第7話:友達
今日は、特に何もすることがない。めったにない訓練が休みの日だ。自由にしていいとAに言われたので、村を見て回ることにする。
よく見るのは初めてだが、とてもいい村だ。花が咲き誇り、空気が澄んでいて、少し遠くに行けばきれいな湖もある。日本には排気ガスのせいでこんな澄んだ空気はなかった。しばらく歩いていると、エルフが見えてきた。A以外のエルフと接触するのは初めてだが・・・
「あれが件のダークエルフ」
「なぜあんなものが村を歩けるのか」
コイツ等……小声で言ってるけど聞こえてるぞ。
そんな会話は無視して、もっと奥のほうに行く。そして出てきたのは、私と同い年くらいの子供だった。
「あっダークエルフだ~」
「なんでこんなところにいんだよ」
「早く出てけ~」
そんなことを言いながら石を投げてくる。もちろん素直に当たってやることなく、キャッチして別の場所に投げる。
「なんで当たらね~んだよっ!」
「魔法でも使うか!」
「おれは弓にする」
あれ?と、疑問に思った。この子供たちはダークエルフの私をいじめうのになぜそんな武器を使うのかと。
そこでようやく、自分が勘違いをしていることに気付いた。コイツ等は私をいじめたいんじゃない、多分、自分の魔法や弓の実験台にしたいのだ。その結果死んだってどうでもいいのだ。なぜなら、ダークエルフなのだから。ここで私が死んだら、むしろ大人たちはコイツ等をほめるだろう。ダークエルフというだけで……それだけで。
実験?そんな理由で殺されてしまうのか?そしてそれが許される?そんなことがあってたまるか!お前らが私を殺すなら……私がお前らを殺してやる!
「ダメ~~!!」
私が魔法を発動する前に、静止の声がかかる。
「そんなことをしたら、その子死んじゃうでしょ!」
「早く弓をしまえ!」
突如現れた二人は、私を攻撃しようとした三人のほうに詰め寄っていく。
(一瞬私に声をかけたのかと思った~。ビックリした~)
「お前ら、こいつはダークエルフだぞ!」
「だから何よ、ただ種族が違うだけじゃない!」
「その子自身があなたたちに危害を加えてわけでもないでしょう」
「くっそ、行くぞお前ら」
「「お、おい」」
そういって三人は去っていった。
「ねえあなた、大丈夫?」
「ケガとかありませんか?」
「……大丈夫」
まだエルフに対して不信感が残っているのか、思わずぶっきらぼうな声で返事をしてしまう。
よく見たらこの二人も、私と同い年くらいだ。ああ、この村にもこんな考え方をする子がいたんだな。その事実に、少し嬉しくなった。
「あたしミレイってゆうの」
そういってって水色の髪の女の子は名乗った。
「私はレイラといいます」
黄緑色の髪の女の子も名乗る。
こういう場合は私も名乗るべきなんだろうけど……
「ごめん、私まだ名前無いの」
そう、紅音というのはあくまで呼び名であって、正式な名前ではないのだ。呼び名を名乗ってもよかったのかもしれないが、どうせあと三年でこの村も追放される。そこから一生会えないだろうし、下手に名乗らないほうがいいだろう。
「だったらあたしたちがつけてあげよっか~?」
「いい、別に不便なことはない」
ミレイの気づかいは嬉しいが、悲しいかな、本当に不便はないのだ。
「でもまあ、こうして名乗ったわけだし、あたしたち友達だね」
「えっ、いいの?」
ミレイの言葉は嬉しいが、そんなことをしてあとで問題にならないだろうか?
「いいよ~」
「別に構いません」
言い切った。それがさも当然であるかのように。だったら、その言葉には真剣に向き合わなければいけないだろう。
「だったら、これからよろしく!」
「うん。」
「よろしくお願いします。ああ、友達なら敬語はいらないね。よろしく。あなたは髪が紅いから、紅って呼ぶね」
私、ミレイ、レイラの順で確認していく。というか……
「その口調、素じゃなかったんだ!後、紅いって……」
私は腰の長さはあるであろう髪を触って、色を確認する。
(本当に紅かった。ていうか髪の色確認してないなんて、案外抜けてるな~私)
「じゃあ、あたしたちそろそろ行くね」
「また会おうね、紅」
ミレイ、レイラがあいさつをする、それに対し、今度はぶっきらぼうなものではなく、ちゃんとした返事を返す。
「うん」
こうして三人は別れた。
ー夜ー
私は小屋で、今日の出来事を振り返っていた。
(あの時、私はあの三人を、本気で殺そうとした。二人が止めなかったら、確実にそうなっていた。多分、記憶を持っていても脳は子供のままだから、感情が抑えにくくなっているんだろう。そんなことをしても立場が悪くなるってわかってるのに。感情のままに殺しても冷静になってそれを後悔するだろうし、罪悪感にさいなまれて、その日は眠れないだろう。気を付けないと。)
それから紅音は、いつも以上に精神修行に身を入れるのであった。