奴隷の子ユーチュン
一面に広がる森の中、主人が乗ってきた馬たちに水をやると今日の仕事がいつもより楽であることにユーチュンは少しばかりの笑みを浮かべた。
晩秋から早春にかけての期間は狩りの期間だ。
森の中で1年間かけて育った獣を追い回し、矢で仕留めてくるのは貴族達の娯楽でもあり、武門にすればよい訓練でもあった。
ユーチュンの主人もまた狩りは好むところであり、狩猟の解禁直後には大々的なキツネ狩りを催して社交の場としていた。
そして今日も主人と若様とその友人とが鹿を狙うのだと猟犬を引き連れて森の中に入って行った。
森の中では木の枝や根が邪魔になり馬を走らせるのも困難なため、弩と矢とを担いで森の管理を任されてる使用人があらかじめかけておいた罠に向かっていたはずだ。
ユーチュンが澄み切った空気を吸い込むと鼻と喉の奥が冷たさに少し痛くなった。
馬たちの吐き出す息が温かくて、獣臭い体に身を寄せて寒さを凌いでいた。
狩りの日は一日中歩き回ることになる。
主人たちの機嫌を取るのは自分よりも年上の使用人たちの仕事なので気が楽、という点がユーチュンにとって何より嬉しかった。
それに主人らが獲た獲物は1番良いところは主人たちが食べてしまうが、それでも余った部分は使用人、そしてその余りが自分たち奴隷に回ってくる。
大抵は軟骨だとか、食べにくい筋だとかそうした部分であるが、普段は菜っ葉の浮かぶ薄い汁に小麦粉の団子が数個入っただけの食事であるだけに、肉が食えるというのはいやがおうにも期待してしまう。
実際、ユーチュン以外の奴隷達は今日はご馳走だ、と嬉しそうにしており、普段は隠すように所持している酒の準備をしている者さえいた。
「特に今日は鹿だものなぁ」
鹿は細身でも肉がぎっちりと詰まっているし、前にほんの一切れ分けてもらった筋も味が濃くってこの上もなく美味しかった。
味付けなど殆どないようなものだから、あれは多分鹿の味だろう。
固くて堪らないけれど噛み締めると味が次々染み出してくるものだから顎がクタクタになるまで噛み締めたものだ。
と、ユーチュンが自分の頬を押さえて悦に浸るような思い出を反芻していたところに、突然空気そのものを引き裂くような笛の音が響いた。
「わ、若様がお呼びだ!」




