10年後。1
僕は20歳になって成人を迎えたんだ。飛び級して15歳で大学を卒業した僕は、世界政府の任官試験合格してたんだけど、その直後、父であるイヴァン大統領が倒れてしまったのを受けて相談の上、日本のAIの定期的な保全作業をする事を条件に休職が認められて以降、ずっと父の側で車椅子引きながら父の公務を助け続けたんだ。僕が留守の間はモハメドのお母さんであるアーリアさんか、アーリアさんが軍務で都合がつかない時は幻の大陸から剣聖アークとその妻ミラさんが子供達を連れて父さんの元に来てくれたんだ。
アーリアさん、子連れで結婚してるんだ。結婚したお相手はね、イギリスのルシール王妃の従兄弟に当たるエルフで名前をシューマッハさんって言うんだ。オーストラリアで空軍大尉してる軍人で結婚の為にイギリスに引き抜かれたルーベルト中将の後を追うかの様に入隊してキャリアを積んでたんだ。この頃には、軍籍を持つエルフはオーストラリア軍だけでも約2割に登ってたんだ。長命種であり、自分達の5倍生きて尚且つ魔法が得意な彼等は人道支援活動で大変重宝されてるんだ。重機が入れない場所でも彼等は魔力を用いて助け出す事が出来たからなんだ。なので、地球対月って愚かな戦争があって、ルーベルト中将って良い手本があったからだろう。戦後10年経つけど、ちらほらエルフが上官務める国が出始めてるんだ。
だから、アーリアさんの所属も現在はオーストラリア空軍で育児があるから休職中で階級は空軍大尉のまま。現在、新婚3年目のご夫婦には一人のお子さんがいらっしゃるんだ。名前はセシリアちゃん。エルフで生まれたから生後2年経っても僕たちで言う1歳児って感じでかわいいんだ。御主人に似たってのもあって目に入れても痛くないらしい。モハメドには期せずして妹が出来ちゃったみたいで正直言って羨ましい。
まぁ、その出会いも実に騒々しかったんだ。これはね、現場に居合わせたモハメドの話しで今から4年前。その頃には僕の父さんは人の手を借りなければ起きるのもままならない程、病状が進んでいたから父が以前お世話になったアルベルトさんとアーニャさんの合同葬儀に参列する事が出来なかったんだ。僕も側から離れられず、父さんの名代にアーリアさんをお願いしたんだよね。その関係でモハメドも一緒に参列する事になったんだけど、これがまぁ、頭抱える事態でね。
「もうね、今回ばかりはイヴァンお父さんに申し訳なくて。皇帝陛下主催の葬儀で、ローグフェルグが喪に服して粛々と葬儀してる最中に遅れて来た将校が居てね。僕たち末席にいたからね。お母さん、軍の将校だと分かったもんだから、葬儀中にも関わらず、遅れて来た将校に怒鳴りつけたんだ。『貴様、約束に遅れて来るとは何事だ!』って。そこから大喧嘩に発展しちゃったんだ。聞けば、訃報を聞いて紛争地帯から駆けつけたんだけど、何分にもローグフェルグは人類に隠された幻の土地だったから場所分からなかったんだって。そしたらさ、導師ルシール王妃に何故相談しないって言うから、そんな恐れ多い事出来るか!ってなって、取っ組み合いの喧嘩に発展しちゃったんだ。僕もイヴァン大統領の名前に傷が付くから辞めてってお母さん止めたんだけど僕、吹っ飛ばされた途端、打ちどころが悪くて失神してしまってね。この後僕は気がついたら皇帝陛下に手当てされてたんだ。で、皇帝陛下が仰るには僕が失神してるのにも関わらず助けようとせずに喧嘩し続けてるお母さん達に皇帝陛下はお怒りになってお二人を一緒に水牢に閉じ込めて頭を冷やせと命じたそうなんだ。その後、粛々と葬儀は終わったんだけどね。僕だけ帰されたの見たら分かるだろう?お母さん達、取り調べ受けてる。事情によっては解放するらしいけど、ただ、これには条件ついたんだ。『何故、イヴァンが葬儀に参列しなかったのか正直に話すが良い。基本、あのお方はお世話になった方に代理を遣す様なお人では無い。何かがあったのかは明白。』って陛下は仰ってて、エドワード国王陛下もルシール王妃も大層ご立腹で、『最愛の王妃であるルシールとイヴァン大統領の顔にそなた達は泥を塗ったのだ。申し開きがあれば聞くが。』って感じでね。お母さん、今は黙秘続けてるけど陛下の情に訴えかけられたらイヴァンお父さんの病状。余命宣告受けて3年生きられるかどうかなんだって言いそうなんだ。ピール、本当にごめんなさい。これからそっちに心配の余り皇帝陛下がちょくちょくお出ましになるかもしれない。」
そう言って謝ったんだ。剣聖アークもこの事は知っていたけど、彼は何分にも口が固かったから恐らく彼は一切話ししてくれないだろうと陛下達は踏んでてね。実際、聞いたそうだけど
「イヴァンから話すなと言われてる事を俺が話すとでも思ってたら大間違いだ。幸太郎も知っているが、幸太郎ももう歳だ。幸太郎の面倒は責任持ってアメリアが見てる状態だ。子供達と一緒にな。この場にいないってだけで察してくれると助かる。幸太郎も残念がってた。幸太郎も最近、調子悪いんだ。子供達を養う為にしたくも無い仕事受けてさ。テレビで評論家してるから知ってると思うが、今、軽い肺炎起こして入院中でこっちは数日の内に回復すると思ってる。アレクサは世界政府のエージェント続けてるから今日は任務の合間の時間をやりくりして参列してるぞ。エドには分からない様に、陰に隠れて護衛しつつって感じだけどな!」
って感じだったんだ。流石にその時は生前の父さんと相談したんだ。色んな治療を試みていたから美しかったくせっ毛の銀髪は全て抜け落ちてしまっていたし。体重も落ちて嘗ての姿じゃ無かったから幸太郎さん、アークさん以外の人には面会謝絶で通す事になったんだ。
アークさん夫妻はこの10年の間に3人のお子さんに恵まれたんだ。彼は夏の精霊王ネイサンを擁してたから地球上にあるもう一つの名前すらない幻の大地を妖精魔法で隠して多くのエルフと嘗ての同志たちの生き残りと一緒に住んでるんだ。この頃にはアークさんも特殊魔法を覚えてて転移魔法使える様になってたんだけど、そこで来たる日に備えて着々と準備してるんだって言ってたよ。彼等には本当に色々助けていただいたんだ。子供達ともすっかり仲が良くなっててね。上二人は男の子。末っ子は女の子でね。みんな額に賢者の石があるんだ。上からケイン、マルコ、エヴァ。最後の子に関しては大事な幼馴染が余命宣告受けた日に生まれてたからきっとイヴァンに縁のある子なんだろうなぁって思ったそうで。でも生まれてみたら女の子だっんでじゃあエヴァにしようってなったそうなんだ。余命宣告を受けたのは5年前。3年生きられるかどうかって医者にも言われてた位だった。しかも、病床にあっても常に民が幸せになる様にと願って車椅子に乗って公務に当たってたよ。良く頑張ったと思うんだ。弱音一つ吐かずに。バカンスと称して行くのは病院なんだ。そこじゃ、拷問じゃ無いかと思う様な過酷な治療が待ってるんだ。
国民にさえも伏せられてた病状が陛下達にバレたのはアルベルトさんとアーニャさんの葬儀が終わって数日後の事だったんだ。アーリアさん、根負けしてね。病状を聞いて慌てて飛んで来たんだ。導師様が。聞けば、子供達は旦那様に一旦預けて来たそうなんだ。病室に子供。入れないからね。止めたんだけどさ、腐っても軍人だから僕はあっという間に薙ぎ払われて強行突入されてしまったんだ。その時、いつも付けてる銀髪のカツラをカプセル脇に置いて、頭に帽子かぶって酸素を直接取り込む為に鼻から直接チューブで酸素吸入した状態でヒールウォーターの水に浸かってカプセルの中に入って眠ってたんだ。樹先生、いただろう?事情を話して最新式の医療用カプセルを父さんの為に用意して頂いてたんだ。僕は毎日見ていたからこれが普通だったんだけどね、余りにも変わり果ててるから驚いてね。怖い顔をして導師様が問い詰めるんだ。僕にね。
「どういう事か話すんだ。イヴァン大統領に何があったのかは聞いたけど、どう見ても、普通に公務出来る状態じゃないのに公務続けてるんだってね。何故、止めないんだ?あなた家族でしょう?このままだと死ぬよ、彼は!それでも良いのか、ピール君!」
「……………随分勝手な言い草だね。そもそも、父さんを引き離して置いて良くもそんな事が言えるね。父さんは、その命が尽き果てる最後の日まで民の為。如いては国の為に身を捧げるつもりでいるんだ。僕だって知ってるさ、体調がおかしいって気が付いたのは2年も前だ。僕も病院に行けって何度も何度も説得したけど僕の話は聞いて貰えなかった。もし、そこに姉上がいてさえくれてたら、病気になるって事はあっても命に関わる事態にはなってなかったんだ!確かに実際の姉上の歳になれば僕だって馬鹿じゃない。事情は汲むに余りある事位分かってる。でも僕はあなた達が父さんの首を締めて殺したんだと思って生きるつもりでいるんだ。あなた達に出来る事なんてもう、一つたりとて無い。余命宣告受けたのは1年前だからもう、生きる時間。限りあるんだ。もし、あんたらに慈悲ってものがあるのなら黙って父さんの生き様見守れよ!それが出来ないんであれば母国に帰って二度と父さんに関わるな!」
そう言って追い返したんだ。だけど、導師様。やはり只者では無くてね。随分と暴言を吐いてこれでもかって言わない位にズタズタに傷つけた僕に色々と細やかな気配りしてくれて、まず、医療に関する専門チームを派遣してくれてね。病状を把握してくれて僕に教えてくれたんだ。治療方法をなるべく体力を温存する方法に切り替えてくれて。次に、ヒールウォーターの水を毎日届けて下さったんだ。何でも、新鮮な水の方が効力が高いらしいんだ。届けられる水は実は2種類あったんだ。普通の水はルシール王妃様お手製だったんだけど、そこに金粉が混ざる水が同時に届けられてたんだ。聞けば皇帝陛下が作った水だったんだ。精霊王達を擁する彼女達が作る水は普通の妖精魔導士が作る水より純度が高かったから効果が高くてね。でも、金粉が入ってる製水は流石に機械に入れられず。ルシール王妃様の水は毎日使ってるカプセルに浸かる為の水として利用させて頂き皇帝陛下の水は飲み水だったり父さん専用のご飯の為に遠慮なく使わせて頂いたんだ。お陰様でね、病床にあっても父さん最後のひと時迄国の為に働く事が出来て、国の制度が盤石になったのを見届けてから眠る様に息を引き取ったんだ。車椅子の名君と謳われたイヴァン・スワロスキー大統領。享年55歳。余りにも。余りにも早過ぎる死に僕だけでは無く多くの民衆が悲しみに包まれたんだ。追悼の明かりは家々に灯されて、消える事なんてなかったんだ。




