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「な?マスター、久保田って可愛いだろ?一途だし。晃の好きなタイプ。」
久保田の頭を小突いて、木村が笑う。
「そうだなぁ。女の子なら嫁に欲しいくらいだ。」
範行の言葉に、内心ドキリとする久保田。昨日見た晃の性器が脳裏を掠める。
「じょ・・冗談、止めてくださいよっ!木村先輩はすぐ人で遊ぶんだからっ!!」
「なに、真っ赤になってるんだよ。・・ホラ、こういうスレてない所が可愛いんだよ。ね、マスター?」
すっかりいつもの調子に戻って、木村がはしゃぎだす。
「はは・・。やっぱ、オレはこうやってお前らみたいなの相手にしてたほうが、楽しいなぁ。」
病院通いばっかりじゃ、滅入っちゃってな・・・力なく笑う範行を見て、2人とも晃の現状を思う。
「大丈夫だよ!明けない夜はないって言うじゃんか!元気出せよ、マスター」
木村に肩を叩かれて、範行も頭をバシンと叩き返す。
「お前に慰められちゃ、お仕舞いだよ!」
「いってぇなぁ。今までムチャクチャ気遣ってたの分かってる?」
ま、そんな事はいいけどさ・・・。そう独り言して、言葉を繋ぐ。
「・・・って・・もう、行かなきゃなんないんだろ?」
今度こそ、席を立って木村は久保田を促す。
「ああ、悪いな。」
敢えて否定せずに範行は言う。
『晃のところに行くのが、辛い』そうは言っても、行かない訳にはいかないのだ。
――1人で食事の摂れない晃は、介助がないと皿を前に途方に暮れたようにじっとしている。勿論、看護師が手伝ってくれるのだが、範行がした方が量を食べられるらしい。そんなところが不憫で、店の営業を置いてでも出掛けてしまう。
「そうだ、久保田君。こんな店で嫌じゃなかったら、また遊びに来てくれよ。」
コーヒーでも飲みに・・・。笑顔で言う。
「はい。ありがとうございます。」
「コーヒーか・・・。そろそろ晃の淹れたのが飲みたいなぁ〜。」
う〜んと、伸びをして木村が範行に笑いかける。
「アイツの淹れたのは旨いんだけど、マスターのはフツーなんだ。これが!サ店のマスターがそれでいいんかね?その意味でもアイツが戻ってくるの待ってるヤツいると思うぜ。」
わざと耳打ちする風に、笑う。
「いいから、ちゃんと学校戻って勉強しろよ。特待生のクセに授業フケたのバレたら、ヤバイんだろ?」
晃の“事件”以後、特待生への管理が厳しくなっているのを範行は知っている。
「あ、おれ?普段真面目だから、1回やそこら見つかったって、問題ないよ。」
いつもの笑顔の木村。
「――今日は、悪かったな。」
外まで見送りに出た範行が言う。今日はもう、何度目だろうか。
木村は少し困った顔を見せたが、すぐに笑顔を見せた。
「気にすんなよ、マスター。おれら、学校フけたついでに寄ったんだよ。」
なぁ?と久保田と顔を見合わせる。
「そうだ。アイツに、『帰って来れるようになったら、また遊ぼう』って言ってやってくれる?」
・・・伝わらなくてもいいから・・・と、小声で付け加える。
木村の優しさに、範行は無言で2人を両手に抱いて髪をグシャグシャと掻き回した。