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異世界日本記  作者: はくあんせいぼ
第一章 賢神イヴァン
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独房の中の女王陛下。

 この日の晩から私はこの二人の側にいる事にしたんだ。みんなも衛兵達も心配の余りに引き止めたけど、元を正せば発端は身内を亡くした事にあった。でもね、私は幸いな事にイヴァンがいてくれたから立ち直る事が出来たんだ。


 だけど、この子達には何一つ無かったんだ。縋れるものも頼れるものも。感情を吐露するものも。この子達が大人の関係って常軌を逸した状態になったのも至極当然だと思った。

 お互いがお互いの心の傷を舐めあってないと正気すら保てなかった。それが分かった時、血縁関係には無いけど家族であるこの子供達に何が出来るのか。真剣に考えて選んだのがこれだった。


 季節は11月から12月にかかろうと言った所。独房には暖房も無いのでかなり寒く感じた。下は毛布敷いてても冷たく感じた。イヴァンも一緒にいると訴えたが、それは流石に止められた。樹先生のドクターストップもあったし、イヴァンには指令が下りてたんだ。


 それがね、既にある宇宙巡洋艦『さくよう』にイヴァンが使ったスペースデブリを材料に変換する技術を付けて工房みたいにして運用できる様にするというもの。確かにこれが実現してしまえば一々地球に帰る必要が無くなるのだ。


 てな訳で、お仕事終わるまで会う事は許しません!って言い渡すと、テレーン!って擬音が出そうな顔をされたよ。みんなは大爆笑してたけどね。でもね、心から私の身を案じてくれているのは分かるんだ。なもんで、何も言わずに羽毛の入ったコートを何枚か出して。


「3日だ!3日で迎えに行く。」


 そう言い放って作業に戻って行ったんだ。樹先生にも泉先生にもそんな事出来るのか聞いたら。


「心配しなくても、以前の様な無理は出来ないよ。イヴァン博士に策があるんなら別だけどね。」

「どんな奥の手使うかはさっぱりだけど、安心してこの子達の事に付きっ切りでいてあげて。」

「ありがとうございます。イヴァンの事、よろしくお願いします。」


 そう言って頭を下げれば快く応じて下さった。リンちゃんが心配そうに。


「ミサトちゃん。私はあなたの事も心配。本当に大丈夫なの?」


 って聞いてきたから。


「うん、私も故郷失くしてるの。知ってるでしょう?境遇はピール達とまるっきり一緒なんだ。正直言ってこれは賭けではあるんだけど、ピール達の気持ちに一番に寄り添えるのは多分、私なんだ。だから、私もやってみるんだ。」


 そうしたらね、二人の目が見開かれたんだ。今では父の最期の魔法で復旧してるのは秘匿事案なので嘘をつくのは心苦しいが、公式では私のいた故郷セレネティアは永遠に失われた事になってるんだ。リンちゃんも父の遺言は存じ上げているので口裏を合わせてくれた。みんな、次々とイヴァンに倣ってダウンを差し出してくれたんだ。そしてね、独房じゃ魔法は封じられると知ってか。バイソンさんが手持ちの毛布とコートに体温調節機能を付加して差し出してくれたんだ。


「ワシは滅多な事では魔法は使わぬが毛布を下に敷いてな、子供達にこのコート着せておくが良かろう。寒さなど、このドワーフのワシが吹き飛ばしてやるぞい!」

「本当に何から何まで。本当にありがとうございます。みんな。」

「いいや、こういう事になってしまったのもみんな我々大人が手を差し伸べるのを躊躇ってしまったせいじゃ。この子達の心が再び開かれるのをワシは待ち続けておる。ほれ、みんなも帰るぞ。ここに長居してもどうにもならん。今は時を待つのじゃ。」


 バイソンさんがそう言うと、みんな名残惜しそうに帰って行ったんだ。最後に、諦めのついた番人さんが。


「陛下。非常に御心苦しいですが、此処にいる以上、逃走防止の為にアイテムバックとスマホ等の連絡等取れる物品は没収させて頂いてます。お預かりさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「はい。その前に、友人から連絡来てないか確認取っても良いでしょうか?」

「…今回だけですよ。」


 そう言って下さったんで何件か入ってたメッセージに返答を入れて、事情を話した上で改めて話しましょうってした上で、番人さんの目の前で電源を切って。


「これを導師ルーベルトの元に届けて下さいます様に。」

「承知致しました。それまでお預かりさせて頂きます。」


 私はアイテムバックの中にスマホとタブレットを入れて柵の外で手を出す様にして魔法で封印を施したら上手く出来た様だ。その後で番人さんに手渡した。エルフ語で呪詛を唱えたので人族の番人さんには開けられる事はない。


 その日の晩は二人が何事もなく安らかに眠れる様にエルフの神にお祈りをした。一晩中、お祈りした。自分がどう言う状態になるか。勿論、知っていた。でも、再び彼等が心を開くきっかけが欲しくて祈る事を辞めなかった。大きな羽を出せば壁から伝わる寒さも幾分かはマシになるだろう。眠り続ける彼等に慈悲を下さい。そう、願い続けた。



 翌日からご飯が出始めたが、やはり獄中のご飯だけあって食べられたものでは無かったよ。そもそも、ピール達はイスラム教信者なので宗教上の理由で食べられない代物があったりするが、そう言ったものも人権も考慮が全くなされていなかった。どう言う事かと言うと、イスラム教の聖典コーランにはハラールフードがちゃん定められているんだ。だから、旅の道中ではみんなが工夫して彼等に合わせてさえいればみんな問題なくご飯が食べられると言った感じだったのだ。アルコールと豚肉は禁止、ポークエキスやブイヨン、ゼラチンなんかもアウト、トンカツを揚げた油で野菜類を揚げてもアウト。イスラム教においては豚が不浄な動物とされていたからなんだ。なんで、使うのもハラールに違反してない牛肉、鶏肉だったらいけたんだ。この条件を満たす店を探さねば彼等のご飯が作れないが、幸いに東京にはハラール認証店があったので問題が無かったんだ。だけど、此処にはそれがない。罪人となってる彼等に配慮なんて言葉は無かったと言う訳だ。なので私も箸をつける訳にはいかず。


「番人に言い渡しておく。この子達はイスラム教信者だ。ハラールフードを学んでから作る様に申し渡すか、最初から出せないのであれば無理に出さなくても良い。作って貰って申し訳ないが、この料理は下げてくれ。」

「承知致しました。」


 そう言って下げて頂いた。不安そうにピールとモハメドが。


「姉上様…………」

「陛下…………」


 って言うから。安心させる為に。


「大丈夫ですよ、ピール、モハメド。多少お腹は空きますが、あなた達の矜持は守られなければなりません。早朝の礼拝は済みましたか?」

「あ、直ぐに。モハメド、一緒にやろう。」

「承知致しました。」


 こうして、10分位お祈りをするんだ。私も知らない事ばかりだが、イスラム教の信者は1日5回も礼拝するんだそうだ。金曜日の正午の礼拝は特別で流石にモスクなんて無いから困る事請け合いだ。祈る為に必要な絨毯も無いから毛布で代用するしかない。部屋内にトイレがあってもどうにもならないのだ。イスラム教の人向けのアプリもあるが、此処ではメッカの方角さえ分からないのだ。スマホも取り上げられてるとあってはその辺は適当と言うかいい加減というか。でも、子供達は至って真面目に礼拝してたよ。


「姉上様、大丈夫です。断食してると思えば。僕たちの為に色々御心を砕いて下さってありがとうございます。」

「…………」


 もうね、涙が出そうだったよ。この子達抱き寄せてひたすらに良い子だねって褒める事しか出来なかったんだ。この子達もね、理解のある大人の意味が少しだけ解け始めたのかもしれなかった。


 昼間はピール達にお願いされて大陸毎破壊された私の故郷、セレネティア大陸の事を教えて下さいって言われたから教えたんだ。色々とね。森が迷いの森だったから里の者じゃないとなかなか辿り着くのが大変だったり、それでも羽さえあれば上空から里が丸見えだったから結界魔法の修復が日課にだったりと言う事を話すと、感心だったり。因縁付けた相手に逆襲してた話をすると少しずつだが、笑う様になって来たんだ。

 そんな中、困った顔をして説得しに来た御仁が。ルーちゃんとエドを先頭に恰幅の良い男性を連れて来られた。ルーちゃんは何のためらいもなく独房の柵越しに。


「お迎えにあがりました。女王陛下。」


 そう言って膝をついた。柵越しに手を差し出せば接吻で応えてくれた。だが。


「何用で参ったのですか?導師ルーベルト。私は、この子達と一緒で無ければ此処から出るつもりもない。軍務で忙しかろう。即刻立ち去るのです!」

「お待ちください、女王陛下。少しだけ話を聞いてください。こちらにいらっしゃるのは真田将軍閣下で、陛下にお願いがあると仰せなのです。」

「お初にお目にかかる。真田殿と言われたか。この様な形で御前に罷り出でた事、心よりのお詫びを。御用があるとの仰せだが、導師の諫言に乗せられたのであれば話すだけ時間の無駄と申すもの。そなた達には崇高な目的もある。子供達の事は私に任せて立ち去るのです。」

「いやはや、参りましたな。ルーベルト中将は貴方の事を心から案じておられる。だが、想像以上に説得が難しい相手とお見受け致しましたぞ。これは、この真田めも本気で説得せねばなりますまい。」

「…………」


 ルーちゃん、心配してるのは分かるよ。分かるんだけど、軍のトップを引き連れて説得なんて一体どうしたの?って思わずにはいられなかった。

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