父さんの技術の欠片。
父さんと話す事で僕たちの置かれてる事情が分かってきて。成る程なぁと。ただ、僕としてはもう一つ父さんの意思を確認しないといけないんだ。話を変える事にしたんだ。
「父さん、話変わるけど、この人形の事は覚えてる?」
「勿論、覚えてる。ピールが俺の夢を継いでくれたのが嬉しくてな。でも、俺はピールと一緒に大好きだった機械いじりをする機会。残念ながら永遠に持つ事は叶わなかったから、責めて、俺の持ってた技術を伝える機会作りたくてな。それで、作ってみたんだ。」
「父さんは今後も父さんの持つ技術を軍事転用して欲しく無いんだよね。」
「勿論だ。俺が軍事転用を認めた唯一のケースはさくよう位だな。あの船は今でも現役でスペースデブリを集めて回ってるんだ。人間の身勝手で地球上空をゴミ塗れにしてしまってるからな。ちゃんと人間の手でお片付けしないとな。多分、あの船が頑張っても全てのゴミを回収する事は叶わないだろう。だけど、月から見る青い地球は綺麗だろう?綺麗なものは綺麗なままで大事にするのが一番だと俺はそう思うんだ。」
「ねぇ、僕も父さんみたいになれると思う?」
「勿論、ピールだけじゃなくてモハメドだって出来るんだぞ。エンジニア。ただ、一長一短。直ぐには出来ないさ。技術を磨く為の言わば練習台としてその人形は作ったんだ。まさか、抱き枕にされるとは思っても見なかったけどな!」
「…………」
そう言って、父さんが笑うんだ。本当に心から嬉しそうに。僕は、父さんを誘う事にしたんだ。
「じゃあさ、今から一緒に機械いじりしようよ。父さん。」
「……………良いのか?」
「勿論、良いに決まってるじゃないか。僕は父さんが神様になってくれて良かったと思うんだ。普通ならこんな形で亡くなってから親子の時間持てないじゃない。だけど、僕はその点恵まれたんだ。生きて父さんと一緒にしたかった事は出来なかったけど、今からでも遅くないんだ。だからさ、一緒にやろうよ。父さん。」
父さんはね、余程嬉しかったみたいなんだ。感激したみたいで。ただね。ふと、考える様な仕草するんだ。どうしたのかと思ったら、モハメドの方を向いてね。
「モハメド、相談がある。俺に旦那の人生30年。くれないか……………?」
「30年…………」
そりゃあ、びっくりするよね。普通。でもね、技術を学ぼうと思ったら最低10年以上かかるものなんだ。だから父さんの言う30年って物凄く妥当な数字でね。ただ、30年モハメドに会えないとなると、僕の方がギブアップしそうなんで。
「あの、僕もモハメドがいないと生きていけませんし、父さんも姉上様がいないと生きていけないでしょ?何で、責めて5年おきでお願いします。僕がモハメドと姉上様を巻き込んで詠唱すれば…………」
「…確かにミサトの意向もモハメドの意向も聞かずに決めて良い話では無かったな。それにいきなりお前たちが居なくなっても困るな。世界政府の事はどうでも良いが、竹田教授はそうじゃないからなぁ。ボランティア活動している学生達もお盆前までって決まりの様だ。そこにも迷惑かけない様にする必要あるなぁ。」
そう言って、何とも複雑怪奇な魔法陣組み出したんだ。それはまるで、時間で区切られたスケジュール帳の様だ。何処に何を入れるかって考えてるみたいだ。血の繋がった親子じゃないけど、その思考は悉く似てた僕と父さん。だからさ、悪巧みする時も物凄く気があったんだ。生前からね。父さんはきっとね、僕がエンジニアとしても生きられる様に自分が持ってる技術の全てを僕に教えるつもりなんだ。
だけど、僕は『軍事転用を出来る危険性』を持ち、いざその場に立たされても毅然とした態度を貫かないといけないんだ。生前、父さんも親友を人質に取られて武器開発手掛けてる。そして、それは僕にも今後当てはまる立場になる。父さんの教えも技術も。その重みを前にして、僕は身が引き締まる様な思いがしたんだ。
父さん、僕の作った世界を打ち消してさ。お陰様であっという間に現実世界の翌朝にしたんだ。で、僕に一枚の魔法の用紙を差し出して。
「竹田教授に迷惑かかりそうな内はこれでいこうと思ってるんだ。まぁ、俺がいちいち迎えに行ってる内はお前たちに手を出す事も無いだろう。ただ、竹田教授達が福井に帰ってからはお前たちを囲い込む為あの手この手で囲い込もうとするだろうな。その為の対策。しっかりしておかないとな。帰る時はこれからはローグフェルグまで直接飛ぶと良いだろう。エドが生きてる間はしっかり防波堤の役目果たすだろう。此処はローグフェルグの保護が間に合わない時に緊急避難先として使え。現状、お前たち以降に月に飛ぶ奴は現れない。俺たちの事があるから此処はこのまま放棄される。もし、宇宙にコロニー建てる計画が持ち上がっても月の失敗例から複数国でなく単独国での開発に今後は限られてくる。その辺の話とかもこれから沢山出来るんだって思うとワクワクが止まらないんだ。」
…本当に、楽しそうな父さん。久しぶりに見た気がしたよ。生きてる間にはまず見る事が叶わなかった父さんのそんな顔。こう言う姿を見るとね。宇宙工学博士。天職だったんだなぁって思わずにはいられなかったんだ。
その日から僕たち家に定時で帰るってのがお約束になったんだ。僕たちは泥水に浸かった大量のハードディスクを分解して洗浄して魔法で乾燥させて水分飛ばして組み立て直してエロを経由して竹田教授の持つ最新鋭パソコンにデーターを読み込んで、戸籍情報を優先的に拾い上げる作業を始めたんだ。罹災証明書を1日でも早く発行しないといけなかったからね。日本政府も遅ればせながら、楢原さんの采配で色んな対策出されたんだ。
ボランティアの時間は朝9時から昼3時迄って決まってたんだ。だから空いてる時間、父さんは自由に使えたんだ。ただ、僕はあくまで父さんの教えを広めるってお役目もあるし、何年も引き籠るとなると父さんは何も必要としないけど、僕には食料が必要になるからその辺、姉上様やモハメドはどうするのかと思ってたがまぁその辺は流石と言うか。魔法の紙で書かれた非常に簡単な時間割を見る限り、ボランティア終了後、布教して帰宅し礼拝してから父さんと一緒に3年勉強。但し、実際に過ぎるのは3時間って感じで、その時間の間に時間経過の無いアイテムバックに大量の食料を姉上様と一緒に用意するんだって言ってた。プログラム的には実質10日で30年分の勉強をする事になるんだけどね。僕もお陰様でワクワクが止まらないんだ。
これね、寿命無く歳取らない種族だから出来る荒技だよね。って思ったよ。モハメドと結婚したからこそ出来る特典みたいなものでさ。モハメドは随分僕の事を気に病んでたけどね。僕は物凄く今の姿を好意的に受け止められるんだ。これから実質年下の奥さんになるモハメド。大事にしないとなって。僕はそう思ってね。最初の3年が終わって戻って来て。モハメドを腕の中に収めたらね。真っ先にお礼、言ったんだ。モハメドやっとポジティブに考えてくれる様になったけどね。ただ。
「髪の毛も髭も凄い事になってる事に気づいてる?ピールはイヴァン父さんと一緒で、くせっ毛強いんだからね。僕たち今まで一緒に入っていたから気がついてなかったけど、面倒でもね、髪の毛と髭は毎日切り揃えた方が良いよ。」
そう言って、僕を洗面台迄連れて行くんだ。僕は凄い髭もじゃになっててさ。櫛すら通らないんだ。髪の毛もモハメドが解いてほらって見せると地面に着きそうな事に今更ながら気がついてね。
「あちゃ。アラブ人の悲しい性だね。まぁ、髭はご飯食べたりしてたから気を使ってたつもりだったけどね。髪の毛は完全に失念してたよ。いつもありがとう。モハメド。僕はちょっと髭整えるからさ。モハメドは髪の毛切ってくれる?」
「分かったよ。椅子用意するから服脱いで。ピールの髭は洗濯するの大変だからね。それと、これ。髭整えるのに使ってるハサミと櫛とライターね。くれぐれも炙りすぎないでね。僕に気を使ってしてくれてるのは分かってるから。」
「ああ、助かるよ。」
んで、僕は髭と髪を整えたんだ。頭同様、悲しくなる位豊かな髭と格闘したんだ。直毛だったらこんなにてこずる事無かったと思うけど、生憎僕の髭も太く濃くウエーブきついとあってね。床屋さんがさじ投げるレベルなんでモハメドのお世話になってるんだ。顎から下は豪快にザクッと切り落としたら髭でボールが出来るんだ。後は櫛で適度な長さを掬ってチョキチョキ切り揃えてね。お陰様で手馴れたものだ。そんなこんなで瞬く間に楽しい時間は過ぎてったんだ。色んな機械を分解しちゃ組み立ててを繰り返してね。父さんとの時間は僕にとって財産になったんだ。宇宙の話になると父さんの目が輝いて、まるで子供の様に話を始めるんだ。実力は着々と身に付いてるのは分かったよ。ハードディスクを分解して組み立てる作業があっという間に上がったからね。作業速度も効率も。恐る恐るしてたのが本当に嘘みたいに。教授も目を細めて嬉しそうにしてたんだ。何故、こんなに早く腕を上げたか。凄く不思議そうにしながらね。
お陰様で、僕は教授達が当初決めてた8月10日までのボランティア期間。何事も無く終わって教授達は福井に帰る事になったんだ。無事、罹災証明書。発行できてね。ただ、残念だけど今後は地上。放棄して地下都市化しないといけなくなったんだ。理由は冠水してた期間が長すぎて数多くの木造住宅が根本から腐ってしまい、全滅してしまったからなんだ。今後、京都市街地は地下都市化して再開発するには多くの時間がかかるんで被災者全員他の都市へ強制移住が決まってしまったんだ。僕たちが再建した保育園からそんな連絡が届いて、残念な気持ちになったんだ。ただ、あの保育園は取り壊される事なく今後は再開発工事に従事する方の事務所として使われて、今後も有効活用されるそうなんだ。
そんで、僕たちには実はお迎え来てた。愛媛県警の原田さんだ。僕たちが福井に滞在してるのを知って愛媛県庁の職員と共に京都まで来てたが、僕たちが合流するまでに遭難したとあっては京都府庁に迷惑がかかるとあって原田さんを残して後は日本国軍の魔道士さんに撤収して貰ったとの事で。ゴタゴタあって話すの遅くなって済まないって原田さんは仰られてた。僕たちは竹田教授と原田さんと相談してね。世界政府と日本政府からも探されてるとあって身の安全の為にも一先ず京都のボランティアは諦めてそのまま愛媛県に向かう事になったんだ。竹田教授もね。
「俺がいる間は旧皇族の権威振り翳せてもな、いなくなった後までは守ってやれん。まぁ、今生の別れでもねぇしいざとなったら柏木の爺さん頼るさ。何か困った事が有ればいつでも頼って欲しい。俺はいつでもお前たちの味方だ。」
そう言ってね。笑顔で別れたんだ。竹田教授を呼ぶ声した気がしたけど、僕たちは取り敢えず前に進む事にしたんだ。




