影の姫
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男が無事に元の場所へ転移されたのを確認すると、どっと疲れが襲ってくる感覚を覚えた。思えば、一年以上も他人と一度も会話をしていないのだ。疲れるのも当然と言えよう。
さて、何かやることがある訳でも無し、待つ生活を再開しようか。
......
あれから五年程経過しただろうか。やはり長命種と言うべきか、さほど時間が経過したようには感じていない。
日課となった島の見回りを今日も行う。と言っても、魔法で視界を飛ばしているから私は頂上にいるのだが。
もはや毎日のように来ているバトルジャンキー共を横目で視ながら、新しい発見が無いか探す。すると、妙な人間を見つけた。
武器も防具も携えずに、町に買い物にでも行くかのような様子でスタスタと山へ歩いてくる女。その女がグリズリーキングの脇を通り抜けるが、グリズリーキングはそれに一瞥も与えることの無いまま、のうのうと歩いていた。
はっきり言って異常だ。嗅覚の鋭いグリズリーキングが、生物の接近に気がつかない筈がない。だが、女に魔法の気配は無い。故に私は、その女に興味が湧いた。彼女は、私の元に来れる人間かもしれないから。
女は、誰にも気づかれることなく山を登っている。微塵も周囲に気を配らず、まるで自らのテリトリーであるかのように、悠々と。今彼女が歩いている場所は、陽光が縄張りにしている筈だ。だが、奴もこの女には気づかない。そのままスタスタと歩き、私のいる頂上までやって来てしまった。
私は女が私の領域に足を踏み入れたことを確認すると、言葉を紡いだ。
『よくぞ此処まで至った。一度も争いを起こさぬまま天上へとたどり着いたその力、実に見事であった。』
「えっと、あなたが神獣様、でいいんですよね」
『如何にも。最強の神獣であり、其方の望みを叶えるものだ。さあ、望みを語れ。』
すると女は、少し悩む素振りをした後にこう答えた。
「私、生まれつき魔力が無くて...魔法が使えるようになりたいです」
『良いだろう。視れば其方は闇の魔法に適正がある、闇の魔力を授けよう。』
私の魔力の0,1%にも満たない量で作った珠を女に飛ばす。私は女に『掴め』と命じる。女は私の言う通りに珠を掴む。するとそれは粉々に砕け、女の体に吸い込まれるようにして消えた。事実吸い込まれたのだ。
『此で良いであろう。最後に、魔物に気づかれなかった種明かしをしてくれまいか』
「あー...私、影が薄いんですよ。背景と同化するとかなんとか」
『成る程、理解した。では、其方を送り返そう。良いか?』
「あっはい、ありがとうごさいます」
私は女の足元に光の円を出し、女を元の場所へと帰す。
それにしても、影が薄いだけとは驚いた。彼女は密偵や暗殺者が向いているのかも知れない。
オチはないです