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花吹雪  作者: akaesaki
3/7

「・・・すみません。勝手に入り込んだりして・・・。」

「ボク・・。あの・・、あれからずっと、気になっていて・・・。」

しどろもどろで説明しようとするが、自分でも何を言っているのか分からない。

「さっき、交差点で偶然冴木さんを見かけて・・。走って追いかけて来ちゃって・・。だって、ずっと会いたかったし・・・。」


「・・キミ、新脩学園の生徒?」

男がそう、質問する。


一瞬、ザァァァと強い風が吹いて、花弁が舞い散る。

地面に落ちて層になっていた花びらまで散らしていく風に、少し驚いた久保田は、制服のカラーに手をやり口ごもる。

「は・・・はい。あの・・・中等部の久保田って言います。美術部で・・・」

「あら・・美術部なの・・・。じゃあ、あき坊の後輩ね?」

女が微笑む。

その様子に少しだけほっとする。眼鏡の奥の大きな目が優しそうだ。


「・・・・・る・・な・・」

一瞬、久保田は誰の声か分からなかった。

「あき坊?どうしたの?あき坊?」

女が、少年の傍に屈み込んで声を掛ける。

「・・る・・な・・・み・・み・・・・・あぁ〜〜〜!!!!!」

顔を伏せ、体を震わせる少年の絶叫。左手を振り回し、何かから逃げるように暴れる体。

「どうしたんだよ。さっきまでご機嫌だったのに・・。」

なだめるように男が、晃の前にしゃがみ込みゆっくりと話し掛ける。しかし、晃には聞こえないのか、興奮はおさまらない。

「・・・ダメだな。勢伊子、帰ろう。」

男は、頭を掻き毟り錯乱している晃の体を抱きしめようとするが、あまりの激しさに拳を握り締め、そう言った。――目を見開き、歯を食いしばった蒼白な顔色。さっきまでの顔と明らかに違う。

「悪いな。すぐ帰らなきゃならないんだ。ここ閉めるから、キミも出てくれないか?」

男に言われ、何度も頷く。――晃の身に何が起きているのか見当も付かない。

車椅子を押し車へ向かう男の後を、久保田も付いて行く。



「キミ、点滴外してこっちに渡して。」

男に言われて、慌てて点滴バッグを架台から外し、車内へ手渡す。

車の後部座席に晃を寝かせ点滴をセットし直すと、男はいきなり晃のジャージを降ろし、紙おむつまで外して、白い裸の臀部を露わにした。ランドクルーザーの開いた後部ドアから、晃の足が小さな子どものそれのように暴れているのが見える。履かされていた上履きの片方が脱げて、久保田の足元に転げた。

叫び続ける晃の身体を押さえるように、男が肛門へ座薬を入れる。


――久保田は、その様子から目を放せないでいた。

体の中心がズキンと脈打つ。何故、自分は勃起しているのか・・・理由も分からず、うろたえるばかりだ。

「・・・の・・の・・の・・・り・・に・・・ぃ」

男に、暴れる体を押さえられながら、晃の何か言おうとしている声が聞こえる。

「あき坊・・。大丈夫だよ。すぐ落ち着くからな。大丈夫だぞ・・。」

必死に語りかける男の言葉は、しかし、晃の耳には届かないのだろう。さっきまで荒れ狂っていた体は、徐々に痙攣へと変わり、緊張していた足がだらしなく投げ出される。

が、呻き声はまだ収まりそうにない。


「兄さん、どう?」

女が、車椅子を畳んで積み込むと、車内へ声を掛ける。

「うん・・。今、座薬入れたから・・。暫くすれば落ち着く筈・・。」

男の言葉に、女も上半身を車の中に入れ晃の様子を見届ける。

「そうね・・。さっきよりは、顔色もマシになったかも。でも、すぐ戻るんでしょう?」

「そうだな・・・。でも、失禁してるからおむつ変えなきゃ・・・。いいか?あき坊。おむつ変えような?」

そっと言い聞かせ、大人しくなった晃の体を仰臥させておむつ交換を始める。

2人の隙間から、晃の白く細い足がビクッと大きく痙攣したのが見える。その真ん中には、およそ外見とは似つかわしくない男性自身が首をもたげている。――思わず、久保田もズボンのポケット越しに自分のモノを掴む。

中学生の彼にとってソレは、性の嗜好云々と言うより只、極めて刺激的な光景だった。

しかし、男にとってはごくありふれた日常なのだろうか・・・。事務的な手つきで晃に紙おむつを当て、ジャージズボンを穿かせている。その足先に、先刻の花弁がまだ一枚張り付いているのが、そこだけ呑気そうで不似合いに感じる。


「あき坊、もう帰ろう。また、具合のいい時に連れてきてやるから・・・な?」

言うと、大人しくなった晃の頬を愛しそうに撫でた。カエルのぬいぐるみを握ったままの右手が、ぎこちなく男の手へ伸ばされる。

女は暫くその様子を見ていたが、無言で久保田の足元に落ちた晃の上履きを拾い、後部座席のドアを閉めた。運転席に乗ってエンジンを掛け、車の移動を始める。

久保田も慌てて門の外へ出る。来た時のように道路で一度止めて、降りてきた男が久保田には構わず屋敷の門に施錠すると走り去ってしまった。

後に残された久保田は、呆然と車を見送るしかなかった。



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