真偽。1
僕はね、モハメドに服渡してからね。一連の様子。観察してたんだ。エドは宇宙服着込んでスペースシャトルがちゃんと動くかどうか。メンテナンスに移ったんだ。僕も宇宙服着て手伝ってたんだ。本当に父さんの残してくれた遺産は凄いよね。スペースシャトルもその一つ。元を正せば宇宙空間に浮かんでいた残骸で作られてるなんて思いも寄らない位、精巧で精密なんだ。まぁ、それでも僕が分かる範囲は手伝ってたんだ。モハメドには服着たらパソコン立ち上げてスペースシャトルに接続して内部からシステムメンテナンスかける様に指示したんだ。モハメドは有名高校の情報処理科を主席で卒業してたからその辺の作業に些かの問題も感じなかったんだ。
「まさか、イヴァン博士と同じ道を志したにも関わらず、経験を積む事無く介護してたとは。そなたは後悔無かったのか?」
「そりゃ、未練が無かったと言えば嘘になりますよ。でも、僕は父さんの残された時間に限りがある事を知る立場にありましたから。僕は後悔してないんです。父さんの人生が燃え尽きるその最期の日まで僕は側にいる事を許されたから。僕、モハメド、師匠、幸太郎さん。このメンバーだけだったんです。臨終に立ち会えたのは。神様になったのには流石に驚きましたけどね。でも、今でもきっと僕たちの歩み。見てると思うんです。今も皇帝陛下と共に幸多き時を送ってる事に安心さえしてるんです。」
「そうであったか。僕があの時、宮様を失った悲しみに前後不覚になってさえいなければ…………」
「たらればの話はもう辞めましょう。エド。きっと、地球に戻れば真実を知った民衆がきっとあなたを探してる筈なんだ。騙されてるとも知らずに婚姻してしまったルーベルトさんの問題だってある。子供達も疑いの目で見られてるでしょう。それを解決しないまま逃げるのだけは辞めましょう。貴方の為人を知らない人はいない。エルフ狩りなんて可笑しな事態。本物のエドならなさる筈もない愚行中の愚行。それを民衆がどう捉えるかに賭けるしか無いんです。」
「そうだな。当たって砕けるまで。確かにその通りであったな。僕の名前で散々不幸になった人達への後始末から始めなければならない。暫く、ルーは後回しになりそうだが許してくれるであろうか。」
「僕も流石にそこまでは。ただ、事の真実は僕を通じて父さんが知り関係者には教えてくれているでしょうから暫く僕たちと一緒にいればその内、向こうから何らかのアポ。来るんじゃないでしょうか?だけど、父さんは同時に警戒してると思うんだ。貴方自身を。真偽を見極めるまで。だから、どの道直ぐに解決するとは思わない方が良いでしょうね。」
「……………まぁ、当然であろうな。僕が同じ立場に立たされても同じ対応をする。イヴァン博士の対応は正しいよ。」
「…………」
そこからは作業に集中したんだ。残念ながら、現場に立ち会った事のない僕は戦力どころか足手まといで。それでも、エドは色々説明しながら教えてくれたんだ。丸々1日かけてメンテナンス終わったんだ。油交換だったり細々とした作業はあったけど、無事、地球まで帰還する目処が立ったんだ。但し、食糧に関しては飢える事になったんだけどね。呆れた事に食糧庫らしき物物色してたけどさ。殆ど見当たらないんだよ。食べ物。人数が少ない事もなく、稼働してない農業プラントの方が多く残されててね。で、遺体の数も不死族13名に対して罪人エルフの数が50数名にまで減ってた。エドが言うにはね。
「不死族の食糧は人間の精力なんだ。だから、食糧プラントを稼働させる必要無いんだ。食糧を必要とするのは我々人間とエルフだけだ。出してある分だけの食糧さえ有れば問題無いんだ。という訳で録に稼働して無かったと思うんだ。僕も普段は水牢の中で眠らされてたよ。僕が出ていたのは拉致された直後と最近の数日間位でね。正直、ご飯まともに食べてない状態で10年も生き延びていられた理由。さっぱりなんだが。」
「ひょっとして、冬眠なさってたからご飯食べる必要無かったんじゃないでしょうか?」
「冬眠な。まさか嘗てのルーみたいな事に僕がなってたと言うのかい?」
「あり得なくは無いとだけ。水も生命維持に必要な水温なら可能でしょうね。ナスターシャは魔法の達人でしたからね。まぁ、その口もピールが封じてしまって真相は藪の中ですが。」
「まぁ、断食してると思えば苦にならないけどね。僕達は。でも、エドはそうも言ってられないですよね。」
「いや、今は食欲すら湧かぬ。このまま地球に帰還した方が良いだろうな。早速出発しよう。今は此処に一時でも居たく無いんだ。」
「まぁ、気持ちは分からなくないですけどね。僕はこれでも大司教なんでこの大量の遺体の放置はちょっと…………」
「そうであったな。」
僕たちは食料捜索を諦めて遺体を1箇所に集めたんだ。どれもこれも目を覆う様な死にっぷりでね。取り敢えず、クエイクで穴を掘って全ての遺体を埋めたんだ。分かる様に墓標まで建てて簡単だけど葬式してからね。スペースシャトルから救難信号出した状態で月から飛び立ったんだ。エドが操縦一手に引き受けてくれたんだ。エドがいなかったら正直なところ脱出すら難しくてね。月から救難信号出して、それ程経ってない内に何処かの軍隊と思われる通信が入ったんだ。
「此方、ローグフェルグ軍宇宙型戦闘空母、旗艦フローレンス。スペースシャトルにて発信された救難信号を受信した。月での事故が所以の生存者とお見受けしたが、生存者全員名前を教えてくれないだろうか?」
それもそうか。最近の戦艦ならビデオ通話が可能だけど、スペースシャトルにはそんな機能無かったと記憶してるんだ。僕は名乗りを上げた。
「生存者と言うのが正しいのかどうかは分からないが、僕はピール・ムハンマド・イヴァン・スワロスキー。先日、ムーンフロンティアでの父さんの1周忌法要の際に最愛のお方、モハメドと共に拉致されたのは既にご存知とお見受けする。後一人いるが、多分、御名を聞いたら卒倒する事請け合いのお方とだけ言っておくよ。勿体ぶってる訳では無いけど、イギリスが大混乱に陥る事は確約済みとだけ。」
「承知致しました。ピール大司教。ご無事で何よりでした。式典直前に拉致されたとあって国民のみならず世界中が心配しておりました。まさか月に拉致されていたとは思いもよりませんでした。世界中の警察総動員して捜索に当たっていましたが。見つからない筈です。主犯は、魔王だったお方で間違いないんでしょうか?」
「間違いないよ。でも、僕は同時に世界で一番罪深い大司教になってしまったけどね。僕たちは気がついた時には魔法を封じられていたから最終手段を取るしか逃げる方法無かったんだ。正当防衛成立するかどうか怪しいとすら僕は思うんだけど。」
「その辺は既に我が皇帝陛下も事の成り行きをご存知でいらっしゃいます。ご安心なさって下さい。そして、もう一人の方にも会ってお詫びをしたいと陛下は仰せです。」
「委細承知した。この後、何方に向かえば良いか?」
「恐れ入りますが、地球に突入の前に幾つかの聞き取り調査を得たいのでその場で待機を願いたい。救難信号はこのまま保持して頂きたい。我らも現在、世界政府の命を受けて保護に向かっているが、イギリス軍が独断で動いているとの情報もあるんだ。イギリス軍の手に落ちれば全員の生命が危機に晒される。先に、皇帝陛下が自らお出ましになり保護に当たる故に、このスペースシャトルは放棄せよ。と御命じになられている。皇帝陛下は思い出深いこのシャトルを宇宙空間に放置せざるを得ないのは断腸の思いだが、姉上と未だに慕う可愛い弟達の命には変えられぬ。とそう仰せです。」
そう言う会話を聞いてる内に僕たちは黒髪の小柄なエルフが直接船内に飛んで来たんだ。嘗ての戦闘服でね。姉上様が助けに来てくれたんだ。エドは席を立ったけど、躊躇ってたんだ。その手を伸ばすべきかどうか。助けを乞うべきかどうか。迷ってたんだ。僕はつかさず、
「姉上様!」
そう言って飛びついたんだ。今じゃ僕の方が背が高いのにね。姉上様は笑って応じてくれたんだ。
「心配しましたよ。ピール。無事で何よりでした。モハメドも。」
「はい、僕もお会いしとう御座いました。陛下。」
そして、僕たちの頭を散々撫でた後に姉上様は手を差し伸べたんだ。エドに。そして、こう話し出したんだ。
「やっと本物の貴方を見つける事が出来ました。エド。私も、ルーちゃんも貴方が入れ替わっていた事ぐらい存じ上げていましたが、ルーちゃんも家族を守る為に自我を失ってたので私自身を守るのが精一杯で。苦労をかけましたね。さぁ、この手を取るのです。エド。貴方が大事に思ってる家族がずっと貴方の帰還を待ってるのです。」
「恐れながら、僕は……………この11年の間。何も知らない訳ではありません。僕は家族を受け入れられるのか。自信がありません。」
「…それも全てはナスターシャの策略の内でしょう。ですが、貴方の一族は『千里眼』と言う力を持って生まれて来ているのです。貴方と言う人質を取られていたが故。家族を守る為に敢えて言いなりになるしかなかった事ぐらいは全員理解しているのです。ジークは真実が分かっていながら何一つ出来ない自分に憤りながら成長し、幼いながらも暴力に耐えながらエリーを守って来ているんです。今度はイギリスと言う国を貴方が救わねばなりません。だからこそ、共に参るのです!さぁ、早く手を取るのです。貴方が思ってる程、時間に猶予は無いのですから!」
こうして、エドはその手を取る事を選び、僕たちはスペースシャトルを放棄して旗艦フローレンスに飛んで無事保護されたんだ。だけど、風雲急を告げるとはこの事で。僕たちの思いとは裏腹に戦争の足音は徐々に近づいていたんだ。




