じいさん ばあさんへ 2
そうなると、一番懸念したのはミサトの事だった。
預言に出ていたから顔は知っていた。月の民のとある大学教授。宇宙工学の権威で名前はイヴァン・スワロスキー博士。彼の書く論文は地球でも評価が高く、学会の度に地球に来ていた。何と、伊織と同い年の男じゃった。最初は戦う事が無かろう博士が何故に?と思ったが、月の民には徴兵制度が5年。その徴兵検査でトップクラスに入る位文武両道に秀でておった。その辺、地球で調べるには限界があったので現地でスパイを雇った。イヴァンの幼馴染達じゃ。イヴァンの危急を預言すれば命にかえてでもイヴァンは守ると言ってくれた。実に人望の厚い男じゃと言うのは彼らからの証言で明らかじゃった。パルスレーザーの技術を軍部に目をつけられて5年間監禁されておったのも知っておる。だから、月から逃げて来た時に婿殿の魂の叫びを聞いて、我はとんでもなく取り返しのつかない事をしたと思ったものよ。彼らは有言実行してくれた。ならば我はその礼に報わねばと転生の儀を執り行った。今頃は、暖かい家庭で幸せに暮らしておるであろう。実際に会って話しをしても好感が持てる男じゃと我は思った。
先日の会見も我には満足できる内容だった。そして、こうやって我達の為に心を尽くしてくれた。人になかなか心を許す事が無かったあの子だったが、婿殿とだけは離れたくない様じゃ。
車が病院の構内に入り、扉が開かれた。我は、
「面会時間終了する頃にお願いするのじゃ。」
そう、運転手に告げた。我は、婿殿達の贈り物を携え、病院の中に入った。綾女が入院している部屋はvip ルームじゃから最上階じゃ。日本で保護された我は今でも国を救った英雄扱いで、異世界にいた頃に啓示を受けていたから日本語は覚えたが、てっきり異世界待遇で字は勝手に書ける様になるとばかり思ってたが、考えが甘かった。綾女は字が達筆じゃから今まで書類の類いは全て彼女がしてくれた。サインの仕方も教えてくれたから後は職員にどう言った書類か内容を説明してもらうだけで良かった。世界政府の願いに応じ、預言をした。今回の戦時下になる預言も30年前に見たものだ。原因も預言した。ただ、内容は基本秘匿じゃ。だから預言の内容を知るのは世界政府の内部のみという訳での。
エレベーターが最上階に着いたと告げた。我は箱らしきものから降り、看護師達の出迎えを受けた。荷物を一時預かって貰い、エプロンと頭に被るネットとマスク、手袋を貰い着用した。毎回毎回、非常に面倒じゃがこれも綾女を守る為じゃ。空気で埃とかを取るエアシャワーを通過してからやっと綾女の元に通して貰えるのじゃ。薬のせいで髪の毛が全て抜け落ちてしまっておるから頭に帽子を被って、少々照れくさそうに我を出迎えてくれた。我が愛している女子は今ではすっかり可愛いおばあちゃんになった。綾女は我が老けないのを非常に羨ましがったが、我は年相応に老いたかった。無い物ねだりじゃなと思い至った。
「加減はどうじゃ?」
「今日は凄く気分が良いのよ。それにしても、どうしたの?何だか凄く嬉しそうよ?旦那様。」
「ふっふっふ。実は婿殿とミサトから心のこもった贈り物じゃ。」
「贈り物?まぁまぁ。さては無茶振りしたんですね、旦那様?」
「いやいや、我は決してその様な事はしておらぬぞ?」
「あらあら。」
綾女は朗らかに笑ってくれた。婿殿が我の真意を汲み取ってくれるかどうかは賭けであったが、我はその賭けに勝っただけの事じゃ。
「早速中身を見せて下さいますか?」
「うむ。」
我は次々出して行った。綺麗なブーケに、所々インクの染みがついた千羽鶴だ。
「あら、この鶴結構インクの染みがついてるのね?」
「ああ、その理由はこれであろう?現地に折り紙は無い故。」
そう言って手紙を取り出した。手紙が有るというのは分かっていたが、綾女と一緒に読みたかった故、封はしっかり閉じたままだ。綾女からハサミを受け取り、封を開けた。婿殿とミサトからの手紙だ。
じいさん ばあさん へ
おれは にほんご はなせても かけないから よみにくくて ごめんなさい。
ばあさんの ぐあい よくない ききました。しんぱいです。
みさと ばあさんの ところ いきたい おもってる。
でも、こことおい。おれもあいたい。 けど、しゃとる とべない。
ばあさんにあえないは つらい。
おれ かならず みさと つれて にほん くる。やくそく する。
だからじいさん ばあさん からだ だいじにして。
おれとみさとのこと ゆるしてくれて ありがとう ございました。
いばん すわろすきー
お祖父様、お祖母様。
その後、如何お過ごしでしょうか?
私たちは今、イヴァンと一緒に浮遊大陸エステルの首都ハウゼンに滞在しております。
里にいた頃とは想像すらつかない程、毎日が幸せです。
この度は私たちの結婚を認めて下さってありがとうございました。
今から半年後が楽しみでなりません。イヴァンは私の事を凄く大事にして下さってます。
どうか安心してください。
先日、お祖母様の具合が余り良くないとお伺いしました。
今日の贈り物はイヴァンが全て考え、用意して下さったものです。私が考えたのは千羽鶴位です。でも、千羽も折るのは大変だからとイヴァンも手伝って下さいました。折り紙が無かったのでイヴァンがひらがなを練習した紙を使っています。気になるかもしれませんが、どうかご容赦願いたく存じます。
今は日本に向う旅の途中です。ですが、イヴァンの武器の件が思った以上に難航していて多分、滞在が少し長引くと思います。もどかしいですが、日本に戻れる様努力する所存です。
どうか、お二人ともお身体を大事になさって下さい。
遠い旅の空から御二方が御心静かに過ごされる事を願っております。
美郷
隣を見れば嬉しくて泣いておった。我も日本語が書けない故、短期間でここまで書ける様になるには相当努力したのであろう。贈り物はまだあった。最後に取り出したのはフォトアルバムじゃ。パッと開けば婿殿達と我達の写真があって机の上に置いて飾れる様にしてくれておる様じゃ。
我も綾女も孫娘の晴れ姿を見て感極まった。気がつけば我も泣いておる。何と尊く美しいじゃろうか。
婿殿は何だか照れくさそうにミサトの肩を抱き、ミサトは目の前にあるブーケを両手で持ち静かに微笑んでいた。綾女も涙をハンカチで拭き。
「私はミサトが旅に出たからこの様な姿は見られないと正直諦めていましたのに。イヴァンさんも会見で拝見しましたけど、本当に素敵な方で良かった。旦那様、二つばかりお願いをしても良いでしょうか?」
「何じゃ、申してみよ。」
滅多な事ではおねだりなんかしない綾女が珍しい。
「1つ目は二人で過ごす家が欲しく思います。街中ではなく自然に囲まれた場所で、二人きりで過ごしたく思います。イヴァンさんとミサトと沢山話しがしたいから画面越しで良いから直接通話出来るようにして頂きたいの。お願い出来るかしら?」
「他ならぬ綾女の頼みじゃ。その願い聞き届けよう。して、もう一つの願いとは何じゃ?」
何だか安請け合いをした気がするが、まぁ、何とかなるじゃろうて。
「イヴァンさんの力に私もなりたいの。ミサトの持つ宝刀の件でお世話になった例の方に連絡を取る事はお出来になって?」
「その件なら問題ない。我からも今晩、連絡を取ってみよう。」
その後、面会時間が終わってしまい我は名残惜しく思いつつ綾女の入院部屋を後にした。綾女の願いを叶えるべく。婿殿に報いるため。車に乗り込んだ後、我はスマホを取り出して各方面に連絡を取る事にした。
タバコを吸ってふぅっと息を吐いた。俺は今、一人のドワーフと面会していた。
彼の名前はバイソン・アーカイル。世界を旅する鍛治職人で、屋台形式で工房ごと旅することから「さすらいの匠」と呼ばれていた。
「会見は見ておったが、ワシも旅の途中じゃったで。到着が遅くなって悪かったの!」
そう言って、ガッハッハって豪快に笑った。今日はここでしか手に入らないミスリル鉱石を仕入れてからわざわざ滞在中のホテルまで来てくれたのだ。工房には店も併設されていたので少し入らせて貰い商品も見せて貰った。流石に匠と言われるだけあってどれも素晴らしい品々ばかりだ。今まで巡って来た武器店の商品が霞むほどだ。
「気に入ったか??」
「勿論です!俺、こういうの待ってました!」
「そうじゃろう、そうじゃろうて。ところでのう、お前さん。月の酒って持ってるか?」
「? ありますけどいります?」
そう言って来たので出したのはレトルトパウチ。ミサトがうっかり口に含んだあれだ。
「ほう?これは何じゃ?」
「これは宇宙に持って行く為にレトルトパウチに入れて来たウォッカと言う酒です。この酒は元々ロシアと言う国で作られていた製法を忠実に再現して作ってくれました。俺の友達に酒の工房やってる奴がいて分けて貰ったんです。餞別に。」
「おお、そうかそうか。そんな貴重な酒を頂いて大丈夫かの?」
「どうぞどうぞ。」
俺の勘が誰かの差し金と訴えているが、口が軽くなる様に先ずはググッと。
「おおっ!恐ろしく酒精が強いが美味い!お主の酒は貴重な物じゃからお返しにワシ特製の酒な?」
バイソンが奥の扉を開いてボトルを取り出し、ショットグラスを2個持って来て酒を注いだ。色的にはウイスキーかな?って感じだ。
「頂きます。」
と言って飲ませて貰うとこれがメチャクチャ美味い。
この後、色々話をして意気投合してついついどんちゃん騒ぎとなってしまい俺の方が酔い潰れてしまった。
この時、俺は初めて知った。ドワーフには酒では勝てん。上には上があると思い知らされた。




