#3.3『亜生命家電』
売り物の、家電の様子がどうもおかしい。
ハチスンは首をかしげた。
一見では、変哲もない普通ではある。だが長年、これらを見てきた、ハチスンの“勘”までは誤魔化せなかった。仕入れた冷蔵庫も、電子レンジも、オーブンも、液体PCも、立体カメラも、全てが亜生命化していたのだ。ハチスンの目は、命を吹き込まれながらも、沈黙を貫き続ける。不気味な家電だけが写っていた。家電に命が宿るなど、それは寄生体も同じだ。
洗濯機を軽くたたく。
──ゴン!
──ゴン!
──ゴン!
叩かれた洗濯機に変化はなかった。体をよじったり、放電で攻撃したり、蓋が噛みついたり、はなかった。ただの、普通の家電。
「う~ん」
命を感じるのだが、命としては振舞わない。
無機物の亜生命化は、珍しいことではあるが、よくあることだ。
前に亜生命化したのと会ったときには、放送局の機材が好き勝手に、ラジオ番組を作って電波に載せ続けていた。
亜生命化した際には主張があるのだ。
亜生命化しておきながら、家電そのものとしてしか振舞わないのは、ハチスンも初めて会った。
丸椅子を引っ張ってきて、座り込む。
ハチスンは、まっすぐ、視線の先に亜生命化した家電群を捕まえ続けた。
そのうち、ボロをだすだろうという考えだ。
ハチスンの意地だ。
すっとぼけるのであれば、それが剥がれた瞬間に笑ってやろうというものだ。
老眼鏡をかけ、足を組む。
ポケットから取り出したのは、『凪のソラにて』という小説だ。紙は、昔と比べて随分と変わり、数枚の記憶結晶だけで本を構成している。かつての数百分の一の分厚さだ。本は、頭の中で読む。見るもの聞くものの楽しみ方は、『知っている過去』と比べれば、まるで変わったのだ。