忍者のリンちゃん 華麗に登場!
翌朝、ランニングを終え、宿泊してるホテルのいつものスイートルームに戻ってくるとそこには筋骨隆々の男と何とかしてくれ!と顔で助けを求めているバイソンさんの姿があった。何だってこんな事に。
「ジークの野郎、ゲテモノを寄越して来やがって!」
「あら、失礼しちゃうわね!こう見えてもワタシ、27歳のオトメよぉ〜」
「そんなオトメがおるかぁ!」
「「…………」」
うわぁ、早朝からカオスだよ。
どうしてこうなった。
筋骨隆々の男はオネエさんだったか。
イヴァンなんて恐らくこう言う方々に会うの初めてなんだろうな。完全にフリーズしていらっしゃる。
スイートルームに常駐してる護衛の方々まで「ああ、来ちゃったか。」って顔をしている。
どうなってるんだこれは。
オネエさんは私達を見つけると、華麗なステップを踏みつつ歩み寄って来た。
「あらぁ!貴方が護衛対象のイヴァン博士ね!テレビで拝見したけど、実物の方がイケメンねぇ!」
「…………」
「そして貴女がエルフ族の女王陛下ね!何て愛らしいお方なんでしょう!」
「あの、私の事はミサトで良いです。あの、失礼ですが、どちら様でしょうか?」
「まぁ、ご挨拶が遅れましたわぁ。ワタシは世界政府からイヴァン博士の護衛の為に来ました望月麟太郎と言いますが、イケテナイので、ワタシの事はリンちゃんって呼んでね!」
「はぁ、宜しくお願いします?」
「宜しくお願いするわね!」
キラキラした笑顔で私とイヴァンに挨拶してくれたリンちゃんは、上機嫌に挨拶した後、私に女の子なんだからオシャレしないと!って言い出していきなりゲストルームに連れて行ってコーディネートを始めてしまった。私は思ったよ。なにしに来たんだよ!って。でも、余りに楽しそうに服を選んでくれてメイクも髪型も服装もコーディネートしてもらったらそこにいるのは別人の様な私だったよ。
「ねぇ、リンちゃん?」
「あらぁ?なぁに?」
「リンちゃんの職業って…………」
「ワタシはこう見えても忍者の末裔でね、忍術を会得してるけど、今回はねミサト様とイヴァン博士の剣術を見る様申しつかっているわね。」
「…職業間違えてるって言われない?」
「良く言われるわね。」
「あの、この後鍛錬あるから、こんなにオシャレしてても…………」
「何言ってるのよ!女ってね、旦那さんを喜ばせてナンボよ!」
いつも変わり映えしない地味な服しか着ないけど、イヴァンが喜ぶなら吝かでは無い。
「リンちゃん、私に色々教えてね!」
「もちろん!素材が物凄く良いんだから、一緒にオシャレ楽しみましょう!」
私は思ったよ。リンちゃんとなら仲良くやっていけそうだと。他の男性陣が軒並み引いてるけど、リンちゃんのは個性なんだ。きっと。恐らく。
リビングに戻るとイヴァンを初めとした男性陣の視線が痛かった。
誰かの可愛いという声で全員見惚れているのが分かった。余りに私に視線が集中するものでついつい独占欲が出てきたイヴァンは
「これは俺だけのものだからなぁ!」
とか言い出すし。だけど、本来の仕事もしないといけないからとリンちゃんが言うので、今や練習場と化しているミスリル砂漠で練習開始となった。私は個別のメニューだが、剣術初心者のイヴァンにはリンちゃんが付きっ切りで教えてくれている。イヴァンの口からぶつくさロシア語が飛び出している。耳がすごく赤い。私も普段通りの練習をするが、これは今晩からイヴァンが荒れそうだなって思った。
昼間から撃ち込みをしたが、どうも意識が私に向いている様でイヴァンは訓練にならなかった様だ。
今は私はリンちゃんと訓練をしている。真剣で普通にやりあえそうな相手にワクワクした。まぁ、実際には鞘のままだが。目で捉える事が難しい私の剣を難なく見切っているのは流石だなと思った。ギリギリで鍔迫り合いをして、リンちゃんの胴を薙ぎ払いで1本取って終了となった。
「成る程、ミサト様の剣術には問題ありませんね。ただ、これではパワーファイターのイヴァン博士のお相手は難しいと言うのは良く分かりました。明日からは午前中は別メニューで、昼間から合同での練習とさせて頂きたく思います。大体、自分の奥様の可愛さはご存知の筈でしょうにいつまで惚けてるんでしょうね。」
「……………反則だぞ、テメェ。」
「あらぁ、戦闘が自分の都合で起きるわけじゃないでしょう?今のままではミサト様に見惚れている間に殺されかねないので、ワタシが護衛につく以上、ミサト様の美貌に慣れて頂きますよ。」
「そんなんありかよ!ミサトの可愛さなんて俺だけが知ってれば良いのに…………」
「でも、嬉しかったんですよね?」
リンちゃんに助け舟を出す。
「そりゃあ、まぁな。俺の女はこんなに可愛いんだって世界中に自慢したい位には…………」
「…………」
イヴァンさん、それ、世間一般では惚気と言うんだよ。思わず釣られて赤くなったよ。
「リア充爆発しろっ!」
「数日前の俺も同じ様な事を言ってたけど、今ならこう言うな。ザマァ!」
「あはははは!」
私は心から笑った!イヴァンともすっかり打ち解けた。今日は本当にどうなるかと思ったけどリンちゃんと一緒にみんなと旅に出る。賑やかな旅になりそうだなぁって思った。
それから2週間が過ぎたある日、いよいよイヴァンの武器の最終調整に入った。実物を見た。形は完全に刀だ。ただ、ライトセーバーを基本としてしかもイヴァンの作った代物にモーターの様な物を取り付け尚且つ静音化まで施されている事にイヴァンは驚きを隠せなかった。バイソンさんはミスリル素材だからこそ出来たとドヤ顔だ。
「まぁ、イヴァンの持つ武器だからこそ自分が研究した代物を武器にって思ってたんだが、レーザーにも色々あるんだな!イヴァンに色々聞いて今回は勉強になったわい!今回の武器はベースは見たまんま刀じゃ。じゃが、鍔を回すとこの様に刃の部分にレーザーを纏う。近接じゃと普通のミスリルの部分で問題無かろう。でだ。遠くのは相手にはこんな感じじゃ。」
そう言ってバイソンさんは一振り刀を振ってみた。すると、衝撃波みたいなのが線を伝って飛んで行った。
私もイヴァンもリンちゃんも
「「「おおお〜」」」
と、歓声を上げた。バイソンさんはまだあるらしく、今度はライフル銃を取り出した。
「もう一つはこれじゃ。ビームライフルじゃが、弾の方を改良してな。ビームを細切れにして打ち出す方式を採用してみたんじゃ。何でも、月じゃ弾を補給する概念自体が無いからの。ただ、電気を使うからバッテリー内蔵なのが痛い。こいつは常時充電を必要とするから状況を見て使うと良い。早速、試し撃ちしてみるか?」
「はい!」
イヴァンはライフル銃を構えた。リンちゃんが
「宜しく〜!」
と言うと、いきなり標的が3枚出てきた。それを
パリン、パリン、パリン
とあっさり撃ち落とす。標的は息もつかさない勢いで射出されるが、イヴァンは事も無げに撃ち落とした。
「イヴァン、本当は狙撃兵だったんじゃ無いのか?」
「いや、そうなんですけど月で軟禁されてたから武器の類は持ち合わせが無くて。」
「抜かったわ。そうと知ってれば何故、ガンブレイドだったのか理由がわかったのになぁ。」
「え、バイソンさん、どっちがメインか迄は分からなかったんですか?」
「当たり前じゃ!あんな馬鹿デカい代物をブンブン振り回していたからてっきり喧嘩がメインとばかり思っておったわい!」
「…………」
「でもまぁ、この滞在は決して無駄にはならんかっただろう。何せ、敵が近くに寄って来られても迎撃する手段が出来たのは大きい。新しく作った刀の機構に組み替えるだけじゃ。そう時間はかからん!予定通りにここを出発すれば良いじゃろう。だが、問題があってな。今のメンバーは4人だから定員オーバーなんだよ。」
「ふむ、んじゃ全員若しくはそれ以上人が増えても大丈夫な様にすれば良いんですよね?」
「なんじゃ、当てがあるのか?イヴァンよ。」
「はい、スペースシャトルは世界政府の要請で既に提出済みなんで使う事が出来ませんが、パーツなら爺さんが大量に入れてくれてたんですよね。こう言っても俺、エンジニアですから大抵の物は作れますよ?」
そう言って、イヴァンは大量にあるガラクタをこれでもかとアイテムバックから出して行った。
「随分と凄い量。イヴァンのアイテムバックをゴミ箱と勘違いしてるんじゃないかしら?」
「ワタシだったら何してんのよ!って言う量よ。これ。」
「まぁまぁ、俺のスペースシャトルも清掃活動と偽って貯めたスペースデブリを再整形して作られてるからさ。細かく分別してバイソンさんの炉で溶かしてやれば何とかなると思う。」
もう、こうなると元々機械いじりの好きなイヴァンは寝食を忘れて砂漠に滞在する様になり、私達は必然的に野営となった。その間、私達はバイソンさんの商売の手伝いだ。もうすぐバイソンさんがエステルを去ると人伝に聞いた町の人がひっきりなしに砂漠まで足を運ぶのだから凄い。流石にさすらいの匠の評判は伊達ではなく、応対に追われたまま1週間が過ぎた。
目の前にあるのは船だ。空飛ぶ帆船が目の前にあった。これにはバイソンさんも上機嫌だ。
「凄えな、おい!帆布とか色々高かっただろうに。ミスリルで出来た帆船なんて豪勢じゃな。」
「まぁ、俺が要らない物下さいってリアカー引いて歩いたらあれよあれよと持ってきてくれたと言いますか。まさかその殆どがミスリルなのは想定外でしたが。」
「しかも、今回は魔法を弾くミスリルだから防御も高い。ミサト様の魔法も凄かったわね、1本の使用済み爪楊枝が1本の木に生まれ変わったから、内部は木造で快適に過ごせるわ!」
「私の力だけじゃ無いよ。みんな精霊達が頑張ってくれたからだよ。」
そう言って精霊達を慰労した。精霊達は嬉しそうに私の周囲を飛び回った。
「でだ、このエンジンはどう言う仕組みなんじゃ?」
「今回は、水を熱して水蒸気を推進力に変えるエンジンにしてみました。幸い、ミサトが大量に燃料になる木を用意してくれたので。後は大量の水を熱してやらないといけないので、ミサトの妖精魔法頼りになってしまいますが。大丈夫か?ミサト。」
「勿論、大丈夫よ。バイソンさん、次はどこに向かうんですか?」
「ここからだったら魔王城のあるエベレスト山だな。天変地異後に魔族領になった場所じゃ。注意しながら行こう。」
こうして、長い間滞在した浮遊大陸エステルに私達は別れを告げた。
次は、天変地異にあっても沈まなかった地 エベレスト山。私は熟睡中のイヴァンの寝顔を見ながら、この人は必ず守るんだからとそう誓った。




