月の民と消えた故郷 1
今日2本目投稿しています。
やっと本編かよ。って突っ込みは無しでお願いします。(汗)
私はミサト。厄介者と呼ばれている。
正確ににはミサト・アカツキ・セレネティア。私の生まれ故郷は地球の上空1000mを浮遊する大陸の一つ、セレネティア島にある。此処はエルフの純血種と言われるハイエルフが隠れ里として住んでいる以外、他種族は排除が基本の閉鎖的な里だ。
厄介者なのに疑問に思うかもしれないが、土地の名前が姓としてあるという事は一応これでも王族と言う事らしい。だが、正直なところ隠れ里など消えてなくなれば良いとさえ思う事がある。
祖父である最長老様には悪いとは思う。祖父は私の事を凄く大事にしてくれている。だが、祖父のいない所では無視、嫌がらせなど当たり前。イジメ、投石、セクハラ何でもござれだ。
ハイエルフ達にしてみれば、異種族の血が流れているのに自分達以上に優秀な私が気に入らないと言う事らしい。無視や嫌がらせなど放置しても問題はない。地味に気持ちが凹むだけだ。投石されて 。ハイエルフ達は妖精の羽根で空を飛べるので、視界から外れた場所からも投げてくるが、投げられた石には魔力がかかっているので土の精霊にお願いして投げた相手に追尾するよう魔法を掛け直してから刀で弾き返すのだ。当たるまで追いかけ回す石つぶてに悲鳴をあげる奴が殆どだ。
またハイエルフ達は皆スレンダーな体型をしているが、私の胸は自己主張がとても激しい。なので、邪な発想で手を出す者も多い。が、そんな時は峰打ちしてボコるに限る。家族には感謝している。ちゃんと自衛する手段を与えてくれた事に。
成人した今、私は最長老様の命を受け見回りをしていた。本当なら何名か付いて来る筈だった。だが
「あんな黒髪の悪魔の指示になど従えるか!」
とまぁ、こんな調子である。先に手出しをしたのは相手側なのに、いざ都合が悪くなると混血児って事実を引き合いに出し、命令を平気で無視をする。最長老様も預言を正式に公表して注意したにもかかわらず。
今日も結界を修復する。以前は祖父お一人で結界を修復なさっていたが、結界の術式を教えて貰ったら法則さえ守れば直すのは容易いのが分かったからだ。最近は妖精魔法以外にも色んな魔法を教えてくれている。まだ使う事を許されていないが転移魔法もその一つだ。失敗すると他の世界に飛ばされる危険があるからだそうだ。
何故、そんなに教え急ぐのかと祖父にお伺いしたが、少しだけ哀しそうに静かに笑うだけだ。
そして決まり文句の様に
「ミサトが覚醒すれば嫌でも我と同じような羽根が生えて来るであろう。その時を待ってから練習を開始しても遅くはないであろう?」
祖父はかつては七色に光る蝶の羽を持っていたのだそうだ。でも、天変地異の時に半分焼け落ちてしまったそうだ。そんなボロボロの羽でも魔力を込めれば飛ぶ事が可能なのだ。祖父は最長老様でもあり預言者でもあるし、何でも出来て狡いと思う。全然超えられる気がしない。と文句を言えば
「ミサトの何十倍も生きて来たのにあっさり超えられてものぉ。」
と大笑いだ。しかし、最近は預言を見る事が無くなったそうだ。祖父は
「それは死期が近づいたという事じゃ。長く生き過ぎたからのぉ。最も、同族が不幸になる未来を見ずに済んだのはエルフの神のお慈悲があったからであろう。我は神に感謝せねばならぬのぉ。」
そう言って話してくれた。そんな悲しい事を言わないでくれとお願いするが、静かに笑みを浮かべながらまるで子供の様に頭を撫でるだけである。いつもなら祖父の側にいるはずの祖母は大病を患い病床に臥している。母上は再婚なされたが、帰省して日本で看病をしてくれている。だから、私が最長老様を支えなければならないと言うのにこれだ。
私には羽根が無いから見回りをする時は一番大きな木の上から眺めるのが一番効率がいい。鍵爪のついたロープを上の方に投げ、ロープが抜けないのを確認してから木に登るのだ。祖父の好きな時代劇ドラマからヒントを得た。夜目が利くのでササッと木の上に登れば、夜という事もあり満天の星空と木々の海だ。明かりもなく、ひっそりと静まり返っている。私が祖父達と一緒に住む家から見回りに出る時、
「運命のカウントダウンが始まったから見に行ってごらん。ミサトの宝物が見つかるかもしれないからね。」
なんて軽い調子で祖父に言われたので期待半分、不安も半分って気持ちで周囲を見張っていた。
自宅から持ってきた水筒を出してブラックコーヒーを淹れて飲んだ。コーヒー豆なんて貴重な物をどんな気持ちで調達してきたのだろうか?つくづく祖父には頭が下がる。宝物が見つかるなんて言うから何気に点滅する星を見つけてしまったってあれは…
そういや、星って定期的にチカチカするものだっけ?あれじゃまるで旧世界の乗り物だった飛行機じゃないかなぁ。
しかも人的被害が抑えられないって理由で廃止された筈の物が飛んでる事自体おかしくないか?
チカチカと点滅を続けていた物体はボンッ!と言う音と共に煙を盛大に出しながら高度を下げている様だ。
このままでは森が死んでしまう。そう思うと居ても立っても居られない。突如、背中が熱くなった。何かがにょきにょきと生えている感覚がする!ちょっとした混乱が私を襲うが。他でも無い、祖父がいつの間にか隣にいた。
「落ち着いて。羽化したんだよ。大人になった証拠だよ。鏡で見てごらん。」
私は手鏡を見て驚いた。背中が七色に光ってるよ。これ…
「今まで飛んだ事無いんだからいきなり飛ぶのは難しい。反重力魔法でミサトを浮かしておいてあげるから一緒に行ってみよう。」
「はい!お祖父様。」
私は祖父の後に付いて木から飛び降りたが落ちる様子は無い。お祖父様は羽を動かして自力で。私は初めて羽らしき物体に魔力を流しつつ、見様見真似で飛ぶふりだ。大鏡で見た訳では無いので自分ではどんな形の羽なのか全然分からない。だが、先行する祖父を見るとまるで新しいおもちゃが与えられた子供の様なはしゃぎっぷりだ。今まで、背中に羽が生えて来なかったせいで粗悪品みたいな事を言われていた様なのだがそれでも仕方ないかと思っていた。だから、真の力に目覚めそうなのが我が事の様に嬉しいのかもしれない。
飛行する物体は爆発を繰り返しながらもまるで目印を見つけたかの様にこちらに突っ込んで来ている。
手を引っ張られて祖父に抱き寄せられた。飛行機らしきものは私の目の前を横切って森の木々をなぎ倒して止まった。油らしき物を撒き散らし、火の手が上がる。爆発はまだまだ止まる気配がない。
「あれは20世紀に大活躍したスペースシャトルじゃないか…何故そんなものが…」
「スペースシャトル…ですか?」
「そうだ。旧世紀のアメリカと言う国で開発された代物じゃ。となると、中に人がいるはずじゃ。ミサトは羽を消してから中に入って乗組員を探してくれまいか?我はこれ以上森が傷つかない様消火に当たる。乗組員の命を最優先にせよ!命令じゃ!」
「はい!王命賜ります!」
どうも羽に魔力を流すのを止めると羽は消せるみたいだ。ドアノブらしき物を手にしたが、熱くて触れない。まどろっこしいので、刀を構えて袈裟斬りにして破壊して中に入った。赤いライトが中を照らしていた。狭い通路を走ってドアをこじ開けた。乗組員は3人いる様だ。偉く異質な服を着ているので性別の判別迄には至らない。ベルトらしき物をナイフで切断してまず、一人。抱えて外に出た。祖父の方を見たが、険しい顔をなさっていた。嗅いだ事の無い油の匂いが鼻についた。
「火の勢いが止まらぬ、急ぐのじゃ!」
隠れ里からも続々と人が集まっている様だがまだ救出が終わっていない。中に入り直し、2人のベルトを切断した。だが、破壊された部品らしき物に身体が挟まってどうにもならない。
「お祖父様、中にまだ2人いますが、身体が挟まってて動かせません!」
「分かった!すぐに取り払おう!」
祖父の反重力魔法が身体と瓦礫の間に隙間を作った。まず一人。挟まっている箇所を止血してから引き抜く。もう一人も同様だ。切ったベルトで止血をした所で後ろから爆風が来て身体を打ち付けた。時間の猶予はどうも無いみたいだ。祖父の命を受けたであろう人が中に入って来て引き抜いた人を運んでくれた。私も後に続く。
「衝撃に備えよ!」
祖父の鋭い声がした途端、大爆発が起きて抱えた人ごと吹き飛ばされた!
慌てて起き上がると、いつの間大勢の人が集まっていて消火作業を続けていた。
民を巻き込みエリアヒールを詠唱した。続いて寝かされている3人の様子を確認した。反応が確認出来たのは一人だけだ。ガラスの様なものが開け放たれ、男の人の顔が確認出来た。だが、身体が上手く動かせない様だ。両端に寝かされているであろう人達の顔を部品らしき物をいじって顔が見える様にしてくれたが、首元を抑えても脈が取れない。蘇生魔法リザレクションとヒールの上位互換魔法を続けて発動するが、怪我が治る様子すらない。もう一人も同様に詠唱したが、反応がない。動きのあった人にもヒールをもう1度かけてみた。怪我自体は治っているが、起き上がれないみたいだ。何やらぶつぶつ話している様だが、状況を把握して呆然自失の後、魂が揺さぶられる様な慟哭が森の中に響いた。