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神獣転生  作者: アスタ
3/7

剣の王

これはダンジョンマスター系の小説ではありません

 (......あぁ)


 暇だ、と私は再三思った。私がこの世界に産まれ落ちてから、恐らく一年程が経過しただろうか。その間、確かにこの島に来る人間は多かったのだが、どうやらここの魔物が強すぎるらしい。5ヶ月も経つ頃には、滅多に人が来なくなってしまった。

 このままでは今までと変わらない。早急に対処法を考えなければ。だが全知を使ってしまえば知ってる事を淡々とこなす作業と化してしまうため、全知は使わない。

 悩むこと15分。天啓の如く考えが舞い込んできた。


 (ゲームのように、死んだら生き返るようにすればいいのか)


 今でこそただ何もせず仕事だけを無心でひたすらこなすマシンと化していた私だが、子供の頃は人並みにはゲームをやっていた。だからか、一度その発想が出たらそこを基礎とした案がどんどん浮かんできた。人を呼び込む、ただし入りすぎない。そんな案が。

 私はその加護とも呼べる魔法をアリシア全域に掛けた。そして、大陸の人間にそれを知らせるために、光の柱を立ち上らせる。

 暴力的なまでの魔力量で生み出された光の柱は、天を貫き、四の大陸全てを照らす。それは、もう一つの太陽のようで、人々はそれを『地上の日輪』と呼んだ。


......


 私がこの島に掛けた魔法は四種。

 死んだら本土の方で蘇生される魔法。蘇生の際、記憶以外の全てが島に入る直前のものに戻る魔法。途中で島を脱出した場合、島で入手したものが消去される魔法。そして、島の植物が育ちやすくなる魔法。

 前の三つは当然人を呼び込むためのものであり、なおかつ勝者以外に島の物を持ち帰らせないためのものだ。最後のは、魔物が飢餓で死ぬこともたまにあるのでその対策である。

 先ほどの光の柱を見て人間は調査隊のようなものを派遣してくると予想している。そこから蘇生の機能に気がついてくれるだろう。



 件の魔法をかけてから一週間。予想通り隊を出してきた。人数は九人。見た所戦闘が六人で記録が三人といったところだろうか。なかなかの手練れもいるようだが、まだ足りない。出直してもらおうか。

 その隊が魔物に遭遇する。確か、百肢巨人ヘカトンケイルとか言ったか。この島ではかなり弱めの魔物だが、それでも彼らにとっては強敵らしく、かなり時間をかけて倒していた。この時点で犠牲は三人で、戦闘が二人に記録が一人だ。

 どうやら彼らは手に負えないと判断し、撤退を選んだようだ。それはとても賢明な判断であったが、残念ながら逃走は許されない。彼らの前に、蜥蜴の尾を持つ巨大な鶏が飛び出した。それはコカトリスと言って、つついた相手を石化させ砕く能力を持つ。強くはないが素早いため、厄介な魔物だと言えるだろう。

 彼らは先ほどの百肢巨人で重症を負っており、コカトリスの攻撃を避けることはできなかった。六人は石化し、そして砕けた。

 彼らは本土で蘇生され、そしてこの事を報告するだろう。これで、人間が来る頻度が増えてくれればいいのだが...



 結果としては、人数はかなり増えた。大成功と言えるだろう。だが、山まで来れる人間はまだ現れていない。百肢巨人が雑魚であることを証明するような凶悪な魔物が大量に生息しているのだ、仕方ないことだろう。だがそれでも戦闘の練度は確実に上がっているため、山へと至る人間が現れるのも時間の問題だろう。



 生き返るといってもやはり死ぬことは怖いのか、一度死んだ人間はほぼ戻ってくることはなく、その例に嵌まらない一部の人間が言わば常連のようになっていた。その常連は腕をあげているが、どうやら限界を感じているようだった。


 だが今日は久しぶりに見たことのない人間がやって来た。鋭い鉄の剣一本のみを携えて。鎧どころが上半身は服も着ずに。

 筋骨隆々の三十代ほどの男は警戒している様子も見せずに、ずんずんと山へ向かって歩いてくる。

 その男の背後から、ロック鳥が襲いかかる。音もなく飛翔するロック鳥の嘴が、男の首を狙う。だが、次の瞬間。男の腕が一瞬ぶれたと思えば、ロック鳥はばらばらに切り刻まれていた。

 人間の極致とも呼べる剣術。だがそこに至ってもなお強さを求めんとする狂信的とも取れる瞳。私はそれに感動すら覚えた。この男ならば、必ず私の元へとたどり着く。そう確信した。


 思った通りに、男は無傷のまま山の麓へとたどり着いた。だが、山の途中では今までとは比較にすらならないような魔物が沢山いる。だが、男はそれさえも乗り越えてここへ来るだろう。ただ強いだけでなく、狂気的な程に強さを求める心。それを持っている人間は、強い。


 彼は、登りきった。だが、息も絶え絶えで、体からは大量の血を流し、いつ死んでもおかしくはない状況で、彼は気力だけで命を繋いでいる。

 彼が最後に戦った魔物の名前は、世界蛇ニーズヘッグ。霊獣ですら敵わないと言われている最強格の魔物。だが、男はそれに打ち勝ったのだ。

 ならば、私も相応の態度で対応し(演じ)よう。神獣の名の通りに。


 男が最後の道をゆっくりと歩む。黄白色の地面が視界に映る。そして、登りきった男は、荘厳なる『白』を見た。

 巨大な鏡の前に鎮座する、今までの魔物と比べるとやや小さい生物。だがその身に宿す力はどれほどだろうか、男には検討もつかなかった。

 『白』は男の姿を認めると、ゆっくりと立ち上がり、男に語りかける。


 『よくぞ此処まで至った。人間の可能性というものを見せてもらった、礼を言おう。』


 男は警戒を解かないまま、問う。


 「......お前は、何者だ」


 『私は最強の神獣にして、其方の望みを叶える存在だ。此処まで至った褒美だ、何でも一つだけ望みを叶えてやろう』


 すると男はフッと軽く笑い、


 「俺の願いはただ一つ。強くなることだ」


 『そうかそうか、其れほどの力を持って尚力を欲すか。良いだろう。』 


 『白』は、体に魔力を纏うと、大きく嘶いた。


 『────────』


 男の回りに光の魔力が漂い、男は力がみなぎるのを感じた。


 『其方の限界を取り払った。故に、其方は際限無く強くなるであろう。』


 男は、期待に満ちた目をして、来た道を戻ろうとする。

 だがそれを、『白』が引き留める。


 『まあ待て。其の状態で只帰すのも酷だ。私が送ってやろう。』


 男の足元に光の円が発生する。男の意識が薄れ行く最中、『白』は確かにこう言っただろう。



 『過ぎた力はその身を滅ぼす。努忘れるな』

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