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君と見た空の向こう側  作者: 春眠ヒドラ
此の世は摩訶不思議
1/5

それぞれの日常


衣替えで軽くなった制服と、痛いくらいに眩しい太陽。鳴り止まない蝉の声が今年も夏が来たと告げる。夏は好きだ。プールに海に祭りに花火、楽しい事がたくさんある。そしてなにより大事な親友たちの誕生日があるからだ。俺は今年も一人、駅前のショッピングモールで誕生日プレゼントを選んでいた。去年は高校に入学って事もあって文房具だったけど今年はバイトも始めて自由に使えるお金も増えた。少し奮発して良い物をプレゼントしようと決めたものの、女子高生が欲しがる物とはなんだ。男子高校生の欲しがる物とはなんだ。(俺も男子高校生だけど…)二人の顔を思い浮かべる。あいつらならなんでも喜んでくれるのはわかっているけど、そうじゃないんだよなぁ。


「はぁ…どうしたら良いんだ…」

「何かお探しでしょうかー?」

「えっあ!はい!って鳥海?こんなとこでなにやってんの?」

「何って普通に買い物だけど。華緒も一緒にね」

「ん?あぁ、花桐か!相変わらず仲良いんだな」

「まぁね」


雑貨屋さんの前で悩んでいると同じクラスの鳥海小羽に声を掛けられる。その後ろに隠れるようにしているのは去年同じクラスだった花桐華緒だ。鳥海はどちらかといえば今時の女子高生で花桐は俺らの地元の町長の娘でお嬢様って感じなのに、いつも一緒で仲が良いのは少し不思議に思う。まぁ、二人にも色々あるんだと思うけど鳥海は校内で変な噂をされてて気の毒だ。そんなことよりこれは願ってもいない救世主の登場。女子高生の事は女子高生に聞くべし!


「なぁ、二人に聞きたいんだけど」

「なに?」

「女子高生って誕生日プレゼントになに貰ったら嬉しい?」

「…彼女?」

「バッ、ちが!」

「なに顔赤くしてんの図星?」

「ちがうっつーの!いいから!質問に答えろって!」

「えーどうする華緒」

「えっ、あの、好きな人から貰ったものなら、なんでも嬉しいんじゃないかな、…?」

「だから彼女じゃねーって!」


聞く相手間違えた。どうしようかと俺はまた考える。振り出しに戻った…。まずアレだ、陽平から考えよう。異性より同性の方がまだ考えやすい。陽平か…そういえば新作のゲームが欲しいって言ってたけどそれは自分で買ってもらうとして、他は…。


「あのさ、」

「…ブレスレット…、?」

「聞いてる?」

「……………お守り………!?」

「聞けよ大野」

「お、おう!?どうした鳥海!」

「……その子は部活とかやってんの?なら普通にミサンガとかにすれば?邪魔にもなんないだろうし身に付けられるし落とすって事もまぁないだろうし」

「なるほど!ミサンガ!いいなそれ!助かったありがとう」

「別に良いけど。アンタが彼女持ちって分かったし」

「だからなぁ!」


面白い物をみつけたとでも言うように笑う鳥海と控えめに笑う花桐。なんだそれ、とは思うけどまぁ良い。二人がいてくれたからなんとかプレゼントが決まった。そこは素直にありがたかった。それで、だ。初歩的過ぎてきっとまた笑われるんだろうなと思いつつこの際だから聞いてしまおう。


「ミサンガって何処に売ってんだ…?」





















同時刻、古町。人が行き交う繁華街から外れたゲームセンターの路地裏で一人の男子高校生が喧騒に巻き込まれていた。月岡郁兎という左目の眼帯が印象的な少年。どういう訳か彼はよくそういう人種に絡まれる。ガンをつけたとか、そんな下らない理由。彼自身そんなつもりはないが鋭い目付きと雰囲気のせいで、もはやそういうことには慣れてしまった。それが良い事なのか悪い事なのかわからない。


「おいテメェなにガンつけてくれてんだコラ」

「…………はぁ、」

「なにシカト決めてんっグハァっ!!」

「……なんでお前らみたいなのは揃いも揃って口だけ野郎ばっかなんだろうな」


ポケットに手を入れて肩を揺らしながら近づいてくる一人の鳩尾に郁兎の長い足から放たれる蹴りが決まる。それを見て一瞬怯んだ不良達に殴りかかった。こんなことなんでもない、まるで作業の様だった。次々と倒れて行く不良達をみて腰を抜かした最後の一人の元まで歩み寄り、見下すように言い放つ。


「で、なんか用か」

「ひっ、か、金なら出す…!」

「いらねーから。絡んでくんなよ」

「す、すんません…!」


そうして何処かへ逃げ出す不良を郁兎はつまらなそうに見つめて帰路についた。どいつもこいつも俺の目が気に食わないと口を揃える。くだらない。弱い奴程群れたがる。そんな風に思いながら。
















同時刻、白山神社。色素の薄い茶色の髪をふわっと風に遊ばせた女子高生の風街涼々(かぜまちすず)は立派な鳥居を潜って、参道を歩く。若い子が何もない日に神社に来るのは何とも珍しいのか巫女さんが不思議そうに涼音を眺めている。そんな視線に気付いているのかいないのか、そもそも気にしていないのか涼々はただ真っ直ぐに本殿へ向かう。だが涼音の目的はお賽銭を入れる事でも御祈りをする事でも無かった。本当に用があるのは本殿より奥の木々がお生い茂り、まだ日は高いというのに少し薄暗い、森のような場所の最奥にある古井戸。その古井戸を隠すように回りに石が積まれている。目的地につくと涼々は口角を釣り上げた。


「………みつけた」


此処に何があるのかまるで知っているかのような言い方だった。涼々が積まれている石を丁寧に崩していく。一つ、また一つ。見た目より随分沢山の石が使われているのか、今だに古井戸の姿は見えてこない。涼々は手が汚れるのも、爪に土が入るのも気にせず黙々と地道に崩していった。その石が崩れていくと同時に、自分達の世界も同じように崩れている事には気付かずに。





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