英語(リスニング、文法はボロボロ。)で。イヴァンは母国語のロシア語・英語・日本語(話せるだけ。最近やっとひらがなを覚えた程度)という認識だ。英語が怪しいのに何を考えてるんだと思うが、イヴァンは思ってる事を聞かれたく無い時、決まって口に出すのはロシア語だった。だから、話せる様になりたいとそう思った。精神安定剤を処方され、飲酒は厳禁とも言い渡された。酒豪のイヴァンだが、それでも薬と一緒に飲めば自殺出来てしまうし、お酒に溺れればアルコール依存性にだってなる。愛飲してるのがアルコール度数が高いウォッカとあっては。なので、非常に申し訳ないが、イヴァンのアイテムバックはこちらで回収させていただいた。これもイヴァンの為だと私は心を鬼にした。


 私は、とにかく色んな事を教わった。アーニャさんはロシア語も話せたのでつきっきりでお世話になっていた。炊事も、洗濯も、掃除も。アーニャさんは色々教えてくれたが。


「陛下はごゆっくり勉学に励まれれば良いのに。」


 確かにそう言ってくれたが。


「今まではイヴァンが支えてくれたから、今度は私が支えたいの!」


 そう、言ったら応援すると笑ってくれた。イヴァンはまるで宝物を見つけ様な目で私を見つめた後、下を向いてしまった。自分の辛かった事を自分の中で抱え込んでしまう傾向は相変わらずだった。


 それから1週間が過ぎた。イヴァンが大好きな事には心当たりがいくつかあったが、ガラクタを沢山拾って来てはイヴァンに提供してみた。ガラクタと言っても、壊れた時計とかゲーム機とかの類だ。イヴァンが目で遊んで良いかと訴えてらっしゃったので、


「どうぞ!」

「…!」


 と言うと、嬉々として機械いじりを始めた。勿論、工具の類は改めて買い揃えて提供した。お邪魔になるかな?って思って席を立とうとすると、服を捕まえてお前は此処だと訴える様にソファの隣の席を叩いて。ちゃんと座ればホッとした様に抱きしめて来た。抱きしめて安心したら機械いじりを再開するのだ。私はその横でロシア語を勉強していた。リンちゃん達がどうしてるのか気になったが、気を利かせてるのか。どうやら連絡を差し控えてくれていた様だ。料理も少しずつだが覚えている。イヴァンが良くご馳走してくれるロシアの家庭料理だ。ネットを調べれば作り方が書いてあった。アーニャさんがいる時はアーニャさんが作ってくれるが、それ以外で作るのは私だ。レシピノートも少しずつ溜めている。たまに、こうしたら良いよって書いてくれるのはロシア語だ。なので、辞書が手放せない。今晩も何を作ろうかと考えていたらピロシキとボルシチが食べたいらしい。揚げるタイプと焼くタイプがあるが、イヴァンのお母様が作ってたのは焼く方らしい。機械を散々いじった手でお料理のお手伝いはお願いしかねるので。


「お手伝い入るなら手を洗ってね!」


 そう言うと、大急ぎで手を洗いに洗面所まで一直線だ。慣れた手つきでイヴァンが小麦粉とバターと卵を入れて生地を捏ねた。その間にピロシキの具材とボルシチの用意だ。まだ慣れてない包丁さばきにイヴァンは手を出そうとするが、


「悪いけど、包丁1本しか無いから。」

「…!」


 何かを訴えたいのに話せないのがとてももどかしい様だ。ちょっと考えて。


「あ…あ…………」


 まるで子供みたいなんだが、本人はなるべく話す努力をしているみたいなので私は敢えて無視して作業を続行した。だけど、ちょっと手を切っただけで凄く大袈裟な対応だ。イヴァンの言いたい事が口に出なくても分かるところが何とも微妙だ。水で手を消毒してから魔法を唱えてちゃっちゃと直すのだが、相変わらずの過保護ぷりだ。結局、包丁は危ないからと取り上げられるが、上達しないのでは?と、ついつい思ってしまった。結局、すったもんだで夕食も出来て食べるのだけれど、イヴァンの口から言葉が出ないだけで中身は完全に新婚生活の甘過ぎる生活なんじゃ無いかと思った。


 10日が過ぎたある日。私達は雪山に遊びに行った。イヴァンは初めて知る銀世界に目を輝かせた。ロッジについて最初はソリで滑って遊んでいたのだが、夕方になり、イヴァンを送り届けてからソリを返却しに行ったばっかりに道が分からなくなって足下を滑らせた。気がついた時にはどうも崖から落ちていた様だ。このままでは雪山で遭難は確実だ。気温が下がる。どうにか起き上がれたが、足は持っていかれた。骨折してるみたいで左脚が明後日の方向に曲がっていた。イヴァンは今頃心配しているだろうか。声が出ない以上、今のイヴァンではどうにもならないと諦めた。



 暗くなって2時間以上経ってもミサトは戻って来なかった。探しに行こうとして近くの職員に止められた。言わんとする事は分かる。こんな雪山では夜に外に出るのは二次遭難の危機があると言うのだ。どうすれば良い?どうすれば。雪山に行ったの初めてだったからつい楽し過ぎて遅くまでソリで遊んでしまった。何故、あの後やはり一緒に行くと言わなかったのか。最初に爺さんからミサトは方向音痴だと聞いていたにも関わらずだ。本当に後悔ばかりだ。そんな時、俺はふと左手を見た。これ、イケるかもしれない。そう思った。

 必死だった。口からスラスラ言葉さえ出れば。突如、ブザーが鳴ったから世界政府から持たされているスマホを取り出した。今、俺が失語症になってるからメッセージと言う助け舟が来た。それは俺が非常によく知る人物。頼れるオネエ。リンちゃんだ。


「一体どうしたの?ミサトちゃん行方不明になってるって聞いたんだけど、状況を説明しなさい!」


 俺はスマホを操作してリンちゃんにメッセージを送った。


「2時間以上前からソリを返しに行ったきり行方が分からないんだ。俺がミサトが方向音痴なのを失念しててミサト一人にソリを返しに行かせたばかりに。俺、ミサトの身に何かあったらと思うと心配で。俺だけだったらミサトの所に行けるマジックアイテムを装備してるからどうにかならないか?」

「それ、何てアイテム?」

「誓約の腕輪。」

「ちょっと待って。調べる。」


 リンちゃんの事だ。ちゃっちゃと調べたんだろう。


「間違いない。それ付けてたらイヴァン博士だけ飛べるわ!でも、世界政府の最重要人物のGPS を付けると場所が特定され命が狙われる危険があるけど、それでもやるのね?」

「ああ、行かせてくれ。頼む!」

「んじゃ、ワタシが2人分の装備を用意するから、用意出来次第、相手の名前を念じなさい。声に出せなくてもいいから。そして、着いたらなるべく洞窟を探してそこから動いちゃダメよ。朝になったらスマホのGPS を立ち上げて。それを頼りに遭難先を割り出すから。気をつけて行きなさい!」

「分かったありがとう!リンちゃん。」

「どういたしまして(はぁと)」


 思わず苦笑いだ。続いて、メッセージが入る。相手見た時、そりゃあ、この人にも情報行くよなって思った。ミサトの所の爺さんだ。


「婿殿、そのまま聞き流すが良い。今のミサトの状態は極めて危険だと言っておく。誓約の腕輪の効果で飛ぶと言う事だが、そのまま行っても見つけられないであろう。何せ、雪に埋もれてしもうておる。骨折が原因でその場から動けぬのよ。ミサトの遭難先に着いたら足元を見よ。」

「俺の不注意でご心配をお掛けしています。情報提供ありがとうございます。必ず見つけます。」

「気をつけて行くが良い。二人ともちゃんと生還する様にのぉ。」


 この後、係の人から寝袋とか色々入った物に加えてスマホを見せて骨折した時に使えそうな応急キットと固定板を貰い、靴を履いて外に出た。俺はひたすら愛しい人を呼んだ。すると、あっという間に景色が変わった。爺さんの指摘した通り、辛うじて人の形が薄っすら見えた。とにかく慌てて掘り起こした。顔が見えれば冷え切っていた。全身掘り起こせば明後日に曲がった左脚が痛々しい。爺さんの情報は有り難かった。左脚をキットで固定した後、何か無いかと周辺で明かりをつけて調べた。メッセージが新たに届いてないが、電波が圏外らしくメッセージはついてなかった。

 俺はミサトを抱えて雪を凌げる場所を探す事にした。

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