それから。
結局、私たちは数日も経たない内に地球に帰投を命ぜられて帰還する事になったんだ。月には、イヴァンとピール親子、アークさん夫妻、アーリア空軍大尉とモハメド親子、沢山の世界政府のエージェント達と、イヴァンが襲撃を受けた事もあって日本陸軍の精鋭部隊がみんなの護衛の為に残る事になったんだ。もし、追加で部隊の派遣が決まった場合は私がルーちゃんのいずれかが命令を受けて転送の任に当たる事になったんだ。
イギリスでエドが購入を進めていた土地。あれも城になった後に私が住む事になったんだ。イヴァンと一緒ならともかく、一人暮らし。尚且つ、ローグフェルグの職員達もこれからって事になってたし、城自体も建てるのがこれからだったから正直言って白紙で良いんじゃないかと思ったんだけど。
「ウインディアを引き取った以上、預言者になっているそなたはこれから世界政府の要人となるのだ。そんなそなたを自由にさせておく訳が無かろう。成人して、社会に出てもそなたは籠の中の鳥にしかなれないのだ。」
私の心が急速に冷えていくのも時間がかからなったんだ。私は、心を閉ざしてしまおう。って、そう思ったんだ。そんな中、日本に着けば解団式が行われて徴兵解除になったんだ。
私は、手を振って仲間達を送ったんだ。バイソンさんは放浪の旅に消えて行ったんだ。
日本では樹先生、泉先生とさよならしたんだ。
イギリスに着けば、幸太郎さん、アレクサ、中身がリンちゃんのアメリアさんと離れ離れになったんだ。生前のリンちゃんが再就職先の孤児院見つけてた。そこで余生を生きるんだって言ってたけど。
「俺たちはもう、会う事も無いだろうな。ミサトちゃんの預言者の力がそれを許しちゃくれねぇだろう。エドが後見人となれば俺も安心できるってもんだ。イヴァンの事も俺たちに任せておけば良い。」
私は身につけていた誓約の腕輪と結婚指輪。魔法を解除した上で幸太郎さんに渡してイヴァンの事をお願いしたんだ。誓約の腕輪が有れば、何かあった時にイヴァンの元に直ぐ駆け付けられるから。幸太郎さんに取り付けて貰って魔法を唱えて固定したんだ。右手には何かあれば直ぐ駆け付けられる様に同じ様なものを作ったんだ。幸太郎さんには迷惑をかけてばかりだ。だけど、私はイヴァンに会いにいく事すら許されないのだ。笑ってサヨナラしたけど、ただただ悲しかったんだ。
ウインザー城で生活、始まったんだ。エド達も色々気を使ってくれていたけど、イヴァンと一緒にいた頃に比べたら新生活も味気なかった。
エドは国王陛下として即位したんだ。ルシールと名を変えたルーちゃんと結婚した。戦後しばらくしてルーちゃん、双子の懐妊が分かったんだ。二人は凄く幸せそうでね。羨ましかった。イヴァンの事を諦める様に言い渡されてはいたけれど、イヴァンの事は忘れずにずっと思ってたんだ。
高校も卒業したし、大学も卒業したんだ。私も軍籍を得て、世界政府の最高幹部の一人となったんだ。
その頃にはローグフェルグ皇国も少しずつ発展してて、移民をある程度受け入れて君主として世界を股に活躍してたんだ。預言者の力を借りたいと言えば未来を見たし、調停を頼まれれば乗り出したんだ。頑張っていれば、イヴァンに胸を張って会えるとばかり思ってた。たった5ヶ月ほどだけど、一番光り輝いていた時間だったんだ。私は願い続けたんだ。再びイヴァンと共に歩める日を。
だけどそんな私に訃報が舞い込んだんだ。
「嘘…………」
それは、幸太郎さんから久々に貰った1本の電話だったんだ。
「イヴァン、死んじまったんだ。詳しい話は電話じゃあ到底話きれん。直ぐにムーンフロンティアの大統領府迄来てくれないか?」
「分かりました。直ぐに行きます。」
昔、魔族領のあった地点にイヴァン達が月から民衆を引き連れて戻って来て。新たに国を興してたんだ。月の臨時政府だったものは独立を受けて正式に承認されて国として認められて、イヴァンはそのまま大統領になってたんだ。勿論、その時にリンちゃんが冗談でやったローグフェルグの大統領は辞退してたんだけどね。イヴァンはここで日本が不毛の地になるのを知っていたから民衆達の力を借りて農業大国として国を運営してたんだ。米とか野菜とか畜産物を機械で生産管理して大勢の日本人達が飢える事が無い様にする事で多額の利益を得て国を整備して暮らしやすい国に変えたんだ。もう、ここには月にいた頃の様に飢えて痩せ細ってる人はいない。人を売らないと食料が貰えないなんてない。イヴァン、心血を注いで民達の為に命を燃やしたんだ。その結果、思いもかけない形で病を得て車椅子で、酸素ボンベつけてないとまともに生活出来ない位になってたんだ。何度もお見舞いには行ったけど、その度にピールに止められたんだ。
「車椅子の賢君、イヴァン大統領はあなた様にこの様な姿で会うのは恐れ多いと仰せです。何度も足を運んで頂き、心を尽くして下さる皇帝陛下に心から感謝申し上げております。なれど、もし、お慈悲を賜る事が出来るならどうかこのまま俺の事は時の彼方に忘れて頂きたく重ねてお願い申し上げます。」
何故、そう言う事を言うのかと問い詰めたんだ。そしたら、お母さんの母乳が原因で白血病に罹患してて公務が忙しく体調が崩れた途端に罹患して。余命宣告受けたんだって。
もう、生きて私を幸せにする事が出来ないと悟ったイヴァンは自ら身を引く決断したんだそうだ。
私はただただ、縋って泣く事しか出来なかったんだ。そしたらね。
私にさよならを言いに来たんだ。イヴァンはアメリアさんに導かれて神様になってたんだ。みんなにも見えてるみたいで驚いてたよ。
「ミサト、久しぶりだな!生前は、突き放して悪かったな。どうもな、眷属になってたとしても病気にゃ勝てなかったんだ。俺は、地上での使命。終えたんだって。これからは神界で、賢神としてこの地で崇められるそうなんだ。俺は、神様って柄じゃないのにな。でも、俺はここの民達を幸せに出来た事。全然後悔してないんだ。」
「…イヴァンはずるいよ。私はずっとイヴァンと一緒に生きたあの日々を取り戻す為だけに頑張ってきたのに。忘れられなくしたの、どこの誰よ!」
「それに関しては、申し訳なく思ってるんだ。俺だって死ぬつもりは無かったさ。堂々と迎えに行くつもりだったんだ。だけど言ったろう?病気にゃ勝てなかったって。俺だってどれだけ夢にまで見た事が。恋焦がれてた。ずっと会いたかった。久しぶりに見ればすっかり美しくなったなぁ。俺が生涯の中で愛した最初で最後のお方がお前だ。ミサト。お前はまだ地上での使命あるんだ。遠い未来に。それまで人生楽しんでくれな。でも俺お前の事が心配すぎてちょくちょく見に来てしまうかもなぁ。ああ、勿論空気は読むつもりだがな。俺は学問の神様らしいからひょっとしたらお前が困る度に呼び出されてそうだがな!まぁ、そんな訳だ!」
まぁ、この人らしいなって思ったんだ。だから、こう言ってやったんだ。
「毎日でも会いに来ないと承知しないから!」
「ぇぇぇ、毎日?流石に無理じゃねぇか?」
そう言って困り顔のイヴァンにアメリアさん、クスクス笑い出したんだ。
「え、どうしてそこで笑うのさ。アメリアさん。」
「イヴァンさんね、力の消える前の嘗ての賢神様に条件突きつけてるの知らないとでも思ってるのかしらね。『俺はミサトの事だけは絶対に諦めたくねぇ!四六時中、ミサトを抱ける様ににしない限りは俺は神になんてならねぇ!俺には導師ルシールの転生の儀って選択肢もあるんだから良く考えるんだな!』って脅迫してるのよね。消えて行く神様の前で。神様も困ってたわね。神様になっても肉体欲しいなんて言う人今まで誰もいなかったから。」
「…何やらかしてるんですか。イヴァンさんや。」
「…仕方ねぇだろうが!お前に会いたくても一般庶民でただの大統領な俺が、世界政府の最高幹部にすんなり会える訳ねぇだろうが。だから、パワーバランスが逆転してしまえば俺はずっとお前の側にいられると考えたんだ。」
これには、流石のエドワード国王陛下も大笑いし始めたんだ。みんなも肩震わせてるんだ。
「そうか、そう来たか。イヴァン大統領。やはりそなたはただでは死ななかったんだな。確かに神に愛される巫女にしてしまえば誰も見咎める事も、止める事も無いであろうな。だって、この世の中で一番偉いのは自分達を創造した神様以外にあり得ぬからな。」
「そうなんです。結局、神様の方が折れました。こんな事は例が無いと。エルフの神も信仰しているのは私なのに信仰を保持したまま巫女にするなど聞いた事が無いと仰せです。要は、ミサトさんと一緒にいたいが為に手段を選ばなかったのです。イヴァンさんは隠す気満々のご様子でしたが、やはり、このお二人はどの様な形であったとしてもお二人でいるのが一番幸せな形かもしれませんね。現世でも、神として神界にあっても。嘗てのジーク様はこのお二人にこう預言を残しています。人として生きている間は精霊を生む。と。彼等の行く所は本物の神と現人神の愛で溢れてその場所は今後、自然豊かな場所へと変貌を遂げるでしょう。ただ、滅ぶ未来を選択した日本以外に限られてますが問題ないでしょう。」
そして、イヴァンは悪戯がバレた様な顔をしてから
「あーあ、それをバラすかなぁ。でもまぁ、お陰様で。この10年は随分寂しい思いさせたが、今日からはそれも無い。だから、自分の遺体が眠ってる場所で言う事じゃ無いんだが……………おかえり、ミサト。待ってたよ…………」
「…ただいま、イヴァン。もう、本当にしょうがないなぁ。おいで。」
イヴァンはアメリアさんの元から離れて私に抱きついたんだ。みんなにも見える形の彼には驚いた事にちゃんと実体あったんだ。温もりも感触も人のまま。ただ、普段から足が地について無くて影が無かったから人では無いと誰でも分かる感じになってたんだ。こんな状態になっても私の側に居続ける決断をした彼と思いもかけなかった形で二人の愛が実る事になったんだ。これから、どこに行ってもついて行く気満々の彼とどんな事が待ち受けているんだろうか。今から楽しみでならない。




