エンジニア集団。再び。3
楢原さん達は京都府庁、一部の班は京都市役所の災害支援本部に缶詰。竹田教授はSPこき使いつつ大阪から物資調達しつつ通勤。魚ハの大将は京都市役所前の駐車場にキャンピングカーを停めてそこで寝泊まり。福井大学の集団は借り上げてるホテル、僕たちだけ宿無しって状態にしてた。表向きね。心配されたけどね。ホテル手配するよって言って下さったが、僕たちは払えるお金持ち合わせて無いから何処か適当な場所で寝泊まりしますから。って誤魔化しておいた。政府の方だと監視置かれる可能性あったから無闇に魔法を使えなかった。
そしてね。楢原さんは大阪に臨時に職員配置して全ての情報が日本政府に送られて、AIが初めて真相を知るに至り。
ムーンフロンティアの暖かい善意に心からの感謝をと言うメッセージが初めて母国に送られたんだ。
その返事も引き続き支援するって簡単なものだったけど、僕たちは改めて、父さんの作った国に誇らしい思いを抱いたんだ。
翌日からも僕とモハメドはパソコンに向かい続けたんだ。モハメドにお願いしたのはエロが持ってるデーターと強制停止プログラムをそのままパソコン経由で外付けハードディスクに書き写して保全をする作業だ。一度、父さんの組んだプログラム消去しないと使えなかったけど、このデーターですら父さんの残した遺産の一つだったからね。そのまま上書きしたくなかったんだ。そしてその意図はちゃんと正確にモハメドに伝わってた。モハメドが思い起こしたのは預言だ。僕たちの残すAIを止める最後の鍵。技術がどこまで進むかにもよるけどね。月のAIが残した悪意は着実に進化を遂げてる筈だからこの強制停止プログラムでも止められないかもしれない。AIが作る未来を見届けて見極める役目。僕たちにそんな役目が与えられたのかな。って漠然と考えてた。僕は新たにAIを組み上げる作業をしてた。ある程度、プログラム組まないと機械は基本動かない。本来、主役は人であった筈なのに天変地異後主役になったのはAIで。人間が極端に楽をする事を覚えたのを良い事に感情を持って人間を支配しているから僕の組むプログラムも感情を持たせない仕様のものだ。人型で。感情を持つAIが機械を操るって発想でプログラムを組んでるのはチラ見してた竹田教授も気がついた様で。
「へえ、外国人でAI嫌う傾向にあるムーンフロンティア出身のお前でもAIがAIを操作するって発想するんだな。」
「僕だって結婚式でパートナーに人型AI連れてる人間いたらそう考えるのは至って自然です。ですが、僕はあくまで本国のスタンスを維持するのが理想だと思っています。あくまで、主役は人であり続けるべきで、AIを維持管理するのも人であるべきだと。本来、AIに感情。本当に必要かどうか。僕たちはAIが悪意を持った時、人間に対して牙を向く事を知る立場にいますから。」
「そうだな。そう言う観点でいくと俺の親父も戦争って形ではあるがAIに殺されてるんだったな。今はその危険性を訴えてる内は良いが、問題はその後だ。機械は不具合起こさなかったら長い間を生きるだろうな。アップグレード繰り返しながらのうのうと。だが、俺たち人間には時間に限りがあるんだ。俺がお気に入りを連れてるのはな、俺の考えてる事を後世に伝えるって約束してくれた戦友であり、同志だ。AIの支配下にある人間達に目を覚まさせる為の種を俺は育て上げるつもりなんだ。人生を賭けてな。技術屋はいつか必ず必要になる日が来ると俺はそう思ってるんだ。そして、遠い未来に文明が消滅して技術が失われる日が来ても技術屋は脈々と生き続けるんだ。嘗てあった技術を語り継ぐ語り部としての役目な。人を堕落させるものではなく人々の生活の助けになる為だと。これは預言を知る立場にある俺としての見解な。」
「竹田教授閲覧出来るんですね。今も最新の預言見られたりするんですか?」
「流石に今では無理だな。皇籍離脱を親父がした時点でそんな権限消えちまったよ。まぁ、俺たちが全員成人して仕事を得て兄貴と弟は家族を得て、お袋は既に他界してたからこそ御心のままに出来たんだろうなって俺はそう思ってるんだ。」
「…………」
「技術屋って響き良いですね。僕もそんな技術屋の一人になれるんでしょうか?」
「興味あるって顔してるな。ピールにだってなれるし、モハメドにだってなれるんだ。要は、やる気だな。やる気。本当ならな、何方かがイヴァン博士の技術。継いで欲しかった。あのお方のリサイクル力は他の追随を許さなかった。その技術の全てを注いで作られた『さくよう』覚えているか?今も大気圏外のスペースデブリを回収して回ってるそうでな、当然、軍部でもさくようの後継機開発の動きあったが、そこで立ちはだかったのは言語の壁。イヴァン博士は月生まれのロシア人。孤児院時代には既に3ヵ国語話せた天才児でな。だけど、普段書く言語はその殆どがロシア語でしかも癖がちょっと強い。これには訳があってだ。諸説あるが、一番有力な説は軍部に悪用されるのを防ぐ為にわざと字を崩した説だ。実際、ロシア語習得してる人間でもイヴァン博士の書いた設計図も文章も解読出来なかった。あの人は戦禍の中生き延びてきた人だ。自分が亡くなった後に平和利用されるならいざ知らず、軍事転用なんて許す気全然なかったんだ。」
「父さんらしいな。父さん、戦争で色々な人々を亡くしてきたからだ。自分の両親、兄弟、孤児院時代の先生方や仲間。大きくなって軍部に軟禁されれば大事な親友。戦争のせいで嘗ての仲間とも殺し合いした事あった位だ。月に到着して決着するその日までずっと狙われ続けてた。父さん。父さんは悪態吐く時はいつもロシア語だったんだ。だから僕もロシア語覚えたんだ。」
「そうなんだなぁ。一度で良いから色んな話してみたかった。返す返すも残念だ。そうだなぁ、機会が有れば種子島に行くと良いだろうな。あそこには、さくようを改造する時に使った設計図と指示書が残ってるんだ。ひょっとしたらお前たちなら読めるかもなぁ。」
「…………」
そんな雑談の後、無言になってしまったが、僕は生前の父さんの事を思い出してたんだ。元気な時は本当に短かった。大統領になってたから、AIを作って組み上げたのも趣味なんかではなく完全に必要としてだ。でも、僕の誕生日の時に後にも先にも1回だけだがえええって思う様な代物をプレゼントしてくれた事があったんだ。それは人形なんだけど、びっくり箱の中にからくり人形仕込んでてさ。父さんのデフォルメの人形なんだけど、体の構造としては物を置くと前進するだけって至ってシンプルな代物で。だけど、部品も大きいし、人形自体もそこそこの大きさ。出会った当時の僕の大きさそのままで大きいとあって。貰った当時は凄く困惑したんだ。こんな大きい父さんデフォルメ人形どう扱えば良いか分からなくてね。ただね、気持ちは伝わったんだ。
「俺が大統領になったばっかりに父親らしい事を何一つせずに寂しい思いさせて済まないな。ピール。」
だから貰ってはいたけど僕がどんな用途で使ってたかと言うと、完全に抱き枕としてだったんだ。当時はね。僕が大学行くのにオーストラリアに渡る前の誕生日で貰ってて。実際、アーリアさんが父さんに連絡してあの人形、抱き枕になってるよって報告したら後付けでふわっとした綿が詰め込まれて尚且つ部品の動きを阻害しない肉体出来ててさ。オーストラリアまでわざわざ送ってくれたんだ。僕が出会った当時着てた服を着せたらぴったりでね。これを抱いて寝てたらモハメドがいいなぁって羨ましがるので結局、僕のアイテムバックに永遠に封印って形になってたんだ。大学卒業して世界政府のエージェントになりはしたけど、同時に父さんの介護始まったから僕が人が隣に寝てくれてないと眠れないって知ってた父さんこんなに大きくなってるのにずっと添い寝してくれてたし、モハメドが戻って来てくれた2年間は父さんいつ亡くなっても不思議じゃない体調だった事もあってか。急変したらすぐ駆けつけられるよう手配してた。僕たちは不測の事態に備えていつでも父さんに化けられるモハメドと一緒にいて、父さんは病院の最上階で政務こなしつつ、ずっと闘病してたんだ。
休憩時間に久々に出してみる事にしたんだ。僕のアイテムバックの奥底に眠ってた代物を。んで、経年劣化してた物を時間逆行魔法を詠唱して元の父さん人形に復元してみたんだ。勿論、元々入ってた大きい箱も一緒にね。カバンを取り出して、時間停止の効果を付与したカバンを作成して入れ直そうとしたら飲み物を調達して来たモハメドに目敏く見つけられたんだ。
「あれ。随分と懐かしい物を取り出したんだね。イヴァン父さんの人形じゃないか。」
「ああ、さっき竹田教授と父さんの話しした時にそう言えば意味不明な贈り物を父さんから貰ってた事を思い出してね。貰った当初は抱き枕にしかしてなかったんだけどさ。これ、元々はからくり人形なんだ。腕にね、こうやって物を置くと前に動くんだ。」
そう言ってね、両腕にお盆を置いて重そうな書類を置くとカタカタと小さな車輪が動いて前に進んだんだ。モハメドも感嘆の声を上げてさ。それに気がついた竹田教授を初めとしたみんな興味津々に見てたんだ。
「これね、僕が大学行く前の誕生日前に貰ったんだ。どんな用途で送ったのかは分からないけど、エンジニアとして最期に作った品でね。これ以降、父さんが物を作るなんて事はなかったんだ。貰った当初は意味が分からず、父さんの病気が発覚して余命宣告受けて介護に明け暮れてたから今まで存在自体忘れてたんだ。僕が抱き枕にしたせいで後付けでふかふかの肉体ついたり。実際に開けたら経年劣化でボロボロだったから魔法で作成当初の状態まで戻してみたんだ。」
「こりゃあ驚いた。イヴァン博士って相当器用な人なんだな。肉体つけるにゃ裁縫は必須。からくり人形作るにゃそれなりのノウハウが必要。しかも、丁寧な手作業で。きっとな、イヴァン博士。この中に沢山の想い詰め込んだんだろうな。もう、エンジニアとして生きる事は叶わないと知ってたし、大統領として休みなく働いてたから自分の身に起こってる体の異変に気がついていて。覚悟の上で亡くなられたと察するに余りある。ピール。どうするつもりなんだ?」
「…そうですね、取り敢えず父さんと向き合ってみようかなって思うんです。僕。ただね、やるとしてもここの作業終わってからになると思いますけどね。この人形。出会った当時の僕の大きさとほぼ同じなんですよ。なんで、中に何が詰まってるのか。確かめないと。」
そうして、父さん人形仕舞ったんだ。時間停止する方のカバンの中に。みんな残念そうな顔してたけど取り敢えず、作業を再開する事にしたんだ。




