失ったものの大きさ。
俺の家には現在、リンちゃんを始めとした大勢のエージェント達の手伝いを得て、手分けして生き残った20万人の聞き取り調査してたんだ。本当にな、骨が折れる様な作業だ。マザーコンピュータが停止してしまって再起動しようにもAIが罠仕掛けてる可能性あるよなぁって話になってしまって。結局、いつ終わるか分からない原始的な聞き取り調査となってしまったんだ。聞き取った順から分からなくなるから大型船に移って頂いてたが、それでも、気の遠くなる様な数字って言うのだけは分かった。随分と死者が多いんだ。どの家族も全ての家族が生きてるなんて無いんだ。何らかの理由で亡くなっているんだ。
それだけじゃ無い。今日になってミサト、俺が渡したタブレット置いて家出てしまってたんだ。メモにはエド達に英語習ってくるって書かれてあったんだが、どう考えても嫌な予感が払拭できず。
そしたらさ、俺が子供達と寝てる間にアレクサ急変したって嘘ついて呼び出したらミサト、泣いた跡があって随分悩んでたって聞いたんだ。そして、エドにまでダメ出し食う事になったんだ。
「確かに、子供達の事は案じていたから正直に言って安心してたんだ。でも、イヴァン博士は無断でピール君と養子縁組したであろう?手続きしてる間、陛下がどれだけご不安なお顔をされていたのか、分かってたのか?一言でも相談してたのか?答えは否である!そなたは自分を過信して、自分の下した決定に陛下は必ずついてくると過信しただけに過ぎないであろう!よく考えるのだ。そなたの伴侶と5歳しか離れていない子供の母親なんて15歳の未成年に務まる筈が無かろう!故に、陛下は暫く我がイギリス王室で責任をもって面倒を見させて頂く。月の民達の生活が安定して、地球の生活にも慣れ、国が安定して尚且つ、ピール君が成人して自立したって言うのであれば我々としても問題は無い。迎えに来るが良かろう。ただ、陛下がいつまでもそなたの事を思っていられるかなんて僕には保証はつきかねるがな!成人すれば、お美しい陛下の事だ。王族が挙って陛下の夫君の座を狙うであろう。そうでなくても、ルーが黙ってはいない。陛下が不幸になるのだけは我慢がならないと言っているのだ。預言の件もあるだろう。陛下の命を危険に晒したくなくば、今は何も言わずに引き下がるが良い!」
この時になって、俺が過ちを犯していた事に気が付いたんだ。エドの言う通り、今のミサトには母親は難しいのだ。姉としてなら大丈夫でも子供を育てるのはお飯事じゃ無い。ミサトと相談すらせずにぱぱっと決めたのは紛れも無い事実だったから、ぐうの音も出ず。保護者の席すらも無い。俺が、ただ言えたのは。
「…ご迷惑をおかけしますが、ミサトの事を宜しくお願いします…………」
「あい分かった。陛下の事は我々に任せて作業に戻るが良い。大変な作業が続くが、無理が効かぬ体故、大事にするが良い。」
「分かりました。失礼致します。」
「…………」
子供達はミラさんが責任もって見てくれていたから安心してはいられたんだ。アークの奴。人を見る目良いなと思ったんだ。さり気なく台所に連れて行ってさ、会話聞かせない様に配慮してくれたから子供達は多分、大丈夫だと思う。ピールがミサトがいない事を不安に思うかもしれないが、ミサト、英語話せないのに英語圏の学校行く事になったんで勉強してると言えば賢い子だ。納得はしてくれるだろう。だけどさ。俺はこう思ったんだ。
「俺が、ミサトを遠ざけてしまったんだな…………」
失ったものの大きさに俺は打ちひしがる様な思いがしたんだ。俺はただ幸せになりたかっただけなのに、何がいけなかったんだと自問自答を繰り返しつつ、終わりの見えない作業をする事になったんだ。
昼休憩になってな、俺はふらっと出かける事にしたんだ。俺が向かったのは、嘗て内戦があった頃に孤児院があった場所。あそこな、今、慰霊碑が建ってるんだ。俺が幼い時に慕ってた院長先生が眠ってる。見えない地獄から抜け出せないまま死んでいった多くの仲間達が眠ってる。花束なんて月じゃあまず購入出来ないし、いつ終わるか分からないから白い薔薇の花束はブリザードフラワーだったりするんだが、俺はブリザードフラワーを慰霊碑に捧げて、ただ一言だけ。
「ただいま。」
そう言った途端、殺気を感じて拳銃を抜いて発砲したんだ。伏兵の顔見て驚いた。ゲイルだったんだ。恐らくクローンを前々から潜ませていたんだろうな。預言が改変されたって嘘をみんな信じてくれていたから誰もこの場にいないのが幸いで、でも、撃たれた筈なのに、痛くない。おかしいなぁって思ってたら俺の目の前にいたのは筋骨隆々の乙女がさ。いつのまにか現れて、俺が撃ちやすい様に身体ずらして盾になってくれてたんだ。幸太郎の大事な大事な実の子が頭から血を流して。もう、息すらしてないんだ。俺は頭に来て、倒れてるゲイルの頭にこれでもかっていう位、鉛弾をお見舞いしたんだ。こんな預言、外れて欲しかった。俺が死ねば、良かったんだ!俺は合わせる顔が無かったが、真先に幸太郎の所に電話して俺を庇ってリンちゃんがって泣きながら電話すれば幸太郎もピンと来た様で、みんなが直ぐに来てくれたんだ。俺はリンちゃんを抱きしめてさ。撃たれた頭部を血塗れになりながら抑えていたが、樹先生が一目見て俺の肩に手を置いて、首を横に振った事で全てを悟ったんだ。
「俺が死ねば…良かったんだ。何でリンちゃん、俺の後ついて来たんだ…………」
「馬鹿だなぁ、麟太郎。最初から言ってなかったか?お前を守るのが使命だと。こいつはなぁ、ちゃんと役目を果たしたんだ。親としちゃ悲しい。だけどさ、あいつ責任感強いから預言の件で死ぬのはうちの子なんじゃないかと薄々そう感じてたんだ。」
「…そんなのってあるか!じゃあ、何で止めなかったんだ!リンちゃんにだってなぁ、リンちゃんだって幸せになる権利だってあったんだ!」
「…………」
みんな泣いてたんだ。リンちゃんの人柄。みんな大好きだったから。包容力があって頼りになるお姉さんみたいな人だった。俺より遥かに年下でさ、でもすごいしっかり者で。筋骨隆々の乙女だから最初はなんだ、この下手物はと思ったが、話せば女子より色気あって知らない間に友達になってるんだ。そしたらさ、俺の肩にか細い手が置かれたんだ。アメリアさんだ。
「神は私にお命じになりました。このお方の代わりとなりて神の身許に参る様にと。ローグフェルグにいる全てのヴァルキリー達に命じます。私と共に神としての御手となる為に共に参るのです!」
アメリアさんは、天に向けて豪奢な杖を翳すと。アメリアさんの魂が抜けて、代わりにリンちゃんの体から魂を抜き取ってアメリアさんの体に入れ込んだんだ。アメリアさんの魂が具現化してヴァルキリーの本来の姿になったんだけど、アメリアさんの体から翼が消えて、晒されてる肌から穢れが少し現れたんだ。アメリアさんは再び目を開けて、自分の手を見て、真下に血塗れの遺体を抱いた俺を見てギョッとしたんだ。具現化したアメリアさんの魂がリンちゃんに声をかけたんだ。
「リンちゃん、さぞかし驚いたでしょう。今のあなたの姿は本来ならばこうなる筈であった姿。ナイトメアとしてのわたくしなのです。わたくしは以前からあなたの病について気が付いておりました。本当はこの姿でいるのは相当辛かったのに何一つ文句を言わずにわたくし達に尽くしてくださるあなたに尊敬の念さえ持っていました。わたくしは神の命により神界へと参りますが、ただ一つ気がかりなのは双子の兄。アレクサの事。その為に、アレクサと共に生きれる様にわたくしの我儘でさせて頂いたのです。あなたになら託せます。アレクサの事を宜しくお願いします。」
「……………分かったわ。ナイトメアの身体にしてくれたのなら、死ぬまで面倒見れるわね。アレクサはあなたが天に昇った事を悲しむと思うけど、大事にお預かりさせて頂くわね。」
「……………ありがとう。遠い未来の新たなる神々達よ。本当にお世話になりました。いつまでもお健やかに。皆様方が神の身許に来られる日をわたくしは心待ちにしています。ですからわたくしはこう言います。またお会いしましょう。そしてルーベルトさん。お慕いしていました。残念ながら、あなたは振り向いてさえもくれなかったけれど、わたくし達の為に命を懸けて下さった事。忘れる事は無いでしょう。」
そう言って、アメリアさんの魂が天へと昇って行ったんだ。そしてさ、これで終わりじゃなかったんだ。ミサトからフラウディアが出て来てさ。こんな事を言い出したんだ。
「ミサト、私もこれでお別れです。早く行かないと、あの人がまだかまだかとせがむのよ。死んでからも、生まれ変わっても一緒よって約束してるのにね。ふふっ、おかしいでしょう?」
「……………そうなんだ。『母さん。』」
俺の中の爺さんが居なくなった時からフラウディアの中には婆さんがいるんじゃ無いかと思ってたんだ。案の定、そうだったんだな。
「私も一緒の旅、楽しかった。ありがとう。ミサト。ただ、気がかりなのは婿殿の事。色々思う事はあるでしょうが、子供達に手を差し伸べるのは、辛かった幼少の頃に想いを馳せてしまうが故。それ故に子供達にばかりついつい手を差し伸べてしまうのでしょう。それが証拠に、ほら、未だに亡くなったご遺体から離れようとなさらないでしょう?相談しないのは正直どうかと思いますが、基本的に優し過ぎるのです。ミサト、無理な事は無理ってちゃんと言いなさい。そして、お互いちゃんと話し合って後悔の無い様にしなさい。皆さん、お世話になりました。導師ルシール。ミサトの事はそなたに一任します。」
「はっ!遺命承ります。」
「それではまた来世で。さようなら。皆さん。」
そう言って、フラウディアの中にいた婆さんは去って行ったんだ。その後、ご遺体を収容してな。みんなで話し合いになったんだ。でさ、結果。婚約状態は維持したままで俺はピールが成人して国が落ち着くまで。ミサトは成人して大学卒業する迄会わないって事で落ち着いたんだ。お互い、まだ愛し合っていたから。ウインディアはミサトに引き取って貰ったんだ。もう、預言なんてしたくなかったたんだ。月から帰っても時間を作って話す事はしてたんだが、地球に帰還後、月暫定政府はそのまま一つの国の政府として存続を許されて俺は初代大統領に就任して農業を中心産業にして国を潤して行ったんだ。食べ物に苦労した俺たちが日本に高値で米を売る事で利益を得てたちまち国は発展したんだ。だけど、公務と育児でてんてこ舞いの俺に病魔が襲ったんだ。んで、ピールが成人するのを見届けるのを待ったかの様に迎えに来たんだ。アメリアさん。俺は死を迎えてみんなよりも先に神になったんだ。だから、俺はミサトと一緒にいたいが為に取引を持ちかける事にした。病気で確かに死ななければならなかったが、最愛の人を諦める選択肢だけは受け入れる訳にはいかなかったんだ。




