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星降る村の小さな英雄  作者: 南木
第1章:星降る村の小さな英雄
19/25

猟騎士が来る


 アグニが、メルタ村から再び里に戻った次の日の午後。見慣れない格好の集団が、村が見える場所まで坂を上ってきた。


「やっと村が見えたか……! あと少しだぞみんな!」

「ちくしょう……なんでこんなところに人が住んでるんだよ!」


 人数は全部で10名。ほぼ全員が息絶え絶えで、内3名は意識を失いかけて、仲間に支えてもらいながら歩くのがやっとのありさまだった。

 村の入口が見えたところで、彼らの中から3名が代表となって村を訪問するようで、残りのメンバーは村に入る前に、近くにある岩や倒木に腰を下ろして休憩することになった。


「メルタ村……と、書かれているな。ここで間違いないようだ」


 代表者の1人で、かなり明るい金の長髪の女性が、村の入口の標識を指さしてそう言った。

 彼女はメンバーの中でもかなりの重装備で、全身を振るプレートメイルに包み、背中には身長ほどもあるバスタードソードとカイトシールドを背負い、さらに腰にも立派な剣を装備している。これほどの装備で一般人では死にかねないほどの山道を登ってきたかかわらず、その凛々しい表情は崩れていないところを見るに、その実力の一端がうかがい知れる。

 首に掛かっているネックレスは――――緑色の宝石がはめ込まれたもの。


「間違いないも何も、こんな山奥に、ここ以外に村があってたまるかよ」


 そうぼやくのは、濃い褐色肌に燃えるようなオレンジ色の髪が特徴的な、筋骨隆々の壮年男性。

 こちらは女性と対照的に、全体的に装備が身軽で、上半身は肩当程度で、夏とはいえ比較的寒冷な高地にもかかわらず、布すらも纏っていない。

 しかし、筋肉が見事に浮かび上がるその肉体には無数の傷が走っており、幾多の死線を越えてなお生き残っている、男性の生き方を物語っている。背中には2本の鉄槌を背負っており、盾の類は見当たらない。

 こちらが首にかけているネックレスの宝石の色は――――黄色だ。


「ははは、そういえばそうだな! とりあえず、屋根のある場所で寝れるだけで俺は満足だ」


 そう言って茶化すもう一人の男性は、前の男性に比べて線が細く、黒い短髪で短めの顎ひげを伸ばしている。ややすり切れて茶色みがかった古い灰色の外套と、これまたぜんたいてきにやれた厚手の服を着ている。鎧や防具といった装備は見当たらず、武器となりそうなのは右手に握っている木製の杖のみ。

 その表情はかなり穏やかだが、アグニが見たらおそらく三人の中で最も危険そうだと感じるだろう。

 とにかく、得体のしれない人物である。ちなみに彼はペンダントをしていない。



 3人が、この村を改めて目的地だと確認すると、そろって村の入口に歩を進めた。入り口付近にはすでに村の住人3人が、村長の指示を受けて彼らを待っていた。


「ようこそ、ここはメルタ村です」

「フライコール第38パーティー『テルミドール』、リーダーのスピカだ。出迎え感謝する」

「俺はフライコール第43パーティー『悪友』、同じくリーダーのゾム。世話になるぜ」

「あ~、俺はフライコール第30パーティーのダビッドっつーものだが、

俺は単なる付き添いだ。依頼メンバーに含まれちゃいないが、まあよろしくな」


 女性騎士のスピカと男性戦士のゾム、それに謎の男ダビッドは、それぞれ村人の代表と握手をしながら、言葉を交わす。

 このやり取りは、古くから猟騎士を出迎えるときの定型の挨拶で、依頼した村の代表が自分の村の名前を、フライコール側は自分たちの所属とパーティー名、リーダーの名乗りをして、形式的に村への滞在許可を得ることになる。

 ダビッドだけは、挨拶し終わると同時に、ふらっとどこかへ行ってしまったが、リーダーと名乗った男女は、それぞれパーティーメンバーを連れて村に入った。


「宿は9人分で間違いありませんか?」

「問題ない。脱落者も、途中参加もなしだ。あの男のことは気にしなくていい」

「すまないが、うちの連中は高山病になっている。休ませれば回復するだろうから、早めに横にならせたい。大丈夫か?」

「構いませんとも。山の下から来た方たちは、皆さん具合が悪くなることが多いですから。宿には高山病に効果のある薬草もございますので、ご用意いたします」


 こうして、スムーズに滞在許可が下りると、2つのパーティーは早速宿に案内され、遠路の疲れを癒すこととなる。


「滞在申請書と滞在費用だ。確認してくれ」

「はい、村長様から伺っております。申請書および滞在費、確かに頂きました」

「辺境の村だから、正直あまり期待してはいなかったが、かなりいい部屋だったぜ。ありがとな」


 ほかのメンバーが別途で一息入れている間にも、リーダー2人は残りの手続きを進める。

 猟騎士と一般の冒険者の最大の違いは、村での滞在費用は国が負担することだろう。

 猟騎士は猟騎士組合から、あらかじめ解決に必要と見込まれる分の資金を預かっており、同じく組合から発行される滞在申請書と合わせて、拠点の宿泊施設、あるいは首長に渡すこととなる。これらの滞在費用はきちんと国の規定によって定められているため、横領したりすると厳しい罰則が下される。

 今回彼らが宿屋に支払った金額は360§。それなりの腕利き9名が20日滞在する分の費用だ。これらは、早く依頼を終わらせても村は返還する必要はない。もちろん猟騎士たちも、依頼を終えてぎりぎりまで滞在していくのも自由だ。

 このように、猟騎士たちはあらかじめ受け入れシステムを作っておくことで、村のほうもそれに合わせて準備することができるのである。


 宿屋の手続きの後2人は、依頼人――――この場合は村長と会談する。

 

「これは猟騎士様、遠路遥々ようこそおいで下さいました。ここまで来るのは大変だったでしょう」

「ああ、さすがにこの高地の気候は体に堪えたが、幸い何人かは動ける」

「俺たちが来たからにはもう大丈夫だぜ村長さん! 今へばってるやつも、明日になりゃ動けるようになるだろ」


 ともすれば不安になりがちな依頼人を安心させるように、猟騎士二人は強気の挨拶を交わす。村長のほかにも、その場には緑宗神官ブライトンと、村長の息子のベルフが同席していて、彼らもまた猟騎士たちとあいさつを交わした。


「私はこの村の緑宗神殿の神官長ブライトンと申します。お怪我などありましたら、私どもを御頼りください」

「ええっと、僕はベルフっていいます」

「私の息子でございます。村の子供たちのまとめ役をしておりますゆえ、子供に何かあった場合は息子にご相談いただければ」


「承知した。あなた方の事は、我らが命をとしても守り抜いて見せよう」

「おう、君は村長さんの息子さんか。随分と賢そうじゃないか、将来が楽しみだ。そんな楽しみな将来は、俺たちも全力で助けてやんないとな」


 ゾムが、ベルフに手を差し伸べて握手を求める。ベルフは緊張しつつも、初めて会うフライコールの強そうな手をしっかりと握った。


(これが……戦う人の手か。なんだかアグニの手みたいだ)


 アグニの手も、仲間内の中ではかなり大きいと評判だが、ゾムの手はさらに一回り大きく、まるで岩のように思える。


「では、村長に神官。すまないが、現在の状況を分かる範囲で教えていただけないだろうか」

「ええ……もちろんですとも」


 その後彼ら5人は、現在メルタ村が置かれている状況について話し合った。

 この地域はメルタ村を中心に12の里があり、それぞれの里に20人~50人程度の人数で生活している。しかし、現在メルタ村の西側の地方の里が2つ襲われており、西側には残り2つしか里が残っていない。そのうち1つは村から30分程度の場所だが、もう1つはやや離れたところにあり、近くに水晶鉱山もあることから、現在山の民の大半がこの里の守備に回っている。

 また、北方に1つだけ里があり、ここは竜人の縄張りに近いせいで、占領されると後々面倒なことになりかねないので、陽動もかねて山の民の中でも特に強い一家が守備についている。

 このため、メルタ村には有事の際に戦える人間がほとんどおらず、直接襲撃を受けたら大変危険な状態にある。


「なるほど、現状はおおむね把握した。これは一方が村の守備に残り、もう一方がドレークの根拠地を探すのがよさそうだ」

「だな。なんなら、俺たちのパーティーが先行してもいいぜ。俺たちは守るのはあまり性に合わんからな」

「よかろう。私たちはその間に、村の守備を固めておく。当面の目標は……襲われた里の奪還だな」

「村が襲撃される心配がなくなったら、奴らのアジトに殴り込みをかける、と」


 彼らの方針は決まった。パーティー『悪友』が、まずは谷の里の奪還を狙い、竜人たちの進行を食い止めたのちに『テルミドール』を先頭に、竜人の里を攻撃するようだ。


「ところで、村の住人の中に、竜人のことに詳しいものはいないか? できれば事前に情報収集を行っておきたい」

「スピカの言うとおりだ。奴らのことが少しでもわかれば、俺たちとしてもありがたい」


 二人の言葉に、村長たちは一瞬顔を見合わせた。


「あの、でしたらアグニたちがよく知ってると思います。というか、アグニ――――北の里にいる僕の親友なんですけど、彼の一家は元々竜人と親交があったって聞いてます。もしかすれば、彼らなら何か知っているかもしれません」

「北の里か……たしか竜人との国境の近くの里だったな。ここからどれくらいかかる?」

「距離はそこまでないですけど、今まで来た道よりさらに険しい道が続きます。僕の足でも、登れば4時間くらいはかかるかもしれません」

「4時間…………」


 さすがのスピカも絶句した。

 メルタ村は、書類上最も高地にある場所だというのに、ここからさらに奥地に人間が住む場所があるというのだ。さらには現地の住人ですら向かうのに4時間かかるというのだから、自分たちの足ではほぼ半日かかるとみてよい。往復すればそれこそ朝出て夜に帰ってこれるかわからない。


「仕方がない。守りをおろそかにするわけにもいかないが、竜人の情報は何よりも貴重だ。ゾム、私は明日一人で北の里に向かおうと思う。探索の方は任せた」

「あんまり無理するなよ? 道案内はつけてもらえよ」

「いわれなくてもわかっている。そういうわけだ村長、道案内が欲しい」

「だったら僕が――――」

「ダメだ。君は村長の跡継ぎだろう。万が一のことがあっては困る」


 スピカ一人で北の――――アグニの里に赴くことになったのだが、道案内するというベルフの申し出を、スピカはあっさり却下した。しかし――――


「いいえ、僕には将来、村や里の生活を背負う必要があります!

僕だけ安全なところにいるわけにはいきません!」

「ほぅ……」

「ベルフ! 猟騎士様にあまり無理を言っては…………」

「いや、その意気やよし。村長、本当によくできたお子さんをお持ちだな。

そこまで言うなら、君に道案内を頼みたい。いいな?」

「はいっ! お任せください!」


 道案内を任されたベルフは大いに喜んだ。

 なにしろ、同じ子供で親友のアグニは、今この時も最前線で戦っているというのに、自分は何もできないことをベルフは悔やんでいた。それだけに、自分が少しでもアグニと同じ位置に立てることに、大きな喜びを感じた。


「では、明日から各自行動に移る」

「よぉし、久々に骨のある相手だ、楽しみだな」

「頼りにしておりますぞ、猟騎士様」


 この後猟騎士たちは、竜人たちの襲撃におびえていた村人たちや、家を焼かれた西の里の人々から、大いに歓待を受けた。そんなときに、ベルフは子供たちが集まる寄宿舎に足を運び、ようやく自分も責任ある仕事ができると語った。


「そんなわけで、僕も明日から猟騎士様たちのために働けるんだ!」

「はぇ~すげぇなベルフも。俺もあの人たちに何か手伝ってあげたいな!」

「傷の手当てや、お洗濯なら、私も手伝えるかな?」


 ベルフが仕事をもらったことで、ひょっとしたら自分たちにも声がかかるんじゃないかと色めき立つ子供たち。しかし、ただ一人だけ不服そうな表情をしている子供がいる。――――――ローザだ。

 ローザが喜ばないのを見たベルフは、子供たちが解散した後に、その理由を聞いてみることにした。


「ローザちゃん、あまりうれしそうじゃなかったけど、何かあったの?」

「…………ベルフ君まで、アグニ君みたいに危険なところに行っちゃうのね」

「そんな! 僕はそんなに危ないことはしないよ。でも、僕だって将来は村長になるんだし、みんなの先頭に立たなきゃいけないんだよ」

「私は……アグニ君にもベルフ君にも、元気でいてほしいの。それなのに、みんないなくなっちゃうなんて」

「………………」


 この時ふと、ベルフの心に一瞬暗い影が差した。

 なぜ自分がこんなことを思ったのか、彼は理解するのにやや時間を要した。


「ローザちゃん。僕はアグニみたいに、どこにもいったりはしないよ! 僕はこの先もずっとローザちゃんと、この村を守るんだから!」

「ベルフ君……?」

「あ、いや…………その、とにかくさ、僕は決して無茶はしないよ。アグニみたいに強くはないけれど、僕は僕なりの方法で、村のために頑張るから!」


 ベルフの瞳には、それまでの彼にはなかった強い意志が見えた。

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