本の向こうのあなた 番外編
「本の向こうのあなた」番外編。
付き合った後の春日と夏帆の何気ない日常、そして…♡
とうとうあの2人が、もっともっと幸せになっちゃいます!!
ある晴れた日の昼下がり。
増田夏帆は、髪を梳かれている感覚で目を覚ました。
「あ、起きた?」
声をかけてきたのは、恋人として付き合っている春日彰人だ。
2人で過ごす休日、2人部屋でソファに並んで座り、本を読んでいたはずだったが、いつの間にか彰人にもたれかかって寝てしまっていたらしい。
「ごめん、重かったよね」
「いや、全然?」
休日、2人で過ごす日はもう数え切れないくらいになっているが、めったに出かけることはない。
驚くほど趣味が合い、それもまた家の中でできるものなので、夏帆も、遠くに遊びに行きたい、とは思わない。
大抵本を読んでお茶をして、たまにレンタルDVDを観て。
外出するのも、近くの街に映画を観に行ったり、本屋に行ったり。
そして、2人の出会いの場でもある図書館。
もちろん、遠くに遊びに行きたいと言えば彰人は絶対連れて行ってくれるんだけれど。
でも、この時間が何より夏帆は好きで、この時間も幸せなんだよなぁ、と前に彰人が言ってくれたから、夏帆も、不満も不安も無い。
今日も、2人で別の本を借りて、彰人の部屋で読んでいた。
「そろそろ3時だよ」
髪を梳いたまま、彰人が言う。
「あ、ほんとだね」
「今日さ、ケーキあるんだけど、夏帆食べる?」
「え、食べる食べる!!」
「じゃお茶入れよ」
彰人が立ち上がったのに習って、夏帆も立ち上がる。
2人でキッチンに立つこの感じも好きだ。
結婚したらこんな感じなのかな、とふと思った。
出会ったときはお互い20代前半にギリギリ入っていたが、もう後半に入っている。
別に焦ってはいないけど。
「そこのカップ取って」
「はーい」
2人でお茶を入れて、お皿を出して、ケーキを冷蔵庫から出して運ぶ。
「あ、ここの」
彰人が持っている箱は、最近近くにできたケーキ屋のもので、夏帆が前に気になっている、と言っていたものだ。
「そ、食べたがってたでしょ」
「嬉しいです!ありがとう!」
夏帆は笑って言った。その顔があまりにも可愛くて。
彰人は少し顔をそらして、あぁ、とか、ん、とかはっきりしない返事をした。
夏帆は特に気にした様子もなく、ケーキを出す。その店が売りにしているというシフォンケーキだ。手際よく切って、お皿にサーブする。
「いただきまーす!」
「いただきます」
一口食べると、甘さと、軽さと、もう言葉にできないほど美味しくて。満面の笑みで、
「ん〜幸せ〜」
と夏帆が言うと、
「ん、美味しいね」
と彰人も頷く。
このなんでもない時間が好きだな〜と夏帆が思っていると、彰人が目の前で、考えこんだような顔をしている。
「ん、どしたの?」
聞くと、彰人は慌てて、
「いや、なんもないよ」
と言った。少し不思議には思ったが、最近、彰人が考え事をするのは珍しくはないことだったので、特に気にも止めず、夏帆はケーキを食べた。
ケーキを食べ終えて、片付けも済ませて、また2人でソファに座った。適当につけたテレビを観て、とりとめのない会話をする。話している時も、彰人はたまに考えこむような顔をしていた。
彰人が時計を見たところで、夏帆も、時計を気にした。そろそろ帰る時間。
「あたしそろそろ、」
と夏帆が腰を上げる。
「あぁ、うん」
彰人は返事をするのに、立ち上がらない。いつもなら玄関まで見送ってくれるのに、今日はなんだかおかしい。さすがの夏帆も、少し不安になる。
「どうかした?」
恐る恐る尋ねるが、彰人は答えない。
何もしかして不機嫌!?夏帆は少し焦る。めったに怒らない彰人が不機嫌になるということは、なにか夏帆が相当やらかしたか。
体調が悪いかとも思ったが、元気そうに見える。
なんだっけあたし何した?!帰るって言っただけなんですけど!
パニックになりかけた時、彰人が初めて口を開いた。
「夏帆、座って」
有無を言わせない物言いに、夏帆もかしこまって、怒られるんだ…と覚悟を決め、
「はい…」
とソファに腰を下ろす。でも何したっけ…?
「何…?」
恐る恐る聞く。彰人は夏帆の両手を自分の両手で握って、にっこり笑う。
え、なに怒るときに笑うの!?怖いんですけど!!!あわわわ、と夏帆は勝手に慌てた。
彰人は言った。
「結婚しようか」
「……………………………………え?」
多分理解するのに30秒はかかったと思う。
「だから。結婚」
「………?結婚…?」
「そう、結婚」
「結婚って、あの男と女の結婚ですか…?」
「他にどんな結婚があるんだよ!」
放心して聞く夏帆に耐えきれずに、彰人が吹き出す。
「え…なんで?」
「なんでって…ずっと一緒にいたいから」
「じゃあ今日とか最近ずっとなんか考えてたのって」
「いつ言おうかなってちょっと」
笑って彰人が答える。
そして、体ごと夏帆に向き直る。
「結婚してください」
今度は笑ってなくて、真摯な目を見て、冗談ではないことがわかる。
「………っ」
やっとプロポーズされたという実感が湧いて、涙が溢れた。そして、彰人に抱きつく。
彰人はちゃんと受け止めてくれて、夏帆の背中に手を回してぎゅっと抱きしめる。また涙が溢れて、返事をする声は涙に濡れていた。
「…っはい…っ結婚してくださいっ…」
結婚してくださいって返事始めて聞いたよ、と笑う彰人が、体を夏帆から離す。
そして優しくキスをくれる。
「絶対幸せにします。今日みたいに、なんでもない日が、ずっと続けばいいなって思ってたんだ」
そして、出会った時と変わらない笑顔で笑う。
夏帆も答える。
「わ、わたしも…結婚してもずっとこのままでいたい…」
そして彰人にまた抱きつく。
「ありがとう…」
そう言って、ほっぺたにキスをして、肩に顔を埋めると、彰人はぎゅっときつく夏帆を抱きしめて、
「なにそれ…」
かわいいなぁ俺の奥さんは、と夏帆の肩に顔を埋める。
あぁ、幸せだ。
そう思ったところで、彰人は、
「ちょっと待ってて」
と夏帆を置いて寝室に行く。そして戻ってきて、また夏帆の隣に座る。
「一応、ね」
「え…」
そう言って左手を取られ、その左手が自分の元に帰ってきた時には、薬指に指輪が嵌められていた。
「買ってあったのは買ってあったんだけど、なかなか言い出せなくてね」
「…嬉しい」
せっかく引っ込んだ涙なのに、また溢れそうになって、誤魔化すために彰人に抱きつく。
「大事にするね、ありがとう…」
「うん、俺も夏帆のこと大事にするね」
額をくっつけて、もう泣かないで、と笑う。
「結婚して、子供ができて、2人でその子供に本を読み聞かせられたら俺はもうずっと幸せだなって思ってたんだ」
いたずらっぽく笑う彰人に、つられて笑う。
そんな日が来たら…
想像しただけで、幸せすぎてどうにかなりそうだ。
夏帆は笑って、
「早くそんな日が来るといいね」
と言って笑った。
今自分は世界一幸せだと、世界中に叫んでやりたいくらい幸せだった。
Fin.
プロポーズの場所を考えたときに、図書館でフラッシュモブを考えたのですが、家でのーんびりしたあとに、っていう方がこの2人らしいかなと思って、お家プロポーズにしました(*^^*)
楽しんでいただけたら嬉しいです!