国葬の日。
とうとう来たんだ。国葬の日。僕が大司教になってから初めての葬儀が父さんの葬儀になるとは思いもよらなかったけどね。大統領は父さんの最側近の人が継いでくれてたから凄く喜んでくれたんだ。父さん自体、これと言った宗教には縁が無かった。なので、葬儀の手順をどうしようかと悩まれていたそうなんだ。神となったとマスコミに発表されてたのもあって父さんの葬儀に注目が集まってたんだけど、僕が帰国して、父さんに帰依して直接神の教えを乞い、その教えを説き、今後はこの教えを広める為に世界を放浪するつもりであると公表してからはあっと言う間だったんだ。
父さんの教えってね。まぁ、性格出てるんだ。
人に迷惑をかけてはならない。
罪を犯してもならない。
学びは人を豊かにし、判断を豊かにするから生涯において、体験を通して学ぶ事を尊ぶ。
人は互いに愛し合い、お互いを支え合って生きよ。婚儀は特に性別は問わず、司教の立場であっても結婚の自由を許す。
朝と夜6時に鐘がなるのを合図に祈りを捧げて日々生きる事が出来る感謝を神に伝えなければならない。
後は何をしても自由だが、自由の意味を履き違えてはならない。社会に奉仕する事を使命とし、人々の役に立つ様な生き方を心がけよ。
ってこんな感じなんだ。結婚の作法とか、葬儀の作法なんかは姉上様にエルフ達の方法を教えて貰ってそれでやりましょうって事になったんだ。なので、お蔭様でどうにかなりそうなんだ。
法衣は新たに作ったんだ。父さんに作ってもらったんだ。昔からだったけど、裁縫まで出来るとは誰が思うんだ。派手な装飾は無く全身黒ずくめで、キリスト教の神父さんが着てる感じなのを少しアレンジしてたんだ。僕の髪の色は黒色ってのもあるけどね、10歳の時から伸ばしてる髪は腰を少々過ぎる位まで伸びてて、何時もモハメドが毎朝緩い三つ編みにしてくれるんだ。背後から首を守る為にね。流石に、前髪は普通に眉で切り揃えてるよ。くせっ毛強いからね。
そしてね、僕たちはいつも父さんと話しが出来る環境下にあるんだ。僕たち家族だったから特典ついたみたいでね。勿論、皇帝陛下とも。まぁ、いちゃついてるの分かってるからさ。用がない時は連絡差し控えてるんだ。二人からはさ。幸せオーラ?ダダ漏れ状態でね。最近、僕たちが此処にいるからだろうね。緑豊かになってるんだ。3月だから確かに春本番だろうけどさ。いつも以上に花が綺麗に咲き誇ってるんだ。エベレスト山が花の絨毯に覆われるって可笑しなレベルなんだよ。いつもならさ、万年凍土の筈だったのに。どういう事なのかと思ったらさ、あったんだ。ジークフリート・セレネティアって人が書いた預言書の中に2人の事が書かれてて、その一節に生きてる内は精霊を生むってあるんだよね。もしそれだとしたら、僕たちが行く先々で自然が豊かになるって事なんだよね。
僕を先頭に父さんの棺を抱えたパレードが続いたんだ。みんな泣いてたんだ。父さんの死を悼んでね。僕の後ろにはモハメドが続いてたんだ。大きすぎる遺影がその後に続いて旗が被せられたアイスコフィンが人々の手によって運ばれたんだ。随分と冷たい筈なのに、人々が交代しながら運んでいくんだ。少しでも神様の慈悲を賜りたくてね。
中央の広場に着いて、祭壇の上に遺体が安置されたんだ。そして僕は、父さんの宗教のシンボルマークも意匠を凝らした真新しい杖を棺に当てて。
「葬送の儀を執り行なう!」
って、宣言したんだ。僕の手元には沢山の白い薔薇の花びらがあってね。呪詛を唱えながらアイスコフィンに振り撒き続けたんだ。そしたらさ、ローグフェルグの皇帝陛下と共に父さんが顕現してね。みんな慌てて作法に則って頭下げたんだ。父さんはこう言ったんだ。
「この遺体は、子供達の自由の翼を手折るやも知れぬ。これは俺が預かる事にする。子供達に危害が及ばぬと分かれば改めて神殿の奥深くに置きに行こう。俺は何時も平和である事を心から願っている。ムーンフロンティアがこれからも長き時に渡って発展する事を願っている。俺は何時も全てを見続けるだろう。この地は未来永劫、俺の手で守って行こう。それ故、常日頃から良心を心がけよ。そして、ピール大司教の元、この教えが広まり全ての世界が機械の支配では無く愛で満ち溢れる世界になる様に願っている。今日は俺の為に来てくれてありがとう。俺の為に泣いてくれてありがとう。此処の民は俺にとってかけがえのない宝である。いつ如何なる勢力が来ようともこの地に手出しはまかりならん事だけは申し伝えておこう。」
僕は鍔の眼帯でも普通に見える様になってるんだ。陛下の目の力が強いから効力が弱まる魔法が眼帯にかけられてるんだ。多くの人がひれ伏す中に何名かご来賓で立ってらっしゃる方いたんだよね。成る程なって思ったんだ。いたんだよ。
御来賓の中にさ、一番来て欲しくない方々が。沈痛な表情はしているけれど、どこまでが本心でどこから作り物なのか。さっぱり読めない。まぁ、国のお付き合いってのもあるから仕方なく呼んだけどね。出来れば、もう二度と顔を見るのも嫌だね。
僕は呪詛を唱えながら長い長い詠唱をしながら、白い花びらを撒き続けたんだ。父さんが、此処の民達の事を死ぬまで案じていたのを知ってるから。
長い長い詠唱を終えて花びらが尽きたのを確認して僕は父さん達が顕現されてる中で僕はこう言ったんだ。
「以上を持って葬送の儀を終了する。皆のものは道中気をつけて帰られよ!」
そしてね、満足そうにお二人とも姿を消したんだ。民達は顕現した皇帝陛下と父さんの奇跡に感動した様子を口々に語りながら三々午後に帰って行ったんだ。そしてね、その様子はテレビで生中継されたんだ。父さんの教えはテレビでも紹介されたんだ。
式が終わって、後片付けが粛々と進んでる中、僕たちに声をかけて来てくれたんだ。僕たちの剣の師匠、剣聖アークさんとミラさんご夫妻と3人の子供達だ。
「よっ!お前ら。久しいな。逝去の時以来だな。今日は式に招いてくれてありがとな!」
そう言って、渡されたのは香典にしては随分と分厚い封筒だったよ。僕たちは目を白黒させてたんだけど。
「……………何も言わずにとっととずらかるぞ。お前達が一番会いたくない人来てるの。知ってるだろう?」
僕たちは揃って首を縦に振ったんだ。剣聖殿は僕たちに危害が及ばないか。様子を見てくれてたんだ。剣聖殿と父さんは孤児院時代からの幼馴染だ。そして、僕たちが転移魔法で飛んだのが剣聖が魔法で保護して剣聖一家以外は出入りが不能の幻の大地だったんだ。
「此処…………」
「そうだ。失われた筈のセレネティア大陸だ。此処はエルフ達と妖精達の楽園だ。先王ジークフリート様の命により、隠蔽を命じられた幻の大地になるんだ。」
「でも、僕たちを連れて来たのには訳ありますよね?何かあったんですか?」
「ああ。信じられない話だが、幸太郎達が住むイギリスの孤児院が何者かの襲撃を受けたんだ。勿論、全てシルフィードの餌になって頂いたが、アメリアを庇った幸太郎が意識不明の重態状態だ。で、幸太郎がお前達に会いたがってる。それで、急遽来て貰ったんだ。」
「…………」
「会いに行こう、ピール。何で襲われなきゃならないんだ。あの人こそ、聖人なんだ。何があったか。知る必要あるんだ。」
「着いてこい。こっちだ。」
僕たちは剣聖殿の案内で先を急いだんだ。大きな世界樹が中央にあって、周囲に墓地。その周りに集落がある変わった街の作りをしてたんだ。僕は、その一角に大きな病院あったの分かったんだ。病室に入るとね。アメリアさんが幸太郎さんの手を握っていたんだ。傍らにはアレクサもいたんだ。
「「幸太郎さん!」」
「幸太郎っ!一体、何があったんだ?アレクサから連絡受けて、孤児院の子供達全員まとめて飛ばしたんだが…………」
「…ごめん、ぼくのせいだ。ぼくがエドからピール君達を探してって命令受けたけど、何だか人が変わった様だったから断った上で辞めて来たんだ。エージェント。そしたらさ、人質取ろうとしてまで探させようとしたんだ。一体、君たちに何があったんだ?」
「きっとね、父さんがローグフェルグの皇帝陛下を連れ去ってしまったからだと思うよ。逝去後に父さん、賢神になったの知ってるよね。父さんの逝去後に一時、イギリスのウインザー城に3日位滞在してたんだ。僕の目の手術の為に日本から樹先生呼んでたみたいでね。で、手術自体は成功したんだけど、皇帝陛下を散々政治利用してたの父さん知ってたからモハメドのいる席でエド達から皇帝陛下を連れ去ったって訳。かなり怒ってたからね。で、僕たち匿われた先で魔法の勉強してたからさ。その後の事は知らないけどね。」
「そうだったんだな。こっちに帰って来たのは10日前だよね。打診されたのはそれよりも更に5日前でね。今日になってまさか、襲撃されるとは。正直言って、そこまで暴挙に出る様なお人じゃ無かった筈だけどな。」
「……………となると、これは警告だな。ミサトちゃんを返さなければ、イヴァンが大事にして来たものを一人残らず殺すってな。本当に、どうしてこんなに変わってしまったんだろうな。悲しくて仕方ねぇよ。」
「…………」
みんな沈痛な表情を浮かべたんだ。僕はパーフェクトヒール唱えたんだ。幸太郎さんに。そしたらね、傷が塞がってね、幸太郎さん。目を覚ましたんだ。
「…此処は……………セレネティアか。」
僕は驚いたんだ。幻の大地としか聞いてなかったから、此処が姉上様の故郷だとは思いもかけなかったんだ。
「ああ、ピール達は知らなかったか。此処な、ジークの遺言で秘匿されてるんだ。だから、地図にさえ載ってないんだ。」
「……そうだったんですね。でも、すみません。僕たちの所為で。」
「気にするなよ。アレクサの判断。正しいと俺は思ってるからな。」
「ありがと。幸太郎。ぼく…………」
幸太郎さんはアレクサの頭をグシャグシャにする勢いで撫でたんだ。だけどね、僕はこう提案したんだ。
「幸太郎さんの他の家族は無事なんですか?一時的にでも匿った方が良いかも知れません。」
「そうね、ワタシも気になるわ。直接行って保護しないと。アーク、悪いけど、ワタシについて来てくれる?」
「ああ、良いぜ。何処のお宅もお邪魔した事ある場所だしな!」
こうして、幸太郎さんの一族郎党みんな無事集まる事が出来たんだ。幸太郎さん。ほっとしたみたいだったよ。




