空中での真剣勝負。
戦闘飛行機は一路、オーストラリアを目指してたんだ。日本から追撃も来てたけど、あっという間にアーリアさんが撃ち落として行ったんだ。たまたまなんだけど、僕たちが拉致したパイロット。日本最強のパイロットでアーリア・シャロン空軍大尉。イタリア系移民だけど前回のパイロット試験で格下である筈のルーベルト少尉に撃墜判定受けちゃって後一歩の所で落ちちゃった様なんだ。飛行時間僅か数時間の人に負けて相当悔しかったそうだ。でも、リベンジを宣言した彼女に対して。
「確かに戦闘機に乗った時間は人より少ないかもしれませんが、僕は生まれてすぐに飛べる種族だったんで、飛行歴なら48年あるんですよ。まぁ、再戦ならいつでも受け付けますのでお気軽にどうぞ。」
「…………」
って言われて敗北を認めざるを得なかったって話してた。で、そのルーベルト少尉を実力で打ち破ったエドワード大佐には。
「悪いな。王国の義務故にこの席は譲れぬ。どうせ、日本には行く羽目になるのだ。大人しくしてれば勝手にどちらかの席が空く。空席待ちをしておくが良い。」
「…………」
なんて言われたんだって。確かに空席待ちした甲斐はあったと思うよ。現時点でどちらとも中将だったから戦闘機に乗る機会が極端に減る。とは本人の談。だけどね。
「大人しく空席待ちをしとけって理由がルーベルト中将を口説き落とすって理由だと誰が思うのよ!誰が!」
「「…………」」
「エドワード中将も中将よね。何で空飛ぶ前に口説き落とさなかったのかしら。こちらはれっきとした女なのよ。女。しかもね、ルーベルト中将。私から見てもね、中性的で本当にお美しいのよね。もうね、敗北感満載でね。エドワード中将のお手付きじゃ無かったら。日本に来たら絶対口説いてやろうと思ってたのに!」
「…大人って、良く分からないね。モハメド。」
「…本当に理解に苦しむね。ピール。」
僕たち、この人を人質にしてた筈なんだけど道中はアーリア大尉の愚痴と鼻歌がBGMだったから退屈なんて無縁だったんだよね。お陰様で。でもね、噂をすれば何とやらで。出て来たんだ。彼等。
「アーリア。御無沙汰だね。こんな所でお子様二人と空の旅とは良いご身分だね。お陰様で、僕たち二人。休暇返上させられてしまったよ。ルーとの楽しいひと時を邪魔されて許してやる程僕は心が広くないんだ。5分もあればかたが付く。遠慮なく撃墜させて貰うよ。地獄へ招待する故、心ゆくまで楽しむが良い!」
「まぁ、エドワード中将。ルーベルト中将。御昇進おめでとうございます。お返しが鉛の弾になってしまったのは至極残念だけど遠慮なく受け取って頂戴。」
「へえ。エドの喧嘩買うんだ。アーリア。僕には魔法もある事忘れた訳じゃ無いよね?僕の大事なお方に傷一つつける事許すつもりは無いんだ。大人しく僕たちの指示に従えば撃墜はしないけどどうする?」
僕は首を横に振った。アーリアさんにしてみれば勝ち目が無いって分かっていたのかもしれない。
「悪いけど、ピール君の答えはNoよ。此方でも搭乗前に説得はしたけどね。ダメだったのよね。頑なに大人の事信用しようとしない。あなた達は大人の世界の厳しさを教える義務があるわ。今の彼等に必要なのは挫折。そこから這い上がる事よ。同情でも何でも無いのよ。この子達は賢いから現実が分かればちゃんと解答を見いだす力のある子供達なの。少し話ししたけど。私はそんな印象を受けた。私は何があってもこの子達を守るわ。そして私は覚悟したわ。殺せるものなら殺してみなさい。」
「…情に絆されたか。愚か者め!」
その言葉が、戦闘開始の合図だったんだ。音速の戦闘機が凄い速さで襲いかかるんだ。2機とも日本から追って来た戦闘機とは次元も桁も違いすぎたんだ。しょっ中後方取られてた。攻撃も仕掛けるんだけど、ルーベルトさんの魔法がそれを完膚なきまでに弾いて落としてしまうんだ。挟み撃ちになる様に誘導しても本当に息がぴったりで難なく回避出来てしまうんだ。本当に有言実行とはこの事で、4分後、とうとう被弾したんだ。コクピットが割れて彼女自体が銃弾の餌食になったんだ。最後の力だったんだろう。緊急脱出ボタンが作動して、僕と座席に座ってたモハメドと。命があるかどうかさえ分からないアーリアさんとに分かれて外に投げ出されたんだ。機体は煙を上げながら海中に墜落した。僕たちは気がつけば、それぞれ別に後部座席に着いてたんだ。
「アーリアさんは?」
「大人しく通信を聞くが良い。」
「…………」
そうしたらね、通信の声が聞こえたんだ。
「こちらルーベルト。作戦は終了。アーリア機の撃墜に成功せり。アーリア大尉受傷に付き種子島の勅使河原樹先生の所に先に転送した。なお首謀者2名の捕縛に成功。日本に帰投後、逮捕を要請する。通信は以上である。」
「了解した。エドワード中将、ルーベルト中将。お疲れ様でした。休暇中にも関わらず招聘に応じて下さり有難うございました。」
「いや、返す返すも我らの不徳の致す所。願わくば、まだ幼い故に情状酌量を願いたい。」
「エドワード中将、こちらでは直ぐに返答出来かねますが、真田将軍にはお伝えしておきます。」
「ありがとう。」
そうやって、通信は切れてしまったんだ。エドは怒ってた。何故、怒ってたのか。さっきの楽しいひと時ってのを邪魔されたからだと思ってたが、本当は違ってたんだ。
「オーストラリアに渡って何を成そうとしたんだ?」
「…………」
「だんまりか、まぁ良い。そなた達が二人で行った所で誰一人として相手にすらしないであろう。アルジャジーラで普通に出来た物が何故、出来なくなったのか教えようか?そなた達は最早特権階級では無い。ただの10歳の子供に過ぎないんだ。保護者がいない子供に何が待ち受けてるか。それはアレスタという良い例があるであろう。必然的に搾取される側になって死ぬまで地獄を味わったであろうな。そなた一人なら自業自得。だが、そなたは大事な人である筈のモハメド君まで巻き込んだんだ。そなたの決断は確かに気の迷いかも知れぬ。だが、そなたに自分の大事な宝物を不幸にする権利があるのか?答えよ!ピール!」
それを言われて僕は目の覚める思いがしたんだ。僕が浅はかだったんだ。そう思うには十分だったんだ。
「…ごめんなさい。」
「謝る相手が違うであろう?日本に着いて、モハメド君に会ったらちゃんと謝るんだ。」
「…はい。」
「それとな。言い訳にしかならないがそなた達にもっと寄り添うべきだったのに、引きこもってたそなた達に何一つしてやれず。申し訳無い事をしたと思ってるんだ。考えれば、メルツの宿泊先でも、日本の宿泊先でもお腹空いた時以外は部屋に引きこもってたんだったな。何をしてたか察しはつくよ。樹先生も大層心配してる。みんなも、僕も、君達に関わった全ての人。みんなみんな心配しているんだ。少しずつで良い。いつまでも二人だけで殻にこもっていないで外に出て来て欲しいんだ。」
「…………」
「やれやれ、まただんまりか。どうやら、持久戦になりそうだね。案ずるな。みんな諦めが悪いのばかり揃ってるからそなた達がいつまでも二人きりでいられるなんて考えない方が良いであろうな。」
僕たちはその後、日本に帰投後、本当に逮捕されたんだ。二人とも。ただ、僕たちは引き離されそうになった途端に二人して抵抗したものだから大人達も流石にまずいと思ったみたいで二人で独房に入れられる事になったんだ。手錠は自由にしてたら何するか分からないって言うので外しては貰えなかったけれど、それでも引き離されるよりか幾分マシだったから受け入れる事にしたんだ。
独房に入れられて、僕たち二人して謝ったんだ。僕は、僕の認識の甘さの為にモハメドまで危険に晒した事を謝って。モハメドは、ルーベルトさんにこんな説教受けたんだそうだ。
「ただ、盲目的に従うだけが愛情じゃない筈だよ。君は、ピール君が逃げるって言い出した時に本当に彼の事を思うのであれば喧嘩になってでも止めるべきだったんだ。主従関係であっても、友達であっても、家族であっても関係が壊れようとも止めるべきだったんだ。今の依存している関係どうにかしないとピール君、いつまで経っても目が覚めないよ。モハメド君、それで本当に良いのか。時間はたっぷりあるからよく考えて欲しい。そしてね、失ったものの大きさがあまりにも大きいからついつい目を背けてしまうのかも知れないけど、みんながどんなに胸を痛めているのか。知って欲しいと切に願ってるんだ。」
そう、言われたって。聞けば流石に不安を覚えてたって言ってた。これじゃ、主人失格だよなぁって自分に呆れながらモハメドの頭撫でてたらさ。本当にみんな来たんだよ。独房の柵を挟んでみんながみんな悲しそうな顔をして。僕はモハメドを後ろに隠してみんなを睨んだんだ。頼むから放っておいてくれ!って願いを込めて祈ったんだ。もう、誰とも関わり合いになりたくなかったから。だけどね、そんな都合の良い願いなんて何一つ叶わなかったんだ。姉上様とお慕いしていたお方が羽を出したと思ったらあっという間に独房の柵を越えて僕たち二人の目の前に立ってたんだ。僕の顔を見た途端に手錠を見てポロポロ涙を零しながら魔法で僕とモハメドに取り付けられた手錠を外してくれて。こう言い出したんだ。
「今のピールとモハメドに必要なのはカウンセリングなんかじゃないんです。安らげる場所と心から安心して何でも話せる人。本当に今まで側にいてあげれなくてごめんなさい。ピール、モハメド。私以上に傷ついていたのに今まで何もせずにいたなんて。私はもう、大丈夫。ちゃんと君達の声に耳を傾けて少しずつでもピールとモハメドが立ち直れる様に、ずっと側にいるからね。」
「姉上様…………」
「…………」
結局ね、姉上様は何一つ罪を犯してないのに頑として僕たちの側から離れる様な事はなさらなかったんだ。衛兵達も罪人でない姉上様に出て頂く様懇願したけど一切聞かず、仲間達も一旦説得を諦めて帰って。そのまま姉上様が居ついてしまう事になったんだ。




