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花吹雪  作者: akaesaki
7/7

「マスターも、白髪増えたな。やっぱ、心配事が多いんだろうな。」

帰りがてら、木村が呟く。


「・・・あれっ?そっち、学園じゃないですよ。木村先輩!」

学園とは反対の駅方向へ歩き出す木村の背中に呼びかける。

「今日は、これにて終了。何の為に、カバン持って出てきたんだよ。ゲーセンでも行こうぜ?」

「え〜っ!?本気でフケちゃうんですか?特待生のクセに!!」

「バッカ。なんでおれが美術部部長に生徒会副会長までやってると思ってるんだよ。こんな時の為に、日々培った信用を利用せずにどうする。」

振り返って笑う木村の顔を見ると、何も言えなくなる久保田だった。

「も〜。しょうがないですね。ホンと、木村先輩っていい人なのか悪い人なのか、わっかんないですよ。」

「・・・なんだかんだ言って、ついてくるもんなぁ。そういうお前も似たようなもんだよ。」

久保田の肩に腕を回し、首元へ顔を押し付ける

ぎゃあ!と叫ぶ反応が面白くて、笑い転げる木村。

「っとに・・。そんなことばっかりしてるから、木村先輩とボクがデキてるって、変な噂流れちゃうんですよ?知ってます?」

「おお、久保田の耳にまで入った?ソレ流してるの、お・れ♪」

元から細い目を更に細めて笑う木村に、この人にはやっぱり勝てない。そう思った。

半年前、初めて会った時からこうだった。他の生徒が敬遠していた冴木晃にさえ(久保田には、何故そういう空気なのか理解できなかったのだが・・)、木村だけは臆する事がない様に見えた。

「あ・・、そうだ。木村先輩。冴木さんのお宅って、元はお寺さんだったんですか?見事な門構えでしたよね。あそこに住まないなんて勿体ないですよ。」

真顔で感心する久保田の顔を見ながら噴き出してしまう。

「お寺って・・・。アイツんち昔、この辺の地主だぜ?元は、医者やってたって言う結構有名な・・・。

だから、あの屋敷がある辺りは、まだ「佐伯」っていう地名が残ってるくらい。それで、余計“事件”の時大変だったのに・・・。知らなかったんだ?」

だから、久保田は面白い。木村がまた笑った。





4月の暖かい風が、アスファルトに散った花びらを舞い上げる。

昨日、あんなに綺麗だと感心していた桜が、商店街を飾るまがい物のように感じる。久保田は、足元の無残な残骸を踏み、桜吹雪の中出会った冴木晃の姿を思い浮かべる。あの時、叫びとしか聞こえなかった言葉の意味を考える。・・・なんと言っていたのだろう。範行は、ただの発作だと言っていた。しかし、久保田にはそう思えない。病んだ言葉の中から深い拒絶を感じた。自分は、晃から拒絶されたのだろうか・・・。


先に行く木村の背中を見ながら、久保田は美術棟でのあの一瞬の晃を思い出す。――あの“事件”は、いつまでもフラッシュバックのように思い出されて、久保田の胸を苦しくさせる。

「鬼に魅入られた」

ついと、そんな言葉が思い浮かぶ。現実と夢との間にいたような不思議な感覚。そして、消えない後悔の念。

あの頃、冴木晃の一番傍にいたのは、紛れもなく自分だったのに、清野との関係にさえ気付かなかった。――たかが13歳の少年にそんな状況を察しろと言うのも、無理な話だが――もしも、自分がもっと気の付くタイプだったら、あんな最悪な別れ方をしなくて済んだ筈だ。それを思うと、自分の非力さが悔しくて、機会さえあれば晃に会って詫びたいと願っていた。それが晃にとってどんな意味があるのかは、考えたこともない。

ふと、傍らで気楽な顔をしている木村も、そんな事を考える事があるのかと思い当たった。聞いてみたい衝動に駆られるが、すんでの所で思い止まる。外側に出さないだけできっと、あるのだろう。だから、授業をサボって範行の店に行ったのだ。自分よりもずっと付き合いも長く、晃の事を知っているのだから。


いつも笑っているクセに、沢山の思いを忍ばせている木村が少しだけ憎いと思う。普段は、困ったヒトだと言いながら後を付いていく久保田だが、初めて抱いたこの整理のつかない感情を、木村には気付かれないように仕舞い込んだ。


再び3人で会えるまで、あと数年の時間が必要だとは、思いもつかない春が過ぎようとしている。



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