何があっても逝ってはならぬ!
翌朝になればローグフェルグのファルメリア宮殿に非常サイレンが鳴らされたんだ。皇帝陛下は大軍を率いてイギリス軍を討ち滅ぼす為に御出陣なさったんだ。エドワード王も将軍職ならば、皇帝陛下も同じ地位にあったんだ。ただ、皇帝陛下は参謀官を付けていらっしゃらない。理由は信用ならなかったからだ。他ならぬ摂政官が。だけど、皇帝陛下は10年前にも少将でありながら陣頭指揮に当たって見事に役目を果たしていたから参謀官が居なくても特に問題無いとされたのだ。ローグフェルグにはこの時の為にオーストラリアとムーンフロンティアから援軍が来てたんだ。オーストラリア軍はイギリス軍から購入した最新式魔導戦艦。ムーンフロンティアは日本国軍から購入した最新式AI搭載戦艦。しかも、月攻略戦で投入されて学習した後の戦艦と言う事らしい。正直言って、母国に戦争参加して欲しくなかったんだけど。演説前に僕自身攫われていたから民衆が怒りに燃えたんだ。犯行もイギリスからの諜報機関って断定されてたからますますヒートアップしちゃったんだ。
僕はお留守をモハメドと共に言い渡されたんだ。既に月での一連の事が明らかになって僕たちの保護と同時にエドワード皇太子殿下を守護する様に言われたんだ。本物のね。エドがね、目を覚まして開口一番に言ったのが。
「…この長すぎる髪の毛。どうにかならぬであろうか。」
「…………」
って事だったんだよね。10年以上、切ってないからね。美しい金髪が腰付近まであってね。しかも、僕とは違って癖っ毛強くないし、モハメドと比べても艶感が半端なく見事だったんで。
「……………こんな事言って不謹慎だと思うんですが、こんな見事な金髪切るの。勿体なさすぎませんか?」
ってつい口に出ちゃってた。だけどね。
「そなた達が何故髪を切らぬのか。理由があるのであれば考えなくも無いが、今の僕には重たくて邪魔って印象しか無い。」
「僕は近接攻撃から首を守る為と言った所ですか。今の所、モハメドが完璧に守ってくれているので脅威を感じた事はありませんが。」
「僕は…余り他人に見られたく無いんだ。ピール以外に。僕は竜族だから半分諦めているけど…………」
「まさかとは思うが、そなた達の関係はまだ続いていたのか?」
「その辺の問いは偽物とそっくりな問いである意味、エドが人生ごと乗っ取られようとしてた証左であると僕は感じたけどね。僕たちの仲は父さん公認だよ。有耶無耶になってるけど、父さんの喪が明ける4月には結婚しようって言ってたのに、この騒ぎでどうなる事やらって言った感じだよ。」
「でも、この間結婚に必要なネックレス。作って貰う様にお願いしたばかりなんだ。リンちゃんやバイソンさんにも色々協力して貰えて今から楽しみなんだ。」
そう言って眩しそうに笑うモハメドに嘗てのルーベルトさんを見たのかも知れないな。エドはね。
「そうか。そなた達、良かったな。どうか幸せになるんだよ。」
そう言って寂しそうに笑ってたんだ。何が悲しくて、歯車が狂わなければならなかったんだろう。僕たちはその意味を図りかねていたんだけど、結局、エドは髪の毛切ったんだ。自分に何があってもこれだけしか残してやれる物が無い。父親らしい事は何一つ出来ず、返す返すも無念だとそう言ってたんだ。嫌な予感がしたんだ。僕は剣聖である師匠に助けを求めたんだ。エドの護衛には僕たちだけで無く、師匠とお弟子さん達。総出だったから唯ならぬ気配さえ伺わせてたエドに師匠は聞いてたんだ。
「エド、死ぬ気じゃねぇだろうな?」
「……………僕をそなたの幼馴染と一緒にされては困る。」
「だと良いがな。」
「…ちょっと久々に僕の愛機に会いたくなっただけだよ。あるんだろう?」
「そりゃあ、あるにはあるぜ。11年前に実際に使ってた名機ならな。今のエドはAI搭載機じゃ無いと乗らないらしく昔の英雄振りはすっかり形を潜めたって言うので有名だ。まさかとは思うが。」
「そのまさかさ。エドワード王にドックファイトを申し込むのさ。確かに10年も飛行機から離れたら普通なら乗れないと思うだろうけど生憎僕は冬眠してただけなんで感覚鈍っちゃいないんだ。幾ら何でも同胞が殺されるのを見たくは無い。僕の我がまま。許してくれないだろうか。」
「……………そう言うと思ったよ。陛下から参軍の許可降りてるんだ。どうせエドは自分自身の手で決着を付けたがるだろうと。但し、条件がある。他の者が心配する故、責めて重湯を飲んでから参陣せよ。とのお達しだ。」
そう言って、僕は重湯を持ってくる様に言われたんだ。しかも丼に大量にあるんだよ。これ……………
僕が持って来た量を見て思わずエドも辟易した様な顔してたんだ。
「僕がこの量食べ切れるって思ってないからこんなに大量に出して来たのであろう?ミサト様も樹先生も本当にお人が悪い…………」
「嫌だったら食べなくても良いんだぜ?その方が警護の手間が省ける。」
「ふざけるな!さっさとそれを寄越すが良い!僕は自らの手で引導を渡す!こんな事でイギリスの民達の命を脅かしてなるものか!」
もう、何も言うまい。満身創痍なれど流石に王者だと僕は思ったんだ。僕たちの目の前で重湯を一気飲みし始めたんだ。まるでお酒呑むみたいな勢いで。ゴクゴクと言わせながら。肩で息整えながらね。それで、飲み終えた丼を僕が持ってるお盆にドンと叩きつけてから。
「はぁ、はぁ、こ、これで良いのであろう?僕を、ぁ、案内…………」
「師匠、一体何を…………」
「悪いな、エド。既にお前の機体に乗って変化したルーが出撃した後だ。」
「なっ!そんな事聞いて僕はこのまま寝ていられる筈無いであろう?どくが良い!って、これは…………」
「ルーからだ。国の本来の王であるお前を向かわせる訳にはいかない。決着なら僕自身で着ける。その重湯。ルーが用意したものだ。今のエドの体調に合わせて魔法耐性付けて呪いを跳ね返す効果付けたヒールウォーターでちゃんと塩分利かせて重湯炊いてたんだ。なんちゅう物で炊いているんだと俺は思ったんだが…………」
「…いや、普通に美味しい重湯だったぞ?」
「……………味覚まで狂ったか、エド。」
「煩い!ルーが本来どんな人間だったか思い出せたのが嬉しかっただけだ。僕は決めたよ。通信出来る施設はあるか?」
「ルーに連絡取るつもりなんだな。案内しよう。モハメド、悪いが。」
「ううん、問題無いよ。ルーベルトさんの機体もあったからそこからなら通信いけたと思うんだ。転移!」
んでね、僕たちの前にはルーベルトさんの愛機があったんだ。格納庫前でね。突然現れた僕たちに整備士さん達も驚いてた。慣れた感覚でさっさと乗ってね。前の座席にね。エンジンかけてコックピット締め切ったんだ。当然、僕たちは締め出しを食らってさ。何事か話した後、突如、姿を消したんだ。僕たちは慌てたが、整備士さん達のおかげで外からコックピットが開けられてエンジン切られてホッとしたんだ。でもね。
エドとルー。この二人。生き急いでいる気がしてね。僕たちの心の中で。
「僕たちの本当の父上様と母上様を助けて下さい!お二人が無事でいてくれたら僕はどうなっても構わない!」
って、ジークの心の叫びが聞こえて来たんだ。僕たちは結局、子供達二人と師匠をモハメドに乗せてドックファイト真っ只中の戦場に出撃する羽目になったんだ。子供達も決着するの。見たかったのかも知れない。結界とシールドとリフレクト2で張られたモハメドと言う名の特等席だ。
ルーが作ってくれた重湯飲んでから嘘の様に身体が軽くなったんだ。まぁ、本当の事を言えば下手物感満載だったのは否定しないさ。味がね。重湯のそれじゃ無いんだ。ハーブティーで煮た様な重湯って感覚でほぼ間違いない。でも、ルーが僕の為に作った。ってそれだけで凄い勇気を貰えたんだ。
こういう時、男って実に単純に出来てるんだ。ウダウダ悩んでたのが馬鹿馬鹿しくなる位だ。
僕はモハメドの魔法で転移してすぐ、これがルーが乗ってた代物だとすぐ判別付いたんだ。オーストラリアの国旗に白い薔薇の意匠が所有者を表してたんだ。同型機だから作業なんてなんの問題無かったんだ。聞かれたく無い事もあるだろうからとコックピットを閉めて通信を開始したんだ。
「聞こえてるか?ルー。僕だよ。エドだよ。僕は月で囚われの身であったがピール君のお陰で無事だから安心するが良い。そもそもそなたはずるいぞ。僕に抜け駆けして僕に化けてドックファイトを仕掛けるつもりの様だが、僕だって参加する権利がある筈なんだ。異論は認めぬ。さっさと後部座席に移り、僕を転移すれば良かろう。今、ルーの愛機の中で待機中だ。」
「……………エド。エドが帰って来たんだ。」
そう言ったと思ったらいきなり飛んでたよ。僕は中将の時に着てる軍服のままだったけどね。懐かしい最愛の人は変身解いて後部座席で泣いてた。僕はね。狭いコックピットで白い髪を撫でたんだ。随分と様変わりしてた。光り輝く様な素肌には艶すら無く頬もやつれ切っていて。僕は。
「僕のいない間、随分苦労をかけた。そなたの心の傷を僕はどうやって癒せば良いか想像すらつかないが、僕は時間がかかっても良いからそなたと再構築していこうとそう思っているんだ。だから、これは命令だ。そなたは何があっても逝ってはならぬ!もし、それでも此処にいるのが嫌だと言うなら僕も遠慮なく連れて行くが良い。もうこれ以上、そなたの泣く顔は見たくは無い故。遠慮なく言うが良い!」
「はいっ!」
ルーが泣き笑いの様な顔を浮かべてくれて僕は少し安心しただろうか。だけど、敵前にあるが故に僕たちには感傷に浸っている暇は無く、ルーから僕のヘルメットを受け取り酸素マスクをしてデカい顔をしてエリザベスの玉座に座るあの男に通信入れたんだ。
「ヤァ、久しいな。偽者の僕。君には散々煮湯を飲まされ、僕の最愛のルーを奪われ凌辱されると言う憂き目に遭わされたが、僕たちがそこまで優しくないって証拠を見せよう。僕たちは貴殿にドックファイトを申し込むよ。勿論、将軍の地位にある君が敵前逃亡なんて真似する筈もないであろう?僕になりすました不死族最後の生き残り。ゲームの参加権はそなたにのみ与えられる。命が惜しくば他の者達は僕たちの戦いを見守るが良い!」
そう言って通信回線わざと開けっ放しにすれば、まんまと僕の挑発に応じる事にした様だったよ。彼は。僕は撃墜予告を出した。5分以内で落として見せよう。と。ざわつく中で無事彼は出撃した様で、まんまと計略に落ちた事に内心僕はほくそ笑んだ。




