僕たちの華燭の宴。1
僕たちは竹田教授に抗いきれず、別々に着替えてねって言われたんだ。移動してるだけで汗ばんでたからね。先に風呂に入って髪の毛とか髭もちゃんと洗ってね。身嗜み整えたんだ。今回、用意されたのが和服の紋付袴でさ。まぁ、僕はなんとか着こなせるかなぁって程度だ。髪も黒髪だし、ちょっと色黒だからね。いつも着てる白い色とは違うけど着物も黒っぽいから特に問題無さげなんだ。長い後ろ髪どうしようかと思ったらスタイリストさんがね。
「これ、管理大変でしょ?一度短く切ってしまうか、ストレートパーマ当てる事考えた方が良いよ。今回、時間無いからきつめに三つ編みしときますね。」
「宜しくお願いします。」
まぁ、自分で管理してないから正直どっちでも良い的な何かだ。多分、自分で管理するんだったら面倒だから切ってるな。きっと。んで、着付けして貰ったんだ。なんと言うのか。背筋が伸びる様な。そんな感覚を覚えた。ノックの音がしたから入って頂くと幸太郎さんが入って来たんだ。カメラ持つ手が嬉々としていらっしゃる。
「そっちは準備出来てるんだな。」
「まぁ、その代わり何となくですけど趣向が読めて来てますけどね。モハメド女装させられてるんだろうなぁと思うとね。見た目完全に女の子にしか見えないですからね。笑っちゃいけないと思うけどね。さぞかし可愛いんだろうなぁと。楽しみでもあるんですが、後が怖い気もしないでもないです。」
「まぁな。でも、並んで歩いてるの見ると本当に女性にしか見えね〜んだよなぁ。モハメド。何であんな線の細い子に成長したんだか。運動とかも特にしてねぇんだろう?」
「そうですね。諜報活動で化け易い様に敢えて鍛える様な事してなかったと思います。」
「そうなんだな。一体、誰に化けるんだ?」
「幼い頃は僕の影武者してましたね。僕、皇太子だったし。でも、王族で無くなったので余り僕に化ける必要無くなりましたね。大きくなってからは車椅子に乗って父さんに化ける事はありましたか。いつも体調が良い時ばっかりでは無かったので、キャンセルが利かない日程もあったんで。あくまで最終手段でモハメドが高校卒業してからの2年間に限られてるんですが。」
「そう言えば、そんな事もあったなぁ。あいつのスケジュール。本当に休みらしい休み。無かったからなぁ。病人なのにな。今思っても、死ぬの早すぎたんだ。じじいの俺よりも先にくたばっちまってな。まぁ、神様になってからもちょくちょく顔を見せるから余り死んだ気しねぇし、リンちゃんの手料理しょっ中摘み喰いするからさ。リンちゃんをムーンフロンティアに送っておけばもうちょっと頑張れたのかなぁ。とか色んな事を考えるんだ。」
二人して笑ったんだ。父さんが縁で仲良くなったんだ。僕はまだ幼かったから随分助けて貰ったんだ。僕にとったらお爺ちゃんみたいでさ。何でも話せる数少ない人の一人なんだ。そして、ノックがまた聞こえたのでどうぞって言って入って頂いた。ひょっこり短い金髪が見えたから誰か直ぐに分かったんだ。
「お邪魔しても良いだろうか?」
「どうぞ!」
最近不死族に乗っ取られる寸前だったエドワードさんだ。
「そっちはすんなり支度済んでいるんだな。」
「そりゃあそうでしょう。髭面にドレス着せる馬鹿いませんからね?」
「それもそうか!」
そう言ってみんなして大笑いするんだ。
「最近どうよ?落ち着いたか?少しは。」
「いきなり辞めるって言って辞めてしまえる程世の中甘く無いので残務整理中って所だ。イギリスも世界政府もあの者が色々やらかしてくれているんでこの10年を知れば知る程に何故ルーが蘇生を頑なに嫌がったのか。手に取る様に分かって来てな。ルーのご両親の事を思うとね。どんなに悔しい思いをなされただろうと。自分も子供を持つ親故に心が痛い程で。大事な家族を守れなかったと悔いても悔みきれぬ。母国からも陳情は来てるし、ルーには謝罪の言葉さえ国民からも出始めている。が、自分達がやって来た事がどんなに酷い事だったのか。今更気が付かれてもな。到底、許せるものでは無い。既に、なりすまされた僕との結婚無効の手続き済んで僕たちはこっそりローグフェルグで結婚しなおしてな。ルーも少しずつだが以前の子犬の様な性格に戻りつつある。後はな、ルーも子供達もDVの被害者故に未だに僕のちょっとした表情に怯える事もあって家族全員でカウンセリング受けてる所だよ。もし、ピール君に助けて貰っていなかったらルーも子供達も地獄を生涯味わっていたのかと思うとね。本当にありがとう。君が月に拉致されて無かったら僕は誰にも知られずに死に、最愛の家族を不幸にしてる事も知らずに宇宙をプカプカ死体のまま泳いでいたのかも知れぬ。」
そう言って僕の手を握ったんだ。僕とモハメドが拉致されたのも今を思えば、父さんに対する復讐だったのかも知れない。ルーベルトさんへの復讐が完遂するから次は僕たちってだけだったのかも知れない。ただ、僕たちは魔法以外に対抗しうる手段があっただけで。もし、僕がハッカーで無かったら。僕は途端に寒気を覚えた。
「…どうした?緊張してるのか?ピール。」
「いや、考えても仕方の無い事を思い浮かべてしまっただけなんだ。月でね。僕たち魔法を封じられてたからさ。モハメドには竜族の力で自力で封印解いて結界張ってくれて僕は不自由な手でエロを無力化する事でナスターシャ倒したけどね。生命維持に関する装置止めてさ。だけどそれで100名近い死者出したんだ。僕は。今更ながら思うんだ。他に方法無かったのかと。」
「いや、魔法に詳しい不死族と言えども異世界から来てるから科学には疎い。そなたはその弱点を的確に突いただけに過ぎない。後々恨まれて僕たちの様な憂き目に遭う位なら最初から一族全員滅ぼしてしまった方が遥かに良いと僕は思うよ。」
「まぁ、確かに犠牲者多いけどな。もう、気にするんじゃねぇ。俺も拉致されたとニュースで聞いた時にはどうしているかと心配になったし、アークにフラウディアの力を辿れと指示したら帰って来たのは月って回答でな。月へ転送出来る人間限られるから助けにすら行けなかったんだ。俺にとっちゃ、ピールとモハメドは孫みたいなもんだ。お前たち、色々狙われる立場にあるって自覚して、ちゃんと身辺気を付けろよ。」
「はい。僕、モハメド守らないといけないから頑張るよ。ありがとう、幸太郎さん。」
そう答えると、幸太郎さんの大きな手が僕の頭を撫でてくれたんだ。優しい時間だなぁ。って、僕はそう思ったんだ。小さな子供と思われるノックがコンコンって聞こえたんだ。どうぞって声をかけると小さい子供達が元気に雪崩れ込んできたんだ。剣聖アークの子供達だ。腕白な男の子二人が追いかけっこしながら元気良く走り回るんだ。その後ろから、生まれたばかりの赤ん坊を抱えたミラさんとミラさんのドレスを持ってちょこちょこ歩く女の子。女の子はちょっと涙ぐんでいたからどうしたのかと思ってね。
「どうしたの?エヴァちゃん。」
「それがね、エヴァ、お嫁さんのヴェール持ちたかったみたいなんだけどね。モハメド君が着るの。白無垢だからヴェールじゃなくて。それでね。」
まぁ、実に微笑ましい理由で泣いてたんだなって思ったんだ。僕はエヴァを抱き上げてね。ミラさんに瓜二つの女の子の頭を撫でながら慰める事にしたんだ。
「そうか、ヴェール持ちたかったか。エヴァちゃんはお父さんとお母さんからモハメドの事は聞いてるよね。」
「うん。でも、モハメドお兄ちゃん。そんな事しないってエヴァ分かるもん!」
「…………」
子供の言う事だから根拠は無い筈なのに何だろうな。この説得力。僕は思わず笑ったんだ。
「そうかそうか。此処にもモハメドの良さ。分かる人がいたかぁ。」
「うん!」
「じゃあ、僕と一緒にモハメドお兄ちゃんの所に行ってお手伝い出来る事は無いから聞いてみようか?」
「うん!エヴァ、一緒に行く。」
「ミラさん。すいません。」
「いえいえ、大丈夫よ。上の二人がやんちゃだから此処の備品壊さないか見ておかないといけないから。エヴァの事、宜しくね。幸太郎さんも良いですか?」
「おう!アークの所の悪ガキ2人の方だな。ただ、いつもみたいな事をすると流石に飾ってある国宝がなぁ。」
「それでは子供達が存分に遊べる様に貴重品と机の類いを退けてもらって、ボールプールでも作って貰えば良いんじゃないだろうか。少し、職員と話をして来よう。」
そう言って、エドは職員さんとインターホンで話し始めてね。すると、職員さんがテキパキと高価な品々と机を片付けてくれてね。多分、子供もいるから予め準備してたんじゃないかな。僕はエヴァを抱っこしてる側でね。見る見る一大アミューズメントパーク出来ちゃったんだ。随分と用意が良いと言うか。空気で膨らませた室内は子供達が飛び跳ねても大丈夫な様になってた。上のお兄ちゃん達も初めて見る施設に興味津々で、中に入って遊び出したんだ。そしてね、興味津々なのは腕に抱いてるお姫様も同様だった様で。
「……………エヴァも。」
「んじゃ、遊んでおいで。」
「うん!」
エヴァちゃんも中に入って無邪気に遊び始めたんだ。エドが一旦、部屋から出てどうしたのかなと思ったらジークとエリーを両手で抱っこして連れて来てね。
「まだ、お姫様の支度終わりそうに無いから二人とも此処で遊んでおいで。」
「「はい!」」
エドが降ろした途端に双子達もあっという間に乱入してさ。エリーの方は普通に遊び出したんだ。飛び跳ねて楽しそうにね。ただ、ジークの方はちょっと様子が違ったんだ。ずっと一人遊びしてるエヴァに目が釘付けでさ。父親のエドも。
「ジークはエヴァ姫を見初めたか。父親随分と手強いから説得するのは至難の業だろうな。」
「あら、アークは人を見ますからジーク様でしたら御喜びになると思いますよ。エリー様を庇って立ち向かう姿を知ってますし、見て下さい。あれ。まるで最初からそうするのが当たり前だったかの様に側から離れないではありませんか。」
「…そう。だな。僕たちは小さな恋の始まりを目撃したのかも知れないね。」
暫く見惚れた後、ジークから声をかけて二人で遊び始めたんだ。僕とそこにいる面々はそんな小さな恋の始まりを微笑ましい気持ちで見守る事にしたんだ。モハメドの方。大変な事になってるの全然知らないまま、平和な風景を眺めていたんだ。




