負けられない戦い。
いよいよ試練の日を迎えた。
当日、早朝に祖父が転移魔法で私たちの空飛ぶ帆船まで飛んできた。
リンちゃんは数多い武器の手入れに余念がない。何時もは非戦闘職のバイソンさんでさえ、ハンマー片手に大暴れする気満々だ。イヴァンの件ではみんな自分の事のように怒ってくれている。
私は身体に水を纏って全身を清め、白装束に身を包み、袴を履いて朧月夜を装備した。
「ミサト、大丈夫か?」
私に過保護な祖父が心配して声をかけてくれた。
「はい。大丈夫です。ご心配をお掛けして申し訳ありません。お祖父様。」
「それじゃあ共に参ろう。場所なら我が知っている。」
祖父を先頭に安土城もどきに入る。流石に祖父の実力を知っているのか誰も攻撃しようとはしない。
それどころか、祖父が来た事で凄く慌てている状態だ。地下を降りると、すぐコロシアムなのだが、玉座に座ってるナスターシャの 様子がおかしい。明らかに蒼ざめていた。ざわざわとした雰囲気で明らかにまずいと顔に書いてある。祖父は、手を上げて場内を静かにさせた。これでは、どちらが盟主か分からないくらいだ。
「久しいの、ナスターシャ。婿殿と孫娘を色々奸計に嵌めてくれたようじゃのぉ。まず、礼をせねばならぬのぉ」
とか言って、邪悪な顔をして祖父は微笑んだ。しっかりウインドカッターで魔族を掃除しつつ。ナスターシャはいらぬ琴線に触れたと悟った様だ。
「さて、まずは婿殿を返して頂こう。またいらぬ策を講じられても困るでのぉ。」
「…………」
「返さなければどうなるか分かっておろう!」
祖父が恫喝した。あんな祖父は見るのは初めてだ。祖父は怒っている。現在進行系でだ。自分に心を尽くしてくれたイヴァンの事を凄く気に入ってくれている。其の者を自分の欲望のために魔法を使って汚されたとあっては黙っていられなかった様だ。
「わ…分かった!すぐに返すから。だから、すぐ魔法を止めて欲しい!あなたが魔法を使うと洒落にならないわ!」
「ほぉ?魔法を知らぬ若者を魔法で封じておいてよく言うのぉ。そなたはミサトの裁きの後に我が直に地獄を見せて進ぜよう。」
祖父とナスターシャが言い合いをしている間に、前方から見慣れた銀髪の男がふらつきながら歩いてきた。イヴァンだ。服は上半身裸でズボンは辛うじて履いているが、ボロボロだ。右手は手錠をかけられてた。両足は鎖を引きずっていた。鞭で打たれた跡が痛々しい。相変わらず呟くのは本心を知られたくない時に出るロシア語だ。意味が分からない部分から唯一聞き取れるのは私の名前だ。はっきり「ミサト」と。そう聞き取れた。目は完全に虚ろで何も見ていない。だが、私たちの
「「「イヴァン!!!」」」
「婿殿!」
って声が聞こえた途端、虚ろな目に光が戻った。
イヴァンは一歩、二歩と歩いた途端、前方に倒れこんだ。身体を震わせながら、起き上がろうとして体がガクッと崩れた。堪らず、リンちゃんが背中にイヴァンを背負って戻って来てくれた。最初に言った一言は
「ミサト、爺さん。俺……………すいませんでした!」
ふらふらな体してるのに、私たちに謝罪してくれたのだ。祖父はヒールを唱えながら。
「心配しておった。案じておった。そなたは何も悪くは無い。悪いのは魔法の知識も経験も皆無な婿殿に無体を強いたあの女じゃ。裏切ろうなどとそんな事は一つも考えていなかったであろう。それは我がよく知っておる。左手のそれはミサトとお揃いなのであろう。全身傷が絶えぬのに、左腕だけ妙に綺麗だったからのぉ。」
「…………」
イヴァンの目が大きく見開いた。
「見るが良い。そなたの愛してる女子じゃよ。ミサトがあそこまで怒ったのは初めてじゃ。あれを見れば、もうそなたに手を出そうとする女子はまず出ないじゃろう。」
私はひたすらに前を見据えて、こう宣言した。
「エルフ族の威信をかけて試練に挑む。早々に始めるが良い!」
「ふん!爺ィの手を借りないと何もできないガキなどお呼びでないわ!いつでもかかってらっしゃい!」
私は何も話さずいたのには訳がある。いかに効果的にあの女の鼻を明かせるか、精霊王と他の精霊たちと打ち合わせをしていたに過ぎない。そして結論が出た。そうだ。魔族を全部血祭りにすれば良いじゃないかと。
「我、精霊を統べる女王 ミサト・アカツキ・セレネティアが命ず!究極破壊魔法!アルマゲドン!!!」
私の魔法であっという間に安土城もどきは粉々に粉砕された。設定区域は魔族領全領域だ。魔族たちは大量に降ってくる瓦礫に逃げ惑う。私の眼前で動いているのはナスターシャ一人だけだ。彼女も詠唱を始めるが私も負けるつもりは無い。
「ライトニングボルテックス!!!」
2射目を詠唱終えた後に身体に風を纏って神速で玉座まで駆け上がった。詠唱中だが、構うものか。ナスターシャは顔面蒼白で。私はニヤリと笑って朧月夜を抜き放ち、袈裟斬りで胴体ごと3分割にしてやった。
「そんなバカな。アルマゲドンなんて。一瞬で魔族達が殺されてるなんて。」
「…私は試練に勝ったで良いかしら?」
「……………え?」
「まだ負けを認めないなら今度はあなたの口を目掛けてアルマゲドン放つけど。」
そう言って、魔王の口にグサッと朧月夜を刺してやった。
「ごぉざんでづう!じゅびばぜっでぢた!」
「イヴァンに手を出した件に関しては何か申し開きがありまして?」
「…………」
あっという間に決着が着いた瞬間だった。
「出る幕無かったわい!」
ワシは思わず大笑いした。いやはや。まさかアルマゲドンを魔族領全域に放ってもケロリとしてるとは。
イヴァンはジークが治療を続けていた。弱り方が半端では無い。
「む。原因はこれか。」
ジークは魔法を唱えた。何やら呪いまでかけられていた様だ。
「いやぁ、ミサトちゃんあんなに魔法強かったんですね!」
リンちゃんも余りの快勝っぷりに大はしゃぎなんだが。冷静に頭がなってくると、何故、今まで魔法を使わせて来なかったのか分かった様な気がきたわい。威力が半端ない。恐らく、俺たちが使ってきた空飛ぶ帆船も使い物にならなくなっているじゃろうな。然も、肝心のイヴァンがあの様子じゃ此処で足止めを食らったも同然だった。
「なぁ、ジークよ。これ、世界政府要請案件じゃ無いか?」
「まぁ、そうなるのう。でも、正直言ってあの馬鹿女が世界政府が保護してる者に危害加えているという事実を目にしてるからのぉ。リンちゃん、勿論、報告書は世界政府に上奏するであろう?」
「勿論、決まってるじゃ無いですか。きっちり記録は撮ってますし、それにしても。いい加減、ミサトちゃん止めません?イヴァンが真っ白になっちゃってるんですけど…………」
「…………」
よく見れば、再生する度にまるで道端で出てきたスライムをプチっと潰す勢いで潰す剣士みたいな感覚で魔王を細切れにして明らかに楽しんでいるミサトちゃんがいるわい。でも、その光景が余りにも恐ろしすぎて誰も止めようとせんというのが。かくいうワシも近寄りたくないわい。
そんな訳で、ミサトちゃんを止めたのはあのアルマゲドンを見ていない世界政府のエージェント達が恐る恐る
「あのぉ、そこの罪人を取り調べないといけないのでお怒りは至極ごもっともなんですが…………」
「…………」
と、遠慮がちにお伺いを立ててミサトちゃんが了承してくれたんでやっと止まったが。魔王の精神ダメージも相当のものになりそうだ。いやはや。普段は物静かで大人しく、姫様なんで凄い上品な女性なんだが、一度怒らせるとああなるんだな。自分が迫害されておってもここまで怒る事は無かったが。あの魔王が
「聞いてない。ジークよりも強いとは聞いてても魔法の威力が世界崩壊級とは聞いてない……………」
とまぁ、ぶつくさ言ってるくらいだ。ジークの箱入り孫娘じゃしなぁ。当然、ニュースにでもなればエルフ達も服従するだろう。流石にあれは自重して無かっただろうし。魔族領崩壊のニュースはそれ程までに衝撃的だった。エージェント達は生き残る人がいないか捜索を始めた様だ。ワシらは相談して、一旦、旅は中断してイヴァンを療養させる事にした。全く、魔王ナスターシャめ。本当に余計な事をしてくれたものよ。
魔族領の事は、恐らくお咎めは無いですよって私は久々に再会したカイヤさんから話を聞いた。
何でも事の詳細は既にリンちゃんが報告書を出したのだそうだ。
リンちゃんは事後処理の為、バイソンさんは空飛ぶ帆船を金属探知器で探すために魔族領に残っている。他の種族は知らないが不死族は生きている者が出てくるのでは?という話だったが、正直そんなのどうでも良い。私達は祖父に連れられて浮遊大陸の1つ。オーストラリア大陸に来ていた。此処は日本同様、天変地異後に浮遊大陸となった場所で此処の街中に少数ながらエルフ達が集落を作ってるらしくて。祖父はその知人を尋ねる事にした様だ。
「アーリャ。いるかい?」
「まぁ、これはこれはジーク様。ようこそおいで下さいました。連絡が来て直ぐにエルフ族は全員集会場に集まっております。」
「あいわかった。では、みんなで向かうとしよう。」
こうして私達は暖かく集落に迎え入れられた。既に私が魔族領を崩壊させたニュースは世界に流れていた事もあってか、みんなは
「女王陛下のご到着、心よりお待ちしておりました。大したおもてなしは出来ませんが、どうかごゆっくりしていって下さい。」
そう、挨拶をしてくれた。私も挨拶を返す。
「皆さま。この度は突然の訪問にも関わらず、この様に暖かく迎えて下さってありがとうございます。今回私が此処に訪れたのは、我が夫、イヴァンの療養の為です。まだお医者様にも見せていない状況ですので皆様方には大変なご苦労をおかけする事になりますがよろしくお願い致します。」
満場の拍手が頂けた。私は続けて話をする。
「あの、お願いがございます。誰かロシア料理を作れる方はいらっしゃいますか?彼はロシア系の月の民で、私の為に良くロシアの家庭料理を振舞ってくれていました。ひょっとしたら彼が元気になるヒントがそこにあるかもしれないんです。後、出来ればロシア語も一緒に教えて頂けると助かります。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします。」
そう言って頭を下げると2名名乗りを上げてくれた。成る程、祖父が此処に連れて来たのには理由があったのかと本当に祖父はすごいなぁと私は思った。




