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魔法学園へようこそ!  作者: cymbal
第3章 殲滅魔術師
23/42

第四クラブ会館

 第四クラブ会館。

 中央通りからもほど近く、四階建てと規模も大きい。第三魔術研究会などが入っている中央部室棟は長年増改築を繰り返してわけのわからない構造になっていましたが、ここはシンプルに中庭を囲んだ四角形。わりと趣味文化系のクラブが集合している部室棟です。

 前庭などはなく道路にそのまま面した建物ですが、当然のように道に雑多なものがはみ出してきています。

 符術に使うものでしょうか、墨で見たことない文字が描かれている護符が飛び出した物干し竿にかけられて乾かされていたり(その先っぽには洗濯した衣類もかけられています)、窓から作り物の鳥みたいなものが飛び出しては旋回して同じ窓に帰って行ったり、向かいの建物に映写して映画を流しているところもあり、鉄を叩くような音がするところもあればギターをかき鳴らすような音色が聞こえてくるところもある。

 ……要するに、混沌とした状態でした。まあ、どこの部室棟もこんなものですけど。


 今は夕方前、というくらいの時間ですのでちょうど人出も多いです。各部室、やいのやいのと華やいだ声が漏れ聞こえてくる。


「ほら、ここが部室棟です。どうですか?」

「……」


 わたしはひとまず、入る前に部室棟を示して同行者の表情を伺ってみます。チサさんはこの雰囲気に目を輝かせるどころかむしろ怖気づいたように固まってしまっています。ユウさんはさして興味がある風でもなくぼーっと部室棟を見上げている。

 ……うーん、同行者の心、全然キャッチできてないですねえ。


「まあ、入ってみましょうか」


 わたしはそう言い、ガラスがはめ込まれた鉄製の扉を押し開ける。ずっしりとやけに重い扉は、なんだか時代がかったものを感じさせます。昔の建物の扉って、やけに重いような気がします。

 中は広いエントランスになっていて、数多くの生徒たちがそこここで談笑していたり、作業をしていたりします。広く吹き抜けになっていて、上の方は細い渡り廊下的なつり橋が頼りなく道を結んでいる。あちこちに箒が転がされているのが見えるので、実際の移動は大体飛んでいるのでしょう。上の方には空を飛ばないといけない談話スペースみたいなでっぱりがいくつかあり、そこにいくつか人影がうごめいているのも見えます。


 今はもう積極的に新入部員を勧誘をするという時期でもないので、わたしたちに声をかけてくるという生徒もいません。ここに訪れたのも、見学者ではなくどこかの部員だと思われているのでしょう。ちらりと目線を向けてくる人もいますが、それくらいのものです。

 灯りがないのでエントランス内は薄暗く、向こうに見える中庭が白昼夢のように明るく浮き上がって見える。


 不意に、かすかに発光する青白い煙が炎のようにぶわっと湧き出し、淡い輪郭で犬のような形を作る。なんだなんだと思って見ていると、あっという間にその煙は隅の方にいる一団が囲んでいる壺に吸い込まれてしまう。何かの実験なのでしょうか。周囲の生徒は特別驚いた様子でもないので、これはきっと、ここではいつもの光景なのでしょう。

 真剣な表情でなにやら語り合う一団があり、気だるげに水タバコを回し吸いしている人たちもあり、片や楽しげに歓談している人たちもいる。


 わたしは入り口すぐ脇にある館内見取り図の所へ行きます。横には掲示板もあり、今も部員募集のチラシは大量に貼られたままになっています。

 最近はもう新たに張られるものもないのでしょう、古びて少し、うらぶれた感じがします。

 ですが、そんな場末感のある場所でも少しは心が揺れてしまいます。勧誘のチラシが大量に張ってあるのを見てみると、その数だけ未来が広がっているような妄想が広がります。


「わ」


 チサさんがちょっとだけ目を輝かせる。うん、わたしもその気持ちはわかります。


「クラブって、色々あるんですね。魔法学園だから、魔法のものだと思ってたんですけれど」


 たしかに、魔法の研究系のクラブがこの学園の花形ではありますが、ハイキングや美術館・博物館めぐりや釣り、パーティゲームや文芸部、料理研究会など、およそ思いつく限りのものは大体クラブがあるのがこの学園です。


「無理に決める必要があるわけでもないので、気楽に見てみましょう」


 チサさんがけっこう乗り気になってきたので、わたしも嬉しくなります。


「ほら、ユウさんも負けてられませんよっ」

「完全に負けでいいんだが」


 わたしの言葉に焚きつけられた様子もなく呆れたように言いながらも、ユウさんも掲示板のチラシに目線は向けてくれています。

 そんなわたしたちの姿を見てか、何人かクラブの勧誘の声をかけてくる人もありますが、やんわりと断り見学する部活選びを続けます。


「お願い! うちのクラブに入ってよ! ホント頼むから! 今なら洗剤とかあげるから!」


 ……いえ、若干一名、必死に言い募ってくる人もいましたが。


「特に洗剤は必要としてないんですけれど……なんて部なんですか?」

「絶叫委員会です」

「お、お引き取りください」


 とりあえず、なんだか危険そうなクラブということはわかりました。

 というか、このままここにいると危険そうですね。わたしたちは追いすがる生徒を振り切ってエントランスを後にする。


「で、当てでもあるのか?」

「全然ゆっくり見れなかったです……」

「とりあえず、読書クラブっぽい名前の所は控えましたので、そこに行ってみましょう。見学自由って書いてありましたし」


 言いながら、先頭に立って歩く。


「なんていうところですか?」

「黄金クラブ。東棟の214号室です」


 部室からあふれ出してきたガラクタをよけながら、チサさんの質問に答える。


「黄金……? 大層な名前だな」

「わたしも部の説明をよく読めなかったですけれど、学園創立からある由緒正しいクラブみたいですよ」

「すごいですねッ。創立からだと、百年くらいずっとあるっていうことですよね」

「はい。新興のクラブよりは、ヘンな可能性は低いと思います」


 ……たぶん。

 伝統が嫌な感じに発酵されてすごくヘンな人たちの集まる部になっている可能性もありますが、少なくとも、チラシの文面は理性的でした。


「私も、本を読むのは好きです」

「あ、そうなんですか。なら、ちょうどいいかもしれませんね」

「はい」


 振り返って声をかけると、はにかんで笑うチサさんと目が合う。


「では、出発!」


 拳を振り上げるわたし。


「……」

「……あ、は、はい」


 無言のユウさんと、おずおずと腕を上げるチサさん。


「……」


 追随者は現れず、わたしはすごすごと拳を下げて歩き始めました。

 うん、なんだか、全体的にテンションの低い集団ですねえ。











「あの、お邪魔します」


 黄金クラブ。

 流麗な装飾が施された部の看板がかかる黄金クラブの部室に足を踏み入れると、中には部員が一人。

 出窓に片膝を立てて腰掛けて短冊みたいなものに書き物をしている男子生徒。中性的、という感じのきれいな顔立ちの方です。長めの髪ですので、特にそう感じるのかもしれません。


「いらっしゃい」


 どことなく夢でも見ているような甘い口調です。


「部活動の見学をしにきたんですけど、いいですか?」

「ああ、そうなのかい。それならどうぞご自由に」


 彼はふわりと笑ってそう言うと、再び書き物に戻ってしまう。

 どうやら、特に説明とかをするつもりはないよ、というスタンスのようです。そんな積極的に部員の勧誘をしているわけではないのか、この人にその気がないのか。


 わたしたちはおずおずと部室に入り、片隅のベンチに座る。

 部室の中は中央が広くスペースが開けられていて、敷かれた絨毯の上に大きな巻物が置いてあります。

 今は巻かれていますが、美しい千代紙で装飾され、いかにも大切にされているということがうかがえます。元は白かったであろう壁は黄色く変色し、そこには見たことがないどこかの地方の地図といくつかの写真が貼られています。

 隅にはいくつかベンチと棚。棚には書籍は入っておらず、私物と思しき鞄やマグカップなどを除くと文房具類とノートが大量に詰め込まれています。

 各部、部室の中の雰囲気は独特なものがありますが、この部の内装も不思議なものです。チサさんは小動物みたいに縮こまってあたりをきょろきょろ見回しています。


「あの」

「……」


 部員と思しき男子生徒に声を掛けますが、口の端を緩めて細めた眼差しのまま、書き物を続けている。こっち、向きもしません。

 聞こえてないのでしょうか。まさか、この距離で?


「あの、いいでしょうか?」

「ああ、僕か。なんだい?」

「……」


 あなたしかいませんが。

 なんでしょうか、この招かれざる所に来てしまった三人組感。一応引率的な役割を負っているわたしは内心で冷や汗が止まらないんですが。このクラブ、大丈夫なんでしょうか。


「えぇと、このクラブはどういう活動をしているんですか? チラシをチラッと見て来たんですが、詳しい活動内容は知らないんです。チラシだけにチラッと見ただけなので」

「……?」


 慌てる内心のせいでいらないことまで言うと、ユウさんが間抜けを見る目でわたしを見る。

 わかっていますよ。今のわたしが滑稽だということは。


「ああ、そうなのかい。それなら、活動内容の説明が必要だね」


 男子生徒はそう言ってふわりと笑うと、再び書き物に戻る。


 ……えっ。

 明らかに作業を止めて解説に入る流れだったんですけれど、まさかの作業再開。ですが、しばし呆然としていると書き物の切りがついたのか、出窓から降り立ってこちらに向き直る。

 どうやら、部活動の説明よりは作業の方が重要ですよ、というスタンスのようですねえ。


「このクラブの名前は黄金クラブ。学園創立の初年度から続くクラブです。現在の部員は17名で、内4名が一年生です」


 説明が始まる。

 うん、この感じですね。チサさんもユウさんも、ちゃんと耳を傾けてくれているようです。


「このクラブは、『本』を作成することを目的とした部活動です」


 そう言って示すのは部室の中央にある巻物。広げたらかなりの長さになりそうです。こんなに長大ならば、もはやいくつにも分けるか、そもそも冊子にした方がいいんじゃないか、というくらいに。


「『本』とは、創立当初から書き足しと添削を繰り返してきたこちらの巻物です。当クラブでは、これのみが唯一の書物として扱い、先代の部員に倣いテキストを作り、そして消して次代へとつなげることを目的としています。よって、この物語は常に変容して、ある時エピソードが足されることもあれば一章が削られることもあり、物語の中で名前だけが出てきたただ一つの彫像についての別の物語が挿入されることもあります」


 男子生徒は絹織物でも取り扱うように厳かに巻物を開くと、中を見せてくれる。中身はいくつもの紙の継ぎ接ぎがされていて、所々に物語の挿話としてポケットのように短冊が折り畳まれている。紙は新しいものもあれば黄ばんで時代がかったものもあり、多くの人の手に触れられ、書き綴られてきたことがわかります。


「入部したばかりでは、まずは『本』を読むこと、そこの棚の編纂録を読んで記載方法を学ぶことを中心とします。入部半年くらいを目途に正式な部員となり、『本』の手入れに参加します」


 そこまで言うと彼はにっこりと笑い、丁寧に『本』を巻いて出窓に腰掛けて書き物に戻ってしまう。どうやら、話すべきことはもう話した、ということのようです。

 わたしはベンチを離れて『本』の所に近づく。


「……」


 視線を感じて顔をあげると、男子生徒が穏やかな表情でこちらを見ています。表情は穏やかですが、なんでしょう、勝手に触るなというプレッシャーを感じる……。

 方向転換して棚の方に行き、先ほど編纂録と言っていたノートを手に取り読んでみると、それは『本』から抜け落ちて行った文章のライブラリのようです。びっしりと細かい字でつづられたお話に目がくらくらする。そんなノートが棚を埋めるように並んでいて、空恐ろしい執念を感じます。


 すごいです。

 すごいですが……これはわたしの求めていた部活動ではない……。


 この部室に入って数秒で既に分かっていたことですが、わたしはその確信を新たにする。

 違うんです、わたしたちが求めていたのは読んだ本の感想を話し合って、もっとこう、きゃっきゃとしたものなんです……。

 このクラブに入ったら、一気に浮世離れしてしまいそうです。


 わたしたちは誰ともなく視線を交わし合い、男子生徒に挨拶をして部室を辞しました。彼は最後まで微笑みを崩すことなく、わたしたちを見送ってくれる。

 部室から出たわたしたちは、なんとなく、そろって深く息をついてしまう。


「こ、こんなはずでは」

「いえ、すごい部活だなって、思いました」


 慌ててフォローをしてくれるチサさん。まあ、すごい部活ではあると思いましたが。


「あのクラブで過ごしていたら、卒業する頃には仙人にでもなっていそうだな」

「ええまあ。わたしもそう思いました……」


 超然とした雰囲気はかなりひしひしと感じました。

 そんな雑談を交わしながら、部室の看板を見ながら部室棟を歩いて回る。部室の横にチラシを貼っているクラブも多く、眺めながら歩いていても飽きません。


「あ、ここはどうですか。本のクラブ・ピクニック。創作から鑑賞までって書いてありますよ」

「なんで本でピクニックなんだよ」


 ユウさんはそんなツッコミを入れますが、見学することについては否定まではしていません。別に構わない、ということでしょう。


「い、いいと思います」


 チサさんもおずおずと賛成してくれる。

 二番目の見学先が決まりました。


 ドアをノックすると、部員の方はいるようです。中に入ると、二人の男子生徒が部室の中央のテーブルに向かい合って座ってわたしたちを出迎えました。

 小太りな方と、メガネの方。


「えっと、入部希望者?」


 小太りな男子生徒が尋ねる。温和そうな人です。


「あ、見学です」

「それはようこそ。まあ、座りなよ。他の部員の席だけど、いないんだ、勝手に座って構わないだろ」


 メガネの男子生徒が空いた席を目で示す。神経質そうな人です。


「うちのクラブ、女子が少ないんだ。もし入ってくれるならうれしいな。君は三年生か。僕と同じだね」


 小太りな男子生徒はそう言って笑うと、サミュエルと名乗る。


「クラブは星の数ほどあるんだ。気を遣って入部するくらいなら他に行ってくれた方がお互いのためだ」


 メガネの方はブラックバーンというそうです。


 部室の中は、ちょっとした図書室みたいに本でいっぱいです。壁はほとんど天井まである棚で囲まれていて、その中にぎっしりと本が詰め込まれています。

 内容は純文学からエンターテイメント、辞書類や写真集のほか、宗教、歴史、評論、詩に漫画など、多彩なジャンルを網羅していて、いつまででも時間が潰せそうです。やや文系寄りですね。

 わたしの実家の町にも本屋はありましたが、到底この部室の質・量には及ばないでしょう。


「部員の私物の本とか、卒業生が残していったものとか、部費で買った備品もあるんだけど、色々なジャンルの本を集めているんだ。うちの部員は物書きをしている奴も多いから、小説とか辞書が多いかな」


 サミュエルさんが解説してくれる。人好きのする雰囲気の丸顔で、話していると安心感のある人です。


「へええ」


 感心してじっと棚の本を見ていると、ふと、壁にかかる額縁が目につく。この部室はほとんど棚に囲まれて壁は見えないのですが、一か所だけ場所が開けられて大事そうに掛けられている額縁には、共通語ではなく、別の言語で文字が書かれていました。

 そこに書かれていたのは……


「エル・ベナ・ライソ……?」


 わたしは思わず、その言語、ジガ国語で書かれた文字を読み上げる。


「あれ、読めるの?」


 サミュエルさんが意外そうにわたしを見る。


「はい。旅は捨てているんですが、母がジガ国人ですので」

「珍しいね。それ、先々代の部長が書き残していったんだ。その人もジガ国人でね。僕らは読めないんだけど」

「は、はぁ……」


 たしかに、ジガ国語はまともに喋れる人はほとんどいませんし、閉鎖的な民族ですので文字もほとんど部族内で秘匿しています。


「ジガ国人……?」


 チサさんが不思議そうに首をかしげる。


「森の民、と言った方が身近な感じがしますね」

「ああ」


 森の民。氏族で森を移動しながら過ごす、独自の文化を持った人々です。ジガ国という名は実際に国民なわけではなくて、彼らの信仰する宗教の中で理想郷とされる国の名前を指しています。彼らと言いながらも、わたしも一応その血族ではありますが。


「ユイリ先輩、森の民だったんですか?」

「母が元森の民だったんです。今は普通に町で暮らしていますよ」

「す、すごいです」


 まあ、特殊な出自ではあるかなあという気もします。すごい人だと思われてしまうので、あまり人に話さないようにしていることではあります。

 そして実際、わたしに森の民的な凄みはあんまりありません。

 文字と言葉、あとは多少文化風習を習ったくらいのものです。

 とはいえ、それくらいできるだけでもこの学園では特異かもしれません。


 人類は魔法で空を飛び、空間を越えることができます。文明の誕生から早い時期で世界を繋ぐネットワークは構築され、言語は方言があるとはいえ共通語に集約されて、あとはその他の少数言語です。その少数言語も数百年前の段階でほとんどは絶えて、今も実生活で使われているものはほとんどないです。

 その中で、命脈を保っている数少ない言語のひとつがジガ国語。

 話者は放浪する森の民とも呼ばれるジガ国民です。彼らは自国を持たず、常に旅をして暮らしている放浪民族です。

 わたしの母は、旅の途中で父と出会い、部族を捨てて定住生活をするようになったそうです。


 わたしはもう一度、壁に掲げてある額縁を見やる。

 その視線を、メガネの部員、ブラックバーンさんが追いかけて、つぶやく。


「光なき場所に光を求めよ。そういう意味なんだろ?」

「え?」

「ま、悪い言葉じゃないと思うぜ。どうでもいい言葉だったら、その壁も本棚にしてるところだけどな」

「えっと……?」

「それ、そう書いてあるんだろ?」


 わたしにそう言うブラックバーンさんも、横のサミュエルさんもこちらをからかうような素振りはまったくありませんでした。


「はぁ……まぁ……」


 わたしは曖昧に頷きます。


 そしてそのまま曖昧な態度のまま軽くお話をして、そのままあまり盛り上がらずに部室を辞しました。


「ユイリ先輩、いいんですか? そんな変なクラブだとは思いませんでしたけど」


 途中からテンションの下がったわたしの様子に気付いていたようで、チサさんは不思議そうに問いかける。


「ええまあ……」


 それでも、わたしは曖昧に笑うことしかできませんでした。

 たしかに、部の雰囲気自体はそんなおかしくなかったと思います。

 ですが、問題はジガ国語の額縁。


 エル・ベナ・ライソ。


 部員の方々は別の言葉だと教わっているようでしたが、実際の意味は違います。

 この言葉を正確に翻訳すると……


「……おみ足ぺろぺろ……」

「はい? なんですか?」

「いえっ、なんでもないです」


 わたしは先々代の部長とかという血を同じくする方に思いをはせる。

 この文字をろくに読める人がいないからって、適当なこと書きすぎです。

 わたしにはあれを眺めながら、でもありがたい言葉だと受け入れて笑ってあそこで過ごすことはできそうにありません……。

 ある意味、わたしはジガ国語を知らない方が幸せだったのかもしれません。


 ともかく、こうしてわたしはしょうもない理由でよさげなクラブを選択肢から除外することになってしまいました。











 その後、いくつかクラブを見て回りましたがめぼしい所は見つかりませんでした。


 なかなかピンとはこなくて、そうこうしている内にユウさんやチサさんが注目を浴び始めてしまい、なんだか長居できない雰囲気になってしまうこともありました。やっぱり、おふたりは顔が売れているのでしょう。

 物珍しげな眼差しから逃げるように見学をしていた部室を後にすると、チサさんが大きく息をつきます。少し疲れてしまったのでしょうか、なんだかだんだんと顔色が悪くなってきているような印象もあります。


「なかなか、いいところがないですねえ」

「は、はい」

「ちょっと外に出て、一休みしましょうか?」

「……」


 わたしの言葉に、返事がない。ユウさんが返事しないのはいいのですが(返事がないのは肯定のしるしです)、チサさんが急に黙り込んでしまっている。

 不思議に思ってチサさんの顔をのぞき込む。

 さっきまでいた民族衣装の研究会『振袖武蔵』の部室にいた頃から表情はなんだか硬くなっていて、それは物珍し気な視線にさらされているからなのだと思っていましたが、そういうわけもないのかもしれません。

 顔色が悪い。元々わりと色白でしたが、血の気が引いた表情です。


「チサさん、大丈夫ですか? 少し休みましょうか?」


 わたしが思わず彼女の方に手を差し出す。

 肩に手を置こうとした時、パリッと放電されたように魔力が弾けた。


「わっ!?」


 びっくりして、手を戻す。

 何でしょうか、今のは。

 いえ、この感覚、昔経験したことがあります。

 強力な魔力を持つもの……結界や魔道車の動力源に触れた時に感じるような魔力のほとばしりに似ている感覚。というか、それ以外の何物でもない感覚。


「チサさん……?」


 よく見ると、彼女はかすかにふるえている。口の端をかみしめながら俯いていて、表情はうかがえない。

 わたしが何か声をかけようとしたその時、再び彼女の周囲に稲妻のように魔力が弾ける。

 それと同じくして、チサさんは踵を返して駆けだした。


「ち、チサさんっ!?」


 わたしも慌てて駆けだします。

 何をどう考えても、良くないことが起こりそうな気配がします。


 チサさんはあまり足が速くないようで、そこまで距離は開いていません。めくらめっぽうに駆け去るチサさんの姿を、通りがかりだったり、通路でたむろしていた生徒たちが何事かと見送る中、後を追う。

 走るチサさんの周囲から、ひりつくような魔力の気配を感じます。かつて魔物と相対したことがありますが、強大な魔力を持つ魔物でさえも、あそこまでの圧は感じませんでした。


 走りながら、わたしはちらりと後ろを確認。うん、ユウさんはちゃんと付いてきています。

 通路を抜けて階段を下り、部室棟の中庭に駆け込むチサさん。


 中庭の中もまだ多くの生徒がたむろしていてそれぞれ集団になって思い思いに過ごしていましたが、中庭の中央までやってきてうずくまるチサさんの姿を見て、彼らは慌ててその場から逃げ出し始める。

 ボードゲームの駒を放り出し、描いていた魔法陣もそのままに、泡を食ったように転がりながら、中庭からあっという間に人気がなくなる。


 それもそのはず。


 チサさんを中心に膨大な魔力が集まり始めています。いえ、チサさんの体から漏れ出しているようです。先ほどまで、予兆のように漏れ出ていた魔力ですが、今はその比ではありません。

 わたしも思わず足を止め、中庭にぽつんとうずくまる姿を遠巻きに眺めることしかできない。


「なんだ、あれ?」

「やばいんじゃないのか?」


 逃げてきた生徒たちが、ひそひそとそんな会話をしているのが聞こえてくる。

 魔力への感度がそう高くないわたしでさえひしひしと感じる強大な力。殲滅魔術師、というチサさんの通称が頭の中で明滅します。

 魔力の暴走で家族を消し飛ばした、という新聞か何かの記事が脳裏をかすめる。


 この状況は、もしかしてすごくまずい状況なのでは?

 何かできることはないかと思い、でもなにも浮かばず、わたしはともかくチサさんの名前を呼ぼうとしました。


 ですけれど、その瞬間。

 チサさんの体が輝いたように錯覚しました。


 ぼう! という爆発にも似た音と共に、チサさんの体から強力な魔力が空に向かって打ち出される。

 その余波は上空のみならず、中庭の植木をなぎ倒さんばかりの勢いで揺らし、シートや本や食べ物や差しかけの将棋や書き途中の魔法陣まで、あらゆるものを吹き飛ばす。


「わ、わっ」


 雑多なあれこれがわたしの方へと吹きすさんできて慌てて身を縮めると、後から追いかけてきていたユウさんがさっと手前に出て小さく障壁を張ってくれる。それでも衝撃波みたいな風はしばらくわたしたちの服を揺らし、やがて、静かになります。


 しばらく、しわぶきひとつなく辺りは静かでした。魔力の奔流、暴力的な風と、破壊。

 それがいったい何だったのか、身をかがめたまま、あたりに不気味に満ちている静寂の中で理解する。


 殲滅魔術師、チサ・ツヴァイク。

 自身の膨大な魔力を持て余す未熟な魔法使い。

 時に暴走する魔力はかつて肉親を消し飛ばし、今こうして、中庭を吹き飛ばした。前評判からして、このくらいの暴走はもしかしたら、まだ小規模といえるのかもしれません。


 恐る恐るユウさんの陰から顔をのぞかせて中庭の様子を見てみると、先ほどの魔力の衝撃で見るも無残に荒れ果ててしまっていました。一部の灌木は根こそぎ倒れてしまっていたり、あるいは折れ曲がり、雑然としていたクラブの備品は吹き飛ばされてしまっています。

 周囲にはもうもうと砂煙が立ち込めて中にはの見通しが悪い。周りを見てみると、わたしも含めて周囲で様子を見ていた生徒たちは一様に砂をかぶったように汚れた有様でした。

 いえ、砂をかぶったように、ではありませんね。実際に砂をかぶったのです。あまりにも暴力的な魔力の奔流になすすべもなく。


 砂が目に入ったのかもんどりうっている生徒、顔をしかめて砂を吐く生徒、うずくまったまま微動だにしない生徒、その反応は様々です。


「なんだありゃ……」

「ぺっ、ぺっ、砂まずっ」

「ひどい目にあったぞっ」

「あぁ、作りかけの魔法陣があったのに……」

「何が起こったの?」

「あの女の子が何かした?」


 一様に、顔をしかめて忌々しげに、惨状の中庭を眺めている。


 少しずつ、砂がはれる。

 中庭の中心でチサさんが自分自身を抱きしめるような格好でうずくまっていました。


「チサさん……」


 そんな彼女の様子を、多くの学園生が遠巻きに眺めています。ひそひそと噂話を交わしながら。なんだかその光景は、ひどく孤独なものに見えました。

 わたしは目立ってしまうのも構わず、チサさんの元に駆け寄る。呆れたように息をつき、ユウさんも後に付いてきてくれる。


「チサさんっ、大丈夫ですか?」

「……」


 彼女の顔を覗き込むと、その顔色は真っ青でした。浅く息をつき、目の焦点すらも合っていない様子でしたが、声をかけている内、次第にわたしの声も耳に届いたようです。


「先輩」

「気分はどうですか? 大丈夫ですか?」

「すみません。こんなこと、しちゃって」

「いえ、怪我人とかはいないでしょうし、こちらは大丈夫ですよ」


 ……たぶん。


「ご、ごめんなさい。わ、私、まだうまく自分の魔力が制御できないんです」


 チサさんはゆっくりとそんなことを言う。


「暴走させるのとは違うんですけれど、定期的に魔力を発散させないといけないんです。溜め込んじゃうと、さっきみたいになっちゃって……」

「そうだったんですか。すみません、連れまわしたりして……」


 定期的にガス抜きをしないといけない体質なのでしょう。今日合流した時にユウさんが彼女はよく慌てた様子でどこかに行くと言っていましたが、それはつまり、今みたいな魔力を発散させるために人気のない場所へと移動していたのでしょう。

 しばらく一緒にクラブ棟を巡っていて、そうこうしている内に許容範囲以上に魔力をため込んでしまった。


「いえ、私がいけないんです。言い出せなくて、すみません」

「そんな……」


 お互いに謝り合ってしまって、結局、なんだか、重苦しい空気になります。

 わたしたちを遠巻きにしていた生徒たちが交わしている噂話が耳に届く。


 ……殲滅魔術師……殲滅魔術師……魔力の暴走……殲滅魔術師……チサ・ツヴァイク……親殺し……


 彼らに悪気など、ないのでしょう。そもそもこちらが加害者です。

 ですが、それでもなお、彼らの言葉は呪詛のように低く小さく、わたしに聞こえてくる。

 当然、チサさんにも。

 申し訳なさそうに、目に涙を浮かべながら、俯いているその表情。わたしも同じように、顔を上げられません。


 顔を上げて、わたしたちを眺めている周囲の生徒の視線を受け止める自信がありません。

 でも、ひたすらに視線を感じます。まるで質量を持っているかのように、心を折りにきているような視線を感じます。


 なにかしてあげたい。助けたい。

 そう思えども、わたしは射すくめられたように動けず、深くて狭い穴に落ちたような気分で体をちぢこめていました。


「なんだなんだっ! って、うわ! なんだ!? なんなんだ!」


 そんな状況の中、ばたばたばた、と人が駆けつけてきました。騒ぎを聞きつけて、というより、あれくらいの魔力の奔流でしたら人によっては学内どこにいても感知できるレベルだったでしょう。壊滅状態の中庭を見て呆然としています。

 周囲に確認をするでもなく、この惨状の中心にいるわたしたちが原因だということはわかったのでしょう。

 上級生らしい男子生徒がつかつかつかーっ、と厳しい表情でやってくる。部室棟の事務局を示す腕章をしています。


「君ら、何してるんだっ!」

「……」


 ものすごい形相で言い放つ。当然でしょう。ですが、チサさんは完全にすくみ上ってしまっています。

 わたしは代わりに頭を下げる。


「すみません」

「いや、すみませんじゃないでしょ……って、あぁ」


 なおも文句を続けようとしたところでしたが、黙り込んでしまったチサさんを見て納得したような表情をして、すぐさま顔をしかめる。


「例の殲滅魔術師か」


 びくり、と体を震わせるチサさん。


「……とにかく、危ないから、出て行ってくれ。後片付けは、こっちの方でやっておくから」

「あの、お手伝いします。わたしたちが散らかしてしまったんですし」


 実際は、散らかしたというよりはもう滅茶苦茶にした、と言った方がしっくりくるくらいですが、チサさんが横にいる手前そこまで強い言葉も使いたくはありません。ですが、そんなわたしの言葉はぴしゃりと拒絶される。


「いや、危ないから。またいつ暴発されるかわからないから、こちらが不安になる。申し出自体は、ありがたいけど」

「……すみません」


 どうやら、わたしたちは歓迎されていないお客さんのようです。周りを見回すと、この部室棟のクラブ生たちは遠巻きに不安げな面持ちでこちらを見て、ひそひそと言葉を交わしています。

 早くいなくなった方が、皆さんにとっても安心でしょう。


「行きましょう」


 顔を伏せているチサさんに、すぐ傍で状況を見守っていたユウさんに声をかける。


「……いいのか?」


 わたしの言葉に、ユウさんが聞く。声も顔もいつも通りです。遠巻きに眺められているこの状況でも、大して意に介していないかのような雰囲気です。

 だからわたしは、ユウさんが何について「いいのか」と聞いたのかわからない。

 このままクラブ探しを諦めていいのか。片づけをしてから立ち去らなくていいのか。はたまたこんなに言われっぱなしでいいのか。


 でも、そのどれでも……。


「いいんです」


 今の気分では、それ以外の答えは思い浮かばない。

 わたしが答えると、ユウさんは頷いてさっさと出口へと歩き出す。わたしも続いて、のろのろとチサさんも後を追ってくる。

 そして、部室棟を出るとすぐさま扉が締め切られてしまう。


 あんまりな追い返し方に、わたしはしばし呆然としてしまう。でも、向こうの気持ちになってみるとそれも当たり前かもしれません。荒らしに来た、などと思われても無理はないのです。なにせ実際に、中庭を滅茶苦茶にしているから。

 そんなことは頭ではわかりつつも、どうにもモヤモヤしたものが拭いきれない。なにも、こんな対応をしなくてもいいと思うんですけど。


 この部室棟での騒ぎを聞きつけてか、辺りはやけに混んでいます。

 なにせあんな魔力の放射、この学内にあってさえ、そうそうあるものではありません。気になって当然。そして、そんな現場から追い出されてきたわたしたちにも好奇の視線が投げかけられるのを感じる。


「行きましょう」


 わたしは短くそう言って、人ごみの中に紛れ込む。

 そうすると、すぐさまこの三人組は先ほどの騒動とは切り離されたように視線も感じなくなります。砂埃に汚れていても、この学園の生徒の奇妙な格好はよくある話、大して目を引くものではありません。

 とにかくどこかへ歩きながら、わたしはチサさんの手を取ります。一瞬びくっとして振り払われそうになるけれど、すぐにおずおずと握り返される。


「すみませんでした」

「いえ」


 チサさんは暗い表情ですが、どことなく達観したような、諦めた風があります。


「いつもこうなんです。私、魔力をすごくたくさん溜め込んでしまう体質なんですけど、でも、溜め込んだ魔力をうまく取り扱うことができないんです」


 吐き捨てるような調子で、彼女は生まれ持った特性を話してくれる。


 人には、生まれつき保持できる魔力の限界値はある程度決まっています。基本的に、魔力量の多い人はその分たくさんの魔力を取り扱う技量もあり、それが魔法の才能に直結します。もちろんこの学園でも魔力量が少なくとも知識と理論で勝負している人は多くいますが、魔力量は絶対的な才能として判断されることが多い。

 そういう意味では、チサさんはこの学園でも随一の才能を持っていると言っていいはず。ですが、そううまくは事が運びませんでした。


 チサさんは魔力量は桁外れに多いに関わらず、それを操作する技量は学園生の平均にも大きく満たないものでした。

 結局、溜め込んだ力をうまく発散させることもできず、しかも魔力豊富なこの土地ではすぐに膨大な魔力の許容量すら超えてしまう状況。

 その魔力量から才能を期待されていたにもかかわらず、時々暴発する魔力タンクというくらいの実力しかなく、あっという間にその限界を見切ったクラスメイトからは失笑されるようになり、孤独に日々を過ごしていたようです。


 不安を抱えて入学し、あっという間に限界が露見し、後ろ指さされながら過ごしている。

 その身の上は、かつてのわたしを連想させるものでした。


 いえ、わたしの場合はただの才能不足です。そのくらいなら似たような境遇の生徒は他にもいて、彼女たちと一緒に過ごしていたので孤独までは感じていませんでしたが。

 でもチサさんは暴発のリスクがあって、一緒に時間を過ごすような誰かすらいない。

 それはとても悲しいことです。


「チサさん」


 だから、少しでもこの子の力になってあげたいと思いました。学年も違い、校舎も違い、所属しているものは全然かすらず、わたしたちを繋ぐ縁などほとんどありませんが、それでもなにかしてあげたい。

 だから、まずはわたしと友達になってくださいと、そう続けようとする。


「先輩」


 ですが、機先を制するように言葉を遮られる。


「ご迷惑をおかけしてしまい、すみませんでしたっ」

「へっ?」


 頭を下げてそう言うなり、ばっと踵を返して逃げて行ってしまうチサさん。突然のことに、呆然とそれを見送るわたし。

 後を追おうとしますが、驚いて硬直してしまい、そうこうしているうちにチサさんの姿は雑踏に紛れて見えなくなってしまう。


「行ってしまったな」

「な、なんで? わたし何かまずいこととか言ってないですよね?」

「言ってないが……」


 ユウさんは慌てた様子もなく続ける。


「おまえのことだから、自分と仲良くしましょう、とか言おうとしたんだろ?」

「ええまあ」

「俺はお前のことを知っているからどんなことを言い出すかは見当つくが、普通はそうじゃない。さっきの場面を思い返してみろ。相手からすれば絶縁を切り出されるように見えるだろ」

「へ?」

「深刻な顔をしてたぞ、おまえ。だからビビったんだろ。直接そんなこと言われたくないから、自分から遮って逃げたんだろ」

「……」


 なるほど、思い返してみるとユウさんのその解説は実にしっくりきます。たしかに先ほどの部室棟から追い出されてからほとんど言葉も交わさずに歩いてきて、唐突に深刻な顔をして向き直られたら、悪い話だと思われるのは当然かもしれません。


「なるほど、話は分かりました。ですがユウさん」

「なんだよ」

「……じゃあ止めてくださいよっ」


 言いながらパンチ!

 ユウさんはうざったそうにその攻撃を受けています。


「俺もあいつが逃げるとまでは思わなかった。追いかけて拘束してお前の所に連れ戻したら、それはそれで騒ぎになるだろ」

「む……」


 なんだかのらりくらりとかわされている気もしますが、それなりに筋は通っています。


「はあ……。どうしましょうね」

「なにをだよ」

「誤解を解かないと。でも、どこに住んでるかとか、連絡先知らないですからねえ」


 ユウさんに伝言をしてもらい、明日改めて会うしかないでしょう。レイシアとか、新聞部の力を借りれば住所を割り出せそうな気もしなくはないですが、そこまでして押しかけるとむしろ怖がられますし。問題は、明日彼女がちゃんと学校に来るか、というところですね。


「ユイリ。なんでそんなにあいつのことを気にするんだ?」


 珍しく、ユウさんの方から話を振ってくる。

 たしかに、大して縁のない相手に拘泥しすぎと思われてもそれは当然でしょう。ユウさんには何も説明していないですからね。


「あの子は、どこか、昔のわたしに似ているんです」

「おまえに?」


 わたしは頷く。

 放課後で賑わう通りの中を歩きながら、ぽつぽつとわたしのことを話す。


 わたしのこれまでのこと。それはそう大した話ではないでしょう。この学園に通う生徒は、やむにやまれる大きな事情を抱えている人もたくさんいます。

 それにそもそも、自分の半生についてなんて積極的に話したいというものでもありません。

 それでも、この時は話してもいいかなという気分になっていました。


 ユウさんならば、余計なことも言わずに話を聞いてくれるような気がしていました。

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