野望故に変わり果てた愚かなる賢王。
俺は、ミサトと共にエルフの神が住まう神界の森に出向いたんだ。自身のメテオストライクを全弾受けた事でエドの支配から解放されて。人であるのが辛うじて分かる程度のルーベルトを責任持って面倒みろ!って説教してから数ヶ月過ぎてたんだ。勿論、セレネティア大陸は相変わらず俺が持ち歩いてるんだ。ピール達も回収してな。まぁ、ピール達を捕らえよって命下した時点で何をしようとしてたか明らかだ。
ピール達に罪着せて母上様を拉致したって言い含めて子供達の千里眼を悪用しようとしてるんだ。
エルフの神にも聞いてたから信じられなかったんだ。あのエドが、子供達に虐待?そんな事など流石に有り得ないって思ってたんだ。丁度着いたら、エルフの神が口に人差し指を当てて静かにする様に言うから、俺もミサトも従ったんだ。俺もミサトも目を疑う様な光景が繰り広げられてたんだ。エルフの神の前には泣き崩れたルーベルトがいたんだ。恐らく、正気に戻ってるんだ。
そしてな、小さいながらも立ち向かってるんだ。ジークフリート王子は。エカテリーナ王女を庇ってサンドバッグみたいになってるんだ。エドは狂った様に。
「ルシールは何処にいるんだ!千里眼で探せ!」
って言いながら大事にしてた筈の子供に手を上げ続けてたんだ。ジークフリート王子は痛みに耐えながら。
「父上様が、母上様を人形にしてしまったからエルフの神がお怒りになって隠されたんだ!」
「お兄様の言われてる事は本当なんです!お願いです!信じてください!」
エカテリーナ王女が泣きながら。ジークフリート王子をヒールで癒しながら、懇願するんだ。何がこの男をここまで狂わせたのか。10年と言う月日はこの男にとっては一体何だったんだろう。ルーベルトが神に懇願し出したんだ。
「お願いです。僕はどうなっても構わないので僕をエドの所に戻して下さい…………」
って、泣きながらな。ただ、俺は違うと思ったからエルフの神が承諾したのを機に口出しさせて頂く事にしたんだ。
「エドの所に戻るのが本当に良い事かどうか。10年前のあの男だったらどうしたか。ちょっと冷静になって考えてみようか。ルーベルト。」
「……………イヴァン大統領?」
「お前な、仮にもあの子達の母親だろう?父親が暴力振るってるのにさ。何甘えた事言ってるんだ?あの子達が縋れるのはお前だけなんだ。ルーベルト。なのに、お前がエドの支配下に落ちてしまったらあの子達は一体何を頼って。何を縋って生きていけば良いと言うんだ?しっかりしろよ!」
そう言って、俺はルーベルトの背中を叩いたんだ。ミサトはな、ルーベルトの体。抱きしめたんだ。何も言わずにさ。そして、頭撫でたんだ。真っ白い髪をさらさらとな。ルーベルトの奴。流石に慌てたんだ。この10年の間、洗脳されてる間に何をしてたのか。聞かされていたからなんだが。
「……………その手をお離し下さい。皇帝陛下。僕は、大罪を侵した身。御身が汚れてしまいます。どうか…………」
「…確かに、そなたはエルフが最も大事にせねばならない精霊王を生死の境に落とすと言う愚行を犯したが、それはそなたの意思でやった事では無かろう?洗脳されてルシールと呼ばれたそなたにショーンは忠告し続けてた。今すぐにでも隷属の腕輪を外して支配下から逃れないといけないと。結果的にその事がエドの耳に入ってしまい軟禁と言う憂き目にあったが、そなたはその場で抱かれていても常にショーンの身を案じ続け、魔力を与え続けてた事が分からぬ程、我は耄碌しておらぬ。恐らく、世界政府がイギリスに引っ越したのも、その魔力の流れをエドに感知されたからであろう?」
ルーベルトは静かに首を縦に振ったんだ。ルシール王妃様として力を悉く利用され続けたけど、その辺はちゃんと分かってたんだ。ミサトはな。背中に呪詛を唱えてルーベルトの背中に羽を生やしてその罪を許したんだ。それだけじゃ無い。ちゃんと連れて来てたよ。秋の精霊王ショーンを。痛々しい程弱りきってたけどな。
「やっと正気に戻ってくれたか。ルーベルト。俺はどうなっても構わなかったが、ずっと心配してた。」
「ショーン、君まで僕を許すと言うのか…………」
「当たり前だろう?一度、契約リセットされたから俺は再び主人を選べたんだけどなぁ。でもな、ずっとお前が頭から離れなかったんだ。美しすぎるが故にとんでもない奴に見初められちゃったが、俺は導師ルーベルトと死で袂を分かつまで側にいたいと俺は思ったんだ。だから、おかえり。ルーベルト。」
「今までごめんね。ショーン。辛い思いさせたね。ただいま。こんなに痩せ細って。みんなから魔力貰わなかったの?」
「ピールが見るにみかねて与えてくれたよ。魔力。じゃなきゃ、俺は死んでた。だけど、ピールには妖精魔法の適性なかったから僕は取り憑けなかった。いや、違うな。多分、生きてルーベルトと再会したいと願ったが故に他の人が魔力与えてくれてたのに跳ね返してたんだ。って今なら思うんだ。」
「……………本当に困った子だよ。君は。僕なんかとっとと見捨てれば良かったのに。」
「一言だけ言っておくぜ。ルーベルト。俺はこう思うんだ。確かに魔法を極めればお前の替えは効くだろうなぁ。だが、お前と言う人そのものは替えなんて利かないぞ。いつも控えめで真摯なお前に恋焦がれてた。妻という名の娼婦に成り下がったお前じゃない。もう、悪夢は取り除かれて正気に戻ったんだろう?今、何をするべきか。嘗てのお前なら俺が促さなくったって答えを出している筈だ。真実を見極めて子供達の未来を導き出すんだ、ルーベルト!」
「……………本当に僕は果報者だ。神になってまで真剣に考えてくれるお方がいる。心配して見守ってくれる方々がいる。こんなに心強い事は無いんだ。多分、事の成り行きみんな見てるんだろう?僕は、再び立ち上がる事にしたよ。その前にショーン、ちょっと回復するね。」
「おう!」
ルーベルトは直接口移しで魔力を与えてたんだ。一人と一柱。抱き合ってな。干からびかかってたのが、あっという間に回復してやがるんだ。ショーンの事はみんな心配してたんだ。だけどさ。
「俺、責めてあのお方に抱かれてから死にてぇよ。」
って言って魔力供与。悉く断ってたんだ。きっとな、エドの最大のライバルはショーンでほぼ間違いなかったんだ。今ならそんな気がするんだ。生きてる頃から常に何があっても生きるんだって俺にすら諭す様な男だ。ショーンに諦めるって選択肢は最初から無くて、ただひたすら待ち続けてたんだ。そして、望みを叶えたんだ。恋焦がれたお方の腕の中に戻るのを。本当に呆れる程に意志の強い男だよ。いや、精霊王か。
復活したルーベルトは呪詛を重ねるんだ。一気に5つも。詠唱が早い内にシールドで子供達への攻撃を弾き、リフレクト2で自分が与えた筈のダメージが自分に跳ね返って我に返ったんだ。転移魔法で子供達を回収して、ライトニングボルテックスがエドの頭上に落ちたんだ。そして、最後にヒールウォーターでジークの傷を癒したんだ。そして、怒りの言葉がルーベルトの口から紡がれたんだ。
「あなたは一体、どれだけの人を不幸にすれば気が済むんだ、エド!僕の敬愛する皇帝陛下の臣下であるにも関わらず、僕が何故従って来たか分かるか?エドなら皇帝陛下を幸せに出来るとそう思ったが故だ。だが、これはどういう事なんだ。皇帝陛下は自らの身の危険さえあった。僕は完全に隷属の腕輪の効果で操られてたから陛下を王妃に挿げ替える野望すらあったそうだね。ただ、直ぐに勘付いた陛下は直ぐに自ら結界を張った水牢に入り事無きを得てるけどね。日本の皇族を駆逐しただけでは飽き足らず、陛下の最愛の方を見殺しにした大罪。そして、僕たちが願って産んだ筈の子供達に手を上げるなんて暴挙。挙げ句の果てに僕の精霊王を殺そうとした。僕はもう、許す事は出来ない。子供達は僕が責任を持って預からせて頂く。全ての罪は既に世界に公表済みだ。それまでは僕が殺しに行くから待ってるんだな!」
「……………そなたまで僕の元を離れるのか。ルシール!」
「もう、僕をその名で呼ぶな。あなたの操り人形のルシールなら自らの魔法で滅された。もう、あなたのルーは何処にもいないんだ。僕は罪人故にもう、神にはなれないだろう。だけど、僕は死ぬ最後の1日まで母親でいる事を赦されたんだ。だから、残された日々をこの子達の為だけに捧げよう。世界政府の最高幹部の一人など、もうどうでも良い。ただ、このままだと僕を慕って支えてくれてるエルフ達が不憫だ。それ故に、あなたには呪詛を書き加える!」
そう言うと、エドの頭と心臓に魔法陣が2つ。描き出されたんだ。エドが激しく苦しみ出すんだ。首に巻かれた黒い紐状のものが悍しい位だ。何重にも鎖の様に取り巻いたそれは、エド自身の首を絞め続けているんだろう。泡を吹いて失神してるんだが、それにも関わらず、ルーベルトは自重なんて無かったんだ。俺は思い出してたんだ。仲間内で、こいつ程怒らせたら怖い人間いなかったなぁって。
エルフの言葉で腕に書き足されるんだ。
「この者は導師自らが滅ぼさねばならない大罪人。それ故に、一切の手出しを禁じる。」
ってな。流石に。
「ルーベルト、流石にやり過ぎじゃあ…………」
「やり過ぎ?そんな事ないね。僕だけだったら此処まで怒る事も嘆く事も無かったよ。でも、陛下と子供達とショーンは別だ。僕を形作る上で一番大切にして来たものを悉く傷つけた。僕の手を使って。甘言に惑わされて。僕は僕自身を許す事が出来ない。それ故に、僕にも呪詛を書き加えよう!」
「お辞め下さい、母上様!」
そして、エドにしたみたいに自分にも呪詛を書き加えようとするんだよ。それは流石にエルフの神が止めたんだ。
「もう、それ以上はお辞めなさい。ルーベルト。あなたの嘆き、痛み、苦しみは痛い程良く分かりました。ですが、今は母親の責務を果たさなければならない時です。慕って来た子供達の前でそなたまで苦しみ出せば、子供達はどんな気持ちになるか。今一度、冷静になるのです。心配しなくても、そなたの想いは果たされるでしょう。そなたが罰しなくても、世界が罰するでしょう。事の顛末全て、公表済みなんでしょう?世界は貝の様に口を閉ざして静観を決め込みますが、事態が既に明らかなのです。裸の王様になってる事に気がついた時失ったものの大きさに嘆き苦しみながら逝く事になるでしょう。あなたの力が無くても。それ故に、この呪詛は消しましょう。但し、私が自ら呪詛を書き足す。大人しく、そこで見ているが良い。」
こうして、ルーベルトが書き足した文言は消されて新たに書き足されたんだ。文面はこうだったんだ。
「この者は、神々の怒りに触れたもの。一切関わってはならぬ。関わりを持てば、即ち、神すらも敵に回すと心得るが良い。」
エルフの神が描いた呪詛の方が怖いと思った俺だったよ。まぁ、この後はルーベルト親子を回収してからお開きになって俺たちは宮殿に帰る事になったんだが。
「俺な、この世の中で一番怖いと思う者。更新された気がするよ。この後、エドがどんな風に狂っていくのか。見たくないなぁ。流石に。」
「…………」
俺たちは言葉が出なかったんだ。この先暗雲が立ち込めた気がしたから。




