模擬戦
バイソンさんに会うのは随分と久し振りにだ。私が初めてお会いしたのは私が10歳の時の話だ。
バイソンさんが日本滞在中、祖父に連れられて異世界から持ってきたエルフ族に伝わる神剣を刀に作り変える時にお会いしたのだ。
「ミサトちゃんと直接話しがしたかったからあの男にはちと眠って貰ったわい!」
そう言って大笑いだ。イヴァンはバイソンさんが誰かに頼まれているのか聞き出したかったみたいだが、相手が余りに悪すぎた。イヴァンをスイートルームのベットに寝かせて貰った。何でも
「ジークに似てれば呼気だけで酔っ払うじゃろうからな。こういうのはワシがやるぞい!」
正直助かった。祖父もバイソンさんのお酒を召し上がってぶっ倒れた事がある位だ。しかも一口で。それを思えばイヴァンはまだ健闘した方だ。
「しかし、しばらく見ない間に大きくなって。綺麗になったわい。」
「いえ、そんな…………」
「謙遜せんでええわい。『朧月夜』は元気か?」
「はい。直ぐに持って参りますね。」
朧月夜と言うのは私が持っている神刀の事だ。妖精魔法の力を活かせる様、柄に宝石を埋め込んで作っている。なので、刀を媒介に火を纏ったり魔法が使えたりするのだ。バイソンさんに朧月夜を手渡した。刀をすらりと抜いて状態を確認する。刀の手入れは細心の注意を払っていたから自信がある。状態を確認して、
「良く手入れが行き届いておるわい。んじゃ、調整する所が無いか見るから朧月夜を振ってくれるか?」
朧月夜を返して貰ったので、装備して構える。そこに竹が有ると仮定して先ずは袈裟斬り。上段に構え、突き、薙ぎ払う。風圧を感じる。室内で刀を振るってるので魔法は使わずだ。
「もうええぞい!刀を拵えた時と比べてかなり腕を上げておる。ミサトちゃんに関しては全く問題ないわい。」
「色々ありがとうございます。ですけど、何故、イヴァンには見せないんですか?」
「それはの、あの武器にある。月で戦うには問題ないが、地球で使うには重すぎる。ってあの男言ってただろう?何故、重たく感じたと思うか?」
「う〜ん、自分の武器じゃないからですか?」
「半分正解じゃ。武器と言うものはの、その人の癖がつくものじゃ。じゃから、1から作った方が手に馴染み易い。じゃが、人の武器だと逆に扱いづらい場合があっての。あの武器の持ち主は恐らく、攻撃は力任せでライフルの方は保険的な考えで付けたに過ぎんじゃろうな。空中に浮いてれば発射口が塞がらないが、地球でそれをやると暴発の危険がある。盾の機能は恐らく使う間無かっただろうと想像がつく。そもそも武器に機能を求めるのが間違いなんじゃ。まぁ、どの道、もし次に向かうとなると此処からじゃと魔王城が一番近い。力無いものに手を貸すなんて先ずあり得ないから、一度、矯正しておかないと後々困るのは彼奴じゃ。そこでお願いと言うのは、模擬戦をして彼奴をコテンパンにしてくれないか?というお願いだ。」
「確かに、今まで稽古らしい稽古はしてませんでした。バイソンさんに指摘されて無かったら大変な事になってました。」
「まぁ、ここまでの道のりを思えばとてもじゃないが、稽古どころじゃ無かっただろうし。他ならぬ綾女さんのお願いとあればこのバイソン。幾らでも力になるわい!綾女さんには日本に来た時色々世話になったからなぁ。ジークの嫁なのが返す返すも残念だが、ジークと綾女さんが気に入った男をむざむざ殺させるなんてワシのプライドが許さんわ。ワシの晩酌相手になりそうってのも気に入った。これは明日から面白くなってきたわい!」
私は密やかにイヴァンに手を合わせた。ごめんなさい。イヴァンの為なら私は鬼になりましょう。
ああ、昨日は飲んだ飲んだ。ついつい調子に乗ってしまった。
二日酔いには至ってないが、人の酒程美味いものはないからな。
そんな中。
「おはよう、イヴァン。二日酔いとかなってない?大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。ちょっと調子に乗っちゃっただけだから。心配かけて悪ぃ。」
「ううん、お願いがあるの。イヴァン。」
「? どうした。何か相談事か?」
「はい、最近、身体が鈍っちゃって。稽古の相手になって欲しいの。」
「そうだな、そう言われてみればすっかりご無沙汰しちゃってたな。世界政府の聞き取り調査が長引いたからなぁ。今のままじゃ流石に拙い。こちらこそお願いするよ。ミサト。」
俺は可愛い人にちょっと長めの挨拶をした。だけど、地獄を見たのは俺の方だった。
私たちはバイソンさんに連れられ、ミスリルの砂で出来た砂漠に来ていた。理由は人が来ないから。こんな所で魔法を使えば乱反射して自分も相手もタダでは済まないからだそうだ。砂嵐も来るので。となると、私は魔法を封じられる。魔法を使えないイヴァンと実力だけで勝負が出来ると言う事なのだ。バイソンさん、伊達に世界を旅してないな。
「始め!」
と言うバイソンさんの掛け声で最初に動いたのはイヴァンだ。ガンブレイドを上段に大きく振りかぶったら地面に剣が突き刺さった。私は軽く避けてガンブレイドの上に飛び乗って鞘ごと抜いてイヴァンの頭を思いっきりぶっ叩いた!
イヴァンは茫然とした。もう、終わり?って感じだ。ブンブンと首を横に振る。まだまだ目に闘志がある。
一旦離れて構え直す。今度は私から仕掛けた。突きを出せば紙一重で躱された。一度引いて下段を仕掛けて思わずイヴァンが足を取られた。上段を仕掛けたらイヴァンはそれを凪払おうとして
「痛っ!」
両腕を振り上げた時に引っ張られて筋が伸びてしまったのだ。私はつかさずヒールをかけた。
「大丈夫?」
「ああ。ありがとう。」
「やはり、その武器はお主の武器ではないな。今のままでは戦闘中に自滅するわい。」
「…………」
「ワシが見た所、その武器の元々の持ち主は身長が2m近かったんじゃないか?つまり、お主がこのまま使うのであれば小型化せねば到底使いこなせないと言う事じゃ。大体、ちょっと振っただけで筋が伸びるようじゃ命がいくつあっても足りない。お主の持ってるライトセーバーを強化した方が現実的だな。ちょっとライトセーバーを見せてくれるか?」
「分かりました。」
イヴァンがアイテムバックからライトセーバーを2本取り出してバイソンさんに渡した。イヴァンがアドバイス貰ってる間は素振りだ。へえ、二刀流なのかと思った。バイソンさんはボタンを押して色々検分していたが。
「こりゃ、確かにお主の見立て通りじゃな。この剣じゃミサトの一撃受けただけで壊れる。」
イヴァンは空を仰ぎ見た。だが他ならぬ専門家の意見だから大人しく聞くことにした様だ。
「このままだと今日は練習にはならんから、今日はこれで試合続行な?」
と言って渡されたのはミスリルの棒が2本。目が素材で練習するのかと主張していらっしゃる。但し、何もしてなかったら滑り落ちるので、滑り止めのエンボス加工が柄の部分に施されていた。
「まぁ、言わんとする事は分かるが、これはオーダーメイドで武器作る時には全員やって貰ってるんだ。」
「オーダーメイド…………」
「左様。実はな、お主の事を綾女さんに頼まれてな。」
「綾女さん?誰?」
そりゃ、お会いした事無いからそう言う反応になるよね。私に目で助け船を求めていたので。
「祖母です。」
「!?」
それでようやっと得心がいった様だ。
「勿論、元は工学博士だから戦闘は門外漢なのは分かるが、此処はあくまで地球じゃ。月ではそこそこ実力があったかもしれんが通用するのはあくまで月だけじゃ。今のままでは真っ先に死ぬのはお主じゃ。それではいけないと綾女さんは言われてな。綾女さんは居合抜きの師範。故に、あの会見見て人徳には何の問題も無いが戦闘関係は大問題だと判断した様だぞ?」
「そうだったんですね。」
まぁ、祖母は剣術に於いては右に出るものがいない程強かったからイヴァンの為になら鬼にでもなってただろう。私も随分扱かれたから。だけど、今は病床の身。だから私に鬼になれと言われたのだ。
「では、続けて宜しいですか?」
「ああ、やってくれ!」
「よろしくお願いします。」
イヴァンは左手に持つ棒を前に構え、右手に持つ棒を下に構えた。どこからどう見ても隙だらけなのだ。恐らく、剣の心得自体が皆無だ。だが、自重はしない。
「いざ、参る!」
私は身体に風を纏う。多分、イヴァンの視界から私が消えたのだ。私はニヤリと笑ってみせた。イヴァンは顔面蒼白だ。つかさず、胴を打ち据えた。激痛に顔を顰めるが、
「まだまだぁ!」
と、闘志を剥き出している。そこにいたのは手負いの狼だ。以前、セレネティア島から脱出する時に見せた自分のピンチを面白がっている。あれだ。多分、ああならないと本気が出ないのだろう。私とイヴァンは打ち合った。私が攻撃すればイヴァンはつかさず反撃するが、私には擦りすらしなかった。だが、何回かに1回は刀の軌道を読んで攻撃を防がれるのだ。思い当たるとすれば、動体視力がずば抜けてるのだ。点と点を繋げて着弾点が何処になるかを推理しながら戦ってるのだ。これだけ動体視力が良ければ私の攻撃が悉く防がれるのは時間の問題だなと思った。これは私もうかうかしてはいられない。気がつけば、かなり長時間撃ち合いを続けていて、気がつけば夕方だった。
「そろそろ良いじゃろう。」
バイソンさんの合図で私たちは撃ち合いをやめた。私は肩で息を整えた。イヴァンは盛大に地面に倒れた。
「俺、戦闘舐めてた…………」
イヴァンがボソリとそう呟いた。




