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君と見た空の向こう側  作者: 春眠ヒドラ
此の世は摩訶不思議
5/5

それぞれの日常Ⅴ



走り出したは良いけど肝心の月岡達は何処へ向かったのか分からなくて立ち止まる。するとドン、と背中に小さな衝撃が走って振り向くと雨由が顔を押さえていた。


「きゅ、急に止まらないで!」

「ごめん。それよりあいつら何処向かってったかわかる?」

「うぅ…、このまま真っ直ぐ、でだいじょーぶ」

「うっし!んじゃこの調子で行こうぜ!」

「えいえいおー!!」


四人の背中を見送っていた雨由が言うんだから間違って無いんだろうとただ走る。参道を抜けたその先に見知った姿が見えた。間違いなくアレは俺たちが追いかけていた四人だった。


「おい、大丈夫か?」


俺は急いで駆け寄って声を掛けるが、すぐに違和感に気付いた。違和感だらけのこの状況で変、だと思うが。今までとはまた違う、そう、さっき風街が誰なのか分からない時にも感じた気持ち悪さを感じる。今度は俺だけじゃない、他のやつも同じモノを感じ取っているらしい。顔を真っ青にする花桐と鳥海、うずくまっている月岡。そして、多分、俺の、俺達の記憶から抜けていた風街がそこにいた。


「お前が風街…?」

「…そうだよ。わたしが風街。風街涼々(かぜまちすず)。どうしたの、幽霊でも見たような顔だけど」

「いや、」

「同じ天高、同じ学年なのにひどいな」

「まだ、何も言ってないけど」

「…あれ?そうだった?」


表情が変わらない、何を考えているのか分からない。生気も余り感じられない。この状況も合間って少しの恐怖を感じた。こいつは本当に人間なんだろうか。そして驚いた。本殿の先の深い所。俺の記憶が確かなら、ここは木々が生い茂っていたはずだ。それなのに木々は無く、見慣れない古井戸が姿を現している。そもそもあれだけの木々がどうして急に無くなっているんだと考えた時、視界に入った。まるで腐ってしまったかの様に変色した葉っぱと、色んな方向に折れ曲がってしまっている枝。それだけじゃない、この神社で一番大きかった、神木と言われるで有ろう大木は姿形すらなかった。全員が感じた気持ち悪さの正体は、これだったんだろうか。


「それより、風街と月岡は知り合いなのか?」

「そう。わたし達「中学からの知り合いってだけだ」…そう、それだけ」


そう遮る様に月岡が言う。月岡がそう言う以上そうなんだろうと納得した。誰にでも言いたくない事はあるだろうし。


「それに、あなた達がわたしの事しらなくても仕方ないの。だってわたし、不登校児だから」

「あーなるほどなるほど!」

「じゃあ名前までは出てこなくても仕方ないよなー!つーか俺がこんな美少女覚えないわけないし!」

「はいはい」


そうか、とこれも納得しかける。だが、俺達は風街に何も言っていない。俺が風街を見た時に少し驚いただけでそれ以外は何も…。ぞくり、と鳥肌が立つのを感じる。なんなんだ、こいつ。それに声を聞いてわかった。さっき俺と月岡が苦しんでいた時に俺が聞いた声は風街のものだったんだと確信する。


「なぁ、風街はこんなとこで何してんだ?」

「……………ナイショ」

「はぁ?てめぇふざけんなよ」

「なんで郁兎が怒るの」

「ナメた事言ってるからだろ」

「…郁兎にだって言いたくない事あるでしょ?それと一緒」


険悪な雰囲気に驚いた。仲が良い訳では無いらしい。にしても風街の言い方から、月岡の事を何でも知っているみたいで、名前で呼んでいて。そんな様子に中学なんかじゃない、もっと昔からの知り合いなんだと確信する。


「………言えねぇような事、してたのか?」

「凄い、なんでもお見通し。さすが郁兎」

「……何を、してた?言えよ、涼々」


風街が小さく笑う。立っていられないほどの風が吹き付けた。また"風"だ。腕で顔を庇いながらも辺りを見渡した、その瞬間、まるで金縛りにでもあったかのように身体が動かなくなった。今度は、金縛りかよ!!いい加減ふざけんな!!恐怖や不安感は怒りに変わる。何とか動く瞳だけを動かしてみると、雨由と陽平が倒れているのを捉えた。


「っ!!!ぃ!!!!」


声を絞り出す。当たり前の様に出ない。なんで、なんで、雨由と陽平だけ?花桐も鳥海も月岡も俺と同じ状態なのに、なんで、二人だけ。頼む、起きてくれ、と念じる。当然伝わるはずも無い。ただ見ている事しかできないなんて。


「これで良い?」


誰に向かって言ったのかは分からない風街の声が轟音に混じっているはずなのにやたら鮮明に聴こえてきて、俺は視線を風街にうつす。そこに映ったのは風街だけじゃない、何処からか出現したのか、大きな鳥居があった。それも普通じゃない。大量の札が貼られ、縄で縛られている。その縄から滴る赤と黒が混ざった様なそれは、血にしか見えなくて。一瞬にして恐怖に支配され、全身から血の気が引いていくのが分かる。とにかくこの場から離れなきゃヤバい。この場にいる全員がそう思っていたと思う。だけど動けない。逃げ出せなかった。風街が鳥居まで歩いて行き手を翳す。空に亀裂が走る。いや、空だけじゃない。辺りの…これは…空間か…?あらゆる所に亀裂が走っている。まるでこの世界は作り物だと言われてる様だった。


パリン、と硝子が割れるような音を聴いたのを最後に俺は気を失った。次に目を覚ました時に、目の前に広がっていた光景はーーー…。























「ん、んう?あれ?」


先に目を覚ましたのは雨由だった。目を擦り、辺りを見渡す。さっきまで赤黒い色に覆われていた空は青く澄んでいるし、霧も晴れている。大きな月も、季節外れの桜も、何もかもが無くなっていて見慣れたいつもの光景が戻ってきていた。だが、違和感を感じる。あぁ、そうだ、空が、いない。


「お、起きて!陽平!起きて!」

「んぁ………?あぁ?雨由?」

「空が!空達がいない!」

「は?空?見上げればあんじゃん」

「そっちの空じゃなくて!大野の方!」

「大野…あぁ!空か!あの爽やかで面倒見の良い空か!」

「そうそう!でも実は意地っ張りな空!」

「性格良しで顔もまぁ良しだけど泣き虫で寂しがりやな空だな!」

「他人の事ばっか心配する空だよ!」

「って、なんで空?空と一緒にいたっけ俺ら…つーかなんでこんなクソ暑い中神社なんかで昼寝かましてたんだっけ?」」

「え………?」

「は…………?」


雨由と陽平は見つめ合う。額を流れる汗を拭こうともせず、ただ目を見開きながら。


「それ、本気で言ってるの?」


絞り出した様な掠れた声で雨由は陽平に問う。


「いや、本気もなにもなくね?俺なんか変な事言った?」


陽平は決してふざけてる様子も無く、雨由に返した。


ミーンミーン、と五月蝿い蝉の鳴き声だけが聞こえてくる。雨由も、陽平も、それ以上何も言わない。いや、言えなかった。お互いに嘘をついていない事が分かる。だから何も言えなかった。



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